とある夏の日
とある夏の日
ある晴れた日の朝食後。
屋敷の涼しい部屋で、ルィンシァとオーロラが一緒に編み物をしていた。
祖母と孫の交流だな。
いいことだ。
……
いいことなんだ。
だから、ザブトンの子供たちよ。
二人の横で凄い勢いで編むのは止めるんだ。
お前たちの技術が凄いのはわかっているから、オーロラの視線を釘付けにするんじゃない。
ルィンシァの翼がピクピクしているのがわかるだろ?
ほら、こっちで俺と遊ぼう。
ザブトンの子供たちと遊ぶ。
今日は中庭での縄跳び。
いや、えっとなんと言うのだったかな?
ダブルダッチ?
そう、ダブルダッチだ。
縄を二本使っての縄跳びなんだが、縄跳びと 侮 ( あなど ) るなかれ。
かっこいいスポーツだ。
もちろん、そんなかっこいいことを俺ができたりはしない。
概念というか、こんな感じだとザブトンの子供たちに教えただけだ。
そうしたら、ザブトンの子供たちがかっこよくダブルダッチをこなしていた。
うーん。
何度見てもすごい。
シンプルに飛ぶだけじゃない。
縄を回転させる速度を変えての緩急もあるし、アクションの変化、構成もしっかりしている。
一匹だけじゃなく、二匹、またはそれ以上で同時に飛んだりもしている。
すごいぞ。
そして、そんな俺たちの場にのっそりとやってきたのはマクラ。
スタッとステップを踏んでから、アクション開始。
さっきまでののっそり具合が嘘のような素早いステップでダブルダッチをこなし……自身でも縄跳びを持ってのアクション!
ザブトンの子供たちは声を出せないので、「おおっ!」と書かれた看板を 掲 ( かか ) げて振っている。
さすがマクラだ。
そう思っていたら、ザブトンも来ていた。
まさか、ザブトンも?
そのまさかだった。
軽快な連続ステップ!
からの、ポージング?
縄は回り続けているのに、止まっているかのようなポージングって……足先が細かく動いて縄を跳んでいるのか。
すごいぞ!
ポージングを解除しての、さらに複雑なアクション。
なにをどうしているのか、俺の目ではおいつかない。
なにせ俺は二重飛びを二回に一回ぐらいできる程度の男。
無茶を言わないでほしい。
ただ、すごいということだけがわかった。
俺は二時間ほど、ザブトンやマクラ、ザブトンの子供たちと一緒に楽しんだ。
昼食後。
最近、 空飛ぶ絨毯 《 フライング・カーペット 》 の姿を見ない。
理由はラスティの息子であるククルカンに気に入られてしまったから。
寝ているときもしっかり 掴 ( つか ) んでいるので、俺のところに来られないのだそうだ。
俺としては、俺のことなど気にせずにククルカンの相手をしてほしいと願うのだが、空飛ぶ絨毯としては俺も運びたいらしい。
気持ちは嬉しいが……
いや、嫌じゃないぞ。
ただ、その、なんだ。
ククルカンは生まれてまだ一年と少し。
そんなククルカンに離されないとなると、空飛ぶ絨毯が 涎 ( よだれ ) まみれになるのも仕方がないことだと思う。
俺を乗せたいと思うのは嬉しいが、洗わないか?
駄目?
なぜ?
「あー、その……
洗おうとすると、ククルカンさまが怒るんです」
ククルカンの面倒をみてくれているブルガが、申し訳なさそうに報告してくれる。
なるほど。
それなら仕方がない。
飽きるまで待つしかないな。
うん、ククルカンを抱っこして涎まみれになるのは許容できるが、涎まみれとわかっている物に座ったりはしない。
隙を見て洗ってくれ。
まあ、すぐに涎まみれになるだろうけど……
そういえばスティファノは?
いつもブルガと一緒にいるのに、この部屋に姿がない。
「今日はヒカルさま、ヒミコさまのほうを手伝っています」
そうか。
いつもすまないな。
「いえいえ、これが仕事ですので」
そうなのか?
ラスティの世話だと思っていたが……
まあ、ラスティの子の面倒をみるのも仕事のうちか。
「ええ。
やっと手に入れた仕事なのです」
?
「ラナノーンさまはラスティさまが離しませんでしたから」
ああ、そう言えばそうだったな。
「では、ヒイチロウさまと思っても、ヒイチロウさまはライメイレンさまが離しませんでしたし」
あー。
「ヒカルさま、ヒミコさま、ククルカンさまで、やっと私たちに出番が回ってきまして……
喜んでおります」
そ、そうか。
えーっと、なにか必要な物があったら言ってくれ。
「ありがとうございます。
困ったことがあったときは、相談にうかがわせてもらいます」
うん、遠慮なくね。
その後、俺はヒカルとヒミコの様子を見に行った。
ククルカンもだが、ヒカルとヒミコもかわいい。
親馬鹿かな。
おやつ 時 ( どき ) 。
妖精女王が、甘味を求めてきた。
珍しいな。
鬼人族メイドは作ってくれなかったのか?
あー、サクラとラムナのお世話でそれどころじゃなかったか。
わかった。
それじゃあ、俺が作ろう。
夏場だからとカキ氷はワンパターンだな。
ん?
それでいい?
今年はまだ食べてなかったか。
了解。
俺はカキ氷製造機の動作を確認。
氷もある。
妖精女王は、なに味にする?
イチゴね。
了解。
わかっている。
凍らせてシャーベット状にしたイチゴと、イチゴアイスもトッピングだな。
イチゴジャムもつけよう。
彩 ( いろど ) りとしてミントの葉を……あ、これはいらないのね。
わかった。
じゃあ、完成。
どうぞ。
次を作っておけ?
かまわないけど、食べてからじゃないと溶けるぞ。
違う?
あ、子供たちが来るのね。
そろそろプールから戻って来る時間だ。
妖精女王の予想通りに子供たちがやってきて、イチゴのカキ氷を食べている妖精女王を見て声を 揃 ( そろ ) えた。
「いいなー!」
わかっている。
すぐに作るよ。
だけど、ちょっとだけだぞ。
前にいっぱい食べて、お腹を壊した子がいたからな。
それに、今の時間にいっぱい食べると、夕食が入らなくなるだろ?
俺は食べられずに叱られるお前たちを見たくない。
あと、俺もお前たちの母から叱られる。
……うん、怖いよな。
わかってもらえて嬉しい。
俺はやってきた子供たちのために、小さいイチゴのカキ氷を作った。
夕食。
鬼人族メイドが、水槽になる小さい浮遊庭園から取り出した魚を、その場でさばいてくれた。
ライブキッチンと呼ばれる方式だな。
調理する様子を見せることで、食欲を刺激する方法。
鬼人族メイドたちが、なぜラーメンの店が流行るのかを研究した結果の一つだ。
「うーむ。
貴族たちとの食事でやったら喜びそうだな」
魔王はそう言いながら、鬼人族メイドたちが調理した刺身を食べる。
「うむ。
美味い!」
喜んでもらえて、なにより。
俺も一口。
うん、美味い。
夜。
夜のことは考えない。
今日も一日、のんびりした日だった。
「熟成期間がほぼないので旨味の形成が足りない」
とか無粋なことは言わない村長。
明日の更新は、コミケに行くのでお休みです。
すみません。