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第215話 語り部の本領とお詫びの品

異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第215話 語り部の本領とお詫びの品

伏線回収回です。

まだ、魔王のところには行きません。

魔王攻略会議の翌日、俺はマリアと共に真紅帝国にやってきた。

明日、魔王の元に向かうので、その前に真紅帝国のスカーレットと話をしておきたい。

一国の王と会談をするのに、前日にアポを取るなんて無茶も良いところだが、スカーレットお抱えの商会であるアドバンス商会を経由したら、いとも簡単に予定が取れた。

皇帝……暇なのか?

A:スカーレットは7件の予定をキャンセルしていました。

全然暇じゃなかったわ。ゴメン。

「よく来たな、ジン!」

皇帝 ( スカーレット ) の側近であり、丁寧な対応に定評のあるピエール氏に案内された部屋で待つこと5分、スカーレットが到着した。

スカーレットが来ると同時に、部屋にいたピエール氏やメイド達が退出していく。女神関連の話を部外者に聞かせる訳にはいかないからな。

「今日は何の用だ?ジンが急に会おうってんだから、何かでけぇ事があるんだよな?」

スカーレットは勘が良く、流れを読むのが上手いので、非常に話が早くて楽だ。

「明日、俺は魔王の元へ向かう」

「はぁ!?」

俺がシンプルに予定を伝えると、流石のスカーレットも驚きの声を上げた。

恐らく、スカーレットは女神関連の話だと予想していたのだろう。魔王と女神は無関係ではないが、今回のメインは魔王に関する話だ。

「随分、急な話だな。一体、何があったんだ?」

「ああ、実は……」

かくかくしかじか。

「……なるほど、確かにそいつは無視できる内容じゃねぇな。そして、俺に報告してきたのも納得だ。俺の前世かもしれない奴の、妹かもしれない奴が魔王なのか……」

ハッキリしたことが分からないので、『かもしれない』が多いのは仕方ないことだ。

ただ、スカーレットが浅井の生まれ変わりというのは、勘の良さと話し易さ、全体の雰囲気から考えても、可能性は高いと思うんだよな。

「相変わらず、ジンには驚かされてばかりだな。それで、ジンは俺に何かして欲しいのか?」

「やって欲しい事は無いが、教えて欲しい事はある。スカーレットが皇帝の座を降りて、女神を殴りに行けるようになるのは何時だ?」

「今のところ10日後の予定だな。もしかして、何か急ぐ理由でもあるのか?」

「ああ、実は……」

かくかくしかじか。パート2。

「……なるほど、確かにそれは急いだ方が良さそうだな。ちっと気合を入れて、可能な限り早く退位を済ませるようにしよう」

「いや、10日後なら2週間に収まっているから、そのままで大丈夫だ。それに、2週間以内は目安であり、無理をしてまで達成すべき目標じゃない」

少なくとも、一国の皇帝の譲位を急がせる程の話ではない。

「無理をするのは俺じゃねぇけどな。引継ぎは終わっているから、時間がかかるのは即位式の準備の方だ。負担が増えるのは臣下達だけだから、ジンが気にすることじゃねぇよ」

「流石に、それを気にしないのは無理だろ……」

皇帝の無茶振りで納期が縮まる臣下達が可哀想だ。

「ははっ、冗談だよ。俺も最後の最後で臣下に恨まれるのは御免だからな。ジンを待たせるのは申し訳ねぇが、10日後で良いならそれで頼む」

退位直前に無茶振りしてくる皇帝とか、印象が悪いにも程がある。立つ鳥跡を濁す。

「了解。予定が変わりそうなら、また連絡を入れてくれ」

「おう、アドバンス商会に連絡を入れさせてもらう。……それと、1つ頼みたい事がある」

「何だ?」

「魔王がジンの予想通りの奴で、元の人格に戻せたら、一回俺にも会わせてくれねぇか?前世の記憶を補完する切っ掛けになるかもしれねぇからな」

スカーレットは転生者で、前世の記憶を持っているが、それは完全な物ではない。

地球の知識はあるが、エピソード記憶が欠けているので、浅井の生まれ変わりである確証も得られないという訳だ。

「本人の意思を無視して会わせる気はないから、本人が会うと言った場合に限るぞ?」

「ああ、勿論だ。……確かに、実の兄が既に死んでいるのはショックだろうよ。その生まれ変わりかもしれない奴に会うのは、抵抗があってもおかしくねぇな」

状況が特殊すぎるので、無責任に安請け合いできる頼みではない。

「スカーレットが浅井である確証はないけど、浅井が死んでいる可能性は非常に高い。浅井は過去の勇者で、最低でも数100年は経っているからな」

「この世界にはエルフとかの長命種も居るし、寿命を延ばす手段があっても不思議じゃねぇけど、そう簡単には見つけらんねぇだろ」

アルタ、簡単に寿命を延ばす手段ってあるのか?

A:あります。簡単な手段を用いても、500年以上生き続けられます。

そんな方法があるのか……。それなら、浅井が生きている可能性もある?

そうなると、逆にスカーレットと浅井の関係が分からなくなる。単に似ているだけ?

「俺の記憶が明らかになれば、その辺の説明もできるかもしれねぇな。ま、本人が会うって言ったら、会わせてくれ。会うって言わなかったら、コッソリ様子を見させてくれ」

「分かった。隠れて見るくらいなら問題ないだろう。……その図体で隠れられるのか?」

スカーレットは身長が高く、体格が良く、存在感があり、隠れるのが得意には見えない。

「任せろ。昔から、かくれんぼでは負け知らずなんだぜ。……主に見つける方で」

そりゃあ、浅井の生まれ変わりなら、その『眼』から逃げられる奴は居ないだろうよ。

「そういや、かくれんぼで思い出したが、前に魔王軍四天王と会った話はしたよな?」

「ああ、それ程詳しい話は聞かなかったけど」

スカーレットの事情を聞いていた時、ほんの少しだけ話題に出た記憶がある。

その時に四天王が転生者だと気付き、方針を変える切っ掛けになったとか何とか。

「いい機会だから、ちょっと話を聞いて行けよ。何かの参考になるかもしれないからな」

「その四天王、まだ生きているのか?」

「……残念ながら、仕留め損なった。隠れているのを見つけて追い詰めたまでは良かったが、変な人形を投げた後、急に消えた。ありゃあ、どこかに転移しやがったな」

どう聞いても、ナーハルティである。

「多分、一昨日戦った四天王の能力だな。物と物の位置を入れ替えることができる」

「何だ、既に知っていたのかよ。転移能力は奇襲性が高いから、情報に価値があると思ったんだが……。それで、ジンはあのクソ野郎を殺したのか?」

「……野郎?ソイツは女だったぞ。ローブを着ていたから、性別が分からなかったのか?」

「いや、ローブなんて被っていなかったから、男だと断定できる」

「それじゃあ、別人だ。その女の能力は、他人にも使わせることができたからな」

グレイブフォードがナーハルティの人形を使っていたのは記憶に新しい。

もしかして、スカーレットが言う『クソ野郎』はグレイブフォードのことか?確かに、アイツはクソ野郎の称号に相応しい男だった。

「そのクソ野郎はどんな奴だ?俺の知っている四天王か、知らない四天王か判断したい」

「……ジン、一体何人四天王を知っているんだ?」

「7人……いや、隠された四天王を合わせれば8人か」

「四天王とは一体……」

そんなことは、俺が一番聞きたいよ。

「あのクソ野郎は、帝国内で実力者と言われている人間を呪い殺そうとしていた。自信満々に、殺した相手を傀儡にできるとか抜かしやがったよ。まぁ、俺が阻止したけどな」

「あ、ソイツ、1週間くらい前に俺が殺した四天王だわ」

どう聞いても、グレイブフォードである。

「結局、ジンが倒したのかよ……。一体、何人四天王を倒したんだ?」

「7……いや、6人だから、四天王1周半だな」

「ぷっ。四天王を周で表現するヤツ、初めて見たぞ」

4人を超えた時点で、他に表現方法が思いつかなかったから仕方がない。

スカーレットとの話も終わったので、次はエルフの里に向かうことにした。

原初の姫巫女であり、とても長く生きている 語り部 ( リリィ ) は、過去の魔王に関する情報を、ほぼ確実に持っているだろう。

もしかしたら、昨日決めた方針が変わるような、衝撃発言が出てくるかもしれない。

……俺は何故、リリィの話を聞いてから、会議を始めなかったのかね?

余談だが、エルフの里までの移動方法は『ポータル』である。

スカーレットには『ポータル』の存在を教えていないので、アドバンス商会の店舗に戻ってから『ポータル』を使った。

とは言え、俺が転移能力を持っていることを、スカーレットは薄々察していると思う。

俺のタイムテーブルを知っていれば、転移能力なしでは実現不可能だと分かるからな。

もう1つ余談だが、スカーレットもエルフの里に行きたいと言っていた。

しかし、これ以上予定をキャンセルすると、10日後の譲位に差し支えるようなので、断固拒否することにした。

閑話休題。

エルフの里に転移し、リリィの家に向かい、魔王について尋ねた。

「うむ、確かにワシは魔王に関する知識も持っておるのじゃ。しかし、ジン殿もレット坊も、魔王については一切聞いて来んから、てっきり興味が無いものだと思っていたのじゃ」

予想通り、リリィは魔王について知っていた。

言われてみれば、以前スカーレットと共に話をした時は、女神に関する話だけで、魔王に関する話題はほとんど出なかった。

俺もスカーレットも、『魔王は異界の勇者に任せる』で話が終わっていたからな。

「ああ、今までは興味が無かったけど、無視できない理由ができたんだ」

かくかくしかじか。パート3。

「確証はないが、魔王がジン殿の知人である可能性は高いと思うのじゃ。実は、勇者や魔王は完全に無作為に召喚されている訳ではなく、過去の勇者や魔王と縁のある者が召喚されることが多いのじゃ。勇者の妹ならば、魔王として召喚される可能性は十分にあるじゃろう」

「初耳なんだが……」

最初から衝撃発言が飛び出してきた。

確かに、浅井が過去に勇者として召喚されていたのなら、親友である俺や妹である聖が召喚されていても不思議ではない。

加えて、浅井は人脈が広いから、過去の勇者と縁のある人物として、この世界に召喚される可能性も一般人に比べて高かったはずだ。

思わぬ事実により、魔王 聖 ( ひじり ) 説が強化されてしまった。

「……ちょっと、俺の知っている魔王の情報が正しいか、確認してくれないか?」

「ふむ、良いじゃろう」

かくかくしかじか。パート4。

「うむ、ワシの知っておる情報と相違は無さそうじゃ。1点、少し詳しい話ができるのじゃが、聞いて行くか?」

「よろしく頼む」

リリィの知識量が、想像以上にヤバいと分かったので、聞ける事は聞いて行こうと思う。

何故、過去の俺はリリィに根掘り葉掘り聞かなかったのか……。

「ワシが知っておるのは、500年前の魔王に関する情報じゃ」

「おぉ……!」

500年前の魔王は、魔王を語る上でかなり重要な存在だ。

リリィが500年前の魔王の情報を持っていると知っていたら、流石に会議の前に話を聞いていたのだが……。

「今から500年前、その魔王はエルフの里に突如現れたのじゃ」

「……それ、大丈夫だったのか?」

創作物で『魔王がエルフの里に現れる』とあったら、ほぼ確実にエルフの里は崩壊する。

今もエルフの里が存在しているのだから、崩壊していないのは明らかだが、少なくない被害が出ていてもおかしくはない。魔王は、1人で一国の首都を滅ぼすような存在なのだ。

そう言えば、世界樹の守護者は反応しなかったのかな?里の周囲の森には、危険な存在を排除するためのセキュリティ的存在が居たはずだ。俺は瞬殺したが……。

A:世界樹の守護者が起動する条件に、魔族は含まれていません。

あ、そう。世界樹の守護者、本当に役立たずだな。

「現れたと言っても、大勢の前ではなく、ワシの前だけじゃ。目的はワシと話しをすることであり、エルフの里を滅ぼそうと考えてはおらんかった。自身の目標を話し、ワシの知る情報を聞いたら大人しく帰り、二度と来ることは無かったのじゃ」

エルフの里に来た目的が、俺やスカーレットと似ているな。

まぁ、部外者がエルフの里に来る目的なんて、語り 部 ( リリィ ) に会うくらいしかないよね?他にいるとすれば、世界樹を見てみたい観光者くらいか。……両方俺じゃん。

「その魔王の目標とは、『女神の思惑を打ち砕くこと』じゃった。ある意味、ジン殿やレット坊と同じじゃな」

そこまで、俺やスカーレットと同じだったのか……。

そして、ここまで聞けば、魔王の言いたいことにも予想は付く。

「その『女神の思惑』は、『魔王が勇者に必ず負ける』ことだよな?」

「うむ、必敗の運命を変えるため、色々と画策しておったようじゃ。尤も、後の歴史が示す通り、最終的には勇者に敗れたようじゃがな……」

目標が達成できていたら、人類種と魔族の歴史は変わっていたのだろう。

「魔王は大きく2つの方針を定めており、1つが『勇者を全滅させる』、もう1つが『女神を殺す』じゃった。ここには、『女神を殺す』方法の確認に来たようじゃ。『女神の領域』に行く方法として、リソースや 異常個体 ( イレギュラー ) の話をしたら諦めたようじゃが」

「魔王の立場で、世界樹を成長させる条件を満たすのは難しいだろうな。しかし、魔王にそんな重要な事を教えたのか……」

語り部は語るのが仕事だが、相手は選ぶべきだとも思う。

「これでも、人を見る目はあるつもりじゃ。魔王の振る舞いからは、知性と敬意を感じたのじゃ。少なくとも、その牙がワシらに向かうことは無いと確信できたからの。ワシに語れることは語ったのじゃ。……とは言え、混乱の元じゃから、ゴーシュ含め里の者には魔王が来たことは伝えなかったがの」

語り部が語るべき相手と判断したのならば仕方がない。

事実、それから500年の間、エルフの里は魔族の被害を受けていない。

「それじゃあ、魔王と話した内容を教えてくれ」

「主に女神と世界樹に関する話じゃな。ジン殿とレット坊に話した内容と大差はない。ただ、ワシが話さずとも、かなり多くのことを初めから知っておった。理由を聞いたら、1代前の魔王が、知識の蒐集を重視し、それを可能な限り遺そうと工夫しておったそうじゃ」

魔王の不利な点の1つは、魔王の死と共に魔族の勢力や知識が消失することだろう。

自身の敗北が避けられないと知り、知識を残そうとした魔王が居てもおかしくはない。

「そして、500年前の魔王はそれに加え、自身のスキルも後世に残そうとしたのじゃ。タイミングの良い事に、その魔王の 呪印 ( カース ) は、スキルを継承させる効果があったのじゃ」

「そこ、少し詳しく聞かせてくれ。何故、その魔王だけがスキルを継承する 呪印 ( カース ) を持っていたんだ?もしかして、魔王の 呪印 ( カース ) って固定じゃないのか?」

「うむ、魔王には、魔王なら全員が持っている 呪印 ( カース ) の他に、個々の魔王固有の 呪印 ( カース ) を1つ持っておるのじゃ」

この情報で1つ察したことがある。

< 四天任命 ( フォースオーダー ) >、< 暗黒領域 ( ダークゾーン ) >、<魔王>の3つが、『魔王が全員持っている 呪印 ( カース ) 』なのだろう。魔王として、必須な能力だからな。

「実は、異世界の魂を持つ者は、誰もが希少なスキルを1つ得る権利を持っておる。その権利は、勇者の 祝福 ( ギフト ) 取得、世界樹によるスキル付与、そして、魔王の固有 呪印 ( カース ) 取得により消費されるのじゃ」

これも初耳で重要な情報だな。

どうやら、異世界人がユニークスキルを得られるのは1度限りの権利だったらしい。

……これ、絶対に裏技があるよな。織原の奴、さくらが受け取り拒否した 祝福 ( ギフト ) を回収して、実質2つの 祝福 ( ギフト ) を持っていたから。

「この希少なスキルは、必ずその人物に相応しい物が与えられることになっておる。世界樹によるスキル付与を見たジン殿ならば、納得できる話だと思うのじゃ」

「俺の得たスキル、<世界樹支配>なんだけど、本当に俺に相応しいかな……」

「はい。仁様に相応しいスキルだと思います」

俺の護衛として、今まで一切話に入ってこなかったマリアが断言した。

どうしても、言いたかったようだ。

「そのスキルがジン殿に相応しいかどうか、ワシには判断できぬが、他と毛色が違うのは確かじゃな。補足じゃが、魔王は性質と合わない 呪印 ( カース ) を得ることもあるのじゃ」

「魔王だけは、 呪印 ( カース ) を得た後に人格が変わるから、合わないこともあるだろう」

これは、魔王の成り立ちを知っていれば、予想できる範囲のことだ。

「うむ、魔王が得る 呪印 ( カース ) は、魔王となる前の元人格に相応しい 呪印 ( カース ) となるのじゃ。大抵の場合、魔王の人格と元の人格は似る傾向にあるそうじゃが、例外もあるという話じゃ。魔王の人格によっては、 呪印 ( カース ) を扱いにくいと思うこともあるじゃろう。500年前の魔王は、人格も一致しており、丁度良い 呪印 ( カース ) だったがの」

ここで、ある意味重要な情報が出てきた。

魔王の人格と元人格は似る傾向にあるらしい。つまり、魔王ホーリーが聖の性格そのままという可能性もある訳だ。

知人の身体を使い、ほぼ同じ性格をした別人……絶妙に不愉快だな。

「500年前の魔王は、自分が勇者に敗れた時のことを考え、固有 呪印 ( カース ) により 呪印 ( カース ) やスキルの大部分を、後継となる魔王に継承すると言っておったのじゃ。恐らく、今代の魔王は500年前の魔王のスキルを継承しておるのじゃろう」

「どうやって、500年後の魔王にスキルを継承したんだ?」

本人は確実に死んでいるのだから、他の誰かを中継するなり、何らかの手段を用いなければ、後世の魔王にスキルを継承することなどできるはずがない。

「世の中には、スキルオーブと言う、スキルを保存する入れ物があるのじゃ」

「待った。スキルオーブに 呪印 ( カース ) を入れることはできないはずだ」

『 竜人種 ( ドラゴニュート ) の秘境』で存在を知ったスキルオーブだが、< 生殺与奪 ( ギブアンドテイク ) >の下位互換でしかなく、必要だとも思わなかった。

一応、アルタに特徴を聞いたのだが、 祝福 ( ギフト ) や 呪印 ( カース ) は入れられないと言われ、完全に興味をなくした記憶がある。

「ジン殿はスキルオーブも知っておるのか、流石じゃのう。詳しい方法は知らんが、魔王はスキルオーブを弄ったと言っておったのじゃ。ワシが聞いた計画では、 呪印 ( カース ) を入れたスキルオーブを腹心の四天王に預け、後の魔王に継承するそうじゃ。察するに、ジン殿の言う5人目の四天王は、この時の四天王じゃろう」

魔族領に行く前に、隠されし第5の四天王の正体が明らかになってしまった。

「魔王が死ぬとき、四天王も同時に死ぬはずだが……いや、そうか。どこか影響の及ばない場所に逃げたのか」

魔王と四天王の間には、目に見えない繋がりが存在する。

魔王が死ぬとき、繋がりのある四天王も同時に死亡するはずだが、繋がりの影響を受けない状態ならば、四天王の死は回避できるのだろう。

なお、魔王と四天王の繋がりを斬るのは、巨人島でナーハルティに実践済みだ。

「500年前の魔王は、『廃棄世界』という異世界に逃がすと言っておったのじゃ」

「廃棄世界?」

「うむ、女神に見捨てられし世界で、滅びを待つだけと聞いておる。どこかの国に隠されていると聞いたのじゃが、ワシの知識に無いから語ることはできん」

「その世界には、心当たりがあるな。多分、俺が『灰色の世界』と呼んでいる場所だろう。その入り口は、500年前の魔王が滅ぼしたエルガント神国の神都にある」

偶然、魔王が滅ぼした場所に、魔王の目的に合致した世界への入り口があった……と考えるのは無理があるだろう。

つまり、500年前の魔王は、灰色の世界に四天王を逃がすために、エルガント神国の神都を滅ぼしたということだ。スケールデカいね。

「ふむ、どんな世界なのか、聞いても良いじゃろうか?」

「ああ、灰色の世界には……」

リリィが興味津々といった様子で聞いてきた。

かくかくしかじか。パート5。語り部相手に語るのって変な気分だね。

「話を聞く限り、その世界のことで間違いないじゃろう」

「つまり、今代の魔王は500年前の四天王経由で、スキルの継承が済んでいる訳だ」

「うむ、それも間違いないじゃろう。加えて言えば、知識の方も継承しているはずじゃ」

「まさしく、歴代最強の魔王ってワケだ」

「うむ……」

500年前の魔王の思惑では、今代の魔王は過去の知識とスキルを得た、最強の魔王として君臨し、その力で勇者達を殲滅する……はずだったのだろう。

「……色々と聞いたけど、俺のやることに変更は無さそうだな」

意外な話も重要な話も聞けたが、結局のところ俺の為すべきことは変わらなかった。

魔王側の事情がどうあれ、俺にとって魔王の人格は邪魔以外の何物でもない。最強の魔王として勇者と対峙する前に、俺の手で引導を渡してやる。

「確実に魔王の脅威度が上がったが、ジン殿は気にも留めぬようじゃ」

「知り合いの身体が、魔王に奪われているかもしれないんだ。魔王の事情も強さも関係ない。それに、女神を殴ろうって奴が、魔王に怖気づく方がおかしいだろ」

「なるほど、それは尤もな話じゃ」

リリィが納得したように頷いた。

魔王と女神は両方とも敵と言える存在だが、どちらの方が厄介かと言われれば、間違いなく女神に軍配が上がる。

その女神を殴ろうという者が、女神を殺すことを諦めた魔王相手に怖気づく道理が無い。

あるいは、魔王が異世界転移者の肉体を奪ってさえいなければ、敵の敵は味方ということで、共に女神を殴りに行くという未来もあったのかもしれない。今は、敵の敵も敵である。

その後もリリィから色々と話を聞いたが、俺の行動が変わるようなものはなかった。

リリィから話を聞き終わったのは、もうすぐ昼になるという頃だった。

A:サノキア王国の王城に、水原咲の使いを名乗る者がマスターを尋ねてきています。

カスタールの屋敷に戻ろうとしたところで、アルタから驚きの報告が入ってきた。

水原咲は俺の幼馴染の1人であり、この世界に召喚された日以降は会っていない。

俺とさくらに 祝福 ( ギフト ) が無いと明らかになった際、俺に敵意を向けてしまったことを気に病み、俺に会わせる顔がないと思っているらしい。

サノキア王国の女王であるエカテリーナとその側近達は、咲の使者として……咲の謝罪の品として俺の前に現れ、咲のメッセージを伝えてきた。

俺としては、咲の謝罪を受け入れたつもりなのだが、未だに咲は俺の前に姿を現さない。

その内、咲の方から何かしらのアクションがあると思っていたが、それが魔王と戦う直前というのは、タイミングが良いのか悪いのか判断し難いところだ。

咲が自分を許せたのなら、本人が直接やってくるだろう。使者を送ってきたということは、何かしらのメッセージがあるか、再びの謝罪の品かの二択となる。

A:両方のようです。

それ、メッセンジャーが謝罪の品を持ってきているんだよな?

エカテリーナの時は、メッセンジャー兼謝罪の品だったけど……。

A:不明です。使者のステータスからすると、可能性は十分にあります。

可能性、あるのか……。危険性はあるのか?

A:戦闘能力は高めですが、危険と言う程ではありません。また、マップ上の表示は青色、味方となっています。

また、 青色表示 ( みかた ) なのか……。

同じく咲の使者であるエカテリーナのマップ表示も最初から青色だった。どうやら、俺の味方になるように、咲から強く言い含められていたらしい。

その時にも思ったが、見知らぬ他人が最初から味方面してきたら、普通に怖いだけだ。

咲が関わっていると知らなければ、むしろ敵認定した可能性すらある。どう考えても、何者かの策略にしか見えないからな。

普通に怖いのは確かだが、使者に会わないという選択肢もない。

使者に会わなければ、咲は俺がまだ怒っていると勘違いしてしまうだろう。俺は既に咲を許している……というか、元々それ程気にしていなかったというのに。

さて、どうせ会いにいくなら、使者のステータスを見るのは後回しにしよう。直接会った時に見る方が面白いからな。危険性は高くないらしいから、問題は無いはずだ。

使者を待たせる理由も無いので、マリアを連れてサノキア王国の王城へと転移する。

「ようこそいらっしゃいました。咲お姉様の使いの方がお待ちです」

転移先で待っていたエカテリーナ達の案内で、咲の使者の元へ向かった。

使者の待つ部屋に到着し、扉が開かれる。

部屋の中に居たのは、日本人にしか見えない10歳くらいの少女だった。

「これは驚いたな……」

「はい。私達も驚きました。咲お姉様に瓜二つでしたから」

咲の使者の容姿は、10歳の頃の咲と全く同じだったのだ。

髪型も咲と同じく短めに切り揃えられており、一点を除けば見分けがつかないレベルだ。

その一点とは、表情である。咲のデフォルト表情は笑顔だが、この少女は無表情だ。造形は全く同じなので、咲を良く知る俺には違和感が凄い。

「始めまして、進堂仁様。私は水原咲様の使者、小咲と申します」

ソファに座っていた少女が立ち上がり、深々とお辞儀をして自己紹介してきた。

『咲』の昔の姿で『小咲』というのは、随分と洒落が効いているな。

それじゃあ、どんなタネなのか、 答え ( ステータス ) を見せてもらおうか。

名前:小咲

LV0

性別:女

年齢:0

種族: 人造生物 ( ホムンクルス )

称号:咲の使者

スキル:< 形態変化 ( シェイプシフト ) >

なるほど、 人造生物 ( ホムンクルス ) なら、咲に似ていても不思議じゃないな。

アルタ、 人造生物 ( ホムンクルス ) ってどうやって作るんだ?

A:<錬金術>というスキルで作成します。

なるほど、<錬金術>なら、 人造生物 ( ホムンクルス ) を作れても不思議じゃないな。

まぁ、地球における本来の意味の錬金術では、 人造生物 ( ホムンクルス ) どころか金を作り出すこともできないので、創作物的な意味の錬金術なのだろう。

ところで、今まで一度も見た事ないけど、<錬金術>ってそんなレアなスキルなのか?

A:はい。非常に希少なスキルです。スキルの使用工程は<魔道具作成>に近いですが、<錬金術>で作成した物は魔力を動力源としていませんので、完全な別ものとなります。また、この世界では錬金術という単語自体が知られていません。

<魔道具作成>とは似て非なる、<魔道具作成>以上に 希少 ( レア ) なスキルなのか。

<魔道具作成>で作成する 魔法の道具 ( マジックアイテム ) は、必ず魔力を動力源としている。そして、『道具』と書いてある以上、生物のような物を作り出す事はできない。

対する<錬金術>は魔力を動力にせず、 人造生物 ( ホムンクルス ) も作り出せるらしい。

とりあえず、咲が<錬金術>を利用できる状況にあるのは確定だな。

「それで、俺に何の用だ?」

「はい。咲様から進堂仁様にお詫びの品と伝言を預かっています」

予想通りと言えば、予想通りの内容だった。

「咲からの謝罪は、エカテリーナの時に受け入れたはずだ」

「咲様は『たったあれだけのお詫びの品では、私の気が済まないから』と仰っていました」

咲の気が済まないという話であれば、俺が許す、許さないは関係がなくなる。

そして、咲を許すと言った以上、お詫びの品を受け取らない訳にもいかない。

付き合いの長い咲が、俺の気に食わない物を贈ってくるとも思えないから、その点は心配していない。どちらかと言うと、どれだけ凄い物を贈ってくるのか気になっている。

以前のお詫びの品、咲曰く『たったあれだけ』の中に、 一国の女王 ( エカテリーナ ) が含まれていたくらいだからな。

「最初のお詫びの品はこちらになります。どうぞ、お納めください」

そう言って、小咲が持っていたアイテムボックスから取り出したのは、見覚えのある2つの 宝珠 ( オーブ ) だった。

どう見てもスキルオーブなのだが、スキルオーブってそんな簡単に手に入る物か?

A:スキルオーブは、高レベルの<錬金術>で作り出す事ができます。

ああ、納得した。そこに繋がってくるのか。

人造生物 ( ホムンクルス ) を作れるのだから、咲の近くには高レベルの<錬金術>を持っている者が居るのだろう。多分、同じ作者だよな。

さて、スキルオーブは希少だが、空のスキルオーブに大した価値はない。重要なのは、中に入っているスキルの効果である。

これで空だったら笑えるが、咲は『希少な空箱』を贈ってくるような性格はしていない。贈るなら、中身を詰めてから贈るだろう。

見れば、当然のようにスキルが内包されていた。1つ目がこちら。

< 剣聖 ( ソードマスター ) >

剣士として最高峰の技能を習得する。剣技は<剣術LV10>以上、刀剣の使用時に限り、<身体強化LV5>相当の能力強化も得る。

間違いなく優秀なスキルだが、咲が贈ってきたにしては普通な気がする。

それ程、面白いスキルという訳でもないからな。

何か、意図があるのだろうか?

そして、2つ目のスキルがこちら。

< 祓魔 ( ふつま ) 剣>

魔族、魔王に特攻となる剣術。殺すのではなく、 祓 ( はら ) うことを目的としている。摂理に反して生まれた者を祓い、あるべき姿に戻す力を持つ。

正直、ビックリした。

果たして、スキルオーブを贈った咲の真意とは!?

< 剣聖 ( ソードマスター ) >は第14部分「外伝第1話 生徒会長と美食家」と第77部分「外伝第4話 剣の聖女(裏)」で言及があります。