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第204話 分担と観光開始

異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第204話 分担と観光開始

お待たせしました。

巨人島生活2日目の朝は、 楓 ( かえで ) の家で迎えた。本日は快晴なり。

「いただきます」×5

《いただきます》

農家の朝は早く、 檜 ( ひのき ) と 杉 ( すぎ ) は俺達が起きる随分と前に朝食を食べ終えている。村の状況に関わらず、病気でなければ働かなければいけないのが農家である。

楓は早起きが苦手らしく、俺達の少し前に朝食を食べていた。

……農家の娘がそれで良いのか?

朝食の献立はご飯、ジャガイモの味噌汁、目玉焼き、野菜スティックだった。

一番の突っ込みどころは野菜スティックだろう。微妙に和食感を崩している。

補足すると、巨人族の野菜スティックは、1本で人間が腹いっぱいになるサイズだ。

楓の野菜スティック(ニンジン)を1本貰い、更にカットしてから分けて食べた。

「……これ、野菜スティックを食べたって言える?ニンジンを食べただけじゃない?」

ミオが微妙な表情で呟いていた。……確かに。

もう1つ面白かったのは目玉焼きだ。

当然のように卵もデカいので、人間サイズに分けると黄身と白身がセットにならない。100%黄身だけの目玉焼きを目玉焼きと呼んでいいのだろうか?判定が分かれそうだ。

後、醤油はあるがソースは無いので、『目玉焼きはソース派』の人には辛いだろう。

《ドーラはケチャップにするー!》

そして、ドーラはトマトケチャップ派だった(何故かケチャップはある)。

黄身だけの目玉焼きにケチャップ……それは最早オムレツなのでは?

夕食、朝食と頂いて分かったのは、巨人族の食文化が和食ベースで異物混入ということだ。

和食も異物も、何となく覚えがあるよな。そう、勇者である。……またお前か。

機会があったら、勇者の逸話が残っていないか聞いてみよう。

「 兵糧玉 ( エナジーボール ) 無しで、これだけ食べられるのは気分が良いですわ!」

実は、巨人島の食事を一番堪能しているのはセラである。

普段は食事量が多すぎるため、 兵糧玉 ( エナジーボール ) で栄養を摂取しているが、巨人島の巨大な食べ物ならばその必要もない。

セラはご飯、味噌汁、目玉焼き、野菜スティックの全てを楓の半分食べていた。

楓は大人と同程度の量を食べるそうなので、一般的な巨人族の半分の食欲を秘めていることになる。単純計算で125÷2の62.5人前である。

「見ているだけでお腹一杯になります……。ミオちゃんは平気なんですか……?」

「一緒に行動する事も多いので、見慣れました」

小食のさくらには、一種の衝撃映像のようだった。

大食い大会の時は他人事として見ることができたが、同じ食卓で同じサイズの人間があれだけの量を食べているのを見ると、俺でも多少は思う所がある。

「ご馳走様でした」

満足した表情でセラが食事を終えた。

比較的早食いのセラだが、62.5人前食べたら食べ終わるのも最後になって当然だ。

「流石のセラも満腹になったか?」

「いえ、まだ入りますけど、朝から満腹になるのも良くないと思ったのですわ」

気を遣っても62.5人前食べるのか……。驚愕の事実である。

「一体、最大でどれだけ食べられるんだ?」

「一度、満腹まで食べた事があるのですが、今食べた量の半分くらいはまだ入りますわ。お店で頼める量ではなかったので、屋敷で特別にお願いしましたわ」

つまり、巨人族の食事量の75%。常人の凡そ94倍の食事量となる。

……ほぼ巨人族じゃねえか!

「その時は料理メイドの方達に申し訳ない気持ちもありましたが、ここでは毎食これだけの量を食べても、料理を作る方の負担にならないというのが素敵ですわ」

作る側も巨大だから、料理する側に過剰な負担を強いない点が素晴らしいそうだ。

増える負担は、まさしく小食な巨人族1人分と言ったところか。

「大食い大会でセラの相手をした連中に同情するよ」

「今のところ、大食い大会では負けなしですわ。……ただ、この島で大食い大会があったら、勝てそうにありませんわ」

「巨人族に大食いで勝てたら、そっちの方が怖いぞ?」

「数食抜いて、お腹を限界まで空かせた状態ならいい勝負ができると思うのですが……」

「マジかよ……」

一食で満腹になるには、常人の94倍の食事が必要になる。

逆に、食事を抜いておけば、94倍以上が入るとも言える。マジかよ……。

「セラちゃん、大食い大会の前も普通に食事をしていましたね……」

「ええ、余程の事がない限り、食事を抜く気はありませんわ」

「言われてみれば、セラちゃんが食事を抜いたところ、私も見た事ないわね」

多分、普通の大会参加者は、直前の食事を抜くくらいはしていると思う。

詳しくは知らないが、大食いに適した胃袋の状態があるらしく、食事を抜くのが絶対的に正しい訳では無いそうだが。

今まで、漠然と『セラは大食い』と思っていたが、最大値を聞いたら改めて人間離れしていると実感する。

底なし胃袋ではないようだが、まさしく底知れないと言ったところか。……うん、上手い事言えた。

朝食を終えた俺達は、楓と共に再び村長宅へと向かった。……『楓と共に』ではなく、『楓に抱えられて』と言った方が正しいか。

楓宅は和やかだったが、巨人族の集落は現在も危機的状況の真っただ中なのである。

解呪ポーションにより状況は改善したし、昨日の今日で状況が悪い方に変わるとは思えないが、集落を襲っていたのは病気ではなく呪いだ。何が起きてもおかしくはない。

「ジン殿が楓の家に向かわれてから朝までの間に、重症者が14人増えました」

「What?」

村長に状況を尋ねたところ、思いっきり悪い方に変わっていた事が明らかとなった。

驚きのあまり、思わずネイティブ発音が出てしまったよ(国籍:日本)。

「後1人重症が増えていたら、ジン殿の元を尋ねるつもりでした」

昨日、村長宅には20本の解呪ポーションを預けておいた。

最初は10本の予定だったが、念には念を入れておいて良かった。なお、夜間にたたき起こされなくて良かったという意味だ。

「薬を使用した者は皆快方いたしました。本当に良く効きますね」

「それは何よりだが、状況は芳しくなさそうだな」

「はい。今まで、ここまで急激に重症者は増えませんでした。解呪後すぐに動きがあったということは、攻撃者が方針を変えたのでしょう」

ここまで急激に状況が変わったのだ。間違いないだろう。

「今後の方針は?」

「ジン殿には申し訳ありませんが、軽症者含め今日中に全員の治療をするつもりです」

村長、随分と思い切ったことを言う。

「薬の経過観察をしなくても良いのか?」

「構いません。呪いが自然治癒しない以上、ジン殿の薬を使う以外の選択肢はないでしょう。それならば、早いか遅いかの違いでしかありません」

最終的には全員に解呪ポーションを使うと予想していたが、思ったよりも早かったな。

俺が言うのも何だが、村長は最善の選択をしたんじゃないか?

「ジン殿、大変申し訳ありませんが、同行者の方々と分担して薬の配布をお願いできませんでしょうか?正直、薬の瓶が小さく、持って移動するのは不安なのです」

ドジっ子っぽい楓じゃなくても、巨人族にポーションの運搬は厳しいようだ。

それなら、俺達が分担するしかないよな。

そこでマリアにアイコンタクトを送った。マリア、首を横に振る。

「悪いが、全員で分担はできない。俺には付き人が1人付く」

マリアが俺に付くのは仕方が無いよね?

「分かりました。案内は村の者にさせますので、5組の分担でお願いします」

「ああ、了解だ」

こうして、俺達は分担して村を回り、解呪ポーションを配ることになった。

俺を案内するのは、昨日に引き続き楓だ。

マリアが肩に乗っているので、楓のハグは俺1人が独占している。

「ジンさん、もしかしてニホン人?」

移動中、楓が驚きの質問をしてきた。……何時バレた?

A:「What?」だと思われます。

Oh……!

この世界、名詞として英単語が使われることはあるが、英文として使われることはない。

つまり、この世界の住人は「what」を使わない。転生者の前で使えば、そりゃあバレて当然だよな。

「ああ、そうだ」

「やっぱり……!」

俺は誤魔化すこともなく、正直に答えた。

ハッキリ言って、今の俺は日本人だとバレても困らない。

正体不明を名乗っている女王騎士ジーンを演じている時ならともかく、アドバンス商会の特別名誉会長ジンが『進堂仁』であることは隠していないからだ。

そして、『進堂仁は日本人ではない』と言った事も無い。なお、明言を避けることや、誤解しやすいように誘導することは俺の中ではセーフとする。

つまり、進堂仁として行動している時に、知り合い(敵対者除く)から「日本人か?」と問われれば、「Yes」と答えることに抵抗はない。バレ方は少し格好悪いが……。

補足すると、仮に「勇者か?」と問われたのならば、ハッキリ「No!」と答えていた。

「やっと、話ができる人に会えた……。この島の人、誰も私の話を信じてくれないんだもん」

楓が心底安堵したように言う。

そして、安堵した拍子に抱える力弱まっている。このままだと落ちるかも。

「私、確かにニホンで過ごした記憶があるの。でも、気付いたらこの島で赤ん坊になっていて……。この島はニホンじゃないよね?私、一体どうなっちゃったの?」

楓は自分が異世界に転生した事を理解していないのか?

……今までの楓の言動から、1つ気になった事を聞いてみよう。

「楓、日本では何歳までの記憶がある?」

「えっと、確か5歳になった記憶まであるよ」

なるほど、把握した。楓、前世の享年5歳だったのか。

そりゃあ、5歳児に異世界転生の概念が無いのも当然だよな。

転生者のステータス画面に享年は載らないので、本人の自己申告以外に情報源は無い。

転生した割には、言動が幼い気はしていたのだ。

ついでに、お辞儀の練習をしていた事や、英語を理解していた事から、年齢の割に良い教育を受けていたことも窺える。

教育内容に偏りがあるのか、『日本』の発音がやや怪しいのはご愛敬と言ったところか。

「断言は出来ないから、俺の推測が混じるが構わないか?」

「うん。何か知っているのなら教えて」

「分かった。まず、確実に言えることは、ここが日本ではないということだ。もっと言えば、地球ですらない。別の世界……と言って分かるか?」

「分からない……」

難しい!日本の常識が5歳で止まっている子供に異世界転生を説明するの難しい!

「簡単に行き来できないくらいに遠い場所と思ってくれ」

「え?ニホンに帰れないの!?」

「少なくとも、俺は帰る術を持っていない。帰った者が居ると聞いたことも無い」

『今はまだ』と頭に付くことは内緒だ。

都合が付けば帰してあげても良いが、巨人族という点がネックだな。獣人とは比べ物にならないくらい誤魔化すのが難しいだろう。

「そんな……」

「楓は日本に戻りたいのか?」

「うん!お父さん、お母さんも好きだけど、ニホンのパパとママの方が好き!」

「そうか……」

憐れ、檜と杉。娘さん、生みの親より生みの親が良いってさ。

「次に楓の状況だが、恐らく、日本で楓は死んでいる」

「そうなの!?」

「そして、この世界に生まれ変わった。……生まれ変わりって知っているか?」

「分からない……」

前世の楓の両親!ちゃんと子供に異世界転生くらい教えておけよ!

こんな事なら、面ど……説明担当のミオを連れて来るべきだったか。

「簡単に言えば、死んだ後、別の人としてもう一度産まれる事だ。普通、記憶は無くなるようだが、極稀に記憶を残したまま生まれ変わることがあるらしい。楓の場合、日本で人間として死んだ後、記憶を残したまま別の世界で巨人族として生まれ変わった訳だな」

「ジンさんも生まれ変わったの?」

「いや、俺はこの世界に生きたままやってきた」

異世界転生と異世界転移は別ジャンルだ。ただし、異世界モノと呼ぶと一括りにされる。

「それなのに、帰れないの?」

「ああ、坂道と似ていて、下るのは楽だが、上るのは難しいみたいだ」

俺がエルフの語り部であるリリィに聞いた時は、『坂道』ではなく『滝』と例えていたが、日本人歴5年に理解させるには、『坂道』の方が分かり易いだろう。

分かり易いのと同時に、達成し易く聞こえてしまうのが問題だけどな。

「そうなんだ……。私、どうしたら良いのかな……?」

「それを決めるのは楓だ。俺のお勧めは、日本の事を忘れて、この島で生きていくことだな」

「うぅ……」

突き放すように言ったが、それは楓の望みではないのだろう。

実際、巨人族の食事量を考えれば、他の選択肢は無いと言っても過言ではないはずだ。

「ジ、ジンさんも、帰ることを諦めたの……?」

「いいや、俺は日本に帰ることを諦めてはいない」

重ねて言うが、今の俺は日本人である事を隠していない。

そして、最低一回は日本に帰ろうとしている事も隠していない。なお、その手段を既に見つけていることは隠している。

「……ところで、完全に足を止めているが、薬を配らなくて良いのか?」

落ちそうになって落ちていないのは、楓が立ち止まったからである。

このまま話し続けていたら、何時まで経っても薬を届けられない。

「そうだった!今は村の皆を助けないと!」

「落ちそうだから、抱え直してくれないか?」

「うん!分かった!」

楓は俺を抱え直すと、再び駆け出した。

作業を分担した甲斐あって、午前中に全員を解呪することができた。

「ジン殿、皆さん、本当にありがとうございます」

村長宅に戻ると、村長が深々と頭を下げた。

立ち話をしていたせいか、俺達が戻るのが一番遅かったようだ。

他の4人を運んだ巨人族は既に帰り、村長、楓、椿の3人だけが残っている。

「代金は貰うんだ。気にする必要は無い」

「それでも、ここまで協力して頂いたのです。感謝し、お礼を言うのは当然のことです」

「分かった。その感謝、受け取ろう」

当初の予定以上に『恩』を売ることができたようだ。

これなら、巨人族に島の観光案内を頼んでも大丈夫かな? ……いや、観光案内と言わず、商売の取引品目の選定とでも言えば確実か。取引自体は確約されている訳だし。

「これで、攻撃者は諦めると思うか?」

「分かりませんが、楽観視はできないでしょう。薬を配って頂いている間に、村の有力者を集め、呪いの事を伝えました。まだ公にはしませんが、警戒は強めています」

村長も無策という訳ではなさそうだ。

「ただ、攻撃者もその目的も分からないので、様子を見るしかない状況です。ジン殿には申し訳ないのですが、もうしばらくの間、村に滞在して頂けますか?」

「ああ、しばらくは村で過ごさせてもらおう。楓の家で良いのか?」

「うん!大歓迎だよ!」

宿がないなら、農家に泊まるのは有りだ。何せ、基本的に食事が美味いからな。

そして、村には食事処など存在しない。もはや、農家一択と言っても良いだろう。

「そうだ、村長。村で過ごすなら、1つ頼みたい事がある」

「何でしょう。私にできる事でしたら、何でも仰って下さい」

「島の案内ができる人を付けてくれないか?自分の目で島を見て回りたいんだ」

「歩いて村に来る気だったと聞いた時から思っていましたが、ジン殿はこの島の生物を恐れていないのですね。島を案内して欲しいなんて言われたのは初めてです」

大きいだけで、脅威ではないのだから、恐れる理由など何処にもない。

「案内人を付けることは構いませんが、安全の保障はできません。多くの生物は巨人族を見ると逃げますが、中には好戦的な個体もおり、巨人族が1人なら襲い掛かってくることもあります。そして、残念ながら巨人族に人間を守りながら戦うことに慣れた者は居ません」

まず、巨人族が人間を守って戦うシチュエーションが存在しないはずだ。

巨人族と人間が接点を持つのは、基本的に港町で取引をする時だけだろうからな。

「私がジンさん達の案内をする!私なら、ジンさん達を守りながらでも戦えるよ!」

ここで名乗りを上げたのは楓である。

「確かに、村一番の戦士である楓が、一番の適任と言えばそうなのでしょう。……ですが、楓は時々大きなドジをしますよね?それが心配です」

「うっ……!」

楓のドジっ子は村の共通認識なのか……。

それはそれとして、村長の話では楓は村一番の戦士だと言う。

<封印>された<勇者>スキル持ちが村一番の戦士というのは違和感があるが、これは巨人族の種族特性が理由だ。

実は、巨人族は基本的にスキルを覚えない。

<勇者>を含め、例外はあるが、後天的にスキルを得る事は有り得ない。スキル経験値を得られないと言った方が分かり易いかもしれない。

<勇者>持ちの特徴である、スキルレベルの上がり易さが完全に潰れている……。

スキルを覚えない巨人族において、才能とは純粋なステータスの値となる。

<封印>はスキルの効果と習得を無効にするが、ステータスには影響を及ぼさない。

そして、楓のステータスは巨人族の中では飛び抜けて高い。故に、楓は村一番の戦士足り得るという訳だ。

余談ではあるが、巨人族にはもう1つ大きな種族特性が存在する。

それは、魔法に対する適性、耐性が完全に皆無という特性である。

ステータスにもその特性は現れており、魔法に関わるMP、魔力、精神力の値が見事に0なのである。

それだけなら、< 生殺与奪 ( ギブアンドテイク ) >で魔法スキルを与え、魔法に関するステータスを上げれば、魔法を使うことは可能だ。

しかし、巨人族の適性の無さはそれだけではない。悲しいことに、使える魔法の種類がそもそも0なので、スキルがあっても魔法を使うことはできないのだ。

俺の配下では、 恐竜娘 ( ティラミス ) が同じく使える魔法が0だな。脳筋……。

加えて、魔法に対する耐性である精神力も0なので、HPや防御力は高くても、魔法で攻撃されたら簡単に削れる。

更に言えば、精神力が無いということは、状態異常に対する耐性も無いという意味だ。

簡単に言うと、巨人族は 呪いに非常に弱い ( ・・・・・・・・ ) 。

攻撃者の意図は分からないが、巨人族を滅ぼすことが目的なら、呪いという選択肢は最善と呼んでも過言ではなかっただろう。

悪いけど、俺の観光のために、その攻撃は台無しにさせてもらったよ。

閑話休題。

「だ、大丈夫だよ!ちゃんと気を付けるから!」

ドジっ子の『気を付ける』は、アテにならないんだよなぁ……。

「……楓はこう言っていますが、ジン殿、如何いたしましょうか?」

村長的には不安の方が強い様子である。

でも、ドジっ子の観光案内なんて、絶対面白いことになるに決まってるじゃん。

「それなら、案内は楓に任せたいと思う」

「……よろしいのですか?」

「ああ。村で一番交流があるのも楓だからな。俺としてもその方が助かる」

「ジンさん……」

建前に感動されても困る……。いや、嘘ではないが……。

「……ジンさんがよろしいのでしたら、私からはお気を付けて、としか言えません」

「楓、気を付けてくれよ」

訳:面白い事してくれよ。

「うん!頑張る!」

ドジっ子が張り切っても、あまり良いこと無いんだよなぁ……。

楓の家に戻って昼食を食べた後、再び村長宅にやってきた。

「島を見て回るのは今日じゃなくても良いんだぞ?」

「折角こんなに天気が良いんだから、今日にした方が良いよ!」

全員の呪いを解除したとはいえ、村が何者かに狙われた状態であることに変わりはない。

急ぐ理由も無いので、観光案内を頼むのは明日以降でも良かったのだが、楓が本日中に出かけることを望んだ。確かに、観光するには良い天気なのは事実だ。

「村の方は警戒を強めました。ジン殿は商売のために行動して下さって構いません」

商売の為ではなく、観光の為なんだよなぁ……。

村長の許可も出ている以上、遠慮なく観光させてもらうとしよう。

「それじゃあ、村長にはこれを預けておく」

俺はアイテムボックスから1つの木箱(大き目)を取り出した。

「こちらは?」

「解呪ポーション100個入りの木箱だ。俺達が不在の間に何かあれば使ってくれ」

「重ね重ね、ありがとうございます。……確か解呪ポーションは300個程お持ちと仰っていたはずですよね?」

「ああ、俺の手持ちの解呪ポーションのほぼ全てだ」

ここで言う『手持ち』とは、アイテムボックスに入れてある物のことを指す。

< 無限収納 ( インベントリ ) >に入っている物は除外してある。

「これでも本数が不足するようなら、一旦島を出て補充してくる必要があるな」

「そこまでの状況にならない事を切に願います」

この世界では、誰に願えば望みが叶うのだろうか?

「それじゃあ、後は任せる」

「はい、お気を付けて」

村長に解呪ポーションを預け、俺達は楓と共に巨人島の観光を開始する。

「ジンさん、これから何処に行く?」

「一か所、どうしても行きたいと思っていた場所がある」

港町で最初に 地図 ( マップ ) を貰った時に、商人として振る舞うならば、絶対に行かなければならない場所を見つけた。

第一の目的である観光からは若干外れる気もするが、ロールプレイの手は抜けない。

「どうして、そんな場所に行きたいの?」

俺が行き先を伝えると、楓は首を傾げた。

「そこが、宝の山だからだ」

「そこ、普通の山だよ?」

そう、俺が行きたいのは『山』なのである。

巨人島には何カ所か山が存在するが、今から向かうのは集落に一番近い山であり、巨人族の足で徒歩約1時間の距離となる。

楓の健脚ならば、走って30分で到着するだろう。ただし、転ばなければの話である。

「俺達を抱えているのだから、転ばないように気を付けてくれよ」

「大丈夫!昨日と違って慌ててないから!」

俺が気を付けるように念を押すと、楓が自信満々に答えた。

ドジっ子の自信満々には、そこはかとない不安があるよね。

俺は楓の胸に抱えられているので、楓が転ぶと胸で押し潰されることになる。……それはそれで貴重な経験かもしれないな。ただし、絵面は相当に酷い。

ステータスが高いため、楓が転んだとしても、俺達にダメージは無い。しかし、商人が巨人族に潰されて無傷というのは不自然すぎるので、できれば転ばないで欲しいところだ。

「えっほ!えっほ!」

俺の懸念とは裏腹に、楓は軽やかに道なき道を進んで行く。

地図によれば、巨人島にまともに舗装された道は港町、集落間の一本しかない。

そして、その道を使うのは、港町に用事がある巨人族だけである。つまり、大半の巨人族は、舗装されていない地面の方が歩きなれているということだ。

楓が港町に向かう時に転んだのは、舗装された道の方が不慣れだったからなのでは?

「えっほ!えっほ!」

村一番の戦士は伊達では無く、楓は俺達を抱えて軽やかな足取りのまま30分走り続けた。

島の巨大生物達は、本当に巨人族を避けているようで、ほとんど見かける事すらなかった。

見かけても、楓の姿を見たら一目散に逃げていく始末だ。

何事も無く、目的地である山に到着してしまった。何か、イベント起きろよ。

「はい!東の山に到着したよ!」

悲しいことに、この山は巨人族から『東の山』と呼ばれている。

実は、他の山の中には、もう少しマシな呼ばれ方をしている山もある。この山の名前が適当なのは、巨人族にとって、この山に価値が無いからに他ならない。

抱えられた状態から地面に降ろしてもらい、眼前の山をじっくりと眺める。

そして、この山に俺の望む商品があると確信した。

巨人族とジャガー商会の取引で扱われる商品は、大きく2つに分かれる。

1つ目は、巨人島にしか存在しない動植物であり、希少性の高さもあって非常に高額で取引される。

2つ目は、巨人島の外にも存在するが、量を取ることが難しい品目だ。全てが巨大な島なので、巨人島で取れば100倍以上の量となる。量当たりの単価は島の外と同じだが、効率良く集められるのは巨人島ならではのメリットだろう。

巨人島にしか存在しない動植物というのにも興味はあるが、今回の俺の目的は、どちらかと言えば後者となる。

頭に『どちらかと言えば』と付けたのは、「量を取る」ことが目的ではなく、「大きい物を取る」ことが目的だからである。

世の中には、大きいだけで価値が上がる商品が存在するのだ。

「ジンさん、この山に何があるの?村の人も用が無いから近づかないんだよ?」

楓が不思議そうに尋ねてくる。

前世が日本人とは言え、享年5歳では理解できなくても無理はない。

「さっきも言った通り、この山には宝がある。楓はこの山の本当の名前を憶えているか?」

「ええと……、覚えてない……」

普段の呼び方に慣れ過ぎて、正式名称を忘れるのは良くある話だ。

しかし、この山に関して言えば、正式名称こそが全てを表している。

「この山の正式名称は『金剛宝山』。間違いなく、ダイヤモンドの宝石鉱山だ」

宝の山ならぬ、宝石の鉱山である。

巨人族サイズの食事は書いていて楽しいです。

昼食は尺の都合でカットしましたがとんかつでした。衣と肉を分けて食べました。とん/かつ。