ラーメンのびちゃう
ラーメンのびちゃう
「へ?補習の手伝い?」
「おー。よかったら手伝ってくれると助かるなーって!」
前日、たまたま道で会った山本から爽やかな笑顔でお誘いを受けた。なんでもツナと一緒に補習の宿題をやるから手伝って欲しいとのこと。獄寺にも頼んでるらしい。あいついるなら別に私いらない気もするけど…。まあ特に予定は無いし、断る理由もないのだが。むしろ断るとテメェ何10代目の手伝い断ってやがる!!って自称右腕に怒られそうな気がする…。
…終わったらみんなで遊べるかな。それならそれもいいかもしれない。
「うん、わかった。じゃあ手伝うよ」
こうして予定がひとつ決まった。
休日の朝、私は着替えてツナの家に向かった。
「獄寺!山本!」
「よーっす!ナマエ!」
「何だお前、その袋」
「んー、家にあったお菓子適当に持って来た」
「お!サンキュー!」
「ふん、まーまー気は効くじゃねえか。ま、秘書としちゃ当然だな」
「秘書じゃないっての…」
ツナの家にほど近い辺りでふたりと出くわす。
甘いもの、しょっぱいもの、色々突っ込んできた袋はふたりもお気に召した様子。何でもかんでも秘書に結びつけるのはやめて欲しいけど。
「よーっ、頼りになる助っ人ふたり連れてきたぜ」
「お邪魔します!」
「おじゃましまーす」
チャイムを鳴らし、迎えて貰った沢田家。
奈々さんは留守らしく、廊下ではドタドタとランボがイーピンを追いかけ回していた。イーピンも沢田家に来てたのか。年が近い同士ランボと仲良く…と言うわけでもないなアレ。イーピンガチで逃げてる…。
「い…いらっしゃい!ゴメンね、急に留守番になっちゃって」
「俺はどこでもいいぜ」
「しかしガキの世話とは10代目も大変ですね」
「なんでランボ、イーピン追っかけてんの…?」
ヒュードロドロ。ブロッコリーのお化けだぞー。謎の台詞を吐きながらイーピンを追っかけているランボ。ブロッコリーのお化けってなんだ。アフロをブロッコリーに見立ててるってこと?
「ほら、イーピンのド近眼…ランボがブロッコリーのお化けに見えたんだって。で、なぜかランボも満更じゃなさそうでさ…」
「あー…」
ツナが説明してくれた。納得。
まあとりあえず中学生チームは目的を果たさねば。私と獄寺は助っ人だけど、勉強しに来たわけだし。
そうして部屋に行き、ツナと山本が机の上に取り出したのはまさかの粘土だった。…え、補習って美術?
「?どーしたの獄寺くん」
「…まさか美術の補習とは思ってなかったので…」
「ハハハ、獄寺なんだそりゃ」
「う、うるせー!どー見ても富士山だろうが!!」
「いやどー見たら富士山よ。興味あるからぜひ教えてください」
「ナマエてめえ黙っとけ!!!」
今回の補習はまさかまさかの美術だった。そして助っ人獄寺、美術のセンスは酷く前衛的。なぜ富士山がそんな細長く尖っている…?
「んで、ナマエは何作ってんだ?犬か?」
「俺は猫に見えるんだけど…」
「んー、どっちでもいいかなー」
「なんでそこ適当なんだよオメーは」
んで私。適当にこねて作っていた動物。山本は犬に見え、ツナは猫に見えると言う。いや別にどっちとか考えず、それっぽくなった方でいいやーって感じだからどっちでもいいのさこれは。ちゃんとそれっぽく見えてるなら獄寺のよりは優秀ということで。
そうして私たちが集中する中、お子様ふたりは相変わらずドタドタと部屋を走り回っている。気にしないようにしてるけど、ツナと獄寺はちょっとイラっとしてきてる模様。そんな調子ならいつか…とは思ってたけど。遂にその瞬間はやってくる。
「待たんかー!!」
どーんっ!!
さっぱり周りの見えてないランボが机の上に両足でダーイブ。びしゃっと飛び散る粘土。直撃を喰らったのは獄寺の富士山らしきもの。
ああ、ぷつんと堪忍袋の緒が切れてしまった。獄寺はランボのアフロをガッと掴み引きずり上げ、そのままぎゅううううううっと首を絞めあげた。
「お前わざと俺の狙ったよなぁ!!!」
「ガハ…ハ…」
「獄寺くん!落ち着いて!!気持ちはわかるけど…!!」
「こいつら実は仲いいよな!」
「喧嘩するほど…?って、獄寺ちょっと手加減しなよ…」
キレる獄寺をなんとか止めようとするツナ。山本は山本節。私も溜め息を吐きながらなだめる。
いやまあランボもちょっとはお灸必要かなとは思うけど…。でも流石にガチで絞めすぎだ…。
「なにしてるんですか獄寺さん!!子供いじめちゃだめだってなんでわからないんですか!!」
そんな部屋の中に、女の子の高い声が響いた。勿論私じゃない。振り向くとそこにいたのはまさかのハル。
「え、ハル?」
「ナマエちゃんもいらしてたんですね!こんにちは!」
「あ、うん、こんにちは」
丁寧に挨拶してくれたからこっちも釣られてぺこりと挨拶。
その隙にランボは獄寺の手から逃げ出し山本にしがみ付いていた。獄寺はハルを見て「うるせーのが来た…」とか酷い言い草。でもツナも上げた覚えがないハルの登場には驚いていた。
「また勝手に上がってるし!」
「ツナさんのお母さんに心配だから時々見てやってって頼まれたんです」
「なっ…母さんめ…またよけーなことを」
どうやら奈々さん公認らしい。でもお子様たち、ハルが見てくれるのは結構有難いのでは?この間の保育係騒ぎの時、大人ランボの登場でメチャメチャになったけど、一番適性があったのは間違いなくハルだろうから。
「あっ、あなたがイーピンちゃんですね!」
ハルはイーピンの話も聞いているらしい。近づくと腰を屈めて話しかける。しかしイーピンは自分に近づてきたハルになぜか焦っていた。
「なんて言ってんだ?」
「シューマイの化け物だ」
ツナが尋ねるとイーピンの言葉を通訳してくれたリボーン。
しゅ、シューマイ…?こうなってくるともはや近視とかいうレベルじゃないような…。
「ナマエちゃあん…ハル、シューマイじゃないですぅ~…」
「あー、あはは…よしよし…」
「しょ、しょーがないよ。イーピン、ド近眼なんだから」
ショックで泣きついてきたハルの背中を撫でていると、隣からツナもフォローを入れてくれた。するとド近眼というワードを聞いたハルは「えっ?」と顔を上げる。
「ド近眼?じゃあ、これド近眼用です」
ハルは鞄をあさり、眼鏡をひとつ取り出した。どうやらこれはお父さんの眼鏡らしく、今ちょうど頼まれて眼鏡屋さんに取りに行ってきたところだそうだ。
イーピンはハルのお父さんの眼鏡を借り、改めて周りを見始めた。これで無事にハルの事もシューマイではなく女の子と認識。ランボに関してはブロッコリーのお化けからただのバカ…まあ人間だとは認識されたようだ。
でも、イーピンが今までランボから逃げ回っていたのは相手がお化けだと思っていたから。そうじゃないとわかれば、負けなどしないわけで。
「コラ新入り!!ランボさんを無視するなー!!」
相変わらずイーピンに突っかかるランボ。しかしイーピンは餃子饅を手にすると、触れることなくドンッ!!とランボの体を吹っ飛ばして見せた。それによりドサッと床に叩きつけられるランボ。
「今…触れなかったぞ」
「ランボちゃん!」
触れずに吹き飛ばしたことを驚く山本。ハルは床に叩きつけられてしまったランボを心配する。
「あれが餃子拳」
「あっ、あれがそうなんだ?」
一方で獄寺はその技に感心し、それを聞いた私も成程と納得した。
ツナからイーピンは餃子拳という拳法の使い手だと聞いていた。それは食べている餃子饅の臭い息を圧縮し相手の鼻に送り込み、直接脳をマヒさせるというものらしい。
聞いた時はなんじゃそりゃと思ったけど、実際見てみると凄いなコレ。
「イーピン、凄いね!」
だから私は素直にその感心をイーピンに伝えた。するとイーピンはぺこりとお辞儀してくれる。やっぱりこの子は礼儀正しいいい子だよね。その一方、叩きつけれたランボは涙目になり震えながら起き上がった。
「が・ま・ん…、ランボさんは!モジャモジャ頭のランボさんは!お前みたいなヘンテコ頭に負けないもんね!!」
こうなるとランボに残された戦い方は口喧嘩のみ。けどこれ…あんまりよろしくない気がする。
「ら、ランボ…ちょ、ちょっとストップ」
「コ…コラ、ランボ!イーピンが恥ずかしがるようなこと言うなって!爆発するぞ!」
私が止めに入って、同じように状況を察したツナもランボを止めようとする。しかしこうなった5歳児がそう簡単に止まるはずもなく…。
「お前なんかしっぽ頭!!しっぽあたまああああ!!!!」
わあああっと泣き叫んだランボ。あっ、や、やばい…かも。
恐る恐るイーピンに目を向けると案の定、物凄い滝汗をかいている。そして額に現れてしまった人間爆弾のカウントダウン。…ひ!!!
「んなぁあああ!!ダメ!ダメダメダメーッ!!」
「ツナ!!」
「10代目!!窓から外に!!」
恥ずかしがったイーピンはツナの足にしがみつく。私はイーピンを引き剥がすのを手伝い、獄寺はその間に窓を開けてくれた。
一方、天然山本は「またあのアブネー遊びか」とのほほんとしていて、前回の爆発現場にいなかったハルはきょとんとしていた。
いやとりあえず今はイーピンの爆発から逃れるのが先!!
「ツナ!!早く!!」
「わああああ!!」
ツナは獄寺が開けた窓の外にイーピンを放り投げた。
しかし運悪く辮髪が窓の釘に引っかかり、ぶらーんと宙吊りになってしまったイーピン。いやどんな確率で起こるそれ!?
「届かないーっ!!」
「逃げましょう10代目!!ナマエ!!お前もぼさっとしてんじゃねえ!!」
「いっ、いやでも…!」
ぶら下がってしまったイーピンには手が届かない。確かにもう逃げるしかない!?とりあえず山本とハルは引きずって逃げる…!?
「イーピンちゃんに何してるんですかツナさん!!」
「それどころじゃないんだって!!」
「は、ハル、とりあえず今はちょっと…!」
「ナマエちゃんまで何言ってるんですか!!」
ハルに怒られた…。確かにハルからしたら幼児を窓からぶん投げる虐待シーンにしか見えないかもだけど…!
しかしそうこうしている間にも時間は過ぎていく。気づけばもう額の印はもう三箇。まずいまずいまずい!
「やばい!逃げよう!おいランボ!こんな時に何やってんだ!!」
焦るツナ。ランボは相変わらず泣き叫んで10年バズーカを取り出していた。泣くと10年バズーカ取り出す癖あるよねこの子!!
「ああ!時間がない!どーしよー!!」
「こーしろ」
残りニ箇。もう一になる…そんな瞬間、リボーンはランボが持っていた10年バズーカをベチッとはたいた。ちょうどランボが放ったタイミング。ぐるりと回転した10年バズーカの弾はイーピンに向かって飛んでいく。
ドガァン!!!
爆発は起きた。しかしそれは人間爆弾のものではなく10年バズーカによるもの。
「これで爆発は未来に持ち越されたぞ」
り、リボーンナイス…?なんとか急死に一生を得た?
いやでも未来の自分と入れ替わる代物なら未来のイーピンの近くに誰か人がいたら…いや、もう考えないでおこう。
というか今この煙の向こうにいるのは10年後のイーピンということ。…一体どんな姿に。正直それに関してはちょっとドキドキした。
「あり!?なんで?なんで出前の途中のはずなのに屋根の上にいんのかな?」
煙が消えていく。その中から現れたのはおかもちを持ったラーメン屋さんルックの女の子だった。わ、可愛い子だ。ん…?てことはつまり?
「うそーーっ!!イーピンって女の子だったのーー!?」
「やだツナってばなんて失礼な!」
「ナマエわかってたの!?」
「……んー」
「目ぇ逸らしてんじゃん!!!」
まさかのイーピン女の子だった衝撃の事実。でも私、女の子だったのなんてそんなこと大声で言わないもん。
…ごめんイーピン。私も女の子だったの驚きました。
「いけない、ラーメン伸びちゃうわ。川平のおじさん、うるさいのよねー…」
「しかも日本語ペラペラ!」
「い、イーピンすごいね…」
「あ、沢田さんだ!ナマエさんも!こんちは!」
10年後のイーピンも私たちのことはわかるらしく、愛想良く挨拶してくれた。しかも日本語こんなにペラペラ。勉強頑張ったんだなと彼女の努力を感じざるを得ない。
「イーピン…あの…女の子らしく…なったね」
「へ?」
「ちょ、ツナ!」
何の気なしにイーピンを褒めたツナ。気持ちはわかるけどそんなこと言ってまたイーピンが恥ずかしがったらどうする!?私が脇腹を小突くとツナもハッとしたらしく慌てて口を押さえた。
しかし10年経ったイーピンの反応はその予想とは大きく外れたものだった。
「何言ってるんですか、藪から棒に!何も出ませんよ!もーっ」
「ふつーに恥ずかしがってるー!!」
「え…じゅ…10年ってすごいね…」
なんか私さっきからすごいしか言ってないような?でも本当に10年という歳月を感じた気がする。イーピンってラーメン屋さんで働いてるの?10年経っても日本で修行してるんだろうか。
「箇子時限超爆は?っていうか拳法は!?」
「え?嫌だ沢田さん、もうやめたじゃないですか。今は大学行く学費を貯めなきゃいけない時だから。箇子時限超爆はやめる時に中国の師匠に封印して貰いました。キーワードとともに」
ツナが聞けばすんなりとそう教えてくれたイーピン。今は大学に行くお金を貯めている…。あの爆発はお師匠さんに封印して貰った。
「カタギってわけか…」
「あー…そー、なるの?」
「もう本当に普通の女の子だ…人って変われるもんだなぁ…」
「じゃああたし、出前行かなきゃいけないんで!」
私やツナ、獄寺は驚いた。そしてイーピンは出前に行くからとここを去ろうとする。とりあえず5分経たないと配達には行けないけど…まあそろそろ経つだろうし大丈夫かなぁ。
そんなことを思っていると、ぺしぺしと足を叩かれた。
「ねーねーナマエ!しっぽ頭は!?あと抱っこー!」
「えっ、あ、ランボ」
「なんだランボ、泣き止んだのか」
「はぐっ!」
はぐ…?
私やツナがランボに目を向けると聞こえた声。…イーピン?
とりあえずせがまれたのでランボを抱きかかえながら振り向くとイーピンはランボをじっと見つめていた。
「ブロッコリーの…化け物…!ああっ!頭が!!」
そして頭痛に苦しみ出すイーピン。え、ていうかブロッコリーの化け物って…。するとその額に浮かじ上がったのは箇子時限爆弾の印。
イーピンのお師匠さんーー!!??
何をキーワードにしてるんですかー!!??
恐らくキーワードはブロッコリーの化け物。
あ、終わったわ…。
悟ってからは早かった。
10年経って目覚めた箇子時限爆弾は、とんでもないパワーアップを遂げていた。
To be continued