第81話
第81話
スマホを購入したその日、俺はくじ引きでテレビを手に入れることができ、これでようやく我が家にもテレビがやって来た。
そして業者さんにお願いして配線工事などを終えると、空夜さんは興味深そうにテレビを観察する。
「ほぉう? これがテレビというものか……」
「わふ」
「ふご?」
ナイトとアカツキも見慣れない機械を不思議そうに見つめている。
まさかくじ引きで豪華景品が当たるとは思ってもいなかったから、本当に驚いた。
しかも、豪華景品の中では一番欲しかったテレビだ。
正直、一等の旅行が当たっても、なかなか時間が取れないし、マッサージチェアも置き場所に困る。
ゲームは普段しないから当たっても……ってことで、テレビだったのは素直に嬉しい。
まあトイレットペーパーも欲しかったけどね。
何はともあれ、テレビをつけてみることに。
「おお!」
「こりゃすごいのぉ……」
「わふ」
「ぶひ!」
今回手に入れたテレビは画質が非常によく、綺麗な映像がそこに映し出されていた。
すると、空夜さんはしみじみと語る。
「妖術の中には遠見の術といって、遠くの景色を見通す術があるんじゃが、この時代では妖術師でなくとも、家にいながら外の景色が見れるようになったんじゃのぉ……」
「そうですね。……本当はヴィオラさんにも見せられれば良かったんですけど……」
「まあそこは仕方ないじゃろう。変に情報を与えても混乱させるだけじゃ。それに、今は余計なことは考えず、ゆっくりと自分を向き合う時間が必要じゃろう」
空夜さんの言う通り、ヴィオラさんにテレビを見せるとなると、地球……つまり、彼女から見て異世界の存在を教えることになる。
元々あの扉は俺の許可がなければ通れないので、誤って地球に来る心配もないし、何よりヴィオラさん自身があまり部屋から出ないのだ。
別にヴィオラさんのことを信用していないとかではないんだけど、地球のことを教えるのは慎重に行うべきだろう。
「さて、それじゃあヴィオラさんの両親から何か連絡がないか、ギルドに行ってきますね」
「うむ。早く伝えられるといいのぅ」
テレビの確認が済んだ俺は、ヴィオラさんの両親と連絡が取れたか確認すべく、異世界の冒険者ギルドへ向かうのだった。
***
私――――ヴィオラは、窓の外を眺めていた。
「私、本当に【大魔境】にいるのね……」
助けられてしばらくの間この家で暮らしているが、今いる場所が本当に超危険指定区域なのだと実感する。
というのも、私がいる場所の土地は、必ずその場所に漂っていた魔力が根こそぎ私に吸い取られるのだ。
これは私の意思ではどうすることもできず、その魔力がなければ私は死んでしまう。
だからこそ、お母さんたちは私のために魔力が豊富な土地を探し、転々としていたのだ。
そんな私でも、唯一何も気にせず過ごせる可能性があると言われていたのが、この【大魔境】である。
実際に暮らしていて分かったが、魔力の量がおかしいのだ。
普通はどんなに魔力が豊富だと言われる土地であっても、私がそこに一日でも滞在すると、それだけでごっそり魔力が減ったことを感じ取ることができる。
そして最後には干からびて、一切の魔力を感じ取れなくなるのだが……この場所はどれだけ魔力を吸い取っても減るどころか、日に日に増えているのだ。こんなのあり得ない。
その結果、その日に必要な魔力量を簡単に吸収することができていた。
「……この土地で暮らせたら、お父さんたちに苦労させずに済むのかな……」
私はいつも、両親に迷惑をかけてばかりだった。
この体質のせいで両親には苦労をかけるし、私が醜いせいで周囲から変な噂をされたこともある。
それでもお父さんもお母さんも私のことを大切にしてくれたのだ。
今も、私のことを必死に探してくれているだろう。
だからこそ、考えてしまう。
――――私がいなければ、お父さんたちはこれ以上苦労しなくて済むのに……と。
「……どうせ彼も、私が邪魔なんだ」
こうして私を匿い、住まわせてくれているユウヤ。
彼だって、こんな醜い女が近くにいても、嫌な気持ちになるだけだろう。
それならいっそ、私のことを――――。
「ヴィオラさーん!」
「!」
自己嫌悪で潰れそうになっていると、部屋の外から声がかかった。
それはまさに、私を助けてくれたユウヤの声。
そして軽いノックを受け、私が返事をすると、彼は顔をのぞかせ、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「すみません。今日もギルドで訊いてきたんですけど、まだご両親と連絡が取れないみたいで……」
「……大丈夫よ。私の方こそ、ありがとう」
「いえいえ、そんな……それと、ご飯の準備ができたので、食卓に来てください」
「……」
「……あの、どうかしましたか?」
私が暗い顔を浮かべていると、彼は心配そうにこちらを見つめる。
そう……真っすぐに、私を見つめるのだ。
それは、両親以外から初めて向けられたもの。
何の悪意もない、ただただ純粋に私を心配してくれる、両親と同じ視線なのだ。
彼の視線を受けるたびに、私はどうしようもない感情で頭がぐちゃぐちゃになった。
私なんかのために、彼が心配も苦労もする必要はないのに……。
そう思うと、私は泣きそうになる。
どうして私は、生きてるだけでこんなに迷惑をかけてしまうのだろう。
すると、何かを察した彼は、こちらにやって来て私の手を取った。
「!」
「さ、行きましょう。ご飯が冷めちゃいますから」
その手はとても優しくて、私は自然と彼に従い、そのまま連れていかれる。
すると、彼は優しく口を開く。
「……俺は、ただ助けたいんです」
「え?」
「迷惑だとか……そんなこと、まったく思ってません。少しでも力になりたいから、動いてるだけです。ヴィオラさんが俺のことを考えてくれているように、俺もまた、ヴィオラさんのことを考えてるんです。だから……迷惑かもしれないですけど、俺の気持ちを受け取ってくれると嬉しいです」
少し照れ臭そうに笑う彼を見て、私は目を見開いた。
彼の言葉は、まるでさっきまでの私の心を読んだかのようだったのだ。
何で……私のことが分かるんだろう……。
ユウヤは、私のお父さんと遜色ないくらいに魅力的だ。
だからこそ、醜い私なんかの気持ちが分かるはずがない。
なのに、彼の言葉はすんなりと私の心に入って来た。
私がお父さんたちを大切に思うから、消えたいと思うように……お父さんたちも、私が大切だから動いてくれるのだ。
ただ私が信じられなかっただけだ。
それはなんて……酷いことだろう。
私も、お父さんたちやユウヤを……信じたい。
強くそう思っていると、ユウヤは不意に自分の行動に気づいたようで、慌てて私の手を離した。
「ご、ごめんなさい! いきなり手を取っちゃって……」
「ううん……大丈夫」
前の私なら、自分が醜いから……触るのが気持ち悪くて手を離したんだと思ったことだろう。
でも今までのユウヤの言動を知ってる私は、彼がそうじゃないと分かっている。
何より、今の彼の反応は、今まで私が経験してきたどれとも違った。
汚物に触ったような反応ではなく、顔を赤くして純粋に恥ずかしそうにしているのだ。
お父さんと同じかそれ以上の容姿なのに……あまりにも初心な反応に、私はついおかしくて、笑みを浮かべた。
笑う私を見て、ユウヤは一瞬驚いたようだったが、どこか安心したように優しく微笑んだ。
そんな微笑みを見て、私の心は温かくなると同時に、何故かとても切なくなったのだが……その理由はまだ分からなかった。
***
――――ルステッド王国。
そこでは犯罪が横行し、薬や人身売買などは日常茶飯事で、異世界の中でも治安の悪さはトップクラスだった。
当然国としても、この状況を何とかすべきなのだが、貴族や王族も腐敗し、まともに機能していなかった。
そしてそんな国を実質支配していたのは……とある犯罪組織だった。
「ヴィオラはどこ!?」
「私たちの娘を奪ったのは貴様らか!」
そう叫ぶのは、誰が見ても目を惹かれる美男美女。
何とこの美男美女は、ルステッド王国を裏から操る犯罪組織【黒蛇】の支部をたった二人で強襲したのだ。
鬼の形相を浮かべる二人を、黒蛇の組員たちは取り囲んでいる。
すると、組員の中でもひと際存在感を放つ男が、面白そうに笑った。
「いきなりウチを襲撃して来たかと思えば……こりゃまた大物がやって来たな――――『麗剣』、『麗魔』!」
「答えろ!」
軽薄に笑う男に対し、美男の方が叫んだ。
「ああ? 何のことだかさっぱりだが……まあいい。貴重な商品がそっちからやって来たんだ。これを逃すわけにはいかねぇよなぁ?」
「ヴィオラを返せ!」
「――――お前ら! 絶対逃がすんじゃねぇぞ!」
――――こうして二人の麗人と黒蛇が激突するのだった。