第248話 大虐殺と解放
第248話 大虐殺と解放
マッグガーデン様より12月14日にコミカライズ1巻、1月10日にノベライズ1巻が発売予定です。
特典のSSがあるのですが、スキルに関する小話を書きました。
本作には数多くのスキルが登場していますが、本編で詳しく説明されなかったり、
登場したものの使われることなくフェードアウトしたスキルもかなりの数になります。
そんなスキル達について、主人公達が検証したり話題に出したりします。
本日中に活動報告を出し、そこにサンプルのSS(特典とは別)を1つ載せる予定です。
激しい 戦い ( ジャンケン ) の末、海王ウォーアルに勝利したことで、海上に光の柱が現れた。
あの光の柱からは、今のところ嫌な雰囲気は感じない。
「もし、知っていたら教えてほしい。この世界は、これからどうなるのだ?」
しばらく窓から光の柱を眺めた後、海王ウォーアルが真剣な表情で尋ねてきた。
「ミオ、悪いけど説明を頼む」
「了解!落ち着いて聞いてね……」
ミオが『 深淵 ( アビス ) 』の異世界について説明していく。
ある程度は予想していたのだろう。海王ウォーアルは冷静に話を聞き終えた。
「やはり、この世界に未来はないのか……」
「うん、世界の収縮が始まっている以上、滅びるのは間違いないと思うわ。残念だけど、私達もこの状態から世界を元に戻す方法は知らないの」
「そうか。残念だが、世界の寿命ならば仕方あるまい。もう1つ聞かせてほしいのだが、あの光の柱は誰でも使うことができるのか?」
「いいえ、光の柱を出現させる条件を満たした人と、その人に触れている人しか転移できないわ」
「ふぅ、それは良かった」
ミオの回答を聞き、海王ウォーアルは安堵したように息を吐いた。
「今、何か嬉しいポイントあったの?」
「うむ、万が一、陸の民が光の柱に触れても、この世界から逃げ出すことができないと分かって安心したのだ。陸の民がいなくなるのは構わないが、我が民を勝手に連れていかれるのは困るからな」
「ああ、そういう……」
海王ウォーアルは座っていた玉座から立ち上がった。
「私は今からグラード王国に行き、我が民の魂を解放してくる」
「解放ってもしかして……」
「うむ、陸の民を殺して、海の民の魂を解き放つ」
海王ウォーアルは平然とした顔で陸の民の殺戮を宣言した。
「長らく待たせてしまったが、知った以上は我が民の窮状を無視することなどできん。裏切り者である陸の民を殺して、海の民を解放するのは王として当然のことだ」
敵を殺し、味方を助ける。まさに一石二鳥というヤツだな。
「1つお聞きしても良いですか……?」
「さくら、だったな。何を聞きたい?」
「先程、グラード王国との契約で海に封じられたと言っていましたけど、グラード王国に入ることはできるんですか……?魔術の契約なら、破るのは簡単ではないですよね……?」
「そうだな。契約違反により、グラード王国に入った時点で瀕死の重傷を負うだろう。しかし、それは私が海の民を見捨てる理由にはならない。これは、私が海の王として最後に成すべき事だ」
瀕死の重傷を負うというのに、何でもないことのように答えた。
既にそこまでの覚悟が決まっているなら、俺達に口を挟める問題じゃないな。
「これで質問の答えになったか?」
「は、はい、ありがとうございます……。あの、頑張ってください……」
「ああ、全力を尽くすつもりだ。しかし、陸の民を滅ぼした後、私が無事でいる保証はない。だから、お前達への褒美は今のうちに渡しておこうと思う」
海王ウォーアルは玉座の間から宝物庫に通じる扉を開いた。
高校の体育館くらいの広さの宝物庫の中には、金銀財宝のような物、古くて価値のありそうな物、見た目は地味だが凄まじい力を持った宝物などが所狭しに並べられていた。
「どうせ滅びる世界だ。この中から、好きな物を好きなだけ持って行くといい。……待て。済まないが、この槍だけは駄目だ。私が今から使用するからな」
海王ウォーアルは太っ腹なことを言った直後、思い直して1本の槍を手に取った。
トライデント
分類:大槍
レア度:伝説級
備考:海王専用、不壊、武器召喚、水流操作、身体能力強化(海限定)、状態異常耐性付与(海限定)
トライデントの名に相応しく、その槍は 伝説級 ( レジェンダリー ) の三叉槍だった。
海の支配者が三叉槍を使うというのは、ギリシア神話のポセイドンしか連想できない。
「その槍は?」
「我が愛槍、トライデント。海の国に古くから伝わる最強の槍だ。陸で能力が落ちるのは海の民と同じだが、それでも下手な武器を使うよりは良いだろう」
俺が尋ねると海王ウォーアルはトライデントを軽く振りながらそう答えた。
「我が民達よ、お前達はどうする?」
その言葉を聞いた人魂達は、海王ウォーアルの元に飛んで行った。
先程のウォーセッツの魂とは違い、迷いなく真っ直ぐ飛んでいた。
「そうか、付いて来てくれるか。私は良い民を持ったな」
人魂達は海王ウォーアルに触れると消えた。身体の中に取り込まれたのだろう。
「それでは、私はそろそろ行かせてもらおう。宝物は好きにしてくれ」
「ちょっと待ってくれ。俺達に何か手伝うことはあるか?」
宝物を全部くれると言われ、気分が良いので助力を提案する。
グラード王国の連中と直接戦う気はないが、ポーションを渡すくらいのことはできる。
「不要だ。これは海の国の王として私1人で成すべき事。無関係な異世界の者を巻き込む気はない」
「……そうか。それじゃあ、健闘を祈る」
「ああ、さらばだ」
そう言って、海王ウォーアルは俺達の前から去って行った。
「それで、ご主人様はどうするの?」
「気になるから、海王ウォーアルの戦いの結末だけは見ていこうと思う」
俺達は宝物を回収しながら、海王ウォーアルの動向を確認する。
コッソリ、タモさんに後を追わせているので、リアルタイムの映像を見ることができる。
早速、タモさんの見ている映像を共有する。
《すごーい!》
海の王の名、そしてマグロの名は伊達ではなく、海王ウォーアルは凄まじい速度で水上を 滑っていった ( ・・・・・・ ) 。
「いや、泳がないのかよ!」
海の民を名乗り、海王を名乗り、魚の名を持ち、海を泳がないのは想定できなかった。
「ビキニアーマー着ていたから、泳いでいくものだとばかり思っていたわ」
「まさか、スケートみたいに進むとは思っていませんでした……」
「海の民は予想外が多すぎますわね」
完全に予想外の移動方法ではあるが、船や魚よりも速く進み、俺達が宝物を回収し終わるよりも早く陸地に到着した。
「これ、身体中から血が出ていますよね……。本当に瀕死です……」
《ぼろぼろー……》
陸地に足を踏み入れた瞬間、契約違反の罰として海王ウォーアルの身体中から血が噴き出した。
HP的にも8割以上を削られており、戦う前からボロボロになっている。
「確かに血塗れの瀕死ですけど、戦意は全く衰えていないようです」
「ああ、凄まじい精神力だな」
ボロボロではあるが、足取りはしっかりしているし、武器の握りが甘くなるようなこともない。
痛みに強いというよりは、精神力で痛みを捻じ伏せているように見える。
「あ、見つかった……と思ったら一瞬で刺し殺したわ」
「見事な踏み込みでしたわね」
海王ウォーアルは堂々と港町に入ってきたので、すぐにグラード王国の連中に見つかった。
しかし、次の瞬間には目撃者の頭部にトライデントが突き刺さっていた。
目撃者の死体から人魂が抜け出てくると、海王ウォーアルはその人魂を大事そうに取り込む。
「灯台に登ったわね。何しているのかしら?」
海王ウォーアルは港町の人達を殺して回り、屋外に誰もいなくなったところで、近くにあった灯台を外側から駆け上がった。
「キョロキョロ周囲を見回しているし、何処を攻めるか考えているんじゃないか?」
「王都では騎士達が迎え撃つ準備をしているようです」
王都の方をマップで確認すると、マリアの言う通り騎士達が完全武装で迎撃準備を整えていた。
俺達が海王ウォーアルの元に向かったため、海王ウォーアルに海の民を騙したことがバレたと判断し、襲撃に備えているのだろう。
「さくら様、顔色が悪いけど大丈夫ですか?」
「すいません……。流血が多すぎて気分が悪くなってきました……」
「さくら、無理して見る必要はないからな」
「はい、休ませてもらいます……」
俺と一緒に旅をして、流血にも大分慣れてきたさくらだが、ここまでガッツリな虐殺シーンを見るのは流石に厳しかったようだ。
「港町は全滅のようです」
「明らかに隠れている人の居場所が分かっている動きでしたわ。何か能力でもあるのでしょうか?」
海王ウォーアルは港町にいた全ての人間を殺した。
その途中、何処に人が隠れているか、知っているような動きを見せたのが気になる。
A:海王ウォーアルは海の民の居場所を探すことができます。グラード王国は全ての国民が人魂を取り込んでいるため、グラード王国民の居場所を追うことが可能となります。
本人の言っていた通り、1人たりとも逃す気はないということだな。
「王都は最後にするようですわね。周辺の村々を次々と滅ぼしていますわ」
滅びかけの世界だけあって、グラード王国の人口は少なく、2000人は越えていない。
当然、王都に最も人口が集中しており、小さな村だと20人を下回ることもある。
海王ウォーアルはそんな小さな村すら逃さず、全ての王国民を殺す勢いで行動している。
「女も子供も年寄りも関係なく、降伏も命乞いも反撃も無視して皆殺しね」
「見るのを止めて良かったです……」
まさに地獄絵図といった様子なので、さくらは見なくて正解だと思う。
そして、あまり時間がかからず、生存者が残るのは王都だけとなった。
「王都の方も準備が整っているようです」
「最終決戦の始まりね」
最終決戦なので、ここからは音声付きで戦いを見ることにした。
海王ウォーアルは傷だらけになりながらも、それを全く感じさせない足取りで王都へと進む。
グラード王国の王都では、王女リランド……いや、新国王リランドが騎士団を率いて待ち構える。
リランドの手には、海王ウォーアルのトライデントに匹敵する武器が握られていた。
レーヴァテイン
分類:大剣
レア度:伝説級
備考:陸王専用、不壊、武器召喚、火炎操作、身体能力強化(陸限定)、状態異常耐性付与(陸限定)
匹敵するというか、まんまトライデントの陸版といった武器だった。
今度は北欧神話の武器だな。……どうでも良いけど、効果を対にするなら神話も合わせろよ。
「海王ウォーアル……」
「リランド姫か」
海王ウォーアルとリランド率いるグラード王国騎士団が邂逅した。
直後、海王ウォーアルはリランドに向かって駆け出し、トライデントを突き出した。
リランドはレーヴァテインによりその一撃を受け止める。
「海王ウォーアル、グラード王国の民を殺すのは止めてください! 復讐は何も生みません!」
「まさか、海の民を殺した貴様がそれを言うとは……」
鍔迫り合いのような状況のまま、リランドは海王ウォーアルの行動を非難した。
「確かに、 私 ( わたくし ) 達は海の民を殺しました。でも、仕方がなかったのです!」
「仕方がない、だと?」
「海の民を受け入れる数年前から、我がグラード王国の出生率は激減していました。海の民を受け入れた年には、出生率は0になっていたのです。我々陸の民が滅びを回避するには、海の民を取り込んで不老不死になる方法しかなかったのです」
出生率とは、割と直球で種族が滅ぶ原因が来たな。
片や食料の消滅、片や出生率の低下、滅びかけの世界だけあって、どちらも致命傷だ。
「……つまり、陸の民が生き残るか、海の民が生き残るか、2つに1つだったと言いたいのか?」
「はい。当然、 私 ( わたくし ) 達は陸の民を生かす道を選択しました。海の民には悪いことをしましたが、 私 ( わたくし ) 達はこの選択を後悔していません」
考えてみれば、どちらか一方の種族は生き残れるのか。
海の民を殺せば、陸の民が不死になり、陸の民を見殺しにすれば、海の民は陸で生きていける。
「ですが、貴女が我が国の民を殺して回ったせいで、陸の民が生きていくのも苦しくなりました。貴女が殺したのは、我が国の食糧事情を支える民達です。王都以外が滅んだ今、畑仕事を知らない王都の民が畑仕事を一から覚えなければならなくなりました」
「あくまで、自分達は被害者だと言い張るのか。本当に度し難い連中だな」
「何故、我が国の民を殺したのですか!指示を出した王家を狙うならまだしも、戦う力を持たない無力な民を狙うなんて最低です!」
「それならば、戦う力を持たない海の民を殺したお前達も最低ということになるぞ」
リランドのスタンスは、一貫して『自分達は仕方がない。お前は悪い』というものだった。
しかし、海王ウォーアルはリランドの言い分を一刀両断に切り捨てる。
「……海の民だって、今を生きる陸の民を殺すことを望んではいないはずです!」
「……貴様が、海の民を語るな!」
海王ウォーアルは声を張り上げ、トライデントに今まで以上の力を込めて振り抜いた。
弾かれたリランドは足で衝撃を殺しながら体勢を整える。
「海の民は、陸の民に取り込まれている間、常に苦痛を感じているそうだ」
「……何を、言っているのですか?」
「海の民達の言葉だ。貴様の語る自分達に都合の良い海の民の言葉ではなく、魂となった本物の海の民の言葉だ。私がどちらを信じるかなど、聞かなくてもわかるだろう?」
「まさか、異世界人に殺された時に……!? くっ!」
リランドが驚愕した瞬間に海王ウォーアルは再び距離を詰めてトライデントを振るう。
辛うじて一撃を防いだリランドは、更に連続で振るわれるトライデントを捌きながら、僅かな隙を見つけては反撃していく。
「ああ、彼らが私の元に連れてきてくれたよ。愚かなことをしたな。彼らが私の元に来なければ、私が海の民の現状を知ることなどなかったというのに……」
刺突と斬撃が繰り返される中、海王ウォーアルはリランドに語りかけた。
「……1年前、兄である第一王子の妻が奇跡的に女児を出産しました。実に100年ぶりの慶事です。しかし、このままでは、その子は 私 ( わたくし ) 達よりも先に死んでしまいます。そこで、思い出したのです。1人、生き残っている海の民がいたことに……」
「なるほど、私をその子に食わせたいのだな」
「海の民は滅んだのです!貴女も、生き残る陸の民のために死んでください!」
「…………」
リランドの勢いが増し、海王ウォーアルが防御に回ることが多くなった。
海王ウォーアルは無言になり、何か言葉を選んでいるように見えた。
「確かに、海の民は私1人となった。子を産むことができない以上、海の民に未来はない」
「だから、復讐なんて止めて、大人しく滅んでください!」
「……勘違いしているようだが、これは復讐などではないぞ」
「え……?」
リランドが大きく飛び退き、海王ウォーアルも追わなかったことで、2人の間に距離ができた。
「そもそも、海の民にとって、肉体の死は完全な死ではない。魂となっても自我はあり、制限はあるがある程度は自由に行動することもできる」
「それがどうしたというのです……」
「分からないのか? 魂だけとなっても、海の民は海の民なのだ。先に述べた通り、陸の民に取り込まれると海の民は苦痛を感じる。私は海の民の王だぞ。海の民が苦しんでいるというのなら、海王である私が救いに行くのは当然のことだろう?」
「あ……」
海王ウォーアルにとって、陸の民の虐殺は復讐ではなく、海の民の解放でしかなかった。
今まで、リランドが海王ウォーアルに言っていたことは、全くの見当外れだったのである。
「お前達と同じだ。私は陸の民よりも海の民を選ぶ。陸の民を殺して海の民を救う。それだけだ」
リランド達の『仕方ない』は、そのまま海王ウォーアルにも当てはまる。
自分達の行動を『仕方ない』と言うのなら、海王ウォーアルの行動を否定することもできない。
「どうやら、私の説得は無駄だったようですね……」
「……まさか、あれは説得だったのか?てっきり、挑発だと思っていたぞ」
加害者が被害者のように振る舞うことを説得とは言わないよな。
「……どうあっても相容れないようですね。もう容赦はしません。貴女はここで殺します」
「ああ、それで良い。海の民と陸の民、どちらかが滅びるしかないのだからな」
『火炎操作』により、リランドの持つレーヴァテインの周囲に炎が纏わり付いた。
『水流操作』により、海王ウォーアルの持つトライデントの周囲に水が纏わり付いた。
「炎と水、相性的には少々不利ですが、陸ではその槍の力は弱まりますし、契約違反でボロボロになった今の貴女では、十全に力を発揮することもできませんよね?」
「ふっ、陸の民は弱いからな。丁度良いハンデだ」
「そんなことを言っても、契約魔法は強力ですから、立っているのもギリギリのはずですよ」
「この程度、我が民の100年の苦痛に比べれば、どうということはない」
余裕に見える海王ウォーアルだが、立っているのも厳しい状況なのは事実だろう。
ハッキリ言って、無駄話をしているだけで体力が削られているから、問答なんかせずに戦った方が良いのではないかと思う。
「皆さん! 私 ( わたくし ) に力を貸してください!海王ウォーアルを討たなければ、 私 ( わたくし ) 達に未来はありません!この国を守るため、死力を尽くすのです!」
「はい!」×多
リランドの鼓舞により、今まで戦いに手を出さなかった騎士達が武器を構える。
「多対一となりますが、卑怯とは言わないでくださいね」
「当然だ。これは決闘ではなく、互いの存亡を賭けた生存戦争なのだからな」
そして、ほぼ同時に海王ウォーアルとリランドは動いた。
そこからは言葉もなく、互いに水と炎を纏わせた武器を何度も撃ち合う。
「ぐっ……」
最後の戦いとなり、海王ウォーアルが傷を負うことも多くなった。
リランドとの一対一では拮抗していた戦いだが、騎士がリランドを守るように動くため、隙を突いたリランドの攻撃が何度も 掠 ( かす ) っている。
「ぐはっ!」
リランドが攻撃を受けることはないが、周囲の騎士は違う。
リランドを守ろうとして殺される者、海王ウォーアルを斬ろうとして返り討ちに遭う者、理由は様々だが、次々と騎士達は死んでいく。
「うおおおおおおお!!!」
「はあああああああ!!!」
騎士は数を減らしていき、海王ウォーアルは傷を増やしていく。
リランドも傷はないが、激しすぎる戦いで息は絶え絶えになっている。
どちらが先に限界を迎えるか、そんな戦いとなっていた。
「はあ!」
「せい!」
全ての騎士が死に絶え、最後に残ったのはリランドと血だらけの海王ウォーアルだった。
騎士がいなくなり、守られることもなくなったリランドの身体も傷ついていく。
それでも、単純な残りHPで言えばリランドに軍配が上がっている。
「死んで、くだ、さい!」
「断る、お前が、死ね!」
ボロボロになりながら、互いを殺すために2人は武器を振るう。
武器に纏っていた水と炎の勢いも弱くなっている。
「…………」
「…………」
無言になりながらも、武器を振るうことは決して止めない。
「かはっ……!」
「ぐあっ……!」
そんな戦いの決着はあっけないもので、相打ちと呼べるものだった。
しかし、相打ちでも勝敗は決まる。心臓を貫かれたリランドが負けで、腕を切り落とされた海王ウォーアルの勝ちである。
「我が国の……民には……海の民の……魂を……解放させます……。だから……、皆殺し……だけは、……容赦して……くれません、か……?」
リランドは胸を貫かれても即死はしなかった。
その上で、最後までグラード王国の民が生き残るための交渉をしている。
「断る……。海の民の……解放の方法など……貴様達は……知らないだろう……。出来もしないことで……こちらの譲歩を……得ようとするな……」
「残念……です……」
そう言い残してリランドは絶命した。
「……………………」
勝利した海王ウォーアルだが、身体中ボロボロで左腕も失っている。
生きてはいるが、動くこともできずに座り込んでいた。
「……よし、行くか」
そして、5分も休まずに立ち上がり、王都の陸の民を殺すために動き出した。
そこからは、逃げ惑う民と殺し回る海王という地獄絵図が再び広がった。
どうやら、戦える者は全員が海王ウォーアルとの決戦に参加していたようで、残る王都の住民は碌な抵抗もできずに殺され続けている。
正直、今の海王ウォーアルだったら、リランドと一緒にいた騎士が5人いれば殺せると思う。
しかし、その5人が現れることはなく、グラード王国はその歴史に幕を閉じることになった。
……今更だけど、王城で俺達が騎士を殺していなければ、結果は逆転していたかもしれないな。
海王ウォーアルは海の民を取り込んだ陸の民を皆殺しにした。
しかし、海王ウォーアルも無事ではなく、半死半生の状態で倒れ伏している。
最後の1人を殺し、海の民の魂を取り込んだ時点で、限界を迎えてしまったのだ。
いや、既に限界を超えていたが、気力だけで目的を達成したと言った方が正しいか……。
「…………」
俺は倒れて動かない海王ウォーアルの口にハイポーションを流し込む。
「うっ……。お前達、どうしてここに……?」
少しして、HPが回復した海王ウォーアルが起き上がる。
「宝物をもらったお礼を言いに来た。良い宝物をありがとう」
「態々、礼を言いに来たのか?それも、回復までして……」
「気にしないでくれ。礼を言う相手が倒れていたら、助けるのは当然だからな」
「……そうか。ありがとう、回復してくれて助かった」
恐らく、俺の言葉が口実だということには気付かれているだろうな。
「ご主人様、持ってきたわよ!」
「お、待ってたぞ」
布に包まれた棒状の荷物を持ったミオが小走りで近付いてくる。
ミオは布を剥がし、取り出したものを海王ウォーアルに当てる。
「それは……私の腕か?」
「ボロボロだけど、綺麗にしておいたわよ。ご主人様、これで大丈夫よね?」
「ああ、元の腕があった方が負担は小さいからな。これ、飲んでくれ」
「これは……?」
「これを飲めば切られた腕が元通りに繋がるはずだ」
俺は部位欠損を治す薬品、『神薬 ソーマ』を海王ウォーアルに手渡した。
「異世界には、そんな薬品が存在するのか……」
「感謝してくれよ、割と貴重な品なんだ」
余談だが、同じ効果の魔法である『リバイブ』を使わず、『神薬 ソーマ』を選んだのは、物の方が恩を着せやすいからである。
「そうだろうな。ああ、感謝しよう」
海王ウォーアルが『神薬 ソーマ』を飲み干すと、すぐにその身体が輝きだした。
輝きが収まると、切られた腕は元通りに繋がっていた。
「どう?痛みはある?」
「いや、問題ない。まさか、五体満足で生き残るとは思わなかった……。お前達に感謝しているのは事実だが、私1人生き残ったところで、という気持ちも消えないな……」
海王ウォーアルは治った腕を見ながら、何とも言えない複雑そうな表情をしている。
「私1人では子供を産むことはできない。生き残ったことを素直に喜べそうにない」
「質問なんだけど、他の種族との間に子供が生まれた場合、海の民にならないの?」
「私の知る限り、海の民は海の民同士でしか子を生せない。海の民は滅んだも同然だ」
「そっか……」
自分1人万全な状態で生き残っても、種族としては滅んだのだから喜ぶに喜べないだろう。
「……ちょっと、俺の提案を聞いてくれないか?」
「ふむ、言ってみると良い」
「俺の配下になって、『 深淵 ( アビス ) 』の外の世界に来ないか?」
「あ、いつものだ」
ミオの言う通り、ある種の『お約束』である。
「……それは、一緒に光の柱に入るということか?」
「いや、そうじゃない。俺の配下になれば、直接『 深淵 ( アビス ) 』の外の世界に行けるんだ。ここよりは滅びにくい世界だし、海の民を復興する手段があるかもしれないぞ?」
「……………………」
海王ウォーアルはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと首を横に振った。
「大変魅力的な提案だが、お断りさせてもらおう」
「理由を聞いても?」
「理由は2つある。1つ目の理由は仁達の世界にいくのなら、私よりも相応しい者がいるからだ」
そこで、海王ウォーアルは王城の方を向いた。
「あの城には、グラード王国の王族の子が1人残っている。仁よ、可能ならばその子を『 深淵 ( アビス ) 』の外の世界に連れていってくれないか?」
海王ウォーアルはリランドの話にあった赤子を殺さなかった。
その赤子は海の民を取り込んでいないのだから、復讐ではなく海の民の解放を目的としていた海王ウォーアルにとって、殺す対象ではなかったのである。
当然、海王ウォーアルがここで死んでいたら、世話をする者がいない赤子も死んでいただろうが。
「仁達がグラード王国を嫌悪しているのは知っているから、無理にとは言えないが……」
「あー、他のヤツならともかく、その子だけは連れていっても大丈夫だな」
ある意味、海王ウォーアルと同じ理由なのだが、その赤子だけは 人 ( ・ ) 間 ( ・ ) を ( ・ ) 食 ( ・ ) っ ( ・ ) て ( ・ ) い ( ・ ) な ( ・ ) い ( ・ ) ので許容範囲内だ。
「さくら、セラ、その子供を連れてきてくれ」
「はい、わかりました……」
「了解ですわ」
さくらとセラに子供の保護をお願いする。
連れていくと決めたのなら、早い内に保護した方が良いからな。
「そもそも、その子を連れていくことと、海王ウォーアルを連れていくことは別だよな?」
「いや、そうでもない。その子にとって、私は親や家族を殺し、国を滅ぼした 仇 ( かたき ) だ。どちらのためにも、関われる距離にはいない方が良いだろう」
「でも、関わらないように離すことはできるわよ?」
「それでも、別の世界なら最も確実だろう?」
海王ウォーアルは王城の方から光の柱の方へ向き直した。
「それに2つ目の理由もある。海の民を復興するのなら、『 深淵 ( アビス ) 』の中の世界で探したいのだ。仁、あの光の柱に入る時、私も一緒に行かせてくれないか?」
今まで、俺の配下になって滅ばない世界に行きたいという者はいたが、『 深淵 ( アビス ) 』の中の世界を探索したいという者はいなかった。
「それは構わないけど……相当に危険だぞ? 入っただけで即死するような世界もある」
俺は少し驚きながらも、まずはその危険性を訴えかける。
「ああ、危険なのは承知の上だ。危険で、何が起こるか分からないからこそ、海の民を復興する方法が見つかるかもしれないだろう?」
「……そうとも言えるのか?」
アルタ、海の民を復興する可能性、『 深淵 ( アビス ) 』の外と中でどちらの方が高いと思う?
A:『 深淵 ( アビス ) 』の中です。『 深淵 ( アビス ) 』の外では、さくらの魔法も含め、海の民のような特殊な魂を持った生命体に干渉することは難しいと思われます。
魂に関係する部分は異能を使っても自由自在という訳にはいかない。
それが別の世界の特殊な魂となると、扱うのが非常に難しいというのも納得だ。
「わかった。決意は固そうだし、一緒に光の柱に入ろう」
「おお、助かる!」
「俺達にも目的があるから、一緒に復興方法を探してあげることはできないぞ?」
「それは当然だ。この世界から脱出させてくれるだけで十分だ」
はっきり言って、俺は海王ウォーアルのことをかなり気に入っている。
何も予定がないのなら、しばらく一緒に探してあげても良かったのだが、残念ながら今はそうもいかない事情がある。
しかし、何の準備もせずに『 深淵 ( アビス ) 』を移動するのはあまりにも危険だ。
「ご主人様、折角だし、異世界で役立つアイテムをプレゼントしてあげない?」
「いや、そこまでしてもらうつもりは……」
「それは良いな!役に立ちそうなアイテムを集めてみよう!」
ミオのナイスアイデアを海王ウォーアルは断ろうとするが、そんなことは俺が許さない。
「ミオは食料、マリアは戦闘、ドーラは生活関連のアイテムを選んでくれ。俺は勘で適当に選ぶ」
「おっけー!」
「はい、お任せください」
《はーい!いいのえらぶよー!》
気に入った相手が無駄死にするのは嫌なので、割と本気でお役立ちアイテムを選ぶ。
役に立たなそうなアイテムでも、勘が『これだ!』と言ったらそれも選ぶ。
「ただいま戻りましたわ。……何をしているんですの?」
「地面がアイテムで埋まっています……」
赤子を連れて戻ってきたセラとさくらが見たのは、一面に広がるアイテムの山だった。
「海王ウォーアルが1人で『 深淵 ( アビス ) 』を探索するから、役に立ちそうなアイテムをプレゼントするんだ。2人もアイテム選びを手伝ってくれないか?俺は赤子を送ってくるから」
「良くわからないですけど、わかりましたわ」
「ミオちゃん、詳しく教えてください……」
「はーい」
2人にもアイテムの選択を頼み、俺はさくらから赤子を受け取る。
少し強引にテイムして、タモさんに石化させて、< 無限収納 ( インベントリ ) >に放り込む。
一応は王族のようだが、特別扱いはせず、迷宮の孤児院で育ててくれと頼むことにした。
さあ、アイテム選びを続けようか。
リランド王女のセリフが薄っぺらいのは仕様です。
海王ウォーアルはいつも通り配下にする案もあったのですが、
何となくしっくりこなくて一時的な同行者にしました。
特典SSに力を使いすぎて、本話の執筆がギリギリになっていたりします。
Web版、ノベライズ版、コミカライズ版で少しずつ展開が違うので、
どの一部として見ても極力違和感がないように話を作るのが大変でした。