第250話 対戦世界とコマンダー
第250話 対戦世界とコマンダー
ノベライズ発売中です。ご購入いただいた方はありがとうございます。
そして、そんな記念すべき月の本編は超パロディ回です。
世界を壊し、輝く球体に吸い込まれた俺達が辿り着いたのは、極々ありふれた草原だった。
「ふう、無事に辿り着けたみたいだな」
「うーん、ウォーアルさんも無事だと良いけど……」
「危ない世界も多いですから、やっぱり少し心配ですわね」
ミオとセラがウォーアルの安全を心配する。
『 深淵 ( アビス ) 』には即死級に危険な世界もあるから、何とも言えないんだよなぁ……。
織原に付け入る隙を与えないため、タモさんを護衛に付けることもできなかったから、完全にウォーアルの安否は不明となっている。
俺には幸運を祈ったお守りを渡すくらいのことしかできなかった。
「そういえば、転移条件がまだ来ないな」
「言われてみれば、いつもより遅い気がするわね」
「転移条件を行動の指針にしていますから、遅いと少し困りますね……」
さくらの言う通り、俺達は転移条件を元に行動指針を決めることが多い。
転移条件を知らないで行動して、いつの間にか転移条件を満たせなくなるのが一番怖いからな。
なお、世界を破壊して次の世界に行くという裏技は存在する。
アルタ、転移条件の通知が遅れている理由は分かるか?
A:いいえ、不明です。ただ、正規の手順で世界を移動していないことが原因だと推測されます。
まあ、世界を壊すのは反則みたいなものだから、それくらいのデメリットはあって然るべきか。
「仁様、向こうに人の住む街があります」
「とりあえず、情報収集をしておこうか」
「マップを確認ね!」
情報収集のため、マリアの示した方向にある街をマップで確認していく。
「……これは、魔物同士を戦わせているんですの?」
「魔物じゃなくて、バケモンって言うみたい。そして、バケモン同士を戦わせるバケモンバトルが日常化している世界。うん、ゲームで見たことのある世界観ね」
「俺も見たことがあるなぁ」
「私もです……」
この世界には、魔物のような戦う力を持ったバケモンという生物が存在している。
そして、この世界の『人』はそんなバケモンを捕獲し、育て、戦わせる。その戦いはバケモンバトルと呼ばれ、この世界では日常的に行われる競技のようだった。
まさに、モンスター育成対戦ゲームの世界という訳である。
「ちょっと、ワクワクしてきたわね。私、育成ゲームも大好物だから」
「バケモンバトル関連の転移条件だったら、ミオがやってみるか?」
「是非! ……と言いたいところだけど、現実でやるとなると勝手が違うだろうから、その辺は様子を見てから考えるわ。転移条件を満たせなかったら、長期間拘束されるかもしれないし……」
「それもそうだな。……転移条件はまだ来ないし、もう少し様子を見ておくか」
再びマップを見て情報を集めていく。
「バケモンはキューブとやらに収納するようです。アイテムボックスのような物でしょうか?」
「これも見たことあるわね……」
バケモンはバケモンキューブという手のひらサイズの箱に入れることができる。
そして、捕獲にもこのバケモンキューブを使うようだ。
「人型のバケモンも結構多いですね……」
《ドラゴンはいなかった!》
バケモンの中には、ワーウルフやハーピィ、天使や悪魔といった人型の種族も少なくなかった。
狼やライオンのような動物型のバケモンもいれば、スライムやゴブリンのような魔物っぽいバケモンも存在した。
しかし、ドーラの言うようにドラゴンのバケモンだけはどこにもいなかった。
「……やっと来たか」
しばらくして、ようやく転移条件が届いた。
アルタ、教えてくれ。
A:はい、以下の3点が異世界への転移方法です。
①240時間生存する。
②バケモンリーグで優勝する。
③バケモンを151種類集める。
「これ、何を求められているのかが分かりやすいわね」
「バトルで最強になるか、コレクション要素のコンプだな」
「本当にゲームみたいです……」
「仁様、良く分からないのですが、この条件は10日で満たせるものなのですか?」
日本の常識に詳しくないマリアが質問してきた。
ミオから日本について色々と聞いているそうだが、そこまで細かいことは知らないだろう。
「ゲームなら10日あればクリアできるだろうが、現実だとタイミングが問題になるだろうな。バケモンリーグとやらが10日以内に開催されるのかも分からないし……」
「コンプ要素の方も私達だけで揃えられる保証がないわよ」
「ああ、限定的なヤツがいたら、10日で揃えるのは難しそうだ」
「151種類目の子は特に怪しいわね」
これ見よがしの端数だから、その可能性は高そうだ。
A:バケモンリーグの方ですが、マップに表示中の街、セントラルシティで3日後に第1000回が開催されるようです。参加登録の締め切りは本日中となっています。
おお、ナイスタイミング。しかも、記念すべき第1000回だ。
「これは、参加するしかなさそうだな」
「キューブも街で買えるみたいだし、街に行くのは確定ね!」
「でも、飛び入り参加で普段から鍛えている人達に勝てるんでしょうか……?」
「確かに、 私 ( わたくし ) 達が直接戦うならともかく、バケモンとやらを育てて戦うとなると、この世界の方達の方が上手な可能性は低くありませんわね」
正直、バケモンリーグが3日後というのは厳しい。
今から捕まえて育てても、まともに仕上がる保証はない。
「駄目なら収集の方に切り替えれば良いんですよ。それも駄目だったとしても、10日で次の世界に行けるんですから、気にしなくて大丈夫ですって」
「そうだ。とりあえず、やれることからやっていこう。まずは街に出発だ」
《ゴーゴー!》
こうして、俺達は最初の街、セントラルシティに向かうことになった。
目指せ、リーグチャンピオン!
しばらく歩き、セントラルシティに到着した。
セントラルシティは巨大な壁に囲まれており、更に透明なドーム状の結界で覆われているため、正規の入口以外から出入りすることは不可能になっている。
隠れて入る理由もないので、正規の入口に入り、受付と思われる人の前まで進む。
これで入れてもらえないとなったら、諦めて10日待つことになる。
「セントラルシティへようこそ。……見ない顔ですね。貴方達はセントラルシティの住人ではないようですが、どちらからいらしたのでしょうか?」
受付にいた女性は、俺達の顔を見ただけで街の住人じゃないと断言した。
もしかして、街の住人全員の顔を覚えていらっしゃる?
「ああ、俺達はこの街の住人じゃない。そして、俺達はこことは別の世界から来た。幾つかの理由があって、この街にしばらく滞在させて欲しい」
「別の世界……。少々お待ちください。前例がないので、中央に確認いたします」
そう言って、受付の女性は手元のタブレット端末に何かを入力した。
この世界、日本と同等以上に科学技術が発展しているみたいだな。
「お待たせいたしました。確認しましたところ、貴方達はゲストとして街に滞在することが可能です。基本的な権利は街の住人に準じますが、永住となると別のお手続きが必要になります」
「見知らぬ連中に随分な大盤振る舞いだな」
まさか、無条件で滞在する権利を得られるとは思わなかった。
しかも、永住することすら難しくはなさそうだ。
「中央が決めたことですので、理由までは私には分かりかねます。また、貴方達には中央より1人当たり1000万クレジットが支給されます。街の中でのお買い物などはそちらをご利用ください」
「……待ってくれ。お金まで支給されるのか?街の中で何か換金しようと思っていたんだが……」
「異世界の物品ですか。それは高く買い取って頂けると思いますよ」
「ちなみに、1000万クレジットってどのくらいの価値があるんだ?」
「私の年収10年分くらいですね。ああ、私はこの街でも高給取りに分類されますよ」
「…………」
言うまでもなく、ただの訪問者に渡すには過剰すぎる金額である。
コレ、本当に貰って大丈夫なお金か?後で何かさせられるんじゃないよな?
「ご安心ください。こちらは交換条件も返却も必要ない観光支度金となっております」
「そう言われても、何かあるようにしか見えないぞ?」
「もちろん、中央にも思惑はあるのでしょうが、滞在許可と観光支度金を引き合いに出すことはしないと断言されております。私の推測にはなりますが、まずはこの街を楽しんで欲しいと考えているのではないでしょうか。何かあるとすれば、この街を楽しみ、愛着を持った後かと……」
「なるほど、お金じゃなくて、愛着で頼み事をする気か……」
それは確かに効果的かもしれない。
お金で無理矢理言うことを聞かせるより、愛着を持たせてから自発的に頼み事を聞かせる方が確実だし、モチベーションにも差が出てくるはずだ。
決定権はこちらにあるが、その決定を全力で誘導してくるのか。良いだろう。
「分かった。そのお金は受け取らせて貰う。愛着は保証できないけどな」
「承知いたしました。それでは、こちらのカードをお受け取りください。滞在許可とクレジットが入っております。裏面にお名前の記載もお忘れなきようお願いいたします」
受付の女性に渡されたカードに名前を記入していく。
カードの中にはICチップのような物が埋め込まれているのが分かる。
「1つご確認させていただきたいのですが、この街の案内は必要でしょうか?もし、必要でしたら案内人をお付けさせていただきます。もちろん、費用などは一切頂きません」
「……そうだな。お願いしても良いか?」
ここまで来たら、タダでやってもらえることは全部やってもらおうじゃないか。
「承知いたしました。少々お待ちください」
そう言って、受付の女性は後ろにある事務室の中に入っていき、2分程で戻ってきた時には、事務員のような服装から、私服っぽい服装に着替えていた。
「お待たせいたしました。貴方達の案内を務めさせていただきます。セントラルシティ、第三ゲート主任監査官のシュシュです。どうぞ、よろしくお願いいたします」
受付の女性改め、シュシュは丁寧なお辞儀をして見せた。
「……受付の仕事は良いのか?」
「はい、既に話を聞いている私が適任だと思いましたので、仕事の方は代わってもらいました」
「そうか、それじゃあ、よろしく頼む」
「はい、お任せください」
街の案内をシュシュに任せると決めたところで、1つ忘れていたことを思い出した。
「そういえば、俺達の事情を話していなかったな」
「ご主人様、自己紹介も忘れているわよ」
「それも忘れてた……」
そこから、俺達は軽い自己紹介と軽い経緯、軽い『 深淵 ( アビス ) 』の説明をすることにした。
「差し支えなければ、その転移条件をお教えいただけないでしょうか?」
「まあ、今回は隠すような物でもないから構わないぞ」
転移条件の説明をしたところで、シュシュが興味深そうに聞いてきた。
物騒な転移条件があると隠した方が良いだろうが、今回は問題なさそうなのでそのまま話す。
「なるほど、バケモンリーグの優勝と151種類の収集ですか……」
転移条件を聞いたシュシュは何かを思案しているようだった。
「それでしたら、リーグ優勝を目指した方が良いと思います。現在、バケモンの種類は150種類しか確認されておらず、151種類目の情報は公になっていませんから」
「そもそも、バケモンとは何か、というところから教えて欲しい」
「ああ、失礼しました。異世界にはバケモンがいないのですね。バケモンとは……」
シュシュがバケモンについて説明するのを聞く。
基本的にはマップで調べた内容のおさらいだが、知らない体で話を進める必要があるからな。
「この街のほとんどの住人は1匹以上バケモンを所持しております」
「シュシュさんもバケモンを持ってるの?」
「はい、私も持っています。見ますか?」
「見せて見せて」
ミオが頷くと、シュシュは鞄からキューブを取り出し、ボタンを押して構えた。
キューブの模様が輝き、中から50センチメートル程の妖精が現れた。
「フェアリー種のダンシング・フェアリーです。私の昔からの相棒ですよ」
妖精は俺達の前にテクテクと歩いてきて、ペコリと小さくお辞儀をする。
可愛らしくホッコリするが、ステータスを見て認識を改めた。
種族名称:フェアリー
種族番号:132
種類名称:ダンシング・フェアリー
種類番号:132-15
LV:75
攻撃タイプ:魔法
能力タイプ:補助
最初に言っておこう。LV75は確認できる範囲では最高値だった。
もしかして、シュシュってトップクラスの実力者?
「相棒ってことは、この子も戦えるの?」
「はい、この子の役割は、『フェアリーサークル』という技で能力強化のフィールドを発生させることです。それだけで、後続の子達がかなり戦いやすくなるんですよ」
「持続型のバフかぁ。最初に使えると強いわね」
「はい、私が必ず最初に出す子でした。あの時は楽しかったですね」
シュシュが懐かしそうにそう言うと、ダンシング・フェアリーもコクコクと頷いた。
その話を聞き、俺は1つ気になったことがある。
「もしかして、バケモンリーグって団体戦なのか?」
「その話はまだしていませんでしたね。バケモンバトルは1-1、3-3、3-Freeの3つが一般的です。1-1は1対1のシングル戦、3-3は1対1を手持ち3匹で行う団体戦。3-Freeは1対1の勝ち抜き戦を手持ち3匹で行います。そして、バケモンリーグは3-3で行われます」
「優勝を狙うなら、最低2匹は勝てるバケモンを用意する必要があるわけだ」
1匹だけ強いバケモンを持っていても、勝利することはできないルールだな。
最低2匹は育てなきゃならないというのは、時間がない俺には不利な情報である。
「時間もないし、早速バケモンを捕獲したいんだが、キューブは何処で手に入れれば良い?」
「それでしたら、街のコマンダーショップに行けば購入できます」
今更だが、この世界ではバケモンバトルのプレイヤーをコマンダーと呼ぶらしい。
「案内してもらっても良いか?」
「もちろんです。一番近いショップはあちらですね」
シュシュに案内されてセントラルシティを進む。
セントラルシティの中は、やや近未来的な街並みが広がっていた。
ただし、高層ビルのようなものは建っておらず、高いビルでも5~6階程度だった。
よく考えたら、この街には結界が張ってあるから、そもそも高い建物は建てられなかったな。
「こちらがコマンダーショップです。コマンダーとして必要な物はここで大体揃います」
「キューブ……1個200クレジットか。思ったより安いな」
「高い物は捕獲率が高くなります」
「それじゃあ、1番安いヤツをまとめ買いしておくか」
「良いのですか?1000万クレジットあれば、最高級のキューブを大量に買えますよ?」
「ああ、良いんだ。ちょっとした拘りだな」
1番安くて捕獲率の低いキューブで凄いバケモンを捕獲したら格好良いと思う。
時間がないのだから、少しでも効率的に進めろとは、言ってはいけない。
「これ、どうやって使うんだ?」
1番安いキューブ100個とシュシュのお勧めする必需品を買い漁り、店を出たところでシュシュにキューブの使い方を確認する。
「中央のボタンを押すと模様が光りますので、10秒以内にバケモンに当ててください」
「ふむふむ」
試しにキューブのボタンを押すと、模様が光り、10秒で消えた。
「バケモンに当てなければ、何度でもボタンは押せます。バケモンに1度当てると、捕獲に成功しても失敗しても使用できなくなります」
「消耗品と考えると、高い物には手が出しにくくなるわね」
「と言いつつ、ミオさんは最高級のキューブをまとめ買いしましたわよね?」
「やっぱり、高い方がデザインが可愛いのよ。どうせ買うなら、可愛い方が良いじゃない」
実際に捕獲するかはともかく、この世界の常識ということもあり、全員がキューブを購入した。
ミオはデザインも捕獲率も良い最高級のキューブを購入していた。
《ごしゅじんさまー、ひからないよー?》
ドーラがボタンを押してもキューブの模様は全く光らなかった。
余談だが、ドーラは俺とお揃いで1番安いキューブを買っていた。
「もしかして不良品か?」
「おかしいですね。今までそんなことは聞いたこともありません。ちょっと失礼します」
シュシュはドーラからキューブを受け取ると、小さな端末と何やら通信させ始めた。
「分かりました。コードF401は『バケモンがボタンを押した』というエラーです。ドーラ様はバケモンなのですか?異世界にバケモンはいないはずでしたよね?」
「バケモンではないけど、俺達の世界で魔物と呼ばれる存在だな」
「魔物……。もう1度、失礼します」
シュシュはドーラに小さな端末を向けた。
「コードD251、コードH331ですか。どうやら、ドーラ様はバケモンではありませんが、バケモンに近い存在として扱われているようです。ドーラ様を捕獲することはできませんし、ドーラ様が捕獲することもできないようです。後、捕獲済みとしても扱われているようですが……」
「ああ、捕獲じゃないけど、俺が捕獲に近い状態にしているな」
「承知いたしました。少々お待ちください」
シュシュはタブレット端末を取り出し、何かを入力している。
恐らく、中央とやらに質問事項を送信しているのだろう。
「確認できました。特例でドーラ様を進堂様のバケモンとして登録することができます。バケモンリーグにも出場させられますが、如何いたしましょう?」
「ドーラを参加させて良いのか!?」
「はい。その代わり、街では『放し飼いのバケモン』に準ずる扱いになってしまいますが……」
「ドーラ、どうする?」
言い方は悪いが、人権を失う代わりにバケモンバトルに出られるようになるということだ。
メリットは大きいが、本人の意向を無視することはできない。
《ごしゅじんさまといっしょにたたかう!》
「……ドーラもやる気みたいだし、ドーラをバケモンとして登録してほしい」
「承知いたしました。……はい、これでドーラ様は進堂様のバケモンとして登録されました」
シュシュが再びタブレット端末を操作し、ドーラは俺のバケモンとして扱われるようになった。
「ドーラがバケモン扱いってことは、滞在許可のカードは返した方が良いよな?」
「はい、あのカードはヒト用ですから、今後は使用できなくなります。お手数ですが、進堂様とドーラ様のカードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ドーラ、シュシュにカードを渡してくれ」
《はーい》
「少々お待ちください」
シュシュは俺とドーラから受け取ったカードとタブレット端末を通信させると、ドーラのカードを鞄に仕舞い、俺のカードだけを返却してきた。
「ドーラ様のカードは回収させていただきます。ドーラ様のカードに残っていたクレジットは進堂様のカードに移しましたので、ドーラ様が何か購入する場合は進堂様のカードをご利用ください」
「クレジットは回収しなくて良いのか?」
「バケモン扱いとはいえ、ドーラ様もお客様であることに変わりはありません。クレジットはお客様へのサービスですので、回収なんていたしませんよ」
「それなら、有り難く受け取らせてもらおう」
ああ、本当に至れり尽くせりだ。
さて、ドーラに戦ってもらうなら、気になるのはバケモンバトルのルールだな。
「シュシュ、バケモンバトルに武器の持ち込みは許されているのか?」
「いいえ、バケモンバトルでは、バケモンが生来持つ武器以外の武器の使用は禁止されています」
「そうか。ドーラ、武器無しだったら人間形態とドラゴン形態、どちらが戦いやすい?」
《ドラゴン!》
俺が聞くとドーラは迷わずに即答した。
「ドーラ、これからしばらく、ドラゴン形態で過ごしてくれるか?」
《うん、いいよー!》
俺が頼むと、ドーラはドラゴン形態に変身してくれた。
ドラゴン形態で戦うならずっとドラゴン形態で過ごした方が良いという判断である。
「ドーラ様がドラゴンの姿に……。ヒトの姿は擬態だったということでしょうか?」
「いや、人間形態もドラゴン形態も本当の姿だ。ドーラは2つの姿を自由に変えられる 竜人種 ( ドラゴニュート ) という種族なんだよ」
「異世界にはそんな種族がいるのですね。興味深いです」
シュシュがドラゴン形態になったドーラを興味深そうに眺めている。
「ご主人様、あまり時間もないし、早く街の外にバケモンを捕まえに行かない?」
「バケモンリーグは3対3だから、あと2匹は捕獲しないといけないんだよな」
キューブも購入したことだし、次はバケモンの捕獲に挑戦するべきだろう。
ドーラは勝ち確定みたいなものだから、もう1匹勝ちを狙えるバケモンを捕獲したい。
「進堂様、街の外に行く前に、バケモンリーグへの参加登録をすることをお勧めします」
「参加登録はどこですれば良いんだ?」
「あちらにあるセントラルタワーで登録可能です」
シュシュが指し示したのは、街の中心にある最も巨大な建物だった。
セントラルタワーとは、セントラルシティ最大のバケモンバトル専門施設である。
この街では、バケモンバトルの重要度は非常に高い。それは、街の中心にある最大規模の建物がバケモンバトルの施設であることからも容易に想像できる。
そして、後数日でバケモンバトルの最強を決める大会が開かれるとなれば、バケモンバトルの専門施設内がバケモンコマンダーでごった返すのは、むしろ当然と言ってもいいだろう。
「ふう、何とか登録できた。人、多すぎだろ……」
バケモンコマンダーだらけのセントラルタワーを進み、何とか参加登録を終えることができた。
「それで、ミオはバケモンリーグに参加しなくて本当に良いのか?」
バケモンバトルに興味を持っていたミオだが、バケモンリーグへの参加はしないと言う。
「うん。ご主人様がドーラちゃんと一緒にリーグ優勝を目指すなら、私は捕獲の方を頑張ろうと思ったのよ。とりあえず、150種類は捕まえてくるわね」
「 私 ( わたくし ) もミオさんの方に同行する予定ですわ」
ミオとセラの2人で、転移条件の1つである『バケモンを151種類集める』を目指すらしい。
俺も確実に優勝できる保証はないし、並行して進められることは進めた方が良いよな。
問題は151種類目の存在だが、それは何とかなるだろう。
「それじゃあ、今度こそ捕獲のために……」
「あ!シュシュ、見つけたわよ!」
街の外に行こう、と言おうとしたが、突然現れた少女に遮られてしまった。
小走りで近付いてきた気の強そうな少女は、俺達ではなくシュシュに用があるようだ。
「リュリュさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、じゃないわよ!アンタ、前回だけじゃなくて、今回のバケモンリーグにも出ないって本当なの!?」
「はい、私はもうバケモンリーグには参加しません」
「何よそれ!勝ち逃げなんて絶対に許さないんだから!」
リュリュと呼ばれた少女は凄まじい剣幕でシュシュに詰め寄る。
「申し訳ありません。私も貴女と戦うことを毎回楽しみにしていたのですが、殿堂入りするとバケモンリーグへの参加資格を失ってしまうのです。通常のバトルも基本的に禁止されています」
「はあ?そんなこと初めて聞いたわよ!」
「バケモンリーグの10連続優勝というのは史上初めてらしく、特例措置だったと聞いています」
俺達は蚊帳の外なので、話の詳細は分からないが、ザックリとした経緯は何となく分かる。
つまり、シュシュが10連続でバケモンリーグに優勝していた絶対王者で、リュリュはチャレンジャー的な立ち位置にいたのだろう。
そして、10連続で優勝したことで、殿堂入りという名の運営ストップが掛かった訳だ。
「それじゃあ、アンタと戦うには……」
「私と同じく、10連続で優勝して殿堂入りするしかありません」
「ふざけんじゃないわよ!一体、何年かかると思ってるのよ!」
「私も本当に残念なのですが、中央からの指示なのです」
「ぐっ……」
中央を引き合いに出されたら、リュリュも強くは言えないようだ。
「……参加しないなら、どうしてセントラルタワーに来たのよ?それに、ソイツらは何なの?この街の住人じゃないわよね?」
そこで、ようやくリュリュは俺達の存在に気付いたようだった。
「この方達は遠い場所から来られたので、ゲート監査官として案内をしています。こちらの進堂様がバケモンリーグに参加したいとのことでしたので、セントラルタワーに案内いたしました」
「遠い場所? ……意味が分からないわ。それに、案内が必要ってことは、バケモンリーグに初参加ってことよね?真剣勝負の場に遊び半分で足を踏み入れて欲しくないんだけど?」
リュリュは不機嫌さを隠すこともせず、俺のことを睨みつけてくる。
「……リュリュさん、この方達はお客様です。あまり失礼なことを言わないでください」
「何よ、シュシュは私よりコイツらの肩を持つの?」
「肩を持つとかではなく、礼儀の話をしているのです」
「それを言うなら、バケモンリーグを穢す方が礼儀知らずじゃない。私が見たことないってことは、コイツはバケモンバトルも素人なんでしょ?弱いくせに身の程知らずにもバケモンリーグに参加するようなヤツに礼儀なんて不要よ」
そろそろ、聞き捨てならないゲージが満タンになったので、反論させてもらおうかな。
「さっきから聞いていれば、『遊び半分』だの『弱いくせに』だの、好き勝手言ってくれるじゃないか。確かにバケモンバトルは素人だが、戦いに関しては玄人だ。多分、バケモンリーグに優勝できる程度の実力はあると思うぞ」
「……もしかして、バケモンリーグのことを馬鹿にしているの?良いわ、アンタ、私とバケモンバトルをしなさい。私が勝ったら、バケモンリーグへの参加を取りやめるのよ」
「俺が勝ったら?」
「ふん、そんなこと絶対に有り得ないわね」
リュリュは鼻で笑って俺の勝利を否定してきた。
「まあ、それじゃあ賭けにならないでしょうから、アンタが勝ったら予選を免除してあげるわよ」
「シュシュ、本当にそんなことができるのか?」
「は、はい。前回リーグの上位入賞者と優勝者の推薦があった者は、リーグ予選が免除されます。リュリュさんは前回優勝者なので、まだ権利を使っていなければ可能です」
「権利は使っていないわ」
「良いだろう。俺が勝ったら推薦してもらうぞ」
こうして、俺とリュリュで賭けバケモンバトルをすることになった。
初のバケモンバトルが前回優勝者というのは中々にハードだな。
街中でバケモンバトルを行う場合、バトルエリアと呼ばれる専用の施設を使用する必要がある。
バトルエリア内では、どれだけ激しいバトルをしても、実際に傷つくことはない。ダメージは疲労に変換され、気絶したところで勝負が決まる。
コマンダーはバケモンと一緒にバトルエリアの中に入り、バケモンに指示をしながらともに戦うことになる。コマンダーに対する攻撃は禁止されており、破ったら反則負けとなるらしい。
「リュリュさん、進堂様の手持ちの都合上、バトルは1-1となります。よろしいですね?」
「別に何でも良いわよ。どんなルールでも私が負けるはずがないもの」
リュリュは余裕の表情だ。……その表情、歪ましてやりてぇな。
「それでは、バトルフィールドはバケモンリーグと同じプレーン。バケモンの気絶、またはコマンダーの敗北宣言で勝負が決まる1-1。審判は私がやります。進堂様が勝利したらリュリュさんの推薦枠を進堂様に使用し、リュリュさんが勝利したら進堂様がバケモンリーグの参加を辞退します。両者、意義はありませんね?」
「異議無し」
「異議はないわ」
バトルエリアの外でシュシュの説明を聞き、ルールに問題がないことを了承する。
バケモンバトルで賭けを行う場合、正式な立会人が必要となるらしい。
バケモンバトルが社会のルールに組み込まれていることを実感するよ……。
「それでは、両者バトルエリアの中に入ってください」
俺とリュリュはバトルエリアを挟んで別々の扉から中に入る。
外から見たバトルエリアの直径は5メートル程なのに、中に入ると30メートル以上はある。
シュシュによると、バトルエリア内は空間が歪んでおり、外側から見たサイズと内側のサイズが異なっているそうだ。
「ドーラ、頑張ろうな」
《うん!がんばる!》
ドラゴン形態のドーラもやる気十分だ。
「さっさと終わらせるわよ、インプ」
「キキッ!」
反対側から現れたリュリュは、キューブから1匹のバケモンを呼び出した。
呼び出されたインプは、見るからに悪魔といった風貌の小さな少女だった。背中には羽が生えて浮いており、尻には尻尾、手には小さな槍を持っている。
補足しておくと、小さいというのは幼いという意味ではなく、サイズが小さいという意味で、全長は20センチメートル程度しかなかった。
『両者、準備はよろしいですね?それでは、バトル開始です!』
バトルエリアの外からシュシュがバトルの開始を宣言した。
「インプ、『火の玉』よ!」
「キッ!」
インプの指先から火の玉が現れ、ドーラに向かって飛んでくる。
ほぼ『ファイアボール』だな。
「避けろ!」
飛んでくる火の玉をドーラは軽々と避ける。
これくらいなら、指示をする必要もないだろうが、様式美のようなものである。
「それなら『突進突き』よ!」
インプは宙に浮いたまま槍を構え、飛びながら突進してくる。
「受け止めろ!」
ドーラは自分に向かって来た槍を正面から受け止める。
「な!?」
「そのまま投げ飛ばせ!」
「キィッ!?」
受け止めた槍を握り、その場でグルグル回ってからインプごと投げ飛ばした。
投げ飛ばされたインプは、体勢を整えることができずに地面に落ちた。
「……素人のくせに、思ったよりもやるじゃない。さすがにインプで勝つのは難しそうね」
「何だ?もう降参か?」
「馬鹿なことを言わないでほしいわね。そもそも、インプは弱いバケモンなのよ」
「キィ……」
堂々と弱いと言われ、インプが少し悲しそうな声を上げる。なんか可哀想。
「インプで勝てないなら、その上位種になれば良いのよ。行くわよ、インプ!」
「キキィッ!」
次の瞬間、インプの身体が輝きだした。
輝きは徐々に大きくなっていき、最終的に2メートル程の球体を形作る。
そして、光の球体にヒビが入り、バラバラに砕け散ると、中からインプを成長させたような女性が現れた。しかも、人形サイズではなく、人間サイズだ。
羽や尻尾、槍といった基本的な特徴はそのままだが、胸は大きくなっているし、服装も全体的にセクシーになっている。オマケで槍も強そうになっている。
この現象、ゲームで何度も見たことがあるな。
「驚いて声も出ないようね。これがバケモンバトルの真髄の1つ……」
多分、進化と言うのだろう。
「変態よ!」
「変態かぁ……」
ゲーム等でよく使用される進化という言葉だが、生物学的には全く正しくなかったりする。
進化とは世代を経て身体の形状が変化することで、変態とは世代を超えず一生の中で身体の形状が変化することを言う。
同一個体が別の姿になったので、インプの変化は変態と呼ぶのが正しいのである。
確かに正しいのだが、何だかなぁ……。
「アンタは知らないでしょうけど、変態したバケモンは比べものにならないくらい強くなるのよ」
割と知っています。
「残念ながら、変態はバトルが終わると元に戻っちゃうけどね」
ああ、そういうシステムなんだ。
「私のインプは変態するとランサー・デビルになって、槍の扱いに特化するのよ。さっきと同じような手が通用するとは思わないことね。……いや、何でそんな微妙そうな顔をしているのよ?」
自信満々に説明していたリュリュだが、俺の表情を見て不思議そうに尋ねてくる。
「女子に変態って連呼されたら、微妙な顔にもなるだろうよ」
「何で?『変態』って単語にバケモンの姿が変わる以外の意味なんてないわよね?」
「ん?」
もしかして、この世界では変態を変態と呼ばない? ……ややこしいな。
「まあ良いわ。ランサー・デビルの実力、その身で味わいなさい!『トルネード・スパイク』よ!」
インプ改めランサー・デビルが槍を構え、回転しながら突進してくる。
「避けて『尻尾アタック』だ!」
ドーラはランサー・デビルの回転突進をギリギリで躱し、尻尾を頭部に向けて振り下ろした。
-ドカッ!-
「キッ……!」
鈍い音がして、一撃でランサー・デビルの意識が刈り取られた。
「なっ!?ランサー・デビル、起きなさい!」
リュリュが声を上げるが、ランサー・デビルは完全に目を回している。
『ランサー・デビル、戦闘不能!よって勝者、進堂様!』
そして、シュシュの宣言により、俺の勝利が確定した。
「有り得ない……。この私が素人に負けるなんて……」
「言っただろ。戦いに関しては玄人だって」
愕然とするリュリュに声をかけると、リュリュはキッと俺の方を睨みつけた。
「ランサー・デビルは育成中ってだけで一軍じゃないの!こんなのが私の実力だと勘違いしないことね!シュシュ!アンタの方でコイツを推薦しておいて!」
「おい、ランサー・デビル……インプが倒れたままだぞ!」
言うだけ言って去ろうとするリュリュを引き止める。
バトルが終わり、変態が解けたインプが倒れたままになっている。
「弱いバケモンなんていらないわ。捨てておいて」
リュリュがインプのキューブを操作すると、キューブは解けるように消えていった。
これは逃がした、いや、捨てたということなのだろう。
「後味、悪ぅ……」
去って行くリュリュの背中を、何とも言えない気持ちで見送るしかなかった。
次回は2/11予定です。
多分、バケモン世界編は3話で終わります。
1つの世界で3ヵ月オーバーは長すぎるので、20日更新を頑張っています。