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冒険者の受難

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冒険者の受難

俺の名はレンタン。

“ミアガルドの斧”という、魔王国ではそれなりに名の通った冒険者チームの一員だ。

チームでの俺の役割は“壁”。

重装甲の鎧と特製の盾で、敵の攻撃からメンバーを守るのが主な任務だ。

ただ、その重装甲の鎧と特製の盾のために、俺の移動する速度は遅い。

また、長距離の移動にも向いていない。

だから、依頼によって俺は参加できないときがある。

もちろん、不満はある。

しかし、仕方がない。

“壁”である俺に人探しや、薬草採取は向いていない。

商隊の護衛としても、足の遅さがネックになる。

商隊の馬車に乗せてもらえるならまた違うのだろうけど、商隊の連中は俺を馬車に乗せるより商品を積むことを選ぶだろう。

俺が商人だったら、そうする。

そんな俺は、どういった依頼が得意かというと、やっぱり拠点防衛。

まあ、そんな依頼は滅多にないし、あってもその依頼の場合、俺以外のメンバーが来ないんだよなぁ。

あとは…… 殿 ( しんがり ) も得意。

撤退する集団の最後尾で、追撃を防ぐ役目。

うん、依頼じゃないな。

得意な状況だな。

そして、そんな状況は遠慮したい。

安全が第一。

それが俺の信念。

ある日、リーダーによって“ミアガルドの斧”のメンバーが集められた。

リーダーを含め、全員で十四人。

珍しいことではない。

依頼を受けたときには、こうやってメンバー全員に説明し、一緒に行くメンバーが決められるからだ。

俺も参加できる依頼であってほしいと願いつつ、リーダーの依頼内容を聞いていると……

依頼内容は、とある場所に行って数日を過ごし、とある品を受け取って戻る。

それだけ。

依頼とは言えないような簡単な内容。

なのに高額の報酬が提示されている。

二回確認したけど、間違いないようだ。

どうしてこんな依頼を引き受けたんだ?

いや、どんな裏があるんだ?

みんなの疑問の目がリーダーの横にいるコークスに 注 ( そそ ) がれると、コークスは両肩をすくめて言った。

「指名依頼だ」

なるほど。

つまり、断れない相手から俺たちが指名されたということか。

それなら仕方がないが……断れない相手ってのは誰だ?

それによって、この依頼の厄介度合いがわかる。

コークスが聞きたいのかって顔をしているので頷いた。

「王都におわす我らが冒険者ギルドのマスター」

……

超厄介ごとじゃねぇか!

俺は全力で逃げようとしたが、リーダーに回り込まれてしまった。

「すまないが全員参加だ。

不幸はみんなで味わおう」

リーダーの宣言に、コークス以外のメンバーが大ブーイングだった。

王都からシャシャートの街への旅は駆け足だった。

予定を大幅に遅れての出発だったからだ。

メンバーが逃げる、捕まえる、説得するの繰り返しだったからな。

本気で嫌がるメンバーは置いていってもいいと思うが、依頼達成にはある程度の人数が必要らしい。

荷物が多いのかな?

メンバーの何人かが戦力の増強を望んだのだが、あてにしていた獣人族の少年たちは別件の依頼を受けているらしく断られてしまった。

なんでも貴族絡みの案件らしく、勝手に動けないらしい。

……まあ、獣人族の少年たちは全員、貴族なんだけどな。

あてにしていない冒険者仲間は、冒険者ギルドのマスターからの指名依頼だと知ると逃げられた。

薄情なやつらだ。

お土産は買ってきてやらないことに決まった。

そして、俺たちの希望はシャシャートの街の冒険者ギルド。

王都の冒険者ギルドのマスターの悪評は、シャシャートの街にまで伝わっているかもしれないが、どこにでもお調子者……失礼、冒険を好む者はいる。

それこそが真の冒険者だ。

王都にはいなかったが、シャシャートの街には真の冒険者がいると信じている俺たちの合言葉は一つ。

「道連れを一人でも多く!」

最低だと笑ってくれ。

シャシャートの街に真の冒険者はいなかった。

ちくしょう。

カレー、あいかわらず美味い。

わずかな希望を持って 五村 ( ごのむら ) の冒険者ギルドにもあたってみたが、そこも駄目だった。

こっちは真の冒険者 云々 ( うんぬん ) ではなく、五村周辺の魔物や魔獣退治で冒険者が忙しく、俺たちの話に乗ってくれなかった。

ラーメン、これもなかなか。

フォークより 箸 ( はし ) で食べるのが正式なスタイルらしい。

箸の使い方、覚えてみようかな。

現実逃避しつつ、依頼のために俺たちは移動を開始する。

「ここか?」

リーダーがコークスに確認する。

目の前に広がるのは綺麗な海岸なのだが……

こんな場所にこんな海岸があったか?

シャシャートの街で半年ほど活動したときにこの辺りを歩いたことはあるが、もっと 煩雑 ( はんざつ ) とした場所だったはずだ。

だから、それなりの装備を持ってきているのに……

「まるで俺たちを出迎えるかのように道まで整備されているな」

コークスの意見に、ほかのメンバーが頷く。

厄介ごとの予感が強くなる。

シャシャートの街や五村で情報収集をした結果、この近くには新発見のダンジョンがあるらしい。

今回の依頼はそれ絡みなのだろうか。

……

「とりあえず、ここだと落ち着かないから森に入ろうか」

依頼ではあの海岸で数日待つことになっていたが、海岸は隠れる場所が少なすぎて落ち着かない。

俺も森への移動に賛成した。

俺たちは森の中に拠点を作った。

とりあえず、食事。

シャシャートの街で補充した調味料が大活躍。

美味いは正義。

そして、交代で海岸を見張ることにした。

誰が品を持ってくるのかは知らないが、出迎えろとは指示されていない。

これぐらいの用心はしてもいいだろう。

そうして夜を迎え、次の日の朝。

海岸を見張っていたコークスが倒れた。

え?

そして小さくコークスの体が震えたと思ったら、飛び起きて俺たちのところに全力で走ってきた。

なんだ?

いや、わかった。

俺たち冒険者が相手する魔物や魔獣のなかには、幻惑や睡眠、強制的に気絶を強要してくるものがいる。

それに対抗する魔道具があり、所有者が幻惑や睡眠、気絶状態になったときに作動して正常な状態にしてくれる。

それが作動したのだろう。

欠点は値段の高さと、一回きりの使い捨て、そしてかなり痛いこと。

涙目のコークスが俺たちに向かい、ハンドサインで逃げろと指示していた。

叫ばないところをみると、かなりまずいらしい。

そのまずさは、すぐに理解できた。

俺の持っている魔道具も作動したからだ。

かなりどころじゃなかった。

めちゃくちゃ痛い。

だが、それに文句を言っている場合じゃない。

俺は拠点に置いた荷物すら回収せず、逃げた。

俺は走りながら考える。

俺が見たのは一頭の大きな獣。

狼だ。

ただの狼じゃない。

断言できる。

あれは災害だ。

そして、その背に乗せていた存在はなんだ?

たぶん、そいつによって強制的に気絶させられた。

スタンバッシュだろう。

あれを使ってくる魔物や魔獣は数えるほどしか知らないが、どれもこれも専門の装備を用意して対処しなければならない難敵だ。

そんなのを背に乗せている狼……

あれは一つの街を滅ぼせる戦力だろう。

まずい。

ほんとうにまずい。

この近くには、シャシャートの街と五村がある。

あそこに住む者たちのことを考えれば、ここで仕留めなければいけないのだろう。

可能なら。

無理だ。

“ミアガルドの斧”のメンバーが全員、フル装備で待ち構えても無理。

はっきりわかる。

圧倒的な力量の差。

全てを諦めて、“死”に逃げたくなるこの感覚をわかってもらえるだろうか。

だが死にたくない。

俺にはやりのこしたことがある。

それは、結婚。

俺のささやかな夢だ。

俺は結婚して、子だくさんの家庭を築きあげるんだ!

相手はまだいないけど。

きっとどこかにいるはずだから。

だから死にたくない!

……

一つ、報告忘れがあった。

難敵を背中に乗せた狼なのだが……一組だけじゃなかった。

数えていないけど十組以上いたね。

はははははは。

この世の終わりのようだ。

だが俺は生き抜く。

さらばだ、愛用の盾。

さらばだ、愛用の鎧。

剣もいらん!

シャシャートの街と五村では、どちらのほうが戦力は多いだろうか?

五村だな。

あそこは冒険者だけでなく、警備隊の面々も鍛えられていた。

ほかのメンバーも同じ判断のようだ。

全員が五村に向かっている。

よし、逃げ切ろう!

逃げ切るんだ!

だが、絶望はやってくる。

コークスが後方を確認して、悲鳴を上げた。

コークスらしくないミスだ。

後ろを見てなんになるって言うんだ。

俺たちはただ前を見て走るだけだ。

そうだろ。

だが、恐怖には勝てない。

俺も後方を確認してしまった。

……

……………………

二人の女性が、空を飛んでいた。

その進路は、俺たちに向けられている。

ああ、わかっている。

あの顔。

知っている。

吸血姫ルールーシーと、殲滅天使のティア。

有名人だ。

あの狼を上回る災害として。

それぞれが関わっちゃいけない存在。

以前は名前しか知らなかったが、なぜかシャシャートの街と五村で二人の 姿絵 ( すがたえ ) が出回っていたので覚えている。

その二人が揃って俺たちを追いかけている。

飛んできた方向から考えても、あの狼たちの関係者……いや、あの狼たちを使役しているのがルールーシーかティアのどちらかか。

神様ってやつは、どこまでも残酷だな。

逃げているメンバーは黙って顔を見合わせ、頷く。

そしてリーダーが叫んだ。

「散って逃げるぞ!」

ルーとティアは空を飛びながら移動していた。

「あれ、魔王の用意した冒険者でしょ?

どうして逃げているのかしら?」

「わかりませんが、とりあえず声をかけてみるのはどうです。

ルーさん、お願いします」

「はいはい。

おーい、そこの冒険者たちー」

……

悲鳴で返された。

「ルーさんの声が怖かったのでしょうね」

「そんなわけないでしょ。

でも、なにがあったか知らないけど面倒ね。

放置しちゃう?」

「それでもいいですが……計画が狂うのでは?」

「たしかにそうね。

それじゃあ、捕まえるしかないか」

「ですね。

……あら、散ってしまいました」

「露骨に広域魔法を撃とうとするからよ」

「無詠唱ですから、察知されるとは思わないのですが……なかなかの腕の冒険者ということでしょうか」

「みたいね。

どっちが多く捕まえられるか勝負する?」

「ふふ。

負けませんよ」

“ミアガルドの斧”の受難は、始まったばかりだった。

↓没バージョン

「おーい、そこの冒険者たちー」

……

悲鳴で返された。

解せぬ。

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