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小さな商会のウィルソン

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小さな商会のウィルソン

私の名はウィルソン。

五村 ( ごのむら ) に居を構えた小さな商会の会長です。

趣味はボタン収集。

ええ、服についているボタンです。

ボタンはいいですよ。

ボタンは一つ一つが職人の手作り。

一つとして同じ物はありません。

そして、ボタンには物語があります。

そのボタンのついた服を着た者の生きざまという物語が……

わかっています。

理解してほしいとは言いません。

ただ、ボタンは大事にしてください。

昼。

五村に来るまでは一日二食が日常でしたが、五村に来てからは一日三食になりました。

最初はそんなに食べられないと思っていたのですが、食べようと思ったら食べられるものです。

まあ、原因はわかっています。

これまで食べていたパンです。

これまで食べていたパンは石のように硬くて不味かったのですが、腹持ちだけはよかったのです。

その硬いパンを、五村に来てからは食べなくなりました。

同じぐらいの値段で、柔らかくて美味しいパンが売っているのですから仕方がありません。

一日三食になったので食費は増えましたが、それを気にしなくていいぐらいには商売は順調です。

ありがたい話です。

ただ、お腹がちょっと出てきたことは悩みですね。

妻や息子たちに 弄 ( いじ ) られます。

おっと、いけない。

運ばれてきたハンバーグ定食に対し、お腹が出るなどの思考は無用。

いまは目の前のハンバーグ定食に集中しましょう。

ハンバーグ、つけ合わせの焼かれた野菜、野菜スープ、柔らかいパン。

これだけの豪華な食事で、中銅貨八枚は格安です。

そして、味も絶品。

ハンバーグ定食を提供しているこのお店の料理長は、料理コンテストでの上位者ですから当然ですね。

いや、優勝常連である鬼人族メイドさんたちに指導を受けた料理人と言ったほうが、五村では腕前をわかってもらえますね。

きっと。

ああ、やはり美味しい。

この美味しさを広めるために、飲食店をやってみたくなりますね。

こう見えても料理にはちょっと自信があるのです。

さすがにここのハンバーグ定食ほど美味しくは作れませんが。

ハンバーグ定食を食べ終わり、食後の飲み物を楽しんでいると、私の店の従業員がやってきました。

彼の休憩時間はまだ先のはず。

こちらに向かってくるということは、急いで私に知らせることでもあったのでしょうか?

「ゴロウン商会が動きました。

大工を中心に人を集めています」

……

ゴロウン商会。

この五村でも無視できない 大手 ( おおて ) の商会ですが、大手というところはそれほど重要ではありません。

彼らのもっとも重要な部分は、五村の村長の御用商人ということ。

ゴロウン商会が普段にない行いをしたということは、その後ろに村長の意向があるということ。

代行さまの意向の可能性は、もちろん無視しません。

ですが、あの代行さまが村長の意向を無視するとは考えられません。

大きいことをするときは、村長の許可を得ているはずです。

なので、問題ありません。

ゴロウン商会が普段にない行動をした。

絶対に儲け話です。

私も急いで動かねば。

資金が足りない可能性があります。

父の店から借りることも検討しないといけませんね。

村長の意向は、五村の近くにある山に神殿を建設することでした。

神殿じゃない?

神域?

似たようなものでしょう。

立派な建物がありますし。

建材の調達に絡めたので、そこそこの利益になりました。

ええ、そこそこです。

貪 ( むさぼ ) ったりはしません。

全ては五村の発展のため!

そして、五村の美食のため!

この考えに嘘はありません。

正直、五村になくなってもらうと困るのです。

だから税をもっと取ってほしいと思うのですが、村長や代行さまのお考えとは違うようで……もどかしい。

いえ、小さな商会の会長である私では思いもしないような深いお考えがあるのでしょう。

信じて、ついていくだけです。

そうそう。

今回の神殿建設で、五村には大きな変化がありました。

これまで、五村は南側が人気で発展していました。

シャシャートの街に続く道がありますからね。

シャシャートの街は、五村の南西方向。

西側もその恩恵を受けていました。

転移門ができて、その道の価値は下がりましたが、変わらず五村では南側が人気でした。

これには東側、そして北側は不満がありました。

口にはしませんが。

不満はたしかにあったのです。

その不満を 汲 ( く ) み取ってくれたのでしょう。

今回建設された神殿がある山は、五村の北東方向にあります。

そうです。

神殿に続く道ができるのです!

すでに五村の東側、北側の住人がお金を出しています。

お金がない者も、労働力として道の建設に参加してくれています。

代行さまの許可が出た瞬間、すごい勢いで道ができていきます。

五村の東側、北側の希望の道が。

これで東側、北側の人気が向上するでしょう!

村長と代行さまは、そこまで東側、北側を気にしてくださったのだ!

ははは、羨ましかろう南側、西側!

……

いや、神殿や道の建設に、南側や西側の住人もお金を出していますし、手伝ってくれてもいますけどね。

全ては五村のために。

そうです。

たとえ南側や西側でなにかする場合でも、東側や北側は惜しみなく協力するのです。

しかし、広い道になりそうですね。

馬車が何台、並べられるでしょう?

二十台以上並び(五十メートルぐらいあり)そうです。

村長や代行さまのことですから、この道もなにかイベントに使うのでしょう。

楽しみです。

そして道の両側は、杭と縄で区切られています。

ここに店ができるのです。

基本の権利は五村にあり、代行さまは希望者に抽選で販売するとおっしゃっていました。

ですので、区切られた場所には記号と番号が振られています。

軽く情報収集をした感じでは、飲食関係が入りそうです。

神殿に参拝に行く者を相手にと考えているのでしょう。

なるほど。

私も参加したいですね。

自分で作るのは仕事量的に無理でも、飲食店を出すのは悪くないでしょう。

いくつかの場所に希望を出しておきましょうか。

そんなふうに考えていると、私の店の従業員が走ってやってきました。

慌てているようですね。

またゴロウン商会が動きましたか?

「会長のお子さんが倒れたそうです」

……

は?

「場所は会長のお父さまの工房です」

ど、ど、どういうことでしょうか?

父が私の息子に無茶な仕事でも振ったのでしょうか?

最近、珍しい布を手に入れたと言っていましたが……

いやいや、父がそのようなことをするはずがありません。

倒れるような仕事ならば、父が独占して楽しむはずです。

ええ、父はそういう人なのです。

となると 病 ( やまい ) かなにかでしょうか?

それとも事故?

息子が心配です。

急いで、父の店に行きましょう。

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これからも、よろしくお願いします。