LNCrawler

第241話 対立世界と別行動

異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第241話 対立世界と別行動

第二の世界に転移します。

1つの世界につき1話から2話程度で終わらせる見込みです。

ゴールデンヘラクレスオオカブトが敗れ、セラが新たな甲虫女王となって間もなく、少し離れた地点に光の柱が現れた。多分、次の世界への入口だろうな。

A:はい。条件を達成した者が光の柱に触れると、接していた者を含めて他の世界へと転移します。その世界の住人も、接していれば転移できます。

咲に聞いていた通りの転移方法だな。

ちなみに、あの光の柱はどのくらい維持されるんだ?急いで入った方が良いのか?

A:条件を達成した者が触れなければ、光の柱は発生から72時間は維持されます。

それなら、急いで転移する必要は無さそうだな。

「ご主人様、もしかしてアレが次の世界に行く方法なの?」

「ああ、その通りだ。条件を達成した者が触れなければ、3日間はそのまま光が残るから、セラはあまり近付かないようにしてくれ」

「了解ですわ」

話をしていると、金ヘラがフラフラしながらこちらに近付いてきた。

セラに殴られた衝撃……ではなく、『ゴールデントルネード』で目が回っているらしい。

「……」

「『あの光、やはり其方達は異界の住人であったか』。そう言えば、自己紹介もしていなかったな」

ヒラタクワガタには異世界人だと説明したが、四天王にも金ヘラにも説明した記憶はない。

まあ、見た目が明らかに違うから、予想はできていたと思うけど。

「……」

「『自己紹介など不要。それより、新たな王となった其方もこの世界を離れるのか?』」

「ええ、 私 ( わたくし ) が貴方に挑んだのは、それが異世界に移動する条件だったからですわ」

「……」

「『この世界を離れたら、其方は王の資格を失う。それでも構わないか?』」

「もちろんですわ!むしろ、称号は消えて欲しいですわ」

「セラ、多分『元甲虫女王』に変わるだけだと思うぞ」

「くぅっ……!」

セラ、本気で『甲虫女王』の称号が要らない様子。

「……」

「『そうか、残念だ。……ところで、其方は王の特権を使う気はあるか?』」

「仮初めの王様ですから、皆様に迷惑が掛かるような権利なら使いたくありませんわ」

「……」

「『安心せよ。王の特権とは、黄金樹の樹液を得る権利のことだ』」

気になったので調べてみると、確かに黄金樹の幹には樹液が付いていた。

この世界のムシ達、身体は大きくても食性は普通のムシと同じようだ。

「その樹液、美味しいんですの?」

「……セラちゃん、まさか樹液を舐める気?」

「な、舐めませんわよ!純粋な好奇心ですわ!」

ミオが恐る恐る尋ねると、セラは心外とばかりに声を荒げた。

「……」

「『正直、あまり美味とは言えぬ。しかし、王が口にすれば余と同じように身体が金色になる』」

「絶っ対に要りませんわ!」

どうやら、金ヘラの身体の金色は生まれつきではなく、黄金樹の樹液を舐めた影響らしい。

種族名にもゴールデンと付く以上、舐めると種族が変わると考えた方が良さそうだ。

「相談なんだけど、樹液を分けてもらうことはできないか?」

「ご主人様、流石のミオちゃんも樹液を料理に使ったことはないからね?」

「 私 ( わたくし ) は絶対に食べませんわよ!全身金色になるのは嫌ですわ!」

「いや、食べることが目的じゃないからな?」

俺の直感は、黄金樹の樹液が『異世界のルールを持つ宝物』だと告げている。

何か使う目的がある訳ではないが、持ち帰れるものなら記念に持ち帰りたい。

《ドーラはたべてみたい!》

「ドーラちゃん、絶対に駄目ですよ……!」

「金色のドーラか。眩しいし固そうだから、抱き枕にはしたくないな」

《ドーラ、ぜったいにたべない!》

金色のドーラを想像していたら、ドーラが思いきり前言を撤回した。

そもそも、ドーラは王になっていないから、樹液を口にしても金色にはならないはずだが……。

「……」

「『樹液の採取さえ王が行えば、樹液をどう扱うかは王の自由だ』。セラ、採取を頼めるか?」

「了解ですわ」

すぐにセラは黄金樹に登り、コップ一杯分の樹液を採取してきてくれた。

蜂蜜を 黄金 ( こがね ) 色と表現することがあるが、黄金樹の樹液は完全に 黄金 ( おうごん ) 色だった。蜂蜜のような透明感はなく、金属光沢を持った液体としか言えない。

「ハッキリ言って、食欲が沸かない色だな」

「絶対に食べたくありませんわ」

《まずそー》

「これを食材として見るのは無理ね」

満場一致で食べ物認定をしないことになった。

「そう言えば、ムシの皆さんは普段何を食べていらっしゃるんですの?」

「カチカチ」

「『樹液しか食えるモンがねえから、全員樹液しか食べてないと思うぜ』」

「……」

「『余はそれに加え、7日に1度黄金樹の樹液を口にしておる。10日以上黄金樹の樹液を口にせぬと、少しずつ身体の色が元に戻ってしまうからな』」

セラの質問にヒラタクワガタと金ヘラが答える。

黄金樹の樹液による体色の変化は10日程度しか持続しないらしい。

ヒラタクワガタの発言が気になったので少し調べてみると、本当にこの世界には樹液しか食べる物がなかった。代わりという訳ではないが、樹液は本当に大量に存在している。

「甲虫って言うと、スイカを食べるイメージがあるけど、この世界にはないのね」

「ミオ、スイカはカブトムシやクワガタの餌としてあまり適さないぞ」

それほど重要な話ではないが、間違った認識は正しておきたい。

「そうなの?それじゃあ、オススメの餌は何?」

「一番は昆虫ゼリーだな。ムシが食うために作られた餌だぞ。最適に決まっている」

「それはズルくない?もしかして、果物は一切与えない方が良いの?」

「果物ならバナナやリンゴがオススメだ。スイカやメロンは水分が多すぎる。それと、樹液を食べるからといって、蜂蜜を与えるのも良くない。糖分が多すぎるからな」

スイカやメロンは体積比で栄養素が少ないため、大量に摂取しなければいけない。

しかも、水分が多いため、尿が増えたり腹を壊したりもするらしい。

「……ご主人様、どうしてそんなムシの餌事情に詳しいの?」

「小学生の頃、昆虫博士の新井君が熱弁していた。昆虫採集が流行ってムシを飼うクラスメイトが増えたから、注意喚起として頑張っていたよ」

「ご主人様のクラス、昆虫博士が居たんだ……」

昆虫採集が流行った時は皆のヒーローになっていた新井君、今も元気だろうか?

「……」

「『今、バナナやリンゴと言ったな。もしや、それは『果物』と呼ばれる存在か?』」

俺達の話を聞いていた金ヘラが、リンゴやバナナという単語に反応していた。

「ああ、樹液しかないから、果物の概念がないのね」

「……」

「『もし、持っているなら分けてもらえぬだろうか?一度、食してみたいと思っていたのだ』」

「ご主人様、どうする?」

「……悪いけど、何が起きるか分からないから、食べ物を分けることはできない」

やむを得ない状況でもなければ、異世界の食べ物を食べることも、異世界の相手に食べ物を渡すこともしたくはない。

ルールの異なる異世界の食べ物が、身体にどのような影響を及ぼすのか分からないからな。

「ミオなら分かるだろ?異世界の食べ物で不用意なことをすべきじゃないってことは」

「そ、そうね。異世界の食べ物については、慎重なくらいで丁度良いわね……」

異世界の食べ物で失敗しているミオに、俺の意見を否定することはできなかった。

どうしても食べたい物があれば、『 深淵 ( アビス ) 』を出て、安全を確保してからにするべきだ。

「……」

「『……残念だが、そのような理由であれば仕方あるまい』」

本当に残念そうにしながらも、金ヘラは大人しく諦めてくれた。

「1つ聞かせてくれ。王様がこの世界から居なくなったら、次の王様は誰になるんだ?」

少し前から疑問だったことを金ヘラに投げかける。

「……」

「『王が不在となった場合、残された者達で最強を決め、その者が王を引き継ぐことになる』」

つまり、セラがこの世界から消えても問題はないと言うことだ。

王とは言っても、国家がある訳でも統治している訳でもないから、大丈夫だとは思っていたが。

「そうか。特に問題もなさそうだし、明日の朝一で俺達はこの世界を出発するよ。ここ、食事と宿泊のために場所を借りても大丈夫か?」

まだ、夕暮れにもなっていないが、異世界への転移は万全な状態で行うことが望ましい。

「……」

「分かった。借りさせてもらうよ。『ルーム』が使えないから、キャンプの準備を始めようか」

金ヘラの了承も得たので、キャンプの準備を始めることにした。

魔法の安定しない世界なので、『ルーム』の魔法は使えず、普通のキャンプをするしかない。

キャンプ用品は持っているが、旅を始めてすぐに『ルーム』の魔法を創ってもらったため、使用する機会は非常に少なかったのである。

「了解!キャンプの準備をするわね。折角だから、BBQでも作ろうかしら」

「ドーラもやるー!」

「 私 ( わたくし ) はテントの準備をいたしますわ」

「私も手伝います……」

「俺は風呂でも用意するか」

「お供いたします」

その後、仲良くBBQを食べ、風呂で疲れを取って、テントでグッスリ休んだ。

余談だが、遠くから夜行性のムシの鳴き声が聞こえてきたことに日本を感じた。

一夜明け、朝食を食べ終えた俺達は光の柱の前に集合していた。

「この光に 私 ( わたくし ) が触れれば良いんですわね?」

「ああ、『 深淵 ( アビス ) 』に入った時と同じように、手を繋げば一緒の世界に転移できるはずだ。万が一はぐれた場合は、合流しようとせずに『 深淵 ( アビス ) 』を出ることを優先してくれ」

『 召喚 ( サモン ) 』が使えれば楽だが、使えない可能性の方が高いので、分断された時の対応方法は事前に決めておいた方が良いだろう。

「俺達はそろそろ行くよ」

「貴方達との試合、楽しかったですわ」

俺とセラは見送りに来てくれたヒラタクワガタと金ヘラに声を掛ける。

他の面々はこれから始まる王位決定戦の準備で忙しいとのこと。

「……」

「『うむ、余も楽しかったぞ。正直、負けるとは思っていなかったが、負けたおかげで余にも目標ができた。其方との再戦は難しそうだが、其方に勝てるだけの強さを目指そう』」

「カチカチ」

「『はは、ウチの大将にも良い刺激になったみたいだな。短い期間だが、アンタは俺達に勝ち、最強の称号を得た王様だ。それは誇ってほしい』」

「実際に貰った称号は嬉しくありませんが、貴方達に勝ったことは誇らせてもらいますわ」

セラはムシ達との戦いで< 生殺与奪 ( ギブアンドテイク ) >のステータス強化を使わなかった。

ムシ達に合わせ、生来の強さだけで戦い、勝利したのだ。

「……」

「カッチカチ」

「『息災で』、『じゃあな』」

「ええ、そちらもお元気で。それでは、行きますわよ」

手を繋いだ状態でセラが光の柱に触れると、俺達の視界が光に包まれた。

光が治まり、目に映ったのは再びの森だった。

「また森のようですわね」

「でも、木は普通の大きさです……」

目の前に広がる森は、ムシの世界とは異なり普通のサイズ感の森だった。

とりあえず、巨大生物の住む森である可能性は低くなった。

「おっと、来たか」

ムシの世界に入った時と同じように、< 多重存在 ( アバター ) >が何かを弾く感覚があった。

アルタ、今度はどんな条件が付いたんだ?

A:この世界も異世界への転移条件は3つのようです。

①120時間生存する。

②エルフを根絶する。

③ドワーフを根絶する。

これは、かなり極端な条件が出てきたな……。

5日も足止めされるのは困るが、エルフかドワーフを根絶しないと進めないのも困る。

「うん、物騒!コレ、流石に①以外を選ぶのは難しいでしょ」

「仮にこの世界のエルフかドワーフが、相当にタチの悪い連中だったとしても、種の根絶を他所から来た奴が勝手に決めるべきじゃないよな」

俺達は基本的に短期逗留の余所者だ。

余程のことが無い限り、余所者が異世界人の存亡を決めてはいけないと思う。

なお、炎人族や鉄人族のように、異世界人の方から頼まれたなら別の話である。

「そもそも、この世界のエルフとドワーフはどんな連中なんだ?」

「2つの種族は東西に分かれて生活しており、境界線上では激しい武力衝突が起きています。現時点でも北方で2カ所、南方で1カ所、小規模な衝突が発生しています」

俺が疑問を口にすると、マップを確認していたマリアが様子を報告してくれた。

追ってマップを確認し、適当な人物のステータスを確認する。

名前:エンジュ

性別:男性

派閥:エルフ

役職:守衛隊長

名前:シグレ

性別:男性

派閥:ドワーフ

役職:遊撃隊長

また、微妙にステータスのフォーマットが違う。これは世界毎に異なると考えて良さそうだな。

そして、エルフは東、ドワーフは西に住んでおり、中央で武力衝突……平たく言えば戦争していることも分かった。小規模ではあるが、死者も出ている本気の戦争だ。

「仁君、この世界では魔法が普通に使えるみたいです……」

《ブレスもへいきだよー!》

マップを見ている間にさくらとドーラが魔法を試してくれていた。

俺も念のため軽く魔法を発動してみる。問題無さそうだな。

「魔法が使えるなら、行動の幅は大きく広がりそうだ」

「必要があれば魔法を創るので言ってください……」

「ああ、その時はお願いするよ。おっと、『ポータル』を使っておこう」

魔法が使えるということは、『ポータル』が使えるということだ。

俺は『ポータル』の魔法を発動し、カスタールの屋敷への転移を試みる。

「……ダメだな。他の世界の『ポータル』には転移できない」

「そこまで上手くは行かないかぁ」

「残念ですわね。『ポータル』で帰還できれば楽でしたのに……」

「< 無限収納 ( インベントリ ) >は使えるから、俺以外のメンバーは行き来できるぞ?」

『 深淵 ( アビス ) 』から脱出に『ポータル』は使えないが、< 無限収納 ( インベントリ ) >は使えるはずだ。

以前のマリアのように、石化させて< 無限収納 ( インベントリ ) >に放り込み、向こうの世界で取り出して石化解除すれば、実質的な世界間の移動となる。

「ご主人様を置いて自分だけ帰るとかする訳ないでしょ!」

「ええ、そんな薄情な真似はいたしませんわ!」

ミオとセラの宣言に、さくら、ドーラ、マリアも頷いている。

「嬉しいことを言ってくれるね。それなら、皆で仲良く5日間を過ごそうか」

「ねえ、ご主人様。5日過ごすのは良いけど、エルフとドワーフには接触するの?」

「できれば接触したいけど、まずはマップで情報収集から始めようと思う」

エルフやドワーフに接触するとしても、マップで可能な限り情報を集めてからにしたい。

そもそも、何故エルフとドワーフは争っているのだろう?

ファンタジーにおいて、エルフとドワーフの仲が悪いのはよくある話だが、争う理由は物語によって異なる。争う理由も知らずに、不用意に戦争中の種族達に接触するのは危険だ。

A:推測にはなりますが、純粋な生存競争のようです。両者は主食としている食物が異なり、縮小された世界の中で少しでも繁栄しようと争っています。

それは、どちらも悪いとは言えない、仕方がないタイプの戦争だ。

転移条件の根絶というのも、共倒れになる前にどちらかを勝たせろという意味なのだろう。

「アルタ、エルフとドワーフは何を主食にしているの?私達も食べられる物?」

ミオがアルタに主食について確認した。

A:エルフはベニエルフタケ、ドワーフはドワーフ竹のタケノコを主食としています。

「キノコとタケノコ……。それは激しい争いになるわね」

「ああ、その2つは絶対に相容れないだろうな」

思いも寄らなかった対立関係に、ミオと俺の表情が険しくなった。

エルフとドワーフ、キノコとタケノコ、これだけ条件が揃えば、戦争にならない方が不自然だ。

「仁様、キノコとタケノコに一体どのような意味があるのですか?」

「ゴメン、こっちの話だから気にしないで」

「ちょっとした悪ノリだよ」

マリアに聞かれたので、険しくなった表情を元に戻す。

「ミオちゃん、後で詳しく教えてもらっても良いですか?」

「良いけど、本当に大した話じゃないわよ?」

「お願いします」

「……了解」

「冗談はさておき、ベニエルフタケとドワーフ竹って共生できないのか?」

A:不可能です。必要とする栄養素が被っており、1つの土地にどちらか一方しか繁殖できません。

ダメだ。どう足掻いてもこの世界で戦争を回避する余地がない。

「マップによると、この世界でヒトの食用にできる物はベニエルフタケとドワーフ竹の2つしか無いようですわ。他は全て毒があるか、消化できない物のようですわね」

「冗談でしょ? ……ホントだわ。エルフとドワーフ以外には動物の一匹すら居ないじゃない!」

セラとミオに続いてマップを見れば、この世界が滅びかけと言うのも納得の状況だった。

動植物の種類が極端に少なくなっており、エルフ、ドワーフ、ベニエルフタケ、ドワーフ竹の4つ以外はまともに繁殖することもできない状況になっていた。

恐らく、最後にはエルフとベニエルフタケ、ドワーフとドワーフ竹のどちらかしか残らない。

「あの、ベニエルフタケって毒は無いんですか……?名前があまりにも不吉なので……」

「調べた限り、毒は無さそうですけど、ベニテングタケを連想する名前は不安ですよね」

さくらの疑問にミオが答える。日本人からしたら、受け入れがたい名前だよな。

「毒性はなくても、ベニエルフタケもドワーフ竹も食べないように」

「了解ですわ」

《はーい!》

セラとドーラの方を見て釘を刺しておく。

ハッキリ言って、異世界のキノコなんて絶対に食べるべきではない物の筆頭だ。

「この世界の状況は分かってきたけど、エルフとドワーフ、接触しても大丈夫か?」

当然、異世界のエルフ、ドワーフに会いたい気持ちはある。

しかし、思っていた以上にガチな理由で戦争している連中に接触したい気持ちは少ない。

「不用意に接触したら、戦争に巻き込まれそうだからな」

「それは嫌ですね……」

「とは言え、この森で5日隠れ過ごすというのも気が進まない。そうなると、一声掛けて距離を置くのが正解な気がしてくる」

一声とは、『この世界に来ました、5日後には居なくなるので、構わないで下さい』である。

「うーん、片方に会った後、もう片方に会いに行けるかしら?少なくとも監視はされるわよね?」

「……敵対行為扱いされそうだな。それなら、二手に分かれて、同時に会えば良いんじゃないか?」

例えば、エルフに会った後、ドワーフに会いに行くと、エルフからは自分達の情報をドワーフに売り込みに行ったように見え、ドワーフからはエルフの協力者が近付いて来たように見える。

二手に分かれ、同時に会いに行けば、少なくとも『敵の味方』扱いされることはなくなると思う。

「良いですけど、組み分けはどうするんですの?」

「独断と偏見で、俺、マリア、ドーラのAチーム、さくら、ミオ、セラのBチームに分けたい」

「理由をお聞きしても?」

「異能者を分ける、護衛役を分ける、交渉役を分ける、だな」

俺とさくらにマリア、セラの護衛が付く。

俺、ミオがそれぞれエルフ、ドワーフと交渉する。

マリアは俺から離れない。

まとめると、俺のアイデアに落ち着くのだ。

「なるほど、納得できる理由ですわね。 私 ( わたくし ) は問題ありませんわ」

「私も大丈夫です……」

「ミオちゃんもオッケーよ!交渉役は任せてね!」

《ごしゅじんさまといっしょ!》

「私も仁様に同行できるのは嬉しいです。私が必ずお守りします」

チーム分けが決まったところで、さくらが小さく手を挙げた。

「仁君、1つ疑問なんですけど、この世界の人達に言葉は通じるんですか……?」

「あっ! ……アルタ!?」

A:通じます。どちらも日本語で問題ありません。

セーフ!危うく、今までの話が全部無駄になるところだった。

「どの世界でも日本語が使えるのって、結構違和感ありますよね……」

「それもそうだな。まあ、助かるのは助かるけど……」

異世界の公用語が日本語になっているのは如何なものかとは思う。

「それで、ミオはエルフとドワーフ、どちらに行きたい?」

「そりゃあ、ドワーフ一択ね」

「その心は?」

「ミオちゃん、毒っぽい食べ物はNGだからね。まだタケノコの方がマシよ」

食べ物、毒と言うワードに敏感なミオにとって、ベニエルフタケはNGらしい。

それから、少し準備をして二手に分かれ、エルフとドワーフの拠点に向かうことにした。

ここで、この世界についてもう少し詳しく説明しておこう。

この世界では、東にエルフ、西にドワーフと分かれて生活しており、中心部では激しい武力衝突が繰り広げられている。

エルフ、ドワーフ共に大きな村が1つだけあり、約500名の住人が暮らしている。

村以外では、各地に物見櫓が設置されており、10名程度のエルフ、ドワーフが管理している。互いに相手の襲撃に備えた設備のようだ。

それぞれの生活エリアとなる森には、多くのベニエルフタケかドワーフ竹が繁殖しており、エルフ、ドワーフ達の食料になっている。

俺達が転移したのは南部の森で、両種族の生活エリアからは大きく離れている。南部、北部に大きく離れると、エルフ、ドワーフも住んでおらず、ベニエルフタケとドワーフ竹も見なくなる。

アルタに聞いたところ、北部、南部の森はベニエルフタケ、ドワーフ竹の繁殖にあまり適さない土地らしい。つまり、一番良い立地を賭けて対立しているという訳だ。

俺達はエルフ、ドワーフの武力衝突に関与する気はなく、巻き込まれにくい南部の森で5日間を平穏無事に過ごす予定だ。

そして、俺、マリア、ドーラのAチームは東のエルフの領域、さくら、ミオ、セラのBチームは西のドワーフの領域に向かい、その旨を伝えることを目標としている。

「仁様、お気を付け下さい」

《こっちみてるよー!》

「……まあ、そりゃあ見つかるよな」

エルフの住む森に入ったところで、一番近い物見櫓のエルフに捕捉されたことが分かった。

俺達を発見した物見櫓のエルフ達は、村と他の物見櫓に向かって手旗信号のようなものを送り、俺達に向けて矢を放ってきた。やはり、エルフと言ったら弓だよな。

エルフ達の弓の腕は素晴らしく、全ての矢が3人に当たるコースだった。

「マリア、任せた」

「はい」

俺が声を掛けると、マリアは素早く動いて飛んでくる矢を短剣で全て叩き落とした。

弓の腕に相当な自信があったのか、その様子を見ていたエルフ達に動揺が広がる。

「マリア、敵意を向けられても殺すなよ。戦争中に見知らぬ連中が現れたら、敵と考えて行動するのは当然のことだ。もちろん、攻撃されたら無力化するのは構わない」

「承知いたしました」

「ドーラも反撃には気を付けるんだぞ?」

《はーい!ドーラ、てかげんするー!》

この世界の状況において、見知らぬ相手はイコール敵と言っても過言ではないので、殺意を持って先制攻撃するのは当然のことなのである。

そして、攻撃されたからと言って返り討ちにして殺したら、平穏無事に過ごすための交渉が成立する可能性は限りなく低くなるだろう。

《またきたー!》

そのまま歩いて物見櫓に近付いていくと、再び物見櫓から矢が放たれてきた。

当然、マリアが全て叩き落とす。

「俺達は他の世界からこの世界に来た者だ!この世界の住人に伝えたいことがある!」

そろそろ、声が届きそうだと判断し、大きな声でエルフに向かって語りかけた。

エルフ達は次の攻撃の準備をしていたが、その手を止めて何か話し合っている。

「貴殿らはドワーフの手の者ではないのか!?」

「ドワーフとは無関係だ!他の世界に移動するため、向こうの森で5日間過ごしたい!」

エルフの男性が会話に応じてくれたので、南部の森を指さしながら俺達の用件を伝えた。

「本当にドワーフと無関係なのか、我々だけでは判断ができない!見分けが付く方をお呼びするので、敵対の意思がなければ、それ以上近付かず、その場に留まっていて欲しい!」

「了解だ!」

そこまで話すと、エルフ達は村に向かって合図を送った。

ドワーフ鑑定士を呼んだと思われる。一体、どんな奴だろう?

A:『天仕様』と呼ばれているエルフに連絡が行っているようです。マップにマーキングしました。

『天仕様』ねぇ、どれどれ……。

名前:ヤシロ

性別:女性

派閥:エルフ

役職:天仕

言葉だけだと、何をする役職なのか想像できないな。アルタ、分かる?

A:申し訳ございません。対応に時間が掛かっています。『神の声を聞く』と言う要素があることは分かりましたが、それ以上の詳細が不明となっています。

異世界に転移すると、その世界に対応するまで異能の力に制限がかかることがある。

この世界では、マップやステータスは表示されるのに、その詳細を把握することが難しくなっているらしい。

まあ、分からないものは仕方がない。詳細が分かったら教えてくれ。

A:承知いたしました。

アルタが異世界に対応してくれるのを気長に待とうと思う。

もしかしたら、対応が終わる前に次の世界に行くことになるかもしれないけど。

《ご主人様、情報を共有したいんだけど、念話しても大丈夫?》

《大丈夫だ。ドワーフの方はどうだった?》

その場で待機していたら、ミオから情報共有のための念話が来た。

《物見櫓に近付いただけで、いきなり集団に攻撃されたけど、セラちゃんが返り討ちにしたわよ》

《もちろん、殺さずに無力化しただけですわ》

《ドワーフも襲ってきたのか。エルフもいきなり矢を放ってきたぞ》

《マリアがぜんぶきったー!》

《あら、エルフはエルフらしい武器を使ってきたのね。ドワーフなんて竹槍で襲ってきたから笑いそうになったわよ》

《主食がタケノコなのは良いとして、武器も竹なのか……》

ドワーフ、竹に依存しすぎていないか?

《調べたら、この世界には金属が無いようでした……》

《そうなのか? ……本当だ。よく見れば、エルフの矢の矢尻も木製だな》

さくらに言われてマップを見れば、この世界には金属という金属が存在していなかった。

エルフの矢も矢羽根は葉っぱ、矢尻も木製だし、物見櫓も金属を使わない接合を使用している。

《ドワーフが居るのに金属が無いのは意外だったけど、聞く限りこの世界には鍛冶師って概念がないみたいなのよね。ドワーフなのに、物語に出てくるエルフっぽい生活をしているそうよ》

《……その言い方、もしかしてドワーフと話をしたのか?》

《え?ええ、物見櫓のドワーフに話を聞いたわよ。ご主人様の方は違うの?》

《ドワーフの関係者を疑われて、判断できる者を呼ぶまで待機している。何か、特別な役職を持った奴が来るらしい。天に仕えると書いて天仕とか言う奴》

《……ドワーフにも居るわね、天仕。でも、こっちは呼ぶとかそんな話は出てこなかったわよ?》

調べていなかったけど、ドワーフ側にも天仕は居るらしい。

《多分、戦い方の差だと思いますわ。エルフは弓の遠距離戦闘、ドワーフは竹槍の近距離戦闘を得意としているなら、自分達より近距離戦闘が強い 私 ( わたくし ) がエルフのはずがない、と判断してもおかしくはありませんわよね?》

《なるほど、私が弓を使っていたら、エルフと疑われたかもしれないわね》

《こっちはマリアが矢を叩き落としたからな。近距離戦闘が強い、イコールでドワーフかもしれないと疑われた訳だ》

《私のせいで申し訳ございません》

《別にマリアのせいじゃない。エルフの相手をするなら避けられないことだろ》

強いて言うなら、ミオが弓を使ってエルフの矢を撃ち落としていたら、ドワーフじゃないと判断された可能性があるくらいか。

《それで、ドワーフとはどんな話をしているんだ?》

《とりあえず、私達が異世界から来て、南部の森で5日間過ごすことは伝えたわ。しばらく雑談してドワーフの生活の話を聞いていたのよ。……何か、やたらタケノコを食べることを勧められたわ。身体に合わない可能性があるから、食べられないと伝えたのに結構しつこかったわね》

《タケノコ料理、美味そうだったか?》

《……生のタケノコを食えと言われても困るのよ》

《そもそも、料理という概念が無さそうでしたわ》

《ドワーフは火を扱うことも無さそうでした……》

《うわぁ……》

何と言うか、ドワーフは思っていた以上に原始的な生活をしているらしい。

もしかして、エルフも火を扱わないのか?

A:扱いません。少なくとも、エルフの村の設備には存在していません。

つまり、この世界自体の文明レベルが低いのか?

この世界がどういう歴史を歩んできたのかは知らないが、そこまで発展できなかったのか?

もしくは、発展した場所が全て消え去った後なのか……。

そう言えば、エルフの服装は麻っぽい材質で、やたらシンプルな造りだったな。

《タケノコを食べられないと言ったら、せめて村を見て行ってくれ。客人として歓迎すると言われて、短時間だけという条件で行くことにしたわ。別に良いわよね?》

《ああ、それは構わないけど、エルフとの戦いには関わらないようにしろよ?》

《それはもちろんよ!》

《食べ物を食べず、戦いに関わらないなら、観光気分で楽しんで良し!》

《了解!》

可能なら、俺もエルフの村を一目見るくらいはしたい。

ただし、絶対に生のキノコは食べないぞ。

作者のマイブームは、バラエティパックを買って、キノコとタケノコを混ぜて食べることです。

邪教徒・・・

エルフとドワーフの対立は本編で入れたかったけど、入れる状況がなかったため深淵送りになりました。

当初はキノコ頭(マッシュルームカット)のエルフとタケノコ頭(ツンツン)のドワーフを考えていましたが、没になりました。