どうでもよくない
どうでもよくない
(※獄寺視点)
『山本ォ!助かったー!!』
そう言った10代目の声が耳に残る。10代目が頼りにしてるのは、俺じゃなくて山本。そんなことを考えたら、あの城を飛び出して転々としていた頃の記憶が蘇った。
『ファミリーに入りたい?ピアノ弾くようなナヨナヨしたヤローはファミリーになれねーんだよチビ!』
『東洋人とのハーフなんかにボスの命預けられっか!他を当たるんだな』
『何睨んでやがる悪童が!てめーを雇うファミリーなんてイタリア中探してもありゃしねーよ!』
どこへ行っても厄介者。宿なしスモーキン・ボム。でも、同時に思う。
「やっぱ俺、ひとりが向いてんのかな」
ひとりきりの公園。小さな呟きが自分の耳にだけ届く。ふかしたタバコの煙を見つめる。するとその瞬間、その視界にガバッと何かが映り込んだ。
「なに黄昏てんのさ?」
「どわっ!?ナマエ!?てめっ…!?」
ブランコに座る俺の前にしゃがみ、こちらを覗くナマエの顔。び、ビビった…!!こいつ気配でも消せんのか!?そう思うくらいに気が付かなかった。ガシャッとブランコを揺らす勢いで驚いた俺の姿にナマエは満足そうに笑っていた。
「あははー、間抜け面ー」
「っ…んだとてめえ!」
「ねえ、コンビニ行かない?なんか適当にお菓子買って戻ろうよ。ツナと山本も食べるだろうし」
「は?…いや、俺は…」
戻ろう。そう言われて自分の瞳が揺れた自覚があった。戻ろうったって…もう俺は。…つーか、そもそもこいつは何でここにいる?
「…つか、てめえはここで何してんだよ」
「ん?普通に獄寺追っかけてきただけだけど?」
「は?」
正直、面を喰らう。俺を追いかけてきた?そう言われると次に浮かぶのはどうしてという感情。
「…なんで」
「出て行ったのが見えたから」
「いやだから、なんで出てったのが見えたからって追ってくるんだよ」
「どこ行くのかなーって気になるじゃん」
「…なんねーだろ別に」
「そりゃ、どうでもいい人ならね」
「…はっ?」
「でも獄寺はそうじゃないじゃん。私の中で、とりあえず獄寺はそう言う部類だもの」
「……とりあえずって何だオイ」
とりあえず。余計な一言。だけど、さも当たり前のように言う。そしてその顔には俺に向けた笑みが浮かんでいる。その顔を見ていると少し変な気持ちになった。誰かに笑みを向けられること。それは少なからず自分に向けられる好ましい感情の証で。なにより今、言葉で、こいつは俺の事をどうでもいい人間ではないと言う。
…でもこいつは、比較的いつもそうだよな。
喧嘩もする。毎日、くだらないことを何かしら。
だけど自分といることを、悪くは思っていないと…言葉、声音、視線…端々で、そう伝えてくれる気がして。
ああ、そうか。だから…居心地がいい。
「やーっぱり、ナマエちゃんと獄寺くんだ」
「あっ、奈々さん」
「お母様!」
そんな時、呼びかけられた。ふたりで振り向くと、そこにいたのは10代目のお母様だった。
いつものように微笑みかけてくれた10代目のお母様。お母様はここに10代目の姿が無いことが気になったようだった。
「ん?ふたり?ツナたちは?」
「あー、今はちょっとふたりですね。さっきまで一緒にいたんですけど」
「あら、そうなの。そういえば朝から思ってたんだけど、ふたりは仲が良いのね!」
俺とナマエを見てそう笑う。別に仲良くなど無い。10代目のお母様相手でなければ、そう言っていた。…言っている、はずだ。
でも今一瞬、それを否定したく無いと思ってしまった。
ナマエにとっての俺。どうでもよくない。でもそれは、何も特別なものでは無いだろう。10代目や山本、笹川、ハル…そういう中にいる、ひとり。
俺と山本がいたとして、物を借りるとしたらまず俺に声を掛ける。前はそんなことを言ってた。でも今となってはナマエだって、俺よりよっぽど野球バカの方に気を許してるかもしれない。つーかそもそもこいつ、芝生頭だの、あの雲雀だの、妙に気に入られてんのは何なんだ。
…ああ、ムシャクシャする。
今、ナマエにどうでもいい相手じゃないと言われて、少なからず喜んでしまった自分。でも、特別じゃないことが面白くなくて。ナマエと周りとの距離に、妙に焦って。
「だってさー、獄寺」
「な…、う…」
仲が良いと言われ、ナマエは俺を見て笑った。苦し紛れに、その視線からふっと顔を背ける。…お前は、それを言われてどう思うんだよ。
仲良くなんか無い。お前なんかどうでもいい。そう言ったほうが、きっと楽だ。誰かを好きだと思うのは、酷く勇気がいる。その想いが一方だった時、辛くなるから。
でも、ナマエはやっぱり俺に笑みを向けたまま。楽しそうな、どこか嬉しそうとさえ思えるような。…だってさ、って何だっつの。
「あら、そのブレスレットじゃない?高校生の不良の方たちが上納品として持ってきたって言うのは」
「え!!なぜそれを…?」
「普通にツナが話してるからでしょ」
「え」
お母様は俺のブレスレットに気が付いた。これは確かに上納品だが、なぜをそれをお母様が…。するとその答えを口にしたのはナマエ。ナマエの言葉にお母様も頷いた。
「ふふ、ええ、獄寺くんのことはツナがよく話すもの」
「!!10代目が俺の話を?」
「ええ、ツナの口から獄寺くんの名前が出ない日はないわ」
10代目の口から、俺の名前が出ない日はない…。知らなかった…。そこまで10代目は俺の事を…。なのに、俺は…!!それを聞いた時、心がぱっと晴れた気がした。
「すいません10代目!!俺間違ってました!!」
やはり10代目は俺の事を考えてくださってる!!やはりあの人は!!
そうとわかればこんなところにいる理由はない。俺はブランコを立ち上がり、すぐさま走り出す。
…が、公園を出る前に足を止める。そして、そこにいる存在に振り返った。
「…おい、ナマエ。…早く来いよ」
「え?」
「…コンビニ、寄って戻るんだろ?」
立ち尽くしたままのナマエ。何ボサッとしてやがる。…お前も来るんだろ?そうして待つ心の裏には、こちらに来て欲しいという期待が浮かんでいた。俺が声を掛けて、来てくれる。実感したい…。そんなバカみたいな感情。
ナマエはふっと小さく笑う。そしてこちらに歩いてきてくれた。
「うん、じゃあ戻ろ」
傍に来て、俺を見上げて言う。その顔を見ていると、また変な感覚になった。10代目が俺を気に掛けてくださっているとわかって満たされた気持ち。でもそれとは別に、ぐっと奥底を掴まれるような少し苦しい感覚。
くしゃ…と、シャツの胸のあたりを掴む。
ああ…くそ。
いつからだ…。そんなの、わからない。
でも多分、ずっと目は…その姿を追っていた。
自覚する。
…俺は、こいつに惚れている。
To be continued