秋が終わって冬がやってくる
秋が終わって冬がやってくる
武闘会が終わった。
見所だったのは……
赤紫 ( あかむらさき ) の 覇気 ( オーラ ) をまとい、屋敷よりも高く飛びあがって攻撃していたドワーフたちだろうか。
まあ、全て目の錯覚だったのだけど。
実際には覇気など出しておらず、五十センチぐらいのジャンプ攻撃だったらしい。
だが、そういった錯覚を起こさせるほどドワーフたちは奮闘した。
奮闘の理由は、炭酸水を作る装置。
カクテルに利用できると知って、専用の装置が欲しいとドワーフたちは考えた。
しかし、ルーに頼むための対価としての褒賞メダルがない。
酒の確保や設備に使い切ってしまっている。
そんなときに行われた武闘会。
武闘会で好成績を納めれば、褒賞メダルを確保できる。
それで炭酸水を作る装置を獲得するのだと、ドワーフたちは頑張ったらしい。
まあ、褒賞メダルにこだわらず、素直にルーに頼めば作ってもらえるのにと思わなくもない。
「いやいや、村長ならともかく、ワシらが頼んでもなかなか動いてはくれんだろう」
ドノバンが否定する。
そうだろうか?
酒関係だから、ルーも協力すると思うけどな。
「手が空いておればそうかもしれんが、浮遊庭園だなんだと忙しいのであろう?
それらを差し置いて、先にはやってくれん」
まあ、そうか。
しかし、それだと褒賞メダルがあっても同じじゃないか?
「そうでもない。
ワシらが褒賞メダルを支払う先は、村長だ」
俺?
ルーではなく?
「うむ。
今回の武闘会でドワーフ一同が獲得した褒賞メダル二十七枚。
全てを村長に渡すので、村長からルー殿に頼んでもらえないだろうか」
な、なるほど。
俺を動かすために、褒賞メダルを集めたのね。
いや、まあ、頼んでみるけど駄目でも怒らないでくれよ。
「わかっておる。
村長で駄目なら、諦める」
なら、できる範囲で頑張ってみよう。
後日、ドワーフたちの酒工場に炭酸水を作る装置が設置された。
炭酸水でのカクテルも楽しんでいるが、メインはワインなどの酒に直接炭酸を入れること。
この酒は成功だ、あの酒は失敗だとドワーフたちは楽しそうにしていた。
なによりだ。
ちなみに、二十七枚の褒賞メダルのうち、俺は三枚だけもらい。
残り二十四枚分の酒をドワーフたちに渡しておいた。
甘いと言われるかもしれないが、武闘会で頑張っていたからな。
武闘会の少しあと、セナが早朝に出産した。
驚くほど短時間で。
俺への連絡が、「セナが産気づいた」ではなく、「子が生まれた」だったぐらい。
母子ともに健康。
生まれたのは息子で、名はセット。
長女のセッテと名が似すぎじゃないかと思わないでもないが、セナが望んだので決まった。
そして、セナの出産を心待ちにしていたセッテはセットの誕生を知り……うん、気持ちはわかるけど、産まれたばかりだからお世話はセナに任せるように。
抱っこは誰かが一緒にいるときだけだぞ。
わかってるわかってる、セットにとっての一番のお姉ちゃんはセッテだ。
ちょっと興奮気味なので、しばらくは気にかけておこう。
普段からも気にはかけているけどね。
セットの誕生を喜んでいるのはセッテだけではない。
獣人族たちも喜んでいる。
セナと一緒に大樹の村にやってきた者たち。
セナの兄、ガット。
ガルフ。
次々と祝いの言葉を述べてくれる。
ありがたい。
でも、頑張ったのは俺じゃなくてセナだから、先にセナに言ってあげるように。
セナの横で、ラナノーンがセッテに姉としての心構えを伝授している。
ラナノーンよりセッテのほうが先に生まれたのだが、 弟 ( ククルカン ) ができたのはラナノーンのほうが先だからな。
セットが生まれたその日の夜は、小規模な宴会になった。
小規模なのはセナがまだ宴会に参加できないから。
セナの体調に問題はないけど、出産は一大事だ。
十日ほど様子を見る。
本格的な宴会は、その後にセナの都合のいいタイミングで行う予定だ。
冬が近いので、ザブトンやザブトンの子供たちの大半、ため池のポンドタートルが冬眠する。
寂しくなるが、仕方がない。
五村の白鳥レースが行われている池に移動したポンドタートルも冬眠するのかと思ったけど、あの池では冬眠しないそうだ。
池の水温が高いからかなとか、白鳥たちがうるさいからかなとか考えたけど、違った。
池ができたばかりで、いろいろと落ち着いていないからだそうだ。
迷惑をかける。
冬眠できないことで身体に負担がかかるなら、遠慮なく言ってくれていいんだぞ。
場所によっては何百年も寝ないことがあるけど、その程度ではポンドタートルは弱らないと、おじいちゃんが言ってた?
おじいちゃん?
ああ、最初にため池にやってきたポンドタートルのことね。
わかった。
だけど、無理は駄目だからな。
あと、いまさらになるが白鳥や鴨、アヒルたちと仲良くやれているか?
そうか。
なにかあったら、言ってくれよ。
ああ、遠慮なくな。
冬になった。
寒い。
コタツから出るのに、勢いがいる。
……
うん、もう少しコタツに入っていよう。
俺の左右にいるクロとユキも同じ意見のようだしな。
まったりしよう。
昼過ぎ。
罪悪感に負けて動き出す。
悪いことをしていたわけじゃないんだけどな。
昼間っからゴロゴロするには、外の天気がいい。
寒いだけだ。
なので、外に……は、また次にして、屋敷の中でやれることをしよう。
屋敷の中を見回ると……
各所で、天使族ホイホイと化したコタツが見受けられる。
あー、コタツに入るなとは言わないから、服はちゃんとするように。
コタツに入りっぱなしで暑いのは理解するから。
……わかった。
はっきり言おう。
コタツの中で着替えないように。
服、ちゃんと着れてないから。
あと、いくつかの服がコタツの中に置き去りにされている。
温めている?
ぐちゃぐちゃになっているのに?
わかったわかった。
では、その言い分をこちらの鬼人族メイドのアンに言ってみようか。
……
コタツを取り上げられる前に、素直に謝ったほうがいいぞ。
褒賞メダルで獲得したコタツでも、屋敷の中では鬼人族メイドたちの邪魔になると判断されたら取り上げられる。
そうなると、返してもらえるのは春になってからだ。
力で取り返してもいいけど、屋敷での食事を担っているのは彼女たちということを忘れては……うん、素直でよろしい。
次からは、俺の注意で動くように。
いろいろとあるときに限って、いろいろとやってきます。
困った。
そして、一年の四分の一が終わっている。
なぜだ……