並中の風紀委員長
並中の風紀委員長
「もー秋か~。夏休みもあっという間に終わって何か寂しいなー」
「補習ばっかだったしな」
「アホ牛がブドウブドウって最近ウザくねースか?」
昼休み。屋上にたむろする3バカ…もとい、ツナ、獄寺、山本。
最近はこの3人でつるんでいる姿を見ることが多くなった気がする。
「栗もうまいぞ」
「いだ!いだだ!!リボーンだな!い゛っ!!」
「ちゃおっス」
「いたいいたい!!刺さってるー!!」
イガ付きの栗のコスプレをしたリボーンに擦り寄られ、痛い痛いと騒ぐツナ。
なーにやってんだかなーと思いつつ、私もその場に歩み寄る。
「あん?ナマエ」
「やほー」
獄寺が一番に気が付いた。
軽く手を挙げれば、山本も顔を上げる。
「おー、ナマエ。どうしたんだ?」
「さあ…。リボーンに屋上に来いって言われたから来ただけ」
私は普通に教室で京子と花とお弁当を食べていた。食べ終わってのんびりしていると、いつの間にか教室の中にいたリボーンに銃を突きつけられて脅された。「ナマエ、今すぐ屋上に来い」と有無も言わさず。なんだか妙な圧を感じたから、とりあえず大人しく従って来てみたけど…そしたらこのいつもの3人がいたってわけだ。
「ファミリーのアジトを作るぞ」
これで全員揃ったとでもいう様に、話を始めたリボーン。
ファミリーのアジト…?なんかまた変なこと言い出した…。でも山本と獄寺は結構乗り気だった。
「へー、面白そうだな、秘密基地か」
「子供かおめーは!アジト、いーじゃないスか!ファミリーにアジトは絶対必要っスよ!」
「決まりだな」
「ええ…」
「ちょっ、まっ!!」
微妙な反応をするのは私とツナのみ。アジト作りとか超絶興味ないぞ…。教室戻っていいかなコレ…。
「教室戻ってみろ、ドタマ撃ち抜くぞ」
「…心読むのやめて。あと怖い」
リボーンに心読まれた…。でもそれは多分ツナにも言っていて、ツナは「ひいっ!」と怯えていた。
「どこに作るんだ?裏山か?」
「んなわけねーだろ!」
「学校の応接室だ」
山本や獄寺により話が進んでいく中、もう場所は決めてあるというリボーン。この学校の応接室…?なんか意外な場所が出てきた。
「応接室はほとんど使われてねーんだ。家具も見晴らしもいいし、立地条件は最高だぞ」
しかも既に色々調べてるし…。変に抜かりない。
でもそれにしたって学校の応接室とか勝手に使っていいのか…?
「まずは机の配置変えからだな」
「俺、10代目から見て右手の席な」
乗り気組は立ち上がる。
えー…行くしかないのこれ?まあとりあえず昼休みの間だけしのげばいいかなぁ。
「ほら、ナマエ、いこーぜ」
「あー…うん」
山本に肩を叩かれた。いかん、爽やかな笑顔につい頷いてしまった。山本マジック。すると獄寺が物凄い眉間に皺を寄せて山本の事を睨んでいた。え、何。山本は特に気にしてないのか「ん?」って顔してたけど。
「へ~、こんないい部屋があるとはねー」
応接室に着くと山本が扉を開いた。しかし中に入ることなく止まる。
「君、誰?」
中から声がした。でも前にいる山本と獄寺の背中でよく見えない。それでも何とか覗こうとすると、ちらっと黒い髪が見えた。
「なんだ、あいつ」
「獄寺、待て」
中の人物と目が合ったのか、ガンを飛ばす獄寺を山本が止める。え、なに…。なんか不穏?
「風紀委員長の前ではタバコ消してくれる?ま、どちらにせよただでは帰さないけど」
「んだと!!てめー!!」
風紀委員長…って。
沸点の低い獄寺が応接室の中に乗り込んでいく。そこで視界が開けて中にいる人物がやっと見えた。
黒髪で、きりっとした瞳。そして…風紀委員長とくれば。
「消せ」
中に入った獄寺のタバコを何かが勢いよくかすめた。
とんでもない早さ。その一撃を見た獄寺も異様な雰囲気を察したのか慌てて身を引く。
並盛中学の風紀委員長…その名前は確か、雲雀恭弥。
噂は聞いたことがある。風紀委員長でありながら不良の頂点にも君臨するとんでもない人だって。
ゆえに並中の風紀委員は不良が多く、また学ランを身に着けていて特徴的だったりする。
「…ナマエ、あいつって」
「…雲雀、恭弥」
山本に小声で聞かれ、私も答える。多分山本もうわさは聞いたことがあるのだろう。
転校生である獄寺は知らなかったのかもしれない。
「…ナマエ、聞いたことないか?雲雀は気に入らねー奴がいると相手が誰であろうと」
「仕込みトンファーで滅多打ち…って?」
口にしてみてぞわっとした。いやどんな噂だよってそれを初めて聞いた時は思った。でも、今目の前にいる雲雀恭弥の手にはトンファーが握られている。恐らくさっき獄寺のタバコを掠めたのはアレだろう。な、なんか、とんでもない状況になってないこれ…。
「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いだ。視界に入ると、咬み殺したくなる」
あ、確信。これやばい。絶対やばいこれ。こちらを睨む雲雀恭弥のその視線は明らかに不機嫌さと殺気を帯びていた。
「へー、初めて入るよ。応接室なんて」
その時、さっきまで後ろで欠伸をしていたツナが中に入ってしまった。ちょ、タイミング!!
「待てツナ!!」
「え?」
山本が慌てて呼び止めるも時すでに遅し。
「1匹」
雲雀恭弥は無防備なツナの顔面を容赦なくトンファーで殴りつけた。何が起きたのかわからないままドザッと床に転がるツナの体。
「のやろぉ!!ぶっ殺す!!」
「馬鹿っ、獄寺!!」
10代目が殴りつけられ、完全に頭に血が上った獄寺は雲雀恭弥に突っ込んでいく。呼び止めたけどそんなの聞いちゃいない。
雲雀恭弥は獄寺の攻撃をいとも簡単に避けてしまった。そして生まれた隙を着かれ、容赦ないトンファーがまた鈍い音を立てる。
「2匹」
獄寺も顔面を殴りつけられ、床に倒れてしまった。多分、音からして…ツナよりも重い。
「てめぇ…!」
「山本…っ」
ツナと獄寺がやられ、山本の空気がピリッとしたのを感じた。友達を傷つけられ、キレるのはわかる。でも多分…この人には、勝てない。
雲雀恭弥も待ちはしない。一歩前に出た山本に向かい、勢いよくトンファーを振り始めた。山本は持ち前の運動神経の良さでその攻撃を避け続けていた。でもひとつ違和感。その違和感に雲雀恭弥はすぐに気が付く。
「怪我でもしたのかい?右手を庇ってるな」
「!」
「あたり」
ドガッ!!
鈍い音。山本は野球の為に右腕を庇っていた。それを瞬時に見抜いた雲雀恭弥は今度はトンファーではなく足を使い、山本の体を思いっきり蹴り飛ばした。
「3匹」
山本も気を失う。その瞬間、最後に残った私の方へと鋭い視線が向いた。
「彼は時間を稼いでくれたんじゃないのかい?よく逃げなかったね」
「…まあ、流石にひとりだけ逃げるのは気が引けたので」
「ふうん、その覚悟はいいね。けど僕は容赦しないよ」
雲雀恭弥が向かってきた。物凄い勢いだった。
そして振り下ろされるトンファー。
…ああ、もうっ…やるしかない!
ガキンッ!!!
響いた金属同士のぶつかる音。私は念のためといつも持ち歩いている棒を構え、トンファーを受け止めた。
「へえ…なかなかやるじゃないか」
グッと力を込め、トンファーをはねのける。多分一撃で終わると思っていただろうから雲雀恭弥もそこから更に攻撃を仕掛けるつもりはなかったらしく、一旦身を引いてくれた。
私は棒のロックを外した。持ち運ぶために普段は短くしてあるけど、ロックを外すと長く出来る代物。
物心ついた時にははじめていた棒術。でも普段使うシチュエーションってまずないじゃん…。まさかこんなところで使うことになるとは。
「ええと…あなたは雲雀恭弥さんですよね」
「君は?」
「え…、答えないとまずいですか…」
「人にだけ聞くなんていい度胸してるね」
「…ミョウジナマエと言います」
トンファー構えて鋭い視線向けるのやめて欲しい…。ひええ…名乗りたくなかったのに…。わざわざ聞かなきゃよかった…。
でもとりあえず、今のこの状況をどうにかしなきゃいけない。悲しかな、今それが出来るのは自分ひとりというこの絶望…。
私はぎゅっと棒を握る手に力を込め、彼と交渉してみることにした。
「雲雀さん、応接室はあなたのテリトリーだったんですね。でしたら土足で踏み込んだことは謝ります。すみません」
「そうだね。でもまあ、君は面白そうだからいいかな。気に入ったよ」
「ん…?」
アレー…?なんか会話がちょっと変な方向に転がったような。いや、気にしないでおこう…。
それより今大事なのはどうにかして意識のないツナ、獄寺、山本をここから連れ出すこと。
「すぐに出ていくので、そこの3人回収させてもらえないでしょうか」
「タダで?それは虫が良くないかな」
「…雲雀さんとしても置き去りは邪魔では?」
「その心配はいらないよ。救急車に乗せてもらえるくらいグチャグチャにするからね」
ここからまだ殴るつもりなの!?噂以上に、なんかヤバい人かも…。ぞぞぞ…っとまた寒気がした。
「でもその前に、僕はもっと君と戦いたいな。…いや、そうだ。君、風紀委員にならない?」
「はっ…?」
「君はやっぱり面白そうだ。その身のこなしも、僕に交渉してくるその度胸もね」
「へ…」
ふ、風紀委員!?私に入れと!?い、いやいやいや…。あまりの提案に理解が遅れた。いや…絶対ヤダそれ…。
「それは…丁重にお断りさせていただきます」
「……。」
これははっきり言わないとダメだ絶対。そう思ってすぐさま拒否すると、雲雀さんの顔がムスッとした。え!?拗ねた!?…こ、この人よくわからない…。
「あー、いつつつ…」
「ツナ…!?」
その時、ツナが目を覚まして体を起こした。やはりツナへの攻撃はそこまで強いものでなかったようだ。
目が覚めたのはよかったけど…ツナは周りに倒れる獄寺と山本、そして雲雀さんと対峙する私を見て顔を青ざめさせた。
「ごっ…獄寺くん!!山本!!なっ、なんで!それにナマエ!?」
「起きないよ。ふたりにはそういう攻撃をしたからね」
やっぱりふたりには強い攻撃をした…。多分獄寺と山本は当分目を覚まさない。だからこそ早く連れ出したいんだけど…。
もういっそ雲雀さんと戦ってその隙にツナにふたりを引っ張り出させる…?私も雲雀さんには勝てる気しないんだが…。
そうして思考を巡らせていると、窓の外に銃を構えたリボーンの姿を見つけた。…え?
「んなー!?」
「死ね」
ズガンッ!
ツナがリボーンに気づいたとほぼ同時、いつものように額を撃ち抜かれる。もしかして…死ぬ気になったツナなら、雲雀さんにも勝てるだろうか?
「うおおおおっ!!死ぬ気でお前を倒す!!」
死ぬ気のツナは凄い勢いで雲雀さんに向かって行った。グーのストレートで飛び掛かるも雲雀さんは難なくそれを避ける。そして逆にツナの顎にトンファーを食らわせた。うっ…顎割れる…!見てるこっちが痛い…!でも死ぬ気のツナはそれごときでは揺らがなかった。
「まだまだぁ!!」
もう一度ぶつけた拳。今度は綺麗に雲雀さんの頬に入った。しかしそれでは終わらない。リボーンのボルサリーノの上が定位置のカメレオンのレオン。レオンは形状記憶カメレオンという種らしく、その形を色々なものに変化させられる。今回レオンが変化したのはスリッパ。え、スリッパ…?ツナはそれに握りしめ、スパーン!!!と雲雀さんの頭部を引っ叩いた。…ひえ。
攻撃を食らった雲雀さんは一瞬ふらついた。多分攻撃を喰らった時点で彼の逆鱗に触れただろう。でもそこにさらにスリッパって…。
「ねえ…殺していい?」
ほら、めっちゃ怒ってるー!!今の声のトーンはすっごい怒ってると思う!しかしそこに制止の声が入った。
「そこまでだ。やっぱつえーな。お前」
制止を掛けたのはリボーンだった。しかしそこまでと言ったところで雲雀さんが止まるわけがない。その怒りの矛先はリボーンにも向いた。
「君が何者かは知らないけど、僕今イラついてるんだ。横になって待っててくれる」
赤ん坊のリボーンに対しても容赦なし。トンファーを振り回し、リボーンに向かって行く雲雀さん。しかしリボーンはどこからか取り出した十手で簡単に雲雀さんのトンファーを止めてしまった。中学生の私がガードした時より、ずっとずっと軽く。…いや、でもマフィアがなんでそんな純日本製みたいな武器よ…。
「ワオ、素晴らしいね、君」
自分の攻撃をいとも簡単にとめた赤ん坊。雲雀さんも強く興味を惹かれたようだった。
でもさっきリボーンは言ったのだ。「そこまでだ」と。
「おひらきだぞ」
リボーンは手に爆弾を持っていた。
ドガアンッ!!
響いた爆音と煙。私とツナはその衝撃に紛れて急いで獄寺と山本を連れ出し、屋上にへと戻ってきた。
「なあ!!あいつにわざと会わせたぁ!?」
「危険な賭けだったけどな。打撲と擦り傷で済んだのはラッキーだったぞ」
応接室にアジトを作ると言う話は私たちを雲雀さんに会わせるためのリボーンの口実だったらしい。…途中から何となくそんな気もしてたけど。
それは私たちが平和ボケしないための実践トレーニング。鍛えるには実践が一番だから、と。…とんでもない奴だわ、ほんと。
「そーいやナマエ、大丈夫だったのか?見た感じ、怪我はしてねーみたいだけど」
「ん?」
「ケッ…あの野郎も一応女には手をあげねえってことか」
「あー…」
3人の中で最後にやられた山本は残った私の心配をしてくれて、それを聞いた獄寺は軽く舌打ちをしていた。
うーん…いや、がっつり殴り掛かってこられたけど。するとそれに答えたのはリボーンだった。
「おめーら何言ってんだ。ナマエはそこそこつえーぞ」
「なっ?」
「おっ?」
獄寺と山本がきょとんとする。ツナは、まあ…棒術やってるのは知ってるからなあ。
「ナマエ、小さい頃から習ってたよね…棒術。他にも剣道とかもやってたっけ?」
「んー、まあ…ぼちぼち。一番しっくりきたのが棒術だから今はそれだけだけど」
「おめーらが必要以上に殴られなかったのはナマエが雲雀の注意を引いたからだぞ。今回は感謝しとけよ」
その言葉を聞き、リボーンは私が戦える事やっぱり知ってたんだなって確信に変わった。
獄寺が転校してきた時、ツナに襲い掛かるのを見て助けに入ろうとしたら「手を出すなよ」と止められた。あの時からなんとなく、そうなのかも…って思ってたけど。
「つーかどーしてくれんだよ!!ぜってーあの人に目ぇつけられたよ!!」
ツナは雲雀さんに確実に目をつけられたことを嘆いていた。いやでもそれは同感…。私…名前も覚えられちゃったしな…。
「雲雀は将来必ず役に立つ男だぞ」
リボーンはそんなことを言う。あの人が役に立つって…さっぱり想像つかないけど。
もう午後の授業が始まる。昼休みなのにさっぱり休めずどっと疲れたよ…。屋上から出て階段を下りていると思わず漏れた溜め息。すると少し前を歩いていた獄寺が振り返った。
「…お前、戦えたのかよ」
「え?あー…まあ、一応?」
「まあ、10代目の秘書ってならそれくらい当然だな」
「…そこに結び付けるんかい」
別にそういうつもりじゃない。小さい頃から習っているだけ…って、もしかして親はすくなからずそういうつもりだったりしたのだろうか。とりあえずはそういう家系だし、もしもの時の…じゃないけど。なんか考えるのも聞くのも嫌だわ…。うん、考えるのをやめよう。
「つーか結局、お前も襲われたのかよ」
「まあ…とりあえずガードしたから喰らってはないけどね。あ、山本ありがとね!先に前出てくれて」
更に先を歩いていた山本。さっき雲雀さんが言っていたように、山本は多分時間を稼いでくれたからそのお礼。山本は振り返り、軽く手を上げながらも苦笑いを浮かべていた。
すると、それを聞いた獄寺は顔をしかめた。
「…野球バカ、お前のこと庇ったのか?」
「んー、獄寺が殴られたあと、先に前に出てくれたの。逃げる隙、作ってくれようとしたんだよね。まあ、置いて私だけ逃げる気はなかったけど」
「………。」
経緯を説明すると、獄寺は何だか神妙な面持ち。え、何だその顔。私がそう思いながら首を傾げると、奴は「はあ…」と息をついた。
「……お前は怪我してねえ、でいいんだな?」
「え?うん、私は別に。獄寺こそ大丈夫なの?すんごい音してたけど」
「こんくらいなんともねーよ」
私より顔面に思いっきりトンファー食らってた君の方がよっぽど心配である。
でもまあ、心配はしてくれたのか。その感覚に悪い気はしないけれど。獄寺隼人という人間は不器用ながら意外と優しい。それはわかってきたと思う。
後日、教室に風紀委員の人からセーラー服と風化委員と刺繍された腕章が届けられて私の血の気が引いたのはまた別の話。
To be continued