宝箱姿の魔物ではない
宝箱姿の魔物ではない
私に名はない。
ただの意思ある箱。
収納した物を守る箱。
それだけだ。
それを伝えたうえで、一言。
私は 宝箱姿の魔物 ( ミミック ) ではない。
あんな、収納量の少ない魔法生物と一緒にはしないでほしい。
私は長い眠りから目を覚ました。
何者かによって体当たりされたからだろう。
なかなかの衝撃。
だが、その程度では私の 上蓋 ( うわぶた ) は開かない。
私の上蓋を開きたければ、鍵を持ってくるがいい。
ふははははは。
……
凄く恐ろしい魔獣の集団に囲まれている現状を理解した。
どうしよう?
上蓋を開けるのが正解だろうか?
あれ?
ちょ、待つんだ。
そこの魔法を使おうとしている黒い魔獣よ。
それは私の中身ごと燃やしてしまうのではないか?
中身と共に燃えるのは本望ではあるが、それでいいのか?
中身、気にならないか?
よ、よし、いいぞ、そこの人間、ナイスブロック。
よく止めた。
よく止めたが、何者だ?
明らかに魔獣のほうが強そうなんだが?
魔獣使いかな?
ま、まあ、いい。
そこの人間よ。
私の中身を見る権利をやろう。
さ、差し出すわけじゃないぞ。
見るだけだからな。
見たら満足して帰ってくれるだろう。
そう念じていたのだが、人間は私から離れた。
私に近づきそうだったのに、なぜだ?
いや、まあ、このまま去ってくれるならかまわない。
うん、結果よければすべてよしだ。
……
魔獣使いと魔獣たちは、人間を五十人ぐらい縦に並べた(八十メートル)ぐらいの距離で止まった。
かなり離れたと言えるが、まだ私が見える距離だ。
周囲は森なのに、どうして見えるのかというと、不思議とまっすぐな道があるから。
しかも道の片方のゴールが私のいる場所だな。
私に続く道なのか?
私の周囲にもなにもないし、私が寝ているあいだになにがあったのだ?
そして、魔獣使いと魔獣たちは、そこでなにをしているんだ?
ああ、食事か。
どうしてそこで?
そして、さらに魔獣たちが集まってくる。
同じ種類なのだろうけど、何頭いるんだ?
数えられないぐらいいるぞ。
少し待つと、魔獣使いの周囲に何人も集まってきた。
そしてなにやら話し合っている。
私は耳がいいから、このぐらいの距離なら声は聞こえるが、一斉に喋っているので内容が入ってこない。
ただ、ちらちらとこっちに視線を送ってくる者がいるので、私の処遇を考えているようだ。
できるだけ穏便な処遇を期待したいのだが……神人族がいるな。
ちょっと不安。
連中、乱暴だから。
さっきの魔獣と同じように魔法で攻撃してくるかもしれない。
ドワーフには期待。
超期待。
ドワーフは 大雑把 ( おおざっぱ ) にみえて、工芸品とか好きだからな。
ちゃんと鍵で開けることを魔獣使いに提案してくれるかもしれない。
エルフは……あまり気にしなくても大丈夫かな。
興味があることには集中するけど、そうじゃないものには 淡泊 ( たんぱく ) だから。
おっ。
話し合いが終わったようだ。
どうなったのだろうか?
ドキドキ……
最悪の結果のようだ。
あいつら、私に向かって石を投げて来やがった。
投石で私を壊す気だ。
ええい、愚か者どもめ。
いや、賢いのか?
罠の可能性を考えれば、的確な対応だ。
許せんがな。
しかし、石を投げるにしては遠くないか?
食事をしている位置からこっちに近づいていないから、人間を五十人ぐらい縦に並べたぐらいの距離がある。
石の命中はない。
……
ふははははははは、愚か者め!
そう思った瞬間、私のすぐ近くを高速のなにかが通り過ぎた。
そして私の後ろにある森の木々を削り、進んでいく。
かなり遠くまでなにかが通ったなぁ。
うん、なにかじゃないな。
わかっている。
石だ。
人間の拳ぐらいの石が、私のすぐそばを通った。
見えないぐらいの速度で。
まっすぐ。
直線的に。
ありえるのかな?
あの距離をまっすぐに石が飛ぶことって?
空気抵抗を考えれば軌道が変化すると思うが?
それすら無視する威力で投げられたのか?
誰だ?
あの白っぽい女か。
なんだ?
ドラゴン?
あの白っぽい女からドラゴンの気配がするぞ。
あ、こら、魔獣使い、次の石をパスするんじゃない。
ひぃっ!
あ、あぶなっ、かすった。
かすった。
チュンって音がした。
怖い。
そして、ま、まずい。
すでに次の投石フォームに入っている。
あのフォーム。
私は直感した。
当たると。
「あれ?
はずれた?」
白っぽい女が首を傾げた。
「へたくそー」
横にいる女が白っぽい女を挑発する。
やめろ。
あ、あの女、吸血鬼か。
くっ。
吸血鬼は性格が悪いことで有名だからな。
ええい、昼間っから動きおって。
吸血鬼なら吸血鬼らしく夜に……昼に動ける吸血鬼って始祖系列か?
いかん。
狂った探究者 《 マッド・キュリオシティ 》 だ。
あいつら、自身の興味のためなら手段を選ばん。
あそこにいるってことは、私に興味を向けているのだろう。
「おかしいなー。
当たったと思ったのに。
もう一回」
白っぽい女は、また石を受け取った。
諦めてくれないのか。
ええい。
「ちょっと確認していい?」
白っぽい女が吸血鬼に話しかけている。
「どうしたの?」
「あの箱、 避 ( よ ) けてないかな?」
「はずれた言い訳?」
「そうじゃないけど……微妙に動いている気がするのよね」
「石だから軌道が変化しちゃったんじゃないの?」
「そうかもしれないけど……
村長、次の石」
……くっ。
ど、どうする。
箱としてのプライドを捨てて避けていたが、このまま避けていいのか?
箱ならば食らうべきではないのか?
……
駄目だ。
怖いっ!
「避けたわね」
「うん、避けた」
うう、心が弱い自分を責めたい。
「つまり、あの箱は魔物ってことか?」
あー、魔獣使いよ。
私は魔物ではない。
箱だ。
箱なんだ。
吸血鬼よ!
私は宝箱姿の魔物ではない!
宝箱姿の魔物ではない!
ええい、意思疎通!
意思疎通がしたい!
しかし、箱は喋れない。
私ができる意思表示は一つ。
だが、これは私の存在意義にかかわるので駄目だ!
だから、私は諦めない!
こうなれば、最後まで石を避けてやる!
お前らが諦めて帰るまで、私は頑張る!
そう思っていたのだけど、白っぽい女が少し近づいてきた。
人間を二十五人ぐらい縦に並べた(四十メートル)ぐらいの距離。
そこで投げるフォームを取った。
うん、無理。
この距離では避けられない。
私は自分の意思で上蓋を開け、降伏の意思を表明した。
白っぽい女 = ハクレン
吸血鬼 = ルー
大丈夫だと思うけど、一応。
現実逃避しているときが、一番筆が進む。