異論は認める
異論は認める
五村 ( ごのむら ) のグラウンドで魔王率いる猛虎魔王軍と、キネスタ率いる五村鉄牛軍の野球試合が行われていた。
試合は点を取ったり取られたりのシーソーゲーム。
見ごたえのある内容で、八対九で五村鉄牛軍が逆転勝ちを収めた。
そして行われる親睦会。
酒肉ニーズでの焼肉と酒宴。
「えー、双方の健闘を称え、かんぱーい!」
魔王は、魔法であらかじめ冷やされた分厚いグラスに注がれた冷たい麦酒をごきゅっと飲んだ。
五村のラーメン通りの一角。
「塩ラーメン、 麺 ( めん ) 大盛、チャーシュー増し、ネギ微増、 筍の漬物 ( メンマ ) 抜き」
「あいよ。
塩ラーメン、麺大盛、チャーシュー増し、ネギ微増、筍の漬物抜き」
「えー、なんで筍の漬物を抜くの?
私は塩ラーメン、麺大盛、チャーシュー普通、ネギ普通、筍の漬物多目で!」
「あいよ。
塩ラーメン、麺大盛、筍の漬物多目!」
ほどなくして、貴族の娘さん二人の前に塩ラーメンが運ばれてくる。
「まずはスープ……うん。
そして麺……いいわね」
「あいかわらず難しい顔をして食べるわね。
ラーメンはなにも考えずにかっこむのが一番じゃないの?」
「そういった食べかたを否定するわけではありません。
ただ、このあとに感想を書かなければいけませんから」
「感想を書かなきゃいけないなら、なおのこと筍の漬物を抜いちゃ駄目でしょ?
筍の漬物苦手だっけ?
普通に食べてたと思うけど?」
「感想を書くときの注文が筍の漬物抜きだったのです」
「仕事はもう少し選びなさいよ。
うん、美味しい。
もう一杯行く?」
「当然です。
ですがその前に、すみません。
麦酒を二杯、お願いします」
「あいよ。
麦酒二つ!」
貴族の娘さん二人の前にコップに注がれた麦酒が運ばれてきた。
「これを飲んでから次のラーメンです」
「はいはい。
いただきます」
貴族の娘さん二人は、軽く乾杯をしてから麦酒を飲んだ。
熱気がこもる五村の鍛冶場。
ここは一日中、ドワーフの鍛冶師たちの振るう 鎚 ( ハンマー ) の音がリズミカルに響く。
「おーっしゃ、交代だー!
休憩のやつは水分補給をしっかりとやれよ。
上がりのやつは風呂入って飯食って帰れ」
親方の指示通りに、ドワーフたちが動く。
「ふひー、今日も働いた」
「充実した毎日というやつだな。
今日の飯はなにか知ってるか?」
「早番の連中が魚だって言ってたぞ」
「魚か。
いいねー」
「ここの飯はなんでもうまいから、わしはなんでもいいけどな」
上がりのドワーフたちが集うのは、鍛冶場で働く者専用の風呂屋。
ここの風呂のお湯は鍛冶場の火を利用して作っており、鍛冶場が動いていないときには入れない弱点がある。
「毎日、風呂に入れるのはありがたいが、なんで飯の前なんだろうな?」
「そりゃ決まってる」
「決まってるのか?」
「ああ」
鍛冶場はうるさいので、五村から少し離れた場所にある。
それゆえ、仕事の合間に五村の食事 処 ( どころ ) に行くのはむずかしい。
また、作業も日が落ちてから日が昇るまでの夜間がメインなので、営業している食事処自体も少なかったりする。
その不満を解消するため、五村の村長代行であるヨウコは専用の飯屋の設置を決めた。
営業時間は交代制で二十四時間。
メニューは日替わりだが一種類のみで選べない。
しかし、鍛冶場で働く者には無料提供なので評判は高い。
「酒代も 無料 ( タダ ) にしてくれたらいいんだけどな」
「それをすると、あっというまに酒樽が 空 ( から ) になってしまうからな。
ほれ、この酒が飯の前に風呂の理由だ」
「なるほど、これか」
「ああ、働いたあとに熱々のお湯に浸かり、さっぱりしたところに流し込む冷たい麦酒!
……んんっ、たまらん!」
「……たしかに、たまらん!」
若いドワーフの鍛冶師は、中銅貨を払って追加の麦酒を頼んだ。
五村の警備隊員の仕事時間は決まっているが、定期的に夜番がある。
実はこの夜番、給金がいいとか、夜食が出るとかいろいろと配慮されているので、夜番だけずっとやっていたいと言う者が出る始末。
しかし、この夜番の最大の魅力は次の休みが昼になることだ。
「昼。
空 ( す ) いているテラス席に座り、働く人々を見ながら……ぐびっと飲むこの一杯!
最高!」
ちなみにこの行為、勤務中の警備隊員からとくに恨みがましくみられるデメリットがあったりする。
「次の訓練、あいつには厳しくする」
「ちょ、そりゃないっすよ!」
「えーっと、彼氏と一緒ならどんな場所で飲んでも美味しいと思うのよね。
彼氏のいない人?
あはは……えーっと、ごめんなさい」
「原稿を書き上げる。
必死で。
でもって、原稿が上がったあと……寝る。
死ぬほど寝る。
そして目が覚めたとき、上がった原稿をチェックしながら飲む酒が最高。
いや、至高」
それ、違う意味で酔ってない?
「自分で書いた作品が一番自分に合うのはどうしようもないことじゃないかな」
自分の書いた物で泣けるのは才能だと思う。
ふう。
疲れた。
そして酔った。
どうしてこうなった?
始まりは、酒の席での 戯言 ( たわごと ) だった。
たしか、ガルフだったかな?
「飲む 状況 ( シチュエーション ) で、味が変化するのはわかる。
となれば、酒をもっとも美味く飲む状況とは、どんな状況なんだろうな?」
この話題で大樹の村は盛り上がった。
そして、酒の種類は麦酒に限定し、最終結論は出た。
出たのだが、ほんとうにそうなのかと人口の多い五村でも調査が行われることになった。
それはいいが、その状況を体験するのはやりすぎだと思う。
まあ、全て体験したわけじゃないけどな。
それで、五村の調査の結果はどうなんだ?
やっぱり、大樹の村の最終結論を 覆 ( くつがえ ) すことはできなかった?
そうか。
では、あれが麦酒を一番美味しく飲む状況なのか。
家族や友人たちと一緒に宴会でわいわいとしながら飲む。
否定はしない。
そして、異論は認める。
ちなみに、特別賞は禁酒後に飲む。
選考外になったのは、仕事中に飲むだった。
誤字の指摘、ありがとうございます。