イースリー 馴染む
イースリー 馴染む
人間は慣れる生き物です。
蜘蛛の魔物……
デーモンスパイダーの幼生体だと知りましたが、恐れることはありません。
蜘蛛たちは屋敷の中で、自分たちの仕事をしているだけなのです。
警備、護衛が主な任務だそうですが、服の手入れも大事な仕事の一つだと教えてもらいました。
なので、私の服に 刺繍 ( ししゅう ) をしたと?
誰ですか?
蜘蛛の魔物の一匹が、困ったように片足をあげます。
あなたですか。
刺繍するのは別にかまいませんが、一言断ってからにしてください。
一応、これは下着なので。
それと、白地に白糸の刺繍なんて贅沢すぎます。
ああ、しょんぼりする必要はありません。
刺繍は見事です。
それに、穴があいていたのを誤魔化してくれたのですよね。
ありがとうございます。
ふふふ。
蜘蛛の魔物だけでなく、インフェルノウルフも仕事をしています。
この寒い時期にも関わらず、森に入って獲物を狩ってきます。
時には、自身の体よりも大きな獲物を狩ってくるのですから、すごいです。
運ぶのは大変そうですが。
あ、手伝います。
重い……
ちなみに、すべてのインフェルノウルフが仕事をしているわけではありません。
屋敷の暖かい場所でゴロゴロしているだけの個体もいます。
どのような集団にも、ああいったのはいるのですね。
私の所属している組織にもいました。
あなたたちは、ああなってはいけませんよ。
……屋敷の一角で、宴会をしている集団。
あれは見なかったことにします。
ええ、近づいてはいけないのです。
グーロンデさんの紹介で、村の子供たちとも親しくなりました。
ナートさんがリーダーのようです。
ウルザさんやアルフレートくん、ティゼルさんにも遠慮なく指示を出しているところから、間違いありませんね。
つまり、彼女を倒せば私がリーダー。
そんな気分で挑んだボウリング勝負。
少しサイズの小さいミニボウリングもあるのですが、私は大きいほうが 性 ( しょう ) に合っていました。
殺人鬼や放火魔など、さまざまな悪人が彫られているピンが大きいほうが迫力があっていいのです。
……すみません、暗殺者のピンを別のピンに変えていただけると。
あと、あんな判りやすい恰好の暗殺者はいませんよ。
ボウリングのピンに描く都合上、判りやすくしなければいけないのはわかりますが。
ウルザさん、殺人鬼ばかり狙うのはどうかと。
全部倒すゲームですよ。
ナートさんとのボウリング勝負は負けましたが、投げナイフの勝負は勝ちました。
ふふふ。
ナイフは得意中の得意です。
子供たちからの称賛の声が心地いいですね。
あの、すみません。
こちらのエルフやドワーフの方々は?
私と投げナイフで勝負ですか。
……ふっ、私の全力をお見せしましょう。
上には上がいると教えられました。
まだまだ上手くなる余地が私にはあるのだと、思うことにします。
今日から、ボウリングと投げナイフの練習に力を入れます。
重要人物の情報は頭に入っています。
ピリカ=ウィンアップ。
……
剣聖さまですよね?
行方不明中の?
なぜここに?
あ、いや、私はただの一般人。
えーっとえーっと……
一緒に訓練?
こ、光栄です。
冬の寒い日なので、屋敷の広い場所を使っての訓練。
それなりに人が集まりますね。
あの獣人が武神ガルフさま?
噂には聞いていましたが……強い。
そして、そのガルフさまと競うのがリザードマンのダガさま。
ダガさまのほうが勝つ回数が多いですね。
エルフの人も強い。
エルフは弓だけのイメージでしたが、剣、ナイフ、格闘もできるのですね。
ラミア族の人は……ラミア族って、一人で兵士数百人分ぐらいの強さを持つって聞いたのですが?
普通に執事服の悪魔族の人に負けてますね。
うーん、上には上がいる。
慢心は駄目ということですね。
ところでピリカさま。
私以外には負けていますが……
その、体に重りでも巻き付けるなどの特殊な修行中だったりします?
していませんか、そうですか。
…………
魔王国を敵とするのは間違いなのではないでしょうか?
学園に戻ったら、そのあたりをきっちり報告しようと思います。
屋敷の一角で宴会をしている集団に捕まりました。
麻雀?
私、ルールをよく知らないのですが……
は、はい、すぐ覚えます。
えーっと……
「ロン、タンピンイーペーコードラドラ」
「ぐぬうっ」
正面のおじいさんから直撃を取り、私がトップで逃げ切りました。
ふふふ。
麻雀、楽しいゲームです。
ところで、私の後ろに積み上げられていく金貨はなんなのでしょう?
こういった遊戯での定番は中銅貨ですよね?
大貴族でも銀貨ですよ。
金山の権利とか、 希少金属 ( レアメタル ) の採掘権がどうこうの怖い話は止めてください。
ば、盤外戦術には負けませんよ!
大金持ちになってしまった。
……
怖いので、ウルザさんのお父さんにパスします。
これまで金貨なんて見たことない生活をしていたのですよ。
銀貨だって滅多に見ません。
それなのに、樽に入った金貨って……死んでしまいます。
ま、まあ、一枚だけ、隠し持ってますけどね。
ウルザさんのお父さんは、彫刻が趣味のようです。
趣味というか、本業では?
見事なものです。
特に神様の像は、ただならぬ気配を感じさせてくれます。
ところで、この神様の像の説明をしてくれる方は誰ですか?
見覚えのある顔ですが……
コーリン教の偉い人じゃないですよね?
ここにいるはずがありませんから。
笑顔だけで、返事はしてくれないのですね。
私が知っている顔の人がいました。
聖女のセレス。
昔、彼女を誘拐する手伝いをしたことがあります。
そのとき、同じ女性ということで世話係を任されて数カ月、一緒に生活しました。
だから理解しました。
私を見てからのあのステップワーク、戦闘態勢です。
なので応じます。
相手は素手ですが、遠慮なくナイフを出します。
卑怯とは言わないでしょう。
ナイフは一本ではありません。
二本です。
殺しはしません。
どちらが上かを教えるだけです。
え?
は、速い!
私のナイフが当たらない。
馬鹿な。
しかも、直線的だった昔に比べてフェイントが上手くなってる。
気付けば、彼女のフックが私の脇腹に……一発ぐらいなら耐えて、三連打ぁっ?!
まずい、次のストレートは顔に来る、ガードを……
ストレートは胃に来ました。
私は胃液をまき散らしながら、沈みました。
「昔のことは黙っているように」
セレスはそう言って、私を部屋にまで運んでくれました。
セレス……いえ、セレスさん。
要求があるとき、先に殴ってくるのは止めたほうがいいですよ。
あと、床の掃除をしてくれたウルザさんのお父さん、すみません。
あ、セレスさん。
私はベッドの上ではなく、下で。
そこのほうが落ち着くのです。