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昔の食事

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昔の食事

“ 飽食 ( ほうしょく ) 、美食は大罪”

そう主張する宗教団体が 五村 ( ごのむら ) の村長代行であるヨウコのもとに訪問し、五村住人の飽食と美食を改めるように要望を訴えた。

宗教団体の者たちは礼節を守り、手順をちゃんと踏んでいたので、ヨウコはその要望に対して独自の判断をせず、五村の議会に持ち込んだ。

議会はその要望に対して十分に議論し、下記の文言を五村の各所に提示するという結論に達した。

「食べ過ぎ注意。

でも、お残しも駄目。

食べられる量を見極め、注文しましょう」

これでこの件は終わるはずだった。

「五村に来る前の食事を思い出し、五村の食事に感謝するべき」

五村議会の提示した文言を受けた一部の五村住人たちが、そう主張してヨウコに訴えた。

詳しく聞けば、最近の若者は昔の苦しい生活を忘れ、五村の食事が普通と思っている節がある。

五村に来る前の食事をすることで、改めて五村の食事に感謝をするだろう。

五村に来る前の食事を取る日を制定してほしいという内容。

住人たちは礼節を守り、手順をちゃんと踏んでいたが、ヨウコはこれを一蹴した。

理由はシンプル。

「個人で勝手にやれ!

他者を巻き込むな!」

である。

たしかにその通りなので、訴えた五村住人たちは十日に一度ぐらいの割合で昔のつつましい食事をとる会を開催するにとどまっている。

夜。

そういった流れの報告を、俺はヨウコから受けた。

「一蹴はしたものの、考えさせられる訴えではあった」

しかし、だからと言って昔の食事をとりたいわけではないのだろ?

「うむ。

なぜ、美味い物が食べられるのに、わざわざ不味い物を食べねばならん」

ヨウコはそう言って、食後のワインをくいっと飲み干した。

そして、近くにいた鬼人族メイドにワインのお代わりと夕食で出たハムの追加を要求。

ハムは五村近郊の牧場で作られた試作品だが、ヨウコはなかなか気に入ったようだ。

俺も味は悪くないと思う。

ただ、普段食べている 二村 ( にのむら ) で作られたハムのほうが美味いと思ってしまうのは、 身贔屓 ( みびいき ) だろうか。

そんな風に思っていると、風呂から出たヒトエがヨウコのところにやってきた。

いつもはヨウコと一緒に風呂に入るヒトエだが、今日はヨウコの帰りが遅かったからな。

ハイエルフのリアたちと一緒に風呂に入れてもらっていた……

悪かった。

ヒトエは一人で風呂に入ったんだな。

よしよし。

俺はヒトエの頭を 撫 ( な ) でながら、ここまでヒトエを連れてきてくれたリアたちに表情で感謝を伝えた。

翌日の朝。

ヨウコの話を思い返し、俺は少し考えた。

俺はこちらの世界に来る前、大病を患って入院した。

そのとき、最初は病院食だったが数年後からは流動食に、そして最後の一年はずっと点滴だった。

そういった経験から、食べたいときに食べたいものを食べられる幸せは失いたくない。

日々の食事に感謝をしているが、それは形だけになっていないだろうか。

美味しい物を食べるのが当たり前になっていないだろうか。

弛 ( ゆる ) んでいたつもりはないが、ここはひとつ改めるのも悪くない。

そこで、今日の昼食は、俺はここに来た当初の料理にしようと思った。

メニューその一。

ウサギの肉を焼いただけ。

塩とか 胡椒 ( こしょう ) は使われていない。

食べてみた。

思い出す。

ここに来たときの苦労を。

……

いや、それほど苦労はしていないな。

自由に動ける喜びのほうが大きかった気がする。

そして、食べられることが嬉しかった。

懐かしい味だ。

だが、ハイエルフたちの長年の狩猟技術で丁寧に処理をされ、あっというまに俺の料理技術を超えた鬼人族メイドたちが不足なく調味料を使って焼いたウサギの肉の味を知っているので、しばらくは遠慮したい味でもある。

うん、まあ、あれだ。

美味しく食べる方法を知っているのに、わざわざ不味い方法で食べる必要もあるまい。

余裕があるなら、少しでも美味しくなる努力をすべきだ。

ただ、肉にしろ草にしろ、命をいただいているという感謝を忘れないようにしよう。

メニューその一で色々と学んだので、メニューその二はない。

ちなみに、俺が昔の料理を食べたがったが、ほかの者に強要はしていない。

しかし、影響はあったようだ。

各種族が大樹の村に来る前によく食べていた料理の話をしていた。

ハロリのサラダ。

ハイエルフたちがよく食べていた料理というか草だそうだ。

しかし、ハロリ?

どこかで聞いたと思ったら、毒じゃなかったか?

可食部があるのか?

水に漬けて毒抜きをして食べるらしい。

ただ、それでも腹痛には襲われるそうだ。

「お腹が痛くなるだけで、 下 ( くだ ) したりはしませんから。

それなりにお腹が 膨 ( ふく ) れます」

……

なかなか壮絶な食生活だったようだ。

山エルフたちの料理は、ヤリサキドクトカゲの丸焼き。

……

ヤリサキ“ドク”トカゲと名前に毒が入っているんだが?

これも毒抜きをするのか?

しないそうだ。

そして、もちろん毒がある。

このヤリサキドクトカゲの毒を受けると気を失うだけで、身体的には影響はないらしい。

食べてすぐ気を失うわけではないし、気を失っても一時間ぐらいで目を覚ますので、食事の時間をずらして食べていたそうだ。

毒がピリピリして食べた直後は上手く喋れなくなると笑っているが、その目は二度と食べたくないと言ってる。

うん、今晩は美味しい料理をたくさん食べよう。

鬼人族メイドたちは、ルーに保護されていたので食事には困らなかった。

しかし、この村に来る前の料理の基本は焼くか 煮 ( に ) るだけだったので、味は察することができる。

「当時は、その味に不満などなかったのですけど……

いまの料理の味と比べると、あまりにも平べったい味でした。

あの味にはもう戻りたくありません」

なるほど。

ところで、今晩の食事なんだが……

「言われるまでもありません。

気合を入れて作らせていただきます」

ありがとう。

リザードマンやハーピー族は天使族に保護されていたが、食事は自給自足だったそうだ。

それは保護と言うのだろうか?

「保護というか従属種族のような感じでしたので。

リザードマンやハーピー族が困ることがあれば、天使族が駆けつけてくれます」

そう説明してくれたのはリザードマンのダガ。

「あのころは川や池、湖で魚を獲って食べてましたが、時々、毒を持つ魚に若い者が刺されて流されてました。

ははははは」

笑いごとではないと思うのだが……

ハーピー族は?

「私たちは木の実とかですね。

ただ、私たちが食べていい木の実は限られていたので、探すのが大変でした」

食べていい木の実が限られている?

「ええ、私たちは人間が食べられる木の実は食べてはいけなかったので」

なんだそれは?

俺の疑問にはティアが補足してくれた。

「人間の国では、基本的に亜人は嫌われていますから。

天使族の保護を受けた種族だけが生存が許されている状態なのです」

しかし、天使族の保護を受けたからといって自由に生きられるわけではなく、人間との 摩擦 ( まさつ ) を減らすために人間の食べる物は食べなかったと。

大変だったんだな。

「ここではみんなと同じ物を食べられるので幸せです」

そうかそうか。

遠慮なく食べていいんだぞ。

獣人族は……

ハウリン村での生活は知っている。

知っているが聞く。

ガルフとガット、それとセナが話したそうにしているから。

……

えーっと、どこから聞いていたかしらないが、不味い料理自慢じゃないぞ。

その日の夕食は想像以上に豪華になった。

子供たちが驚いている。

いや、お祝いとかではない。

ただ、日々の食事に感謝した結果……みたいなものだ。

気にせず、席につくように。

さあ、食事をはじめよう。

いただきます。

ヒトエ  ヨウコの娘。百年ぐらい生きてるけどまだ幼女。

セナ   獣人族の娘。ハウリン村からの移住者代表。ガットの妹。村長の奥さんの一人。