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ベルバークの旅 前編

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ベルバークの旅 前編

我が名はベルバーク。

ベルバーク=ルチョイス。

魔王国に住む魔族の老人だ。

そう、老人だ。

千歳を超えてからは年齢を気にしなくなったが、たぶん千五百歳はいってないと思う。

魔王国では最年長……は、言いすぎかな。

ただ、老人であることは間違いないであろう。

爵位は子爵を 賜 ( たまわ ) っていたが、我が八百歳ぐらいのころに 曾孫 ( ひまご ) に譲った。

……

あれ?

玄孫 ( やしゃご ) だったかな?

まあ、どちらでもいいか。

血縁に譲ったとしておいてくれ。

そして、ただの隠居 爺 ( じじい ) として優雅に暮らしたかったのだが、時世が許してくれずに名誉公爵に 据 ( す ) えられて各地で転戦することになってしまった。

なぜ我がと思うが、我の血筋だけはいいからな。

なにせ、我が血縁から魔王が数人出ている。

数人だ。

数は忘れた。

詳細も忘れた。

いや、頑張れば思い出せるかもしれないが、昔の話だからな。

いろいろと 曖昧 ( あいまい ) になるのだ。

そんな我だが、忘れてはいけないことは忘れない。

それは今の魔王が、我の血縁であるということだ。

かわいがっていた孫娘の子だったから覚えている。

ちなみに、その子の妻は我の姉の娘の子、つまり我の又姪(姪の子)だったはず。

いや、我には兄弟姉妹も多く、子だくさんでな。

血縁がややこしくてかなわない。

実際、孫とか曾孫とか玄孫で百人を超えたら、一緒に暮らしているとかでない限り、誰が誰かなんか覚えておらん。

年に一回も会わんやつのことなど、覚えておるわけなかろう。

だいたい、生まれたばかりの者でも、三十年もすれば子を産むのだ。

さらに、魔力量で何百年も若いままのやつもいれば、普通に 老 ( ふ ) ける者もいたり……

覚えきれるものではない。

爵位とか家名とか、会うたびに変わる者もいたしな。

いや、それに関しては同一の人物ではない可能性もあるが……血縁ゆえに似ているのも悪い。

まあ、愛する家族ということで、関係はいいではないか。

うんうん。

さて。

選出議会なる組織がある。

選出議会の役割は、魔王が不在になったときに次の魔王を決めることだ。

一応、魔王が不在時の代行も兼ねる。

その選出議会に所属したというか、強制参加させられたのだが、最初はただの一員であった。

だが、いつのまにやら我が選出議会での最年長となり 議長 ( トップ ) となってしまっていた。

とても面倒だ。

しかも魔王が不在になると、我に魔王をやれと言う勢力が一定数いるのもまた面倒だ。

我は魔王の器ではない。

強さもない。

ただ長生きをしているだけの男だ。

それをなかなか理解してもらえない。

困ったことだ。

だが、ここ数百年は魔王が不在になることもなく、また不在になってもすぐに次の魔王が立つので選出議会が活躍することはなかった。

選出議会はそれなりの権限を持つが、魔王が健在のときは休眠している組織だ。

強い魔王は大歓迎。

楽でいい。

新しい魔王の就任式には参加しなければいけなかったが、それぐらいは引き受けよう。

今の魔王は、我に戦えと言うこともないしな。

我は自領で 悠々 ( ゆうゆう ) と暮らしていた。

そんな我のところに、今の魔王の政策に不満がある者たちが接触してきた。

彼らは口々に言ってくる。

なぜ魔王は戦いの手を 弛 ( ゆる ) めるのだ?

人間の国々を滅ぼさないのはなぜだ?

ひょっとして魔王は、人間の国々に 懐柔 ( かいじゅう ) されたのではないか?

そんな者が魔王でいいのか?

あなたが魔王になるべきでは?

などと。

まったく、困った連中だ。

ならば我が許可を取ってやるから、魔王に代わって前線に 赴 ( おもむ ) き人間の国に攻め込めばよかろうと言ってやったのだが、そういった連中が前線に行くことはない。

口だけだ。

いや、金は出すか。

我が魔王になるならと、それなりの支援金を匂わせてくる。

今回もだ。

なので我は考えた。

いや、連中のことではなく、自分のことを。

実は先日、王都の魔王より手紙が届いていた。

春にパレードをやるので、参加しないかと。

嬉しい誘いだ。

だが、旅費が用意できず、断るしかないかと思っていた。

貴族だからって、お金を持っていると思うのは間違いだ。

貴族は見栄を張る分、出費も大きいのだから。

誘ったのは魔王だから、旅費は魔王が出すだろう?

そうだとしても、その旅費を受け取るのは王都でになる。

なので、まずは我が立て替えねばならんのだ。

正直、旅費の当てがない。

諦めていたところに、この連中だ。

上手く言えば、旅費ぐらいは出してもらえるのではないだろうか?

いや、ここまで我に迷惑をかけるのだ。

旅費ぐらいは出すべきだ。

出すのが当然と言える。

代わりに、連中の体面ぐらいは保ってやる。

我は言った。

魔王になる気はないが、今の魔王の様子を見に行くぐらいはしてやろう。

人間の国々に懐柔されていては一大事だからな。

うむ、血縁を心配するのは当然のこと。

我は連中から旅費を巻き上げることに成功した。

気楽な一人旅。

そう思ったのだが、見張りが十数人ついて来た。

くっ。

そう甘くはないか。

今の魔王に不満を持つ者たちが寄越した見張りだから、変な真似はできん。

が、まあ、気にしすぎることもないか。

我は我の思う通りに動けばいいだけだ。

ちゃんと、今の魔王の様子は見るしな。

ああ、見るだけではないぞ。

なぜ人間の国々に攻め込まないかぐらいは聞いてきてやろう。

実際は大々的に発表していると思うがな。

連中は聞きたくないことは耳に入れない。

困ったものだ。

ちなみに、大々的に発表しているであろうことを我が知らないのは、興味がないからだ。

ははは。

もう少し、興味を持つようにしたほうがいいな。

頑張ろう。

長くなったので前後編です。

ベルバークは、魔王のひいおじいちゃんで、魔王の妻のお祖母ちゃんの弟(大叔父)になります。

魔族は魔力量によって寿命が違うため、玄孫よりも息子のほうが長生きだったりします。

なので、年齢で孫とか姪などの続柄を想像するのは無理。

魔族の感覚的に、100年生きて普通。300年で魔力があるなぁ。500年以上になると、死なないんじゃないかなと思われます。