跳ね馬
跳ね馬
「いいか。明日の朝、学校に行く前に沢田家に寄るんだぞ。来なかったらどうなるかわかってんだろーな」
昨晩、赤ん坊からどえらい物騒な電話が来た。
行かないとどうなるか…その答えは恐らく、死。
恐ろしくて思わずぶるりと身体が震えた。
まあツナの家に寄るだけならお安い御用かなぁ…。無理難題を言われているわけでもない。私はいつもより少し早く目覚ましをセットして、翌日、言われた通りに沢田家に向かった。
「な、なにこれ…」
辿り着いた沢田家の前。そこは黒スーツ姿の男の人で溢れていた。え、こわ。
リボーンが来いって言ってたのもこれに関係してるんだろうか…。だとしたらマフィア関係者?
恐る恐るその集団の中を進み、なんとか扉の前までやってくる。するとちょうどカチャリと扉が開いた。
「やべ、ディーノさんの亀騒動で寝坊しちゃったよ…って、ナマエ!?」
「おはよ。…てかツナ、この状況なに?」
中から出てきたツナに軽く手を上げて挨拶する。そしてこの周りにいる黒スーツ集団について聞いてみるとツナはぐいっと私の手を引き、ひそひそと話を始めた。
「いやこれは昨日ちょっと…あー、どこから話せば…ていうかナマエ、なんでいるんだよ」
「貴様の家庭教師の来いと言われたからだわよ」
「リボーンに…?」
昨日ちょっとって結局何なの。それにちゃんと答えないうちから私に質問してきよってからに。まあ別に答えるけどさ。
するとまたカチャッと玄関の扉が開く。奈々さんが出て来たかと思ったけど、そこから覗いたのは輝くような金髪の男の人だった。うわ、イケメンだ。
「ん?おっ、もしかしてお前、ミョウジとこの娘か?」
「へっ?」
「そうだろ!おー!会ってみたかったんだよ!」
「え、えっ…!?」
イケメンさん、私を見つけるなり何故だか顔をパッとさせる。会ってみたかった!?いや多分ミョウジとこのっていうのは私であってるかと思いますが…!?
イケメンに顔を覗かれ、ぱしぱし肩を叩かれると流石にちょっと緊張するぞ…!?
「ツナとは幼馴染みだったか?仲良さそうだな!名前はなんて言うんだ?」
「え…ナマエです」
「そっか!ナマエか!いい名前だな!俺はディーノって言うんだ」
「ディーノ、さん?」
「おう!簡単に言うと、ツナの兄弟子ってところだ!よろしくな!」
「あ、兄弟子…ですか?」
にかっと笑う。これだけでコロッと女の人何人か落とせそうだな…。いい人ではありそうだけど…。でも兄弟子って何…。
相変わらず困惑が拭えないままの私。するとツナの家の周りにいた怖そうな黒スーツさんたちがこちらに声を掛けてきた。
「ボスー、お嬢さん困らせてんじゃねーぞー」
「なんだお前ら、迎えなんて頼んでねーぞ」
「誰も迎えになんて来てねーよ、ボス。散歩してたらここについただけだぜ」
「俺もだ」
「俺も」
「駅前のホテルからかよ…」
ディーノさんをボスと呼ぶ…。ボスって、多分マフィアのボスだよね…?つまりこの人たちはディーノさんの部下たち?な、なにゆえマフィアが沢田家に…。
でもわりとフランクな感じだな…。この人がボスとして愛されているのが今のやり取りだけでもわかるような気がする。
「おはよーございます!!10代目!!」
「「!」」
その時、急に大きな声がした。私とツナがビクリと振り返ると、そこにいたのは獄寺。いやまあ声でわかったけど…。
「早起きしたのでブラブラしてたらここについちゃいました!」
「……ねーツナ。同じこと言ってるよ、こいつ」
「は、ははは…」
ディーノさんの部下とまったく同じことを言っている獄寺。
これは…ツナもボスとして愛されているという証…?これに関してはなんだかなーって感じだけど。
すると獄寺は私にも目を向けた。
「ナマエ、なんでてめーもここにいるんだよ」
「知らないよ…。リボーンに呼ばれただけだもん」
「リボーンさんに?ってか何だよ、この連中は」
「さあ…それもよくわからない」
「チッ、何にも知らねーな、てめーは」
舌打ちされた。イラッ。朝っぱらから失礼極まりないムカつく男だな。
するとポンと肩を叩かれた。その手はディーノさんだった。
「へえ、ナマエ、悪童とも仲良さそうだな。よお、悪童スモーキン・ボム。会うのは初めてだな」
「!そのタトゥー…跳ね馬のディーノ…!」
悪童スモーキン・ボム…。ディーノさんは獄寺をそう呼んだ。そして獄寺の方もディーノさんの腕に刻まれたタトゥーを見て彼が何者かを理解したようだった。へえ…ディーノさんってそっちの世界だと有名な人なのかな。
でも正直、それより私が気になったのは悪童スモーキン・ボムという呼び名の方。いや、マフィア関係者なのはわかってるし何かと物騒な奴だけど…私自身は同級生として接してる気持ちの方が大きいから、なんとなく。まあ改めて、そうなんだよなーって思っただけだけど。
そんなことを考えていたら、急にぐっと獄寺に腕を掴まれ引かれてその辺に放り投げられた。は!?
「うえ!?ちょ!?」
「おい、うちの秘書にあんま馴れ馴れしくしてんじゃねーぞ」
「おー、わりぃな」
獄寺が睨みつけたのはディーノさん。私の肩に置かれていたディーノさんの手は、獄寺に引き寄せられた瞬間に離れた。ディーノさんは手をひらりをさせて笑う。それを見た獄寺はまた「チッ」と舌打ちしてた。
うちの秘書…。いや秘書じゃねえってば…。別に馴れ馴れしいとかも思ってないし…。てかその隠すことのないいけすかねーオーラよ…。そして今放り投げたの私忘れない!!
「ツナと獄寺、お、ナマエもいるじゃねーか!何やってんだおめーら、遅刻するぜ!」
その時、陽気な声が聞こえた。同時にガシッとツナと獄寺の肩を抱いたのは、ふたりより背の高い黒髪の彼。
「え、山本」
「おう、ナマエ、はよ!ども!」
通りかかった山本。山本はこちらに笑顔を向けた後、ディーノさんにも軽く挨拶する。ディーノさんも「よっ」と返していた。山本のこの愛想のよさは流石というか…獄寺は少し見習った方がいい。
「さっさといこーぜ!ほら、ナマエも!」
「あ、うん」
「馴れ馴れしくすんじゃねえ!!」
ツナと獄寺の肩を抱いたまま、私にも声を掛けて歩き出す山本。獄寺はベタベタするなと怒鳴っていて、ツナはおとなしくズルズル。私はとりあえずディーノさんに振り返り、ぺこっと一度頭を下げるとすぐに3人を追いかけた。まあそろそろ行かないと遅刻するのは確かだし。
それから登校中、私たちは獄寺からディーノさんの話を色々と教えてもらった。
「へー、ディーノさんが?」
「ええ。あいつが先代が傾けたファミリーの財政を立て直したのは有名な話っス。マフィア、キャバッローネファミリーっつったら今じゃ同盟の中でも第3勢力ですしね」
「ふーん…キャバッローネって言うんだ…。ボンゴレの同盟ファミリーか…」
ディーノさんはボンゴレの同盟キャバッローネファミリーのボス。通称、跳ね馬ディーノ。経営者としてもなかなか腕が立つそうな。
いつもはマフィアの話なんて嫌がっているツナも、ディーノさんには憧れる部分もあるのか普段よりは関心がありそうだった。
ちなみにリボーンの元教え子だそうで、だからさっき言っていたツナの兄弟子と言うのはそういうことらしい。
「部下に慕われて経営センスもある…なんか非の打ち所がないって感じだね。顔もカッコよかったし」
「なっ!カッコ…いいだと…」
「え?なに?」
なんか引っ掛かったらしい獄寺。え、私変なこと言った?そしてまた舌打ちされる。ねえ、こいつ今朝だけで何回舌打ちしてる!?
「チッ…趣味わりーな」
「いや趣味っていうか…一般論では。ねえ、ツナ」
「え、俺に振る!?」
私の好み云々ではなく。ディーノさん見て不細工っていう人もなかなかいないと思うが。
とりあえずツナに同意を求めておく。ツナに振っとけば獄寺も変に突っかかってこないだろうし。
「どっちにしろ、俺は好かねースけどね」
「え…な…なんで?」
「年上の野郎は全員敵スから」
ツナが聞くと言い切る獄寺。範囲広…!!もう無茶苦茶だなこの男、本当に。
「なあ、ツナ。さっきマフィアって言ってたけど…変な会社名だな!」
そして山本は万事こんな感じだし…。まあいい…山本、君はそのままでいてくれ。変にマフィアに絡んでもいいことないだろうし、それが一番だと私は思う。
でもそう思ったばかりだったのに、次の瞬間とんでもない事件が起こる。
ギギッ!!!
私たちの真横に乱暴に車が止まった。思わずビクリとする。でもそうして固まった隙を突くように車からツナに向かってロープが飛び出してきた。
「え!?嘘ー!!!!」
ロープでツナを捕らえると車はすぐに発進しそのまま連れ去ってしまう。あまりの手際の良さ。…え、ええー!?
「10代目!!」
「ツナ!!?」
「えっ、ちょ、ツナー!!」
どんどん遠ざかり、見えなくなっていく車とツナの姿。な、え、さ、攫われた…?これもまさかマフィア絡み…?
「ありゃここら一帯を絞めてるヤクザ、桃巨会の車だな」
「え、リボーン!」
「リボーンさん!」
いつの間にか背後にリボーンがいた。
ヤクザ…?桃巨会…?
「ヤクザといえばジャパニーズマフィアだ。大人マフィアに中学生のお前たちが敵うわけねえ。ここは警察に任せろ」
妙に色々詳しいリボーン。なんでヤクザがツナのこと攫うのさ…。それもボンゴレ10代目だから?
どのみち、こう言われてこのふたりが大人しくしているはずもない。
「任せられません!!」
「警察は任せたぜ!小僧!!」
「あっ、ちょ!?獄寺!山本!…もー…」
ひとりここに残されても困る。勿論、ツナを心配する気持ちもあるけれど。
私も走り出したふたりを慌てて追いかけた。…けど、ヤクザの事務所に乗り込むとか正気の沙汰じゃないよなあ…。辿り着いてしまった桃巨会の事務所前。私は思わずため息が出た。
「はーあ…なーんでこんなことに」
「つか何でお前も来てんだよ」
「何でと言われても…」
「はは、獄寺、ナマエのこと心配してんのな!」
「ばっ…!な、ちげーよ!この野球バカ!んなわけねーだろ!!」
呑気に笑う山本。怒鳴る獄寺。君たち、ヤクザさんの事務所の前で騒ぐのはいかがなものかと…。図太いのか何も考えてないのか…。ここに来ちゃった時点で私もそう変わらないかもしれないけど。私は手を伸ばし、忍ばせている棒を確かめた。
「はー…気にしなくていいよ。自分の身は自分で守る」
別に、そこまで考えなしについてきたわけじゃない。何かあったとて、足手まといになるつもりはない。とりあえず穏便に話し合いが希望だけど…ヤクザさんと交渉なんて出来るのかなぁ。
獄寺が扉に手を掛ける。こうして私たちはヤクザ桃巨会の事務所に乗り込んだ。
「吐けよコラ!」
「居場所、教えてくんねーか?」
胸倉を掴み脅す獄寺。肩を揺らして尋ねる山本。話しかけているヤクザはいずれも…というか周りにいるヤクザたちは全員ボッコボコのフルボッコ。
結局こうなったよなあ…。私も、自分に襲い掛かってきた人は何人か応戦しちゃった…。南無…。
「てかナマエ!本当につえーのな!」
「ケッ…、まーまーやるじゃねえか…」
「あー…お褒め頂きどーも」
私が数人のした様子はふたりも見ていた。雲雀さんとの一件があった時、リボーンが私の事をそこそこ強いと評価してくれたけど、あの時ふたりは気絶していたから実際に戦えるのかどうかってのは見てなかったもんね。いや別に見せなくてもいいんだけど…。普段まず戦うとかないし…。
そんな時、ガチャッと事務所の扉が開いた。中に入ってきたのはまさかのツナとディーノさん。
「え、ツナ、ディーノさん?」
「10代目御無事で!!」
「元気そーじゃねーか!!」
ツナの姿が見えるとすぐさま駆け寄った。とりあえず怪我とかはして無さそうだけど。むしろツナは「えっ、あっ…!」と、ヤクザたちを倒してるこちらを見て驚いていた。
…ディーノさんが助けてくれた?いやなんか、もしかしてリボーンに嵌められたんじゃないかって気もしてきた…。
「何してくれてんだ?ガキどもが…」
そしてその時、奥の部屋からまたヤクザがわらわらと出てきた。あ…なんかまたさっきとは雰囲気違う気がする。さっきの人たちはいわゆる下っ端ってやつだったのかもしれない。
「のヤロー…次から次へと」
短気な獄寺は受けて立とうとする。しかしそれをディーノさんが止めた。
「おい待て。さっき倒した若い衆とはわけが違うぜ。お前じゃまだ無理だ」
「ああ!?」
「大人の相手は大人に任せとけ」
ディーノさんは前に出た。獄寺はムカついた顔してたけど、ディーノさんが話をつけてくれるならそれが一番有難いと思う。
「俺はキャバッローネファミリー10代目のディーノだ。こうなったのは全て俺の責任だ。悪かったな。全員の治療費と備品の修理費は払う。それで手を打ってくれ」
責任はとる…。それが出来る財力もある。これは本当に出来るボスって感じかもしれない。しかし桃巨会の幹部はそれを良しとしないようで。
「はっ?ファミリー?何わけのわかんねーこと言ってやがんだ?ここは日本だぜ」
「チャラチャラしやがって!」
「金は頂く!そしててめーらは帰さねえ!」
「…交渉決裂か。じゃあ力づくで帰るしかねーよな」
ヒャハハ!と笑う桃巨会。受け入れられなかった交渉にディーノさんは鞭を構える。へえ…ディーノさんって鞭使いなんだ。鞭って使ってる人見たことない。何だか少し興味がうずいた。
「いくぜ!」
ディーノさんは勢いよく鞭を振るった。しかしそれが飛んだのは明後日の方向。
ベチッ!バチッ!ガスッ!!喰らったのは、獄寺、山本、そしてまさかのディーノさん自身の顔面。
「何すんだテメー!!」
「いってーっ!!!」
「自分にも当たったーっ!!」
顔を押さえてうずくまる3人。え、ええー…!?あんな格好よく振るってこの失態は一体!?もしかしてディーノさんって戦闘能力はからきしだったりする!?
しかしこの失態の答えはツナがこそっと教えてくれた。
「ナマエ…!ディーノさん、部下の前じゃないと運動音痴になるんだよ…!!本人気付いて無いけど…!!」
「いやなんだその特異体質…!?」
そういやここに部下の人連れてきてないの!?ていうかそんな体質ある!?
ツナは目の前にいるヤクザにすっかり縮こまり「ヒイイイイッ!!」と情けない悲鳴を上げている。
え、いや…この人数、私一人でどうかしろと?そ、それは…勘弁して欲しいのですが!?
…と思ったその時、ツナの額と両手の甲に銃弾が撃ち込まれた。え、死ぬ気弾!?
「復活!!死ぬ気でヤクザを倒ーーーす!!!」
額に炎を灯し、上半身裸になったツナ。また同時に弾を撃たれたその拳はあり得ない程大きなサイズになっている。手の甲に撃つと拳が大きくなるのか…。ツナは巨大な拳を振り回し、次々にヤクザをぶちのめしていく。しかし背後から襲い来るヤクザ。そこは私が手を貸そうとしたその時、ドガン!!と爆発が起きた。
「大丈夫スか、10代目!」
「後ろは俺たちに任せろ!」
「おう!」
獄寺と山本は立ち上がり、ツナの背中を守った。そしてそこにディーノさんの部下も合流。ツナが言っていた通り、部下が来てからのディーノさんの鞭使いは劇的に見違えた。本当に部下がいるいないで変わるんだあの人…。
結局全員で大暴れし、桃巨会を壊滅させてしまったのだった。
「いやー、感心感心!お前らにならツナを任せらせるぜ!」
こんな状態では学校どころではないので、一度ツナの家に戻ってきた私たち。
ディーノさんはツナの部下がどんな人間かを見てみたかったらしい。そして今回の一件で私たちはそのお眼鏡にかなったそうだ。…いや、獄寺以外部下のつもり特にないですけど。ああでも山本はごっこという概念上ではそのつもりなのか。
「じゃー、俺部下と買い物してくら。じゃな」
ディーノさんは一足先に立ち上がり、部屋を後にしていった。
まあ…マフィアのボスだけど、人当たりはいいし、良い人なのは確かだよね。
「獄寺くん…ディーノさん嫌いだからもっと突っかかるかと思ったよ」
「あー、確かに。静かだったね、獄寺」
扉が閉まったタイミング。ツナが獄寺に意外だったねと口にした。でもそれは同意見で、私も獄寺の顔を見る。
すると獄寺は少し顔をしかめ、ディーノさんに突っかからなかったワケを話した。
「あいつ、口ばっかりでてんでヘナチョコでしょ?相手にしないことにしたんス」
「え…そ、そーゆー?」
「いや…ディーノさんはヘナチョコじゃあ…」
部下の前ならヘナチョコじゃない。ツナはそうフォローを入れようとしたけど、直後に廊下から聞こえた「うわあああ!!」という悲鳴とドデドデーン!!という物凄い音。
慌てて廊下に出てみると、ディーノさんは階段から足を踏み外したらしく、下のところに転がっていた。
…これは、説得力ない…かもね。
To be continued