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第263話 敗残兵と草食世界

異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ — ncode.syosetu.com · All chapters

第263話 敗残兵と草食世界

魔王ディーが 閉じ込められている ( ・・・・・・・・・ ) 部屋の前に到着した。

「それじゃあ、さくらとドーラはここで待っていてくれ」

「はい、分かりました……」

《はーい》

確定で完全なグロ画像が待っているため、さくらとドーラは部屋の外で待機だ。

俺が開けと念じると、部屋の扉が開いた。随分と頑丈そうな扉だ。

そして、その先にも扉が……。

「随分と厳重に閉じ込めているのね」

「魔王ですから、危険……だったのでしょう」

「過去形、ですわね……」

「今は、ねぇ……」

マリアの言葉にセラとミオも納得している。

とてもではないが、今の魔王は脅威とは言えないからな。

5つの扉を超えた先の部屋に魔王ディーは捕らわれていた。

「こりゃエグいな……」

「エグいわね」

「エグいですわ」

魔王ディーはエグい以外の言葉が思いつかないほどの有様だった。

簡単に列挙していくと、四肢は肘、膝から先がなく、鼻、耳、乳房が切り落とされ、目玉がえぐり取られ、残る全身に針のような物が突き刺さり、頑丈そうな鎖で縛り上げられていた。

「う……あ……」

意識は残っているようだが、よく見れば舌も切り落とされており、まともな声も出せていない。

マップで状況は知っていたが、実際に見ると想像以上にインパクト強いな。

「ネメシス・コア、魔王ディーはどうしてここまでの有様になっている?」

『理由は2つあります。1つ目はDリーパーの生産に魔王ディーの肉片が必要だからです。魔王ディーは高い再生能力を持つため、回復と切断を繰り返すことでDリーパーを増産していました』

「合理的と言えば合理的か……」

「倫理観はガン無視してるわよね……」

魔剣を強化するためにクローン自動殺害装置を作った男だ。Dリーパーを増やすために魔王ディーを生き地獄に叩き込むくらいはするだろう。

『2つ目は前管理者ゼットの私怨です。前管理者ゼットを召喚したのはこの世界の住人ですが、その切っ掛けになったのは魔王ディーによる侵略のため、恨みがあったとのことです』

「少なくとも、魔王ディーがこの世界を侵略しなければ、ゼットが召喚されることはなかったワケだから、恨むのも当然と言えば当然か……。ちなみに、侵略の理由は知っているか?」

『侵略の目的は自分の世界を延命するためのリソース略奪と記録されています』

「クローン元もDリーパーと同じことをやっていたのね」

「魔王ディーの世界はどうなったんですの?」

『Dリーパーが最初に送り込まれ、最初に滅ぼされました』

まさしく、因果が返ってきたわけだ。帰ってきた、と言っても良いかもなぁ。

「仁様、彼女を如何いたしますか?」

「さて、どうしたものか……」

マリアに問われ、魔王ディーの処遇を考える。

故郷も尊厳も失い、死んでいないだけでマトモに生きているとも言えない状況。

転移条件ということを差し引いても、殺してやるのが慈悲にすら思える。

「まあ、まずは本人の意思を確認するのが最初だな」

魔王ディーもゼットにとって仇の1人だ。この世界の住人と一緒に殺しても構わなかっただろう。

それをしなかったのは、魔王ディーの殺害が俺達の転移条件の1つだったからに他ならない。

言ってしまえば、ゼットが親切心で残していたのである。

とはいえ、今の俺達に『転移条件だから魔王ディーを殺す』という選択肢はない。

「ネメシス・コア、魔王ディーの拘束を解いてくれ」

『承知いたしました』

魔王ディーに突き刺された針が抜け、鎖が徐々に緩んでいき、地面に下ろされる。

「こ……た……?」

魔王ディーも自分の身体の変化に気付いたようで身じろぎしている。

「ほいっと」

俺は部位欠損を治す『神薬 ソーマ』を魔王ディーにぶっかけた。

今、考えることではないかもしれないが、魔王ディーは全裸の女性である。

『神薬 ソーマ』の効果はすぐに現れ、失われた部位が徐々に回復していく。

そして、その身体は元の姿を取り戻した。

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

魔王ディーは仰向けになり、豊かな胸を上下させて息を切らせている。

『神薬 ソーマ』は体力を代償にするため、欠損の度合いに応じて本人の負担も大きくなる。

あれだけの惨状から回復したのなら、疲労困憊程度では済まないだろう。

「き、貴殿が我を治したのか……?はぁ、はぁ……」

目を開き、俺達の姿を見て、息も絶え絶えながらそう尋ねてきた。

「ああ、かいつまんで説明すると、俺とゼットが決闘して、俺が勝利して、この空中要塞の所有権を貰った」

「ゼットは……あの男はどうなった?」

「死んだ。いや、俺が殺した」

「そうか……」

それだけ聞くと、魔王ディーは黙り、身体の回復に専念した。

ネメシス・コアの言う通り、魔王ディーは高い再生能力、回復能力を持つようで、5分もしない内に最低限起き上がれる程度には回復していた。立ち上がることは難しそうだが……。

「我の名前はディー・ブラッド、魔竜王国の国王、魔王と呼ばれていた」

5分の間にさくらとドーラを呼び、俺達が自己紹介をした後、魔王ディーは自らをそう称した。

実は、魔王ディーの欠損には、少しだけ説明していない部分があった。

それは、『翼と尻尾も根元から切り落とされていた』というものだ。

回復した後の姿は、竜の特徴を出した人型の 竜人種 ( ドラゴニュート ) に酷似していたのである。

いや、『酷似していた』というのも語弊があるか……。

名前:ディー・ブラッド

性別:女

年齢:844

種族:ブラッドダークドラゴン(ドラゴニュート)

称号:元魔竜王国国王

スキル:<魔王竜LV->、<竜魔法LV1>

魔王ディーは紛れもなく 竜人種 ( ドラゴニュート ) なのだから。

何故、『 深淵 ( アビス ) 』に 竜人種 ( ドラゴニュート ) がいるのかは分からない。

しかし、種族は間違いなく 竜人種 ( ドラゴニュート ) だし、ステータスのフォーマットも『 深淵 ( アビス ) 』の外と完全に一致している。

1番シンプルな仮説は、『 深淵 ( アビス ) 』に入り込んだ 竜人種 ( ドラゴニュート ) の末裔かな?

「まずは解放してくれたこと、欠損を治してくれたことを感謝しよう。助かった、ありがとう」

「礼は良い。あの状況じゃあ、話もできないからな」

「我に何か聞きたいことがあるのか?良いだろう、何でも聞くが良い」

それなら、恒例行事としてパンツの色を……いや、ずっと全裸だったわ。

それにしても、魔王ディー、いや、ディーは随分と冷静に見える。

今まで、500年も苦しめ続けられていたというのに、怒りや恨みといった感情が全く見えない。

「アンタはこれから、どうしたい?」

「何を言っている?それを決めるのは貴殿らだろう?」

「?」

「?」

どうやら、お互いの認識に何か相違があるようだ。

「私は敗軍の将として、ゼットの虜囚となった。ゼットが敗れ、この要塞の所有権を得たということは、我を生かすも殺すも、貴殿らの権利になるということだ」

「まあ、そうなるのか……?」

ゼットからも好きにしろと言われているし、生殺与奪の権があるのは間違いない。

「俺達の敵にならないなら、生かして解放するつもりだ。その上で、今後の希望を聞いている」

「……なるほど。しかし、難しい質問だな。我の元居た世界は滅び、帰る場所は既に失われている」

「元の世界の件、ゼットに聞いたのか?」

「うむ、我の耳が治ったところで聞かされた。直後、再び切り落とされたがな」

耳が治ったタイミングで絶望的な話をするの、ゼットの恨みの強さが垣間見えるなぁ……。

それはそれとして、気になるのは……。

「自分の世界が滅ぼされたって言うのに、随分と冷静なんだな?」

「自分の世界のために他の世界を侵略するのだぞ。反撃され、滅ぼされても恨む資格などあるまい」

「……ああ、そこまでの覚悟があったのか」

自分の世界のために他の世界を攻めるのだから、反対に滅ぼされても仕方ない。

そこまで覚悟して、この世界を攻めたのだろう。

そして、ゼットに敗れ、本当に滅ぼされてしまったと……。

「無論だ。敗軍の将になった時に尊厳を奪われる覚悟もできていた……が、ここまで徹底的にやられるのは想定以上だったな。終わりの見えない拷問がこれ程までに辛いものとは……。我が肉体が頑丈であることを恨んだのは初めてだ。いっそ殺せと何度思ったことか……」

「今も死にたいと思っているのか?」

「いや、折角拾った命だ。守るべきものを失ったとはいえ、無駄に散らせたいとは思っていない」

「そうか……」

本人に死ぬ気がないというのなら、俺達の敵にならない限り殺す気はない。

「……そういえば、1つ望みがあったのを思いだした」

「聞いて良い話か?」

「構わん。我が望みは、我が同胞を探すことだ」

「ほう……」

その同胞って、 竜人種 ( ドラゴニュート ) のことかな?

俺の右斜め後ろにいるよ。

「どうやら、我らは異世界から来た種族の末裔らしく、その力で我が故郷の世界を征服し、魔竜王国を築き上げたとの伝承が残っていた」

竜人種 ( ドラゴニュート ) 、戦闘能力は結構高い方だからね。

「しかし、我が種族は人数が少なく出生率も低い。父母の死により最期の1人となった時には、魔竜王国も我が代で終わりだと思ったぞ。やはり、同胞が1人もいないのは寂しいからな。一応、多種族との交配も可能だが、出生率は更に低くなる上、血は薄くなり保って数代だろう。しかも、最強たる我が孕めば、異世界への侵攻にも差し障る故、状況が許さなかったというのもある」

竜人種 ( ドラゴニュート ) 、そんなに出生率低かったっけ?

A:人間に比べた場合は低いですが、簡単に滅びるほど低くはありません。該当の世界に体質が合わなかった影響が大きいかと思われます。

異世界なら、何があっても不思議じゃないか。

「もし可能ならば、世界を渡って我が同族を探したい。無論、簡単に会えるとは思っていない。全ての同胞が滅んでいる可能性も十分にあるということも理解している。それでも、我が残りの生を使い切ってでも成し遂げたいことと言われれば、それくらいしか思い付かん」

残りの生を使い切るどころか、5秒くらいで達成できるんだけど……。

とりあえず、達成させてやるか。

「ドーラ、おいで」

《はーい!》

俺はドーラを呼び、抱っこする。

「ドーラ、半竜形態だ」

《うん!》

現在のドーラは完全な人間形態なので、尻尾と翼を出してもらった。

「そ、その姿は……」

今まで大きく変わらなかったディーの表情が崩れる。

「この子はドーラ。『 深淵 ( アビス ) 』の外の世界に住む、 竜人種 ( ドラゴニュート ) と呼ばれる種族の少女だ。多分、ディーと同じ種族なんじゃないかな?」

「ま、まさか……。に、俄には信じられんが、言われてみれば同胞の気配がする……」

「きゅい!《うん、おなじだよ!》」

「ああ、そういえば、幼い頃は喋れなかったな……。懐かしい」

ディーがドーラを見る目が非常に優しいものになる。

「そうか、同胞は『 深淵 ( アビス ) 』の外にいるのか。つまり、我が祖先も『 深淵 ( アビス ) 』の外からやって来た可能性が高そうだな。理由は……今更分かる訳がないな」

アルタ、分かるか?

A:不明です。少なくとも、 竜人種 ( ドラゴニュート ) 側の記録には残っていません。

相当昔の話っぽいし、分かる訳ないか。

「それで、早速生涯を費やして成し遂げたいことが終わった訳だが、これからどうしたい?」

「無論、同胞と共に歩みたい。『 深淵 ( アビス ) 』の外で同胞はどのような扱いになっている?」

「人里離れた場所に集落を作って穏やかに過ごしているな。あ、大半は俺の庇護下にある」

大半は食べ物で釣って配下にしたからね。

「そうか。虐げられたりしていないのならば問題ない。……貴殿らは、『 深淵 ( アビス ) 』の外に出る方法を知っているか?あるいは今後、『 深淵 ( アビス ) 』の外に出る予定はあるか?」

「どちらもYesだな。予定があるから今は出ないけど、もうじき戻る予定だ」

「……それならば、我を『 深淵 ( アビス ) 』の外に出し、同胞の元に送り届けてくれないか?」

「良いけど、その場合は俺に忠誠……いや、絶対服従を誓ってもらうことになる」

まあ、何時ものヤツですね。

今のディーに他に対価にできそうなものもないし……。

「分かった。絶対服従を誓おう」

「「即答!?」」

俺とミオの声がハモった。

「何を驚いている?我の生殺与奪の権はゼットを倒した貴殿らに移った。貴殿が解放すると言ったから自分の望みを答えただけで、元々貴殿に従うこと自体に否はない。絶対服従を誓うだけで、同胞の下に行けるというのなら、それは我にとって得しかない契約だ」

「……ああ、そういう考えなのか」

あまりに簡単に即答したので驚いたが、既に俺の配下になる準備はできていたようだ。

「それなら話は早い。コレを受け入れて、俺に 使役 ( テイム ) されろ」

俺は<魔物調教>の魔法陣をディーに向けて放つ。

しかし、魔法陣はディーに当たった瞬間に霧散した。

「むっ?」

「どしたの?」

A:<魔王竜>のスキルによる耐性です。テイム、状態異常をほぼ完全に防ぎます。

ラスボス系スキルかぁ……。

そりゃあ、ラスボスにテイムも状態異常も効かないのは常識だよな。

仕方がないので、< 生殺与奪 ( ギブアンドテイク ) >で<魔王竜>を奪う。

「う……。なんだ?急に力が入らなく……」

ディーが再び地面に倒れ伏す。

A:<魔王竜>が回復力の源なので、奪われたら瀕死に戻ります。

マジか……。

俺はもう1度<魔物調教>の魔法陣を放った。

今度は弾かれることなくディーに当たった。

「これが……受け入れよう」

>ブラッドダークドラゴンをテイムしました。

>ブラッドダークドラゴンに名前を付けてください。

いや、名前はそのままで良いから。

俺はディーに<魔王竜>のスキルを返す。

幸い、テイム済みならそこから無効化されることはなかった。

「……一体、何をしたのだ?」

「テイムの邪魔になる能力を一時的に消した。回復能力も兼ねていたから、瀕死に戻った」

「良く分からないが、貴殿が凄いことをしたことは分かった」

それだけ分かれば十分だ。

「それで、私は貴殿に絶対服従を誓った。貴殿は私に何を望む?」

「今、特にして欲しいことはないかな。今から『 深淵 ( アビス ) 』の外に送るから、常識を覚えて、他の 竜人種 ( ドラゴニュート ) と穏やかに暮らしてくれ」

「……良いのか?そんなに好待遇で?」

「頼みがある時は遠慮なく頼むぞ。当然、拒否権はない」

「分かった。その時は何でも言うことを聞こう。……待て、『 深淵 ( アビス ) 』の外に送る?そんなことが可能なのか?いや、可能だと聞いたことはあるが、そんな簡単な話ではないはずだ」

「俺の能力だな。残念ながら、俺自身は出れないけど、俺の配下を外に送り出すことはできる」

いつも通り、石化して< 無限収納 ( インベントリ ) >にポイだ。

「何と言うか、我が主は本当に滅茶苦茶だな……」

「まだ、これで終わりじゃないから、早めに慣れた方が良いわよ」

「きゅ!《ごしゅじんさまはすごいの!》」

「……覚悟しておこう」

ミオとドーラの助言により、ディーは俺に対する認識を改めたようだ。

向こうの世界で存分に驚いて貰おう。

「それじゃあ、タモさん石化を……<魔王竜>強奪!」

「な!?」

<魔王竜>はバジリスクタモさんの石化すら無効化する。

もう一度<魔王竜>のスキルを奪い、耐性を消してからタモさんに石化して貰い、< 無限収納 ( インベントリ ) >にポイした。

空中要塞ネメシスで為すべきことを終えた俺達は、要塞内部から外に転移した。

そして、空中要塞ネメシスも丸ごと< 無限収納 ( インベントリ ) >にポイした。

もう、ネメシスの中に生物は居ないからな。

「それで、これからどうするの?もう転移条件は時間経過しか残ってないわよね?」

「いや、時間経過は選ばない。この転移じゃ、望む世界には届かないからな」

「この異世界の近くに、ご主人様の求める世界はないのですわよね?」

ゼットが『界の門』で調べた限り、この世界から数えて100の近い世界にはいない。

それなら、ここで転移条件を満たしても、浅井のいる世界に行ける可能性は0だ。

「この世界にはもう何も残っていない」

「この世界を破壊するのですね?」

マリアが俺の言いたいことにいち早く気付いた。

「ああ、世界を破壊した時に飛ばされる世界は、壊した世界から大きく離れた世界になるみたいだからな。それを利用して、浅井のいる世界の近くまで飛ぶ」

結晶の世界を壊したことにより、ゼットが侵略している世界の中心近くまで飛ばされた。

言い換えれば、この世界を破壊すれば、ゼットの侵略範囲外の世界に飛ぶ可能性がある。

「俺の運なら、これで浅井のいる世界に大分近づけるはずだ……」

1つ前の世界で本気で浅井のいる世界を目指すと言った直後の世界で、周囲100の世界に目的地はないと言われたのは、結構ショックだったのである。

「仁君の運なら、壊した直後の世界が目的地の可能性もあるんじゃないですか……?」

「多分、無理だ。俺の勘がそう言っている」

「じゃあ、無理ですね……」

アッサリと前言を翻すさくら。俺の勘への信頼が凄い。

「次の次の世界で辿り着いて見せる!」

「……それを宣言できるだけで十分に凄いことですわ」

「まあ、ご主人様なら本当に実現しそうよね」

実現してみせる!

「さて、それじゃあ、名残惜しくもないけど、この世界とはオサラバだな」

「壊すのに躊躇のいらない世界で良かったわね」

「そうだな。残しておきたいとも思わないからな」

この世界の存在は、色々な意味で有害以外に表現のしようがない。

結晶の世界よりも壊すことに躊躇がいらないくらいだ。

「それじゃあ、やるぞ」

俺達は手を繋ぎ、『神霊刀・至世・完』を振るい、この世界を完全に破壊した。

世界が砕け散り、俺達は再び世界の狭間に放り出された。

そして、次なる世界に辿り着く。

俺達が次に降り立った世界を一言で表すとすれば……。

「 長閑 ( のどか ) だ……」

「豊かな自然、大人しそうな草食動物……随分と長閑ね」

ミオの説明したとおり、周囲には草原が広がり、池も点在しており、遠くには山も見える。

そして、そこで過ごすのは牛や羊のような見た目をした明らかな草食動物たちだった。

補足しておくと、マップで確認できる範囲に人間らしき生物は存在していなかった。

「大人しそうですが、油断できる相手ではなさそうです」

マリアが鋭い目で警戒しながら動物たちの様子を窺う。

俺の警戒心は働いていないが、念のため近くの羊もどきのステータスを確認しておく。

種族:ワープシープ

能力:<緊急批難>

<緊急批難>

殺害された時、周囲30メートル以内の同種以外の生物全てをランダムな場所に転移する。

うわっ……。

絶妙に厄介な能力を持っているぞ。

恐らく、生存戦略というか生き残るための能力なんだろう。誰かが殺されたら、殺した者をどこか遠くに転移することで、残った仲間が守られるとかそんな感じのヤツ。

「牛の方も面倒ですわね……」

牛の方は?

種族:バーサーカウ

能力:<過剰暴永>

<過剰暴永>

自身、または自身の同種族が攻撃された時、強化暴走状態となり見える範囲の攻撃者、および攻撃者の同種族が全滅するまで攻撃を続ける。

こちらは、戦いを避けるのではなく、徹底抗戦の構えだ。

理解した。この世界は長閑なのではなく、草食動物の猛者が残った世界だったのだ……。

そして、いつもの転移条件

A:以下の3点が転移条件です。

①12時間生存する。

②神界巨獣ベヒーモスに勝利する。

③神界巨獣ベヒーモスを殺害する。

神界巨獣ベヒーモスは滅茶苦茶気になる……。

「どうする?ベヒーモスを見に行く?」

「そうだな。戦うかどうかは別として、折角だから見に行こうか」

12時間暇を潰しても悪くはないが、気になるのでとりあえず見に行くことにした。

マップに移っていないということは、エリア的な意味で結構遠くにいる……うん?。

「もしかして、あの山……」

遠く離れた場所に見える山、マップの届くエリアを越えた先に見える山、それに強烈な違和感を覚えた俺は、 山 ( ・ ) の ( ・ ) ステータスを確認した。

ステータスは目視さえできれば、マップが届かなくても確認できるのである。

種族:神界巨獣ベヒーモス

能力:<獣王無尽>

「あの山がベヒーモスみたいだな」

「え?ホントだ!デカすぎでしょ!?」

「目算ですが、1000メートルは超えていそうです」

よく見れば、あの山は丸まって寝ている動物のようだった。

ここから見える特徴だけで考えると……ゾウか牛のように思える。

「原典的な意味のベヒーモスなのね……」

「私も本で見たことあります……。神話の生物ですよね?」

「確か、創作で姿が変えられたモンスターの代表みたいなヤツだったよな?」

ベヒーモスとは、ファンタジー設定で原典とは大きくかけ離れた姿になった神話生物である。

俺個人としては、原典をガン無視した、空のバハムート(ドラゴン)、陸のベヒーモス(謎の四足歩行獣)、海のリヴァイアサン(海竜)の組み合わせが好きだ。

「しかし、あの能力は……」

<獣王無尽>

条件を満たしている場合、存在するだけで世界を維持するのに必要なだけのリソースを発生させる。

「世界を維持するためのリソースを生み出し続けるとか、この世界の神みたいな存在だな」

「神界巨獣の名は伊達じゃなく、世界を守る神様ってコトね」

「逆に言えば、あのベヒーモスを倒したらこの世界は……」

「滅びるだろうな。あの能力がなければ、維持できない世界ってことだから」

さくらの言葉を引き継ぐ。

「いつも通り、転移条件には勝利もあるから、そっちを狙うのはどう?」

A:リソースを生み出す条件の1つに、『ベヒーモスが寝続けている』、というものがあります。

「ダメかぁ……」

寝ているところを起こして、リソースの供給が止まったらどうなるか分からない。

この世界を滅ぼす可能性を許容して行動するか、完全に無視をするかの2択である。

「倒したところで、得られるのは称号くらいだろうからな」

「仁様、あの能力を奪えれば、他の世界で活用できるのではないでしょうか?」

「確かに、あの能力なら、他の世界を救うこともできそうですわね」

マリアの案は確かに悪くない。

極論、ベヒーモスをテイムして、滅びそうな世界に置くだけで一端の危機は去る。

A:ベヒーモスの能力は世界の 理 ( ルール ) に大きく干渉するため、不用意に他の世界に移動した場合、悪影響を与える可能性が非常に高いです。

そりゃそうか……。どう考えても、他の世界の 理 ( ルール ) に影響を及ぼす能力だよな。

「こりゃあ、完全に放置するしかなさそうだな」

ベヒーモスへの干渉は状況を悪化させることにしかなりそうにない。

俺達はベヒーモスに近付かず、大人しくしているのが吉だろう。

「それじゃあ、12時間の待機ですね……」

「長閑だから、ピクニックでもしましょうか」

《ピクニックー!サンドイッチがたべたーい!》

「おっけー! ……あの辺りなら動物も少ないし、丁度良いんじゃないかしら?」

俺達は草食動物(歴戦の猛者)の少ない平地に移動し、ピクニックの準備を始める。

時間的にこの世界で一夜を明ける必要がありそうなので、キャンプの準備も同時に行う。

「料理が出来たわよー!」

ミオの方を見れば、テーブルにサンドイッチを始めとした料理の数々が並んでいた。

《ごはーん!》

「いつも通り、美味しそうですわ」

ミオの料理はいつも通り魅力的だ。

そして、その魅力、影響力は、世界を跨いでも衰えることはない。

「……マリア、結界を張ってくれ」

「承知いたしました」

俺はマリアに指示をして、周囲一帯に大きめの結界を張ってもらった。

理由は、美味そうな匂いに釣られて、周囲の動物が近付いてきたからである。

肉料理も多いが、野菜を使った料理もある。多分、野菜の料理に惹かれて来たのだろう。

「餌付けをする気はないからな」

異世界の食べ物は貰わないし与えない、これが俺達の基本スタンスだ。

食べ物を与える気はないし、食事中に動物の強めの匂いがするのも嫌だし、万が一奪おうとしてきたら面倒だし、手を出したら厄介な能力を使ってくる可能性もある。

最初から、近づけないようにするのが最善なのである。

「いただきます」

俺達はテーブルについて食事を始める。

うん、とても美味い。

「……あんまり、長閑じゃなくなりましたわね」

「ミオちゃんの料理がそれほどに魅力的なのでしょうか……?」

「評価されて悪い気はしないけど、あれはちょっとどうかと思いますね」

気付いたら、動物たちが結界にタックルをかましている。

そんなに料理が食いたいのかよ。お前らは草でも食ってろ。

余談だが、マリアの結界は 匂 ( ・ ) い ( ・ ) は ( ・ ) 通 ( ・ ) す ( ・ ) 仕様だ。

「ほぅ」

そんなことを話していたら、ある現象が起きる直前の気配を感じた。

「仁様、お下がりください。何者です」

その現象の名は『転移』。そこに現れたのは、ドーラと同じくらいの背丈をした幼女だった。

頭に牛のような角があるので、純粋な人間でないことは一目で分かった。

そもそも、マリアの結界の中に侵入できる普通の人間は居ない。

「ヒーたんは、ヒーたん」

マリアの警戒を意にも介していない幼女は、テーブルの上の料理を指し……。

「それ、ヒーたんにも頂戴?」

謎の侵入者ヒーたんの目的は、ミオの料理だった。

ヒーたん、一体、何ーモスなんだ・・・

本編で深掘りする気は今のところないので補足です。

魔王ディーの祖先はドーラの祖先と同じで、生き残るために別の方法を模索して分かれた集団です。

Dリーパーも魔王ディーもDを使っていたのは、最初からドラゴニュートのDをイメージしていました。

あと、ディメンションのDも合わせたダブルミー二ングです。