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王都のマア

異世界のんびり農家 — ncode.syosetu.com · All chapters

王都のマア

僕の名はマア。

マー、とか、マァとか、好きに呼んでくれてかまわないけど、マの一音だけで呼ぶのだけは許さない大樹の村に住む山エルフの一人。

ああ、そうだった。

いまはもう、大樹の村じゃなくて王都の学園に住んでいるんだった。

僕は鬼人族のトラインちゃんに同行して、王都の学園に居を移すことになった。

なぜ僕が同行したかは……

トラインちゃんが、僕の開発に必要なアイデアをくれるからかな。

僕はどうも発想力が弱いらしく、すでにある物を作るのは得意なのだけど、新しい物を作るのは苦手だ。

トラインちゃんは、そんな僕にいろいろなアイデアをくれる。

そして、トラインちゃんのアイデアを使って作った道具とか仕掛けを、トラインちゃんが喜んでくれる。

それが同行した理由かな。

まあ、トラインちゃんは目を離すと危ないというのも理由の一つ。

トラインちゃんにそう言うと、 拗 ( す ) ねちゃうけどね。

さて、僕とトラインちゃんはアルフレートさまたちの家に同居させてもらうとの話だったと思うのだけど、なぜかアルフレートさまたちの家の隣に新しい家が用意されていた。

それなりに大きい。

トラインちゃんは一般的な家庭の家だと言ってるけど、それなりに裕福な家庭の家じゃないかな。

一般的な家庭の家に、屋根裏部屋はあっても地下室はないよ。

大樹の村にある村長の屋敷で生活していたから、感覚がズレたのかな?

適度に王都を散策して、トラインちゃんの感覚を修正するようにしよう。

そう思いながらも、大きい家なのはありがたい。

開発室と寝室を別にできるし、材料とか完成品を置く場所も欲しいからね。

とりあえず、一番使いやすい部屋をトラインちゃんの寝室にし、その横の部屋を僕の寝室に。

トラインちゃんの寝室から遠い場所にある部屋を、開発室として使わせてもらうことにした。

開発室はなんだかんだで音を出すし、夜も作業することを考えてだ。

地下室を開発室にする案もあったのだけど、扱う材料によっては通気の悪い地下だと危ないからね。

地下室は倉庫として使わせてもらおう。

家に台所はあるけど、僕やトラインちゃんの食事は隣のアルフレートさまの家で食べることになっている。

一応、僕もトラインちゃんもそれなりに料理はできるのだけど、トラインちゃんが学園に来た目的はメットーラさんのお手伝い。

メットーラさんの仕事は、もちろんアルフレートさま、ウルザさま、ティゼルさまのお世話。

メットーラさんにはアサさん、アースさんという同僚もいるのだけど、アサさんは王城に行くティゼルさまの専属のようなポジションになり、アースさんは王都で店をやりながらの情報収集という仕事を持っている。

人手が足りないということね。

トラインちゃんでそれを 補 ( おぎな ) えるのか疑問だけど、僕が手伝うことも計算に入っているのかな?

まあ、手伝うけどね。

それで、メットーラさんのお手伝いをしなきゃいけないから、食事は一緒にしたほうがいろいろとやりやすいってこと。

大事な情報交換の場でもある。

で、その食事で驚いたのは、魔王やその奥さんが同席することがあること。

ビーゼルさんとかグラッツさん、ランダンさんが同席することもある。

前々から、こんな感じだったのかな?

あと、食事中の会話が魔王国の政治の話なんだけど、いいのかな?

ときどき、機密っぽい話もしてるようなんだけど。

大樹の村に報告しても大丈夫なのかな?

聞いちゃったからには報告するけど。

トラインちゃんは学園に通うけど、生徒としてじゃない。

アルフレートさま、ウルザさまの執事として同行していくスタイル。

そう聞いていたのに、いつのまにか生徒として入学していた。

アルフレートさまが手を回したみたい。

生徒となることで、学べることもあるらしい。

トラインちゃんも納得して、生徒になった。

まあ、数日で卒業の証は集めたらしいので、いつでも卒業できるそうだ。

ちなみに、僕は生徒になるかならないかを選択させてもらえた。

もちろん、断った。

一般的な学園になら興味はあったけど、貴族学園だからねぇ。

礼儀作法とかマナーとか、入学前に最低限覚えないといけないことが多すぎて、僕には難しい。

そうしてトラインちゃんが生徒としてアルフレートさま、ウルザさまと行動する日々を過ごしていると、ティゼルさまが家にやってきた。

学園ではなく、王城に通うティゼルさまも、トラインちゃんをかまいたいらしい。

トラインちゃんはティゼルさまに釣りに誘われた。

……

治安の悪い場所を歩いて、チンピラを捕まえるのは釣りとは言わないと思う。

ティゼルさまが手がけている国作りのための一環らしいけど、大丈夫なのかな?

一応、絡んできたチンピラを捕まえるのは軍の人たちで、新しい国で働くなら罰を減らすという形で誘っているから誘拐じゃないけど……

魔王が許可を出しているそうなので、気にしないことにする。

魔王、ティゼルさまに甘すぎじゃないかな。

心配なのは、この方法で捕まえたチンピラが役に立つか怪しいこと。

単純な労働力として期待するにしても、子供に絡むような人たちだよ?

真面目に働くのだろうか?

まあ、そこをどうにかするのはティゼルさまの仕事だけど。

僕は、トラインちゃんが釣りで怪我しないように、後ろから見守っておこう。

……

なぜチンピラが僕に絡んでくる?

女だからかな?

チンピラは軍の人たちが捕まえたけど、トラインちゃんの釣果にはならず、ちょっと反省。

ある日、大樹の村のヤーさまたちから、パカパカなる愛称と共に足踏み式開閉機構付ゴミ箱が送られてきた。

村長が作ったオリジナルではなく、ヤーさまたちが量産したタイプだけど……

なるほど、このシンプルさ。

素晴らしい。

僕もさっそく 模倣 ( もほう ) して三つほど作ってみた。

一つはこの家の台所に設置。

あまり使わないけど、気分転換に踏んでいる。

一つはアルフレートさまの家の台所に設置。

メットーラさんが喜んでいた。

もう一つは……

魔王とその奥さんがクジを引いて……

奥さんが勝ったようだ。

夫婦だから、どっちが勝っても同じ場所に設置するのではないだろうか?

あ、王城か学園のどちらに設置するかで争っていたのね。

では、学園のほうに。

模倣品ではなく、送ってきてもらったのが余るけど……

これは貴重なサンプルとして地下室の倉庫に保管。

……

地下室が、ウルザさまの武器庫になっていた。

いや、ウルザさまに物を置いてもいいですよと、トラインちゃんは言ってたけど。

この量は予想外。

仕方なく、屋根裏に……

屋根裏にはキアービットさんの家具が置かれていた。

キアービットさんが、トラインちゃんの奥さんになりたがっているのは知っている。

アンさまやマルビットさんからいろいろと聞いたから。

だから、キアービットさんもトラインちゃんに同行して学園にやってきた。

キアービットさんには、僕たちと同じように学園の敷地内に家が用意されているはず。

なのに、なぜここに家具が?

…………

よくわからないけど、もやっとしたのでキアービットさんの家に送り返した。

軍の人たち、手伝ってくれてありがとう。

トラインちゃんが学園に行っているときの僕は、開発室にいる。

進めているのは、トラインちゃんのアイデアで始まった農業に使えるゴーレム研究。

構想を無理やりまとめた模型を作ったら、それをみた村長はコンバインと 呟 ( つぶや ) いていた。

むう、村長の手の平の上だったか。

だが、せっかくのトラインちゃんのアイデア。

実働まで持っていきたい。

あと、進めているのはゴーレムを使わない動力の研究。

これもトラインちゃんのアイデアだけど、蒸気を使ってなんとかできないかと考えている。

ただ、試作するための部品の大半を大樹の村に注文しないといけないので、こちらはあまり進んでいない。

大樹の村にいたときは、ガットさんたちに口で伝えれば作ってもらえたのに、注文書を書かないといけないのはちょっと面倒。

ビーゼルさんの転移魔法が 羨 ( うらや ) ましいなぁ。

おっと、そろそろお昼ご飯の時間だ。

アルフレートさまの家に行こう。

昼食後の僕の行動は、トラインちゃん次第。

まあ、いつも通りアルフレートさまかウルザさま、もしくはティゼルさまの執事として行動するのだろうけど……

今日もティゼルさまに頼まれて釣りね。

噂になっているから、そろそろ厳しいと思う。

でも、僕はトラインちゃんのすることを止めたりはしない。

トラインちゃんが怪我しないように、後ろから見守るだけ。

……

チンピラが僕に行くから、もう少し後ろ?

そうだったね。

了解。

ちなみにだけど、トラインちゃんはそれなりに強い。

絡んでくるチンピラ程度では相手にならない。

それがわかっているから、ティゼルさまもトラインちゃんを釣りに誘っているのだろう。

さすがのティゼルさまも、弟を危険な目には遭わせたりしないと信じている。

僕と比べて?

僕がトラインちゃんと戦うことはないけど、戦ったら……経験の差で僕が勝つ……と思いたい。

トラインちゃんが釣りを終えて家に帰ったら、ティゼルさまが見知らぬ老人を僕たちの家に連れ込んでいた。

……

迷惑だと言ったほうがいいだろうか?

僕が言っても聞いてもらえないと思うので、アルフレートさまやウルザさまに言っておこう。

それでも聞いてもらえないときは、村長に報告だ。

山エルフA「最近、仕事が大変になった気がしない?」

山エルフB「マアがいなくなったからでしょ。あの娘、量産とか得意だったから」

山エルフA「くっ、貴重な戦力を失ってしまっていたか」

山エルフB「連れ戻すのはやめておきなよー。恨まれるから」

山エルフA「……そうなの?」

山エルフB「この村を離れてまでついて行ったからねー。進展するといいんだけど」

山エルフA「キアービットさんが邪魔になるわね」

山エルフB「逆よ。刺激になるの」

山エルフA「な、なるほど。勉強になります」

山エルフB「はい、無駄話はここまで。仕事、頑張るように」