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異世界のんびり農家 — ncode.syosetu.com · All chapters

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シャシャートの街の大通りで、一人の男性が踊っていた。

優雅な踊りではなく、激しいダンスだ。

頭を地面につけて回転する技をしているので、ブレイクダンスなのかもしれない。

まあ、問題なのは彼のダンスの種類ではなく、彼がなぜ踊っているかだ。

彼は見た感じ……四十代、種族はたぶん人間。

服装はしっかりしているので、ちゃんとした収入がある者だろう。

などと考えていたら、警備の者がやってきて彼を捕まえた。

抵抗しているが……複数人で取り押さえられ、連れていかれた。

たしかに、激しいダンスは通行人の邪魔になっていたな。

俺も進めなかったし。

まあ、彼が何者でも俺には関係ないだろう。

俺は目的であるマルーラに向かった。

ミヨに呼ばれているんだ。

関係がないと思ったら、あった。

踊っていた彼は人間の国からやってきた男性。

リビック。

とある王族の専属料理人だそうだ。

リビックは人間の国に行っているアルフレートと揉め、始祖さんによってここシャシャートの街に放り込まれた。

流刑 ( るけい ) かな?

そうではないらしい。

料理の世界の広さを知ってほしいための処置だそうだ。

だから、リビックにはアルフレートから資金が渡されていた。

銀貨で十枚ほど、大銅貨、中銅貨をたっぷり。

あと、シャシャートの街でのリビックの生活を助けてやってほしいとの内容の手紙が、ミヨに渡されている。

なのでミヨがリビックの宿などの手配をしてくれたそうだ。

ありがとう。

以前のミヨなら、手が足りないときに頼むなと手紙を俺に叩きつけてきただろうからな。

現在はオークションで騒動を起こしたキッシンリー夫妻がかなりの戦力になっているらしく、心に余裕があるようだ。

ただ、リビックが奇妙な行動を取り出したのでどうしたものかと、俺を呼んだそうだ。

ミヨが大樹の村に来て相談しなかったのは、ミヨとしてはそこまで責任を負う話でもないし、対処を急いでもいなかったからだろう。

俺が思ったよりも早く来たので驚いていたぐらいだ。

俺としては、キッシンリー夫妻の様子が見たかったということもあるからだな。

あと、転移魔法が使えるビーゼルが大樹の村に来ていたこともある。

さて、ミヨからリビックのことを相談されたのだけど、どうしたものだろう?

踊る理由を聞いているのか?

「それが、料理のことしか言わなくて。

あれが美味しかったとか、これがよかったとか……」

な、なるほど。

「アルフレートさまからの手紙では、問題を起こすようなら始祖さまにお願いして戻すようにと」

俺に連絡したのは、始祖さんへの連絡もあったか。

アルフレートを人間の国に送ってから、始祖さんは定期的に村に来て報告はしてくれている。

次に来るのは三日後だ。

「それまで放置します?」

うーん。

なにか理由があって踊っているのだろうけど、他者に迷惑がかかるなら止めてもらわないと困る。

とりあえず、一度、話を聞いてみよう。

聞いてみた。

「私は誇りある料理人。

庶民の店の料理に負けることなどありえない!」

なるほど。

「ありえないったらありえない!」

うん、それはわかった。

「しかし、自分の舌に嘘はつけない!

美味いものは、美味い!」

そ、そうか。

素直だな。

「美味い料理の秘密を教えてもらえるとは思っていない!

それらは働きながら学ぶものだから!」

そうなのか。

「私は誇りある料理人!

残念ながら庶民の店で働くことはできない!

だって、王家に専属で雇われているから……一度、戻り。

王家に辞めると言ってからじゃないと」

あー。

それじゃ、戻るか?

手配するぞ。

「いや、私はまだ全ての味を味わっていない!

この店だって、メニュー表のここまでしか食べていないんだ!」

そうかそうか。

一通り聞いたが、なぜ踊っているかの話がでなかった。

踊ってお腹を空かせようとしているのか?

「いえ、踊っているのは別の理由があります」

どうやら語ってくれるようだ。

聞かせてもらおう。

「私は若いころから料理人を目指していたわけではありません」

ふむ。

「昔はダンサーになりたかった。

踊って周囲を元気にするような」

そうか。

「しかし、踊りだけで生活をしていくのは厳しく……

生活費を得るために料理店で働いたのですが、なぜか出世してしまい」

料理の才能があったんだな。

「そうかもしれません。

ですが、いつのまにか初心を忘れていたようです」

つまり、踊っていたのは料理人になる前の初心を思い出していたからと。

「同時に、料理への感謝のための踊りです!

カレー、美味しい!

カツ丼、美味しい!

オデン、美味しい!

オデンが美味しい!

オデンが最高!

なんとしてもあの味を持ち帰らねば!」

ね、熱意は認めよう。

「あと、踊っているとお金を投げてもらえるので」

集金の意味もあったのか。

「アルフレート殿から十分な額を頂いておりますが、なんだかんだと費用がかかりますので」

理解はしたが、広場や大通りでは周囲の迷惑になるのでやめてほしい。

「では店内で踊ります」

回りくどかったな。

すまない。

踊るなと言っている。

「横暴な!」

少額なれど滞在費を 補填 ( ほてん ) することで、決着した。

誰にでも補填するわけじゃないぞ。

アルフレートや始祖さんに関わりがあるみたいだからな。

「ありがとうございます。

これでシャシャートの街だけでなく、五村の料理も研究できます」

料理を研究する者が増えるのはいいことだ。

「ところで……その、失礼ですが、どちらさまでしょうか?」

あれ?

挨拶していなかったっけ?

「ミヨさまから、上司としか」

それは失礼した。

俺はヒラク。

アルフレートの父だ。

「…………」

信用されなかったようだ。

ミヨや俺の護衛をしているガルフ、ダガ、レギンレイヴに確認していた。

「失礼しました。

聞いていたより、常識のある方でしたので……」

……

アルフレートは俺をどんなふうに言っていたんだ?

「……り、立派な父親だと」

ほんとうか?

「え、ええ、それに近いことを言っていました」

信じていいのだろうか?

「その……多数のドラゴンを従えたり、山を消し飛ばしたりした……などとも言っていましたが」

あー、そういったことは信じないように。

「あ、やっぱり嘘でしたか」

そうだ。

ドラゴンを妻にしているが、従えたわけではない。

山も削ったことはあっても、消し飛ばすなんてとてもとても。

しっかりと否定したのに信用されなかった。

ミヨ、ガルフ、ダガ、レギンレイヴ、ちゃんと俺の言っていることを事実だと説明するように。

おまたせしました。