一緒に、並んで
一緒に、並んで
「ただいま……」
こんばんは、酒寄彩葉です。
今日も今日とて研究所の激ヤバタスクを全部熟して、漸く帰って来たところ。
定時までに全部片づけられた事が不幸中の幸いって感じがするけど、結局家に着いたのは二十時過ぎ。かぐや達からのメッセージにも返信できないくらい忙しかったし、申し訳ない事しちゃったな。
玄関の戸を開けたらそこにかぐやの姿が……無かった。
いつもだったら玄関で出迎えてくれたり、猪みたいにタックルをかましてくるのに。
ちょっとだけ、心臓が跳ねる。いや、いやいや。今になってそんな事ないでしょ。だって、あの身体は私が造ったんだし。
月に帰る必要は今更無い。ずっと傍に居るって約束した。
「かぐやー……?」
恐る恐る名前を呼んでみる。反応なし。
そういえば、リビングも配信部屋も全部電気が消えている。
キッチンには誰も居ないし、お風呂に入っている訳でもない。
徐々に心拍数が上がる心臓を無視して、二階に上がる。階段を踏みしめるごとに拍動が増した。
もし。もしも、部屋の扉を開けてかぐやが居なかったら?
もし、かぐやの身体に動作不良があって上手く機能していなかったら。
もし、かぐやが、月に帰ってしまったら。
そう考えたら、居ても立っても居られなくなった。
私は乱暴に階段を駆け上がり、かぐやの部屋、そのドアを開けた。
「かぐやっ!!」
バン! と大きな音を立てて開かれるドア。
すぐさま視界に飛び込んできたのは、真っ暗な室内と荒れ果てた部屋。荒れ果てているのは元からだけど、電気がついていないのはおかしい。部屋の主が居ないという事だ。
かぐやだって、外出するときは部屋の電気を消すくらいのことはする。
靴があるのはさっき確認した。外出していないのに、どこに行ったの……?
「かぐや、かぐや……っ! どこ……!?」
あぁ、ダメだ。自分でも分かるくらい焦燥しきってる。
布団を捲って、ベッドの下を見て、段ボールの陰を覗いて、クローゼットまで開けた。どこにもいない。
かぐやの自室に、あの子がいない。
「そんな、なんで……? ボディの位置情報はずっと家にあるし、外には出てないのに。センサーの不調、やっぱりボディの不具合……」
それか、月に帰って――。
「トリック・オア・トリートォ!!」
どん。背後から軽い衝撃と、軽快で元気一杯な声が聞こえて来た。
呆気に取られてふらついた身体は、かぐやのベッドに倒れ込む。
声の方向に身体を向けると、真っ白なシーツに黒丸で描かれた眼玉を携えた小柄なお化けが立っていた。
「彩葉、びっくりした?」
にひひ、なんて笑いながらシーツをたくし上げて現れたのは我が家の悪童、可愛らしい嫁、大好きなお姫様、もう二度と手放さないって決めた最愛の女の子、かぐやだった。
色々聞きたいことはあるけれど、今はそれどころじゃなくて。
「……ばか」
小さく悪態をついて、かぐやの身体を抱き締めた。
「っえ、あれ……? なんか思ってた反応とちがう……」
「こうなるに決まってるでしょ。何も言わずに、居なくなってさ」
耳元から「あちゃー……」なんて声が聞こえてきて、私の背中に細い腕が回された。
回された手は優しく静かに私の背中をぽんぽんと叩いてくれて、そのリズムから私を安心させてくれる為だと分かる。
本当は、少し怒ってやろうと思ったけど……こんなことされちゃあ、怒るに怒れないや。
「~~……♪」
しかも、子守歌までついてきた。
怒る気なんて、もう更々無かった。
「落ち着いた?」
「うん、かぐやのお陰。ありがとね」
あの後ちょっとだけ泣いたりなんかしちゃって、かぐやに慰めて貰ったり。
悪童魂を持っているとは言え、八千年を生きて来たお姫様だ。包容力が段違い、赤ん坊になったと錯覚するくらいだった。
「というか、本題はそこじゃなくて。なんで家の電気全部消してたのか聞きたいんだけど」
「あ~、それねぇ……」
かぐやが「これこれ」と指さしたのは、壁掛けカレンダー。かぐやの指先には十月三十一日の日付が。
あれ、そういえばこの日って……。
「ハロウィン?」
「そう! 大正解っ!」
かぐやが再度シーツを被り直すと、ゆらゆら揺れながら私の方に近付いてきた。
「故に~、今日はお化けかぐやちゃんで彩葉からお菓子をたんまり貰っちゃうぞ~……? なんて思ってたんだけど――」
「私が一人でパニックになって、かぐやの計画が頓挫しちゃった……と」
ちょっと自虐気味に話すと、かぐやが即座に発言を訂正してくれた。
「彩葉のせいじゃなくて、これはかぐやのせい。彩葉を独りにしちゃうの、どれだけ悲しいことかってちゃんと考えられてなかったから……」
「かぐやは悪くないって。私がカレンダーちゃんと見とけば良かった話だし」
「いや、かぐやの――」
「私の」
そこから少し、どちらが悪いか堂々巡りをする時間があった。
―――
「はい、かぐや折衷案を提示します!」
「どうぞ」
この不毛な言い合いに待ったをかけたのは、かぐや。
「二人でハロウィンを楽しめば良いと思います!」
大正解の回答を持ってきてくれて、私は心底安心した。
いや、これで折衷案とか言っておきながら、全ての責任を自分で背負い込もうとするかもしれないし、気が気じゃないのは当然。
「ぷっ、くく……かぐやらしいね」
「どうですか、酒寄所長!」
「おっけー。それじゃ、二人でハロウィン楽しもっか!」
うぇーい! なんてかぐやが飛び回れば、突然スマホの画面が点灯した。
『なんだか面白そうなことしてるねぇ。ヤッチョも混ぜて欲しいな~?』
「ヤチヨ? 聞いてたの?」
『それはもう。一語一句逃さず全部聞いていましたとも。ハロウィンパーティーするんでしょ?』
ハロウィンパーティー、パーティー……?
そんなこと一言も言ってないけど、ヤチヨが聞いたというならそういうことなんだろうな。
「中らずと雖も遠からず、ヤチヨ正解!」
『ヤッチョに十点追加――』
その点数方式は何……?
「んじゃあ、酒寄家ハロウィンパーティー始めるとしますか!!」
『いぇ~い!』
「パーティーとは言っても、具体的に何するの? 仮装とか?」
きらり。かぐやの目が光ったのは見逃さない。あの輝きは謂わば、そう。獲物を見つけた鷹の眼光を想起させる、かぐやの独壇場を示唆する眼だ。
これはヤチヨも同じ。何やら不敵な笑みを浮かべながら、ウィンドウを操作している。内容は伺い知れない。
『「いーろはっ!」』
途端に呼ばれる私の名前。しかも、お姫様二人揃ってのご指名と来た。
「……は、はい」
かぐやから手渡されたのはスマコン、ヤチヨから渡されたのはツクヨミプライベートエリアの参加招待。
あぁ、何が起こるか大体予想できた。
所変わってツクヨミ某所。
ここは一般のユーザーは立ち入ることの出来ないプライベートエリア。ヤチヨがツクヨミを構築する上で、試験的運用と各種パッチ適用テストなどを行うサンドボックスエリアがここだ。
例に漏れずこの空間はヤチヨが自由自在に操作できるので、オブジェクトの配置から撤去、システムデータの改変および適用はお手の物。
ツクヨミ本実装前のテストデータも多数転がっている、大分レアな場所だ。
「彩葉、いらっしゃ~い」
目の前で手を振るのは月見ヤチヨその人。
背後には何やら怪しさ満点のカーテンがひとつ。なにあれ……。
「呼ばれたから来たけど、かぐやは?」
「かぐやは現実の方でやることあるから、彩葉のことは任せた~って。色々お願いされたからね」
色々お願いされた? あぁ、馬鹿みたいに怪しい。
「という訳で、彩葉にはこの空間でとある事をしてもらいます!」
「ずばり! いろP七変化、コスプレ彩葉を楽しんじゃお~!」
……。いや、もう何も言うまい。
「これから彩葉にコスプレしてもらって、それをヤッチョに見せてもらうね」
「点数をつけて、ヤッチョ特効が一番高かった衣装が優勝! ツクヨミに実装します!」
「……え、私でテストしようってこと?」
「そゆこと!」
ニコニコ顔のヤチヨに対して顔面蒼白に近い顔色の私。だって、普通に考えてそうでしょ? ツクヨミに実装する衣装を、私でテストするってさ。
完全に実装される衣装がヤチヨの趣味って事になるじゃん。いや、待て、今までもそうだったんじゃないの……?
「ほらほら、細かいことは置いといて~。はい一着目!」
力ずくかい……。データ送られてきたし。
「っ、ば……! これ着ろって!?」
渡されたデータに絶句する。いやだってこれ、はぁ?
「ハイ行った行った~!」
カーテンに押し込まれた。更衣室だったんだ、ここ。
いやそうじゃなくて!
「これ、着なきゃいけないの……?」
衣装データ再度確認。二度見完了、頭を抱えた。
……ふぅ、腹括ろう。報復は後で確実に、かぐやにも。
衣装データを選択して、アバターに適用。
ヤチヨの反応を楽しみましょうかね……。
―――
「ヤチヨ、着たよ」
「おっ、どれど……れ」
私に渡された衣装データ。医療に従事する方々には大変申し訳ないけれど、ナース服だった。
ナース服には基本ナースチュニックだとかスクラブだとか、そこにスクラブパンツを履くのが基本とされている。昔はスカートもあったらしいけど、ちょっと前に廃止されていたり。
そんな正装があるにも拘わらず、私に渡されたのはナースワンピース一枚のみ。トップス一枚のパンツ無し。文化人としての尊厳を削り取られた気分だよ。
ワンピースの丈が少し長めだからお尻とか隠れるからまだ良いけど、感覚実装後のツクヨミでこれは厳しい。ダイレクトに風を感じて、少しぞわぞわする。そのせいで、いつもよりちょっとだけ内股気味。
だって足元心許ないし。実際にズボンに当たる物履いてないんだから当然でしょ!
「彩葉……っ、ヤッチョの事看病して……!」
「当院では八千年を生きた方の受診は出来かねます」
「ん~、辛辣! ヤッチョ泣いちゃいそう。ヨヨヨ~……」
こんなもの押し付けて来たヤチヨにはこれくらいの対応がお似合い。
好きなのは変わりないけど、それはそれこれはこれ。分別はつけないとね。
「それにしても、アバターとは言え奇麗な生足をここまで見せつけて。彩葉をそんなふしだらに育てた覚えはないよ!」
「これ渡してきたのヤチヨだよね?」
漫才みたいなやり取りを幾度か繰り返して、ヤチヨの総評に入る。
「ちょっとヤッチョには刺激強いかな~? うん、百点! だけど~、ツクヨミ実装は見送りかにゃ~……」
「私もヤチヨの趣味全開で選ばれた衣装が実装されなくて良かったと思ってるよ」
結果、見送り。ヤチヨが何かウィンドウを操作してるけど、またしても何をしてるのか見ることが出来なかった。悔しい。
「よしっ、それじゃあ次ね!」
二着目、データ受信完了。
「……これさ、ツッコむのって野暮かな」
「野暮だね」
「はいはい、行きますよ~」
有無を言わさず更衣室にイン。
さっきと同じくアバターに衣装適用。はい完了。
……胸元スースーするなぁ。
「着替え終わりましたよ~」
「いざ、凝視!」
凝視しないでさっさと採点して欲しい、恥ずかしいから。
「……おお」
「おおじゃないでしょ、なんか反応してよ」
「彩葉、生き物って言うのはあまりにも眩しいものを目にすると反応できなくなるんだよ」
……ヤチヨがそういうのもそのはず、今度の衣装はメイド服。
ただのメイド服なら良かったよ、クラシカルとかヴィクトリアンとか。ザ・メイドって感じの服なら猶更。でも、これはどうだろう。
ミニスカワンピに胸元が大きく開かれたフリルたっぷりのエプロンドレス、ニーハイで強調される太腿の質感と絶対領域。ストラップパンプスで足元は標準的。
……主に上だよ、上!
「彩葉~! 萌え萌えキュンってして~!!」
「お帰り下さいませ、お嬢様」
「きゃ~~~!!!」
うるさっ。
「ザ・アキバ! って感じのミニスカメイド、胸元が開いたデザインにしたのは正解かも。普段露出が少ない彩葉だからこそ、こういう時に出来るだけがっつり肌を見せた方が良いと思うんだ」
「あとはそのニーハイ! 絶対領域が輝いてるねぇ。メイドカフェツクヨミ、出来そう……!」
急に早口で喋り出したこの人。こわ。
「出来たとしてもやらないし、そもそもやる気ないからね。それで、何点なの?」
「百二十点! でもえっちだから実装は見送り!」
「だと思った。さ、次々行こ」
……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ乗り気な私も居る。
ヤチヨが喜んでくれるのは嬉しいし、その笑顔を見るだけで私も嬉しくなる。だから、ヤチヨには沢山笑って欲しいし、幸せになって欲しい。
そう思えば、この着せ替えショーも悪くないって思えてきて。
さあ、三着目。行ってみようか。
―――
そこから私は、ヤチヨの着せ替え人形になった。
七変化とはよく言ったもので、まあ七着で終わる訳なくて。
何着着たか、途中から数は数えていない。
何を着たかな。
王道が多かったイメージあるけど……婦警さん、セーラー服、チャイナドレスにバニー。バニーだけは本当に心が苦しくなった。こちとら三十路だぞ。
いや、他の衣装も三十路にはきついものばっかりなんだけど。
幼稚園児のスモッグとか、セーラー服とか。フリルたっぷりの魔法少女コスプレなんかさせられた時は心が砕けそうだった。
幾ら見た目がアバターだからって心は三十路で良い大人、フリフリしたものを好んで斬るほど心は若くない。
レパートリーの多さに感嘆したり、ジャンルの違いに溜息を吐いたり、ふざけ枠の着ぐるみにちょっと愛着湧いたり。
色々確認したところ、どうやら次が最後みたいだから、最後くらいは頑張ろっかな。
更衣室に入ってデータを確認する。
渡されたデータはエラーまみれで、テクスチャすら正確に表示されない。まあ、サンドボックスエリアだからデータが不正確なことはよくあるし、ここで適用されたものは管理者の承認なしに外に漏れることは無い。エラーデータとは言え、ヤチヨがそんな危ないもの渡してくるわけないだろうし。
取り敢えず、アバターに適用――
した瞬間だった。
更衣室全体が真っ黒な闇に染められて、視界に何も映らなくなった。
ヤチヨの声も聞こえないし、風の音も何も聞こえない。得られる情報が何一つ無くなってしまった。
自分のアバターすら視認できなくて、少しばかり恐怖心が芽生えた。
いうなれば子供の頃、街灯の無い真っ暗な道を独りで歩いている時みたいな、そんな感覚。
スマコンを外せば根本の問題が解決するじゃないかと思うが、何故か瞼が開かない。感覚を人体にフィードバックする為、筋肉へ微弱な電流を流すという設計を新しいスマコンに組み込んだが、それが問題を起こしているのだろうか。
そうなれば、不具合だけの話では済まない。人体への影響を考慮してスマコンの販売を停止、ツクヨミへのログインは問題が解消されるまで当面は禁止となる。
そうなってしまった場合、ヤチヨはどうなるのか。ユーザーの居ないツクヨミで、ずっと独りで。
そんなこと、したくない。ヤチヨを独りにしないって決めたのは私なのに、それをこっちが破るなんて。
嫌だ、ヤチヨ。
絶対独りになんかさせないから。すぐ探して、助けてあげるから。
だから、ヤチヨ――……!
真っ暗な虚空に手を伸ばした瞬間、視界を覆わんばかりの大輪が宙に咲いた。少し遅れて聞こえてくる、ドン! という大きな音。
狐につままれたみたいで、目をぱちくり開いて……閉じて。また開いて。何度か瞬きを繰り返した後に、ソレに気付いた。
視線の先には大きな川が流れている。今、私は少し急な斜面に居るらしい。足元は芝生で、空には満天の星。肌を撫でる風は少し湿っている。
「あれ、ここ――」
私が言うよりも先に、声が聞こえて来た。
「いーろはっ」
ヤチヨとは違う、元気いっぱいの軽快な声。
「かぐや……? なんで、どうして」
振り向いたところで、かぐやの衣装がいつもと違う事に気付いた。
かぐやが身に纏っているのは、紫紺の浴衣と赤い帯。太陽みたいに咲き誇る向日葵がプリントされた、忘れたくても忘れられないあの服で。
徐に踏み出した足は、いつもより少し歩きにくかった。
「あ、これ……私も」
足元に目をやれば、そこに映るのは白地に向日葵が描かれた可愛らしい浴衣。これは、そう、かぐやが選んでくれたものだ。
「ヤチヨに頼まれてさぁ。折角のハロウィンだし、皆で仮装しようって」
「ヤチヨに……?」
それじゃあ、最初から全部分かっててここに私を呼んだの?
ハロウィンだからって、こんな粋なことしてさ。色褪せ始めていた記憶が、鮮やかな色を伴いながら鮮明に蘇った。
かぐやと一緒に見た花火。かぐや自身について打ち明けた夜、私が初めて我儘をかぐやに言った日。帰っちゃうの? なんて聞き方、我ながら酷い。
「サプライズパーティーって感じなのかなぁ。一緒に花火見たとこだよね、ここ」
「うん。私が初めて我儘になった場所でもある」
「ぬはは、そうじゃん! かぐやの手掴んで逃がそうとしなかった時の!」
「……言い方」
事実だから強く出れないのが痛いところ。
あの時は兎に角かぐやと離れたくないって一心不乱だったし、兎に角地球にかぐやを縛り付けようと必死だった。
「ねぇ、かぐ――」
「彩葉」
かぐやの名前を呼ぼうとした瞬間、背後から突然声が掛かる。
凛として落ち着いた、どこまでも澄み通った声。この声を間違える訳、ないでしょ。
「……ヤチヨ」
声の主の名前を呼んで、そちらに向き直る。
私を呼んだヤチヨは、かぐやと同じく浴衣を身に纏っていた。まるきり同じという訳ではないが、似通った意匠のものだ。
ひらひらと手を振るヤチヨに聞きたいことは幾らでもあるけれど、今はその気持ちを一旦飲み込んでおこう。
「言いたいことは色々あると思うけど、少しお話しよ? ほら、かぐやも」
ヤチヨの手招きに応じて一枚のレジャーシートに集った。串焼き、焼きトウモロコシ、カニ、射的の景品……様々なアイテムが散乱している随分賑やかなレジャーシートだ。
三人並んでそこに腰を降ろせば、ヤチヨがぽつりぽつりと言葉を零し始める。
―――
この空間と衣装は全部私の我儘。皆と並んで花火を見たかったって一言言えば済んだ話なのに、ヤッチョは意気地なしだから遠回りしながらでしか伝えられなかった。ただ、花火を見たい。それだけの理由。
彩葉とかぐやが現実で隣り合って並べるのなら、私も、ヤチヨもそこに居たいって思ったの。三人で、一緒に。
―――
ヤチヨの話す内容は、どこか怒られることを恐れている子供みたいに見えた。全て聞いたうえで要約するなら、我儘になりたかった……って事かな。
そんなこと、言ってくれればすぐに叶えたのに。
「ヤチヨはさ、我慢し過ぎなんだと思うよ」
「かぐやもそれ言おうと思ってた! ホントに同じ存在か……? ってくらい性格違うもんね」
「そっくりそのままアンタに返すわ」
オーバーリアクションで驚くかぐやと、それを笑う私。
私達に挟まれたヤチヨは、私達を交互に見て小さく笑みを零した。
何も心配しなくても、ヤチヨはずっと私達と一緒にいる仲間や親友を超えた存在なんだから、まずは相談して欲しい。
叶えられるかそうじゃないか、話してもらわないと分からないから。
「まぁ、素直に物事を教えてくれなかったヤチヨには罰ゲーム、ね」
「……罰ゲーム?」
鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに、きょとんとした顔でヤチヨが私を見る。夜空に大輪の花が咲いている最中、レジャーシートの上では緊迫した空気が流れた。
星空に咲く色鮮やかな花、大笑いする金色のお姫様と、目をぐるぐる回しながら事実確認を何度も行う銀色のお姫様。二人を抱えし渦中の人物である私。中空に投げ出されたウィンドウには、ヤチヨから渡された沢山の衣装データが表示されている。
「ハロウィンパーティーしたい、って言ってたもんね」
今日は十月三十一日、世間一般ではハロウィンと呼ばれる日。
お化けの仮装をしてお菓子か悪戯かを問う季節の行事は、仮想世界にも存在する。
この風習に倣って、ヤチヨも仮装しないと。ついでに、かぐやも。
途中まで共謀だったって言うのはヤチヨから聞いてるし、報復する気は満々だったから丁度良い機会だ。
浴衣姿でレジャーシートの上に座り込むお姫様二人にじりじり近づく。
身の危険を察したのか、このエリアから逃げようとする悪いお姫様にはアクセス制限を掛けさせてもらった。管理者権限、様様だね。
「さぁて、二人とも。良い雰囲気なところ悪いんだけど……」
報復を決意したこの私、酒寄彩葉は誰よりも強いのだ。
「ハロウィンだもんね、季節の催しに則ってこうやって言わせて貰おっかな」
片手に露出度高めのコスプレ衣装、もう片手に後続の衣装を多数抱えて。
「トリック・オア……」
ハロウィンと言えばこのセリフ、悪童二人に人を手玉にして弄んだ果てというものを見せてあげよう。
「――トリート」
狐の恨みというものは、とても恐ろしいものなのだ。
お姫様二人にはお菓子を渡す余地すら与えず、悪戯をお見舞いしてやった。
これに懲りたら、自分の気持ちは素直に伝えるべし。
私の画像フォルダが潤ったのは、また別のお話。