山本のバット
山本のバット
「お前どうせ暇だろ?今日山本のトレーニングするから並中に来い」
ブツッ
開校記念日。並盛中学が休みのこの日、言いたいことだけ言って切れた赤ん坊からの失礼な電話。
ええ!暇ですけど!暇ですけど何か!?
腹は立つけど無視したら後が怖い…。ていうか山本のトレーニングって何だ…。どーせまたろくでもないこと企んでるような気がする、あの赤ん坊。
「はあ…もう、行けばいいんでしょ行けば…」
なんだか最近、こんな展開に慣れてきてしまっている自分がいる。私は部屋で身支度を済ませると、休日にも関わらず通学路を歩き始めた。
「あ、獄寺ー」
「ナマエ?」
途中、獄寺に出くわした。見つけた背中に声を掛けると振り返って足を止めてくれたので私も駆け寄った。もしかして獄寺もリボーンに呼ばれたかな。
「獄寺もリボーンに呼ばれた?」
「も、って事はお前もかよ。はん!やっと山本をクビにするって話だろ!遂にだな!」
「いや違うでしょ…」
どこからの情報だそれは。私はトレーニングって聞いてるぞ。もしかして勝手に話作ってる…?こいつなら有り得る…。
まあ行き先は同じなので一緒に向かうことに。
「10代目ーっ!!」
「ツナー!」
「獄寺くん!ナマエ!」
学校に着き、姿をみつけて声を掛けるとツナが振り向く。獄寺は嬉しそうな顔でツナに駆け寄りさっきと同じことを聞いていた。
「とうとう山本クビっスか?」
「ち…違うんだよ。リボーンが山本に武器持たせよーとしてて」
「なっ!」
ツナの言葉を聞きやっと己の情報の間違いに気がつく獄寺。
そこで山本とリボーンもこちらに来て「ちゃおっす」「よお」と挨拶してくれた。でも獄寺…なんかワナワナしてるな。
「俺は…山本は生えてる草を投げる攻撃とかいいと思います」
「何言ってんのあんた…」
しゃがみ込んでその辺に生えてた雑草をブチっと抜く獄寺。投げやりにも程がある…。いや、山本に武器を持たせるのは私もどうかと思うけど…。
…そういえば、獄寺はどうしてダイナマイトを武器にしてるんだろう?今まで気にした事無かったけど選んだ理由とかあるのかな。一度そう思うと気になるものだ。
でもそれを聞く前にツナに肩を叩かれた。
「ナマエやばいよ…リボーンの奴、山本にヤバい武器持たせようとしてて…。あそこ、コンクリート割れてるだろ?あれ、リボーンが山本に変なボール投げさせて壊したんだよ」
「ええ…」
「山本は発泡スチロールだと思ってるけどさ…めっちゃコンクリートだからアレ…」
「いやコンクリートなのはわかる…」
唖然。確かにツナの言う先には割れた柱があった。あれ、山本にやらせたんかい…。ていうか山本も相変わらずの天然ぶりだな…。
多分リボーンは私たちがヤベェって思ってる事には気付いてるけどそんなもん気にする奴じゃないのでどうにもならない。
「次の武器は、こいつだ」
リボーンが新たに取り出した武器はバットだった。それは野球少年の山本にはぴったりのアイテムだけど…え、バットで殴れと?
「へー、トレーニング用のバットか。お、ウェイト入ってら。結構重いな」
山本はやっぱり全然何にも気にしてない。ていうか山本って今のこの状況どう理解してるんだろう?マフィアのトレーニングじゃなくて野球のトレーニングって思ってる?
「グリップの先を覗いてみろ」
「なんだ望遠鏡かー」
リボーンが山本にグリップの先を覗かせるとバットの蓋が開きレンズが出て望遠鏡になった。いや…だから武器とは…。これに関してはどう戦えと。
しかし望遠鏡を覗いていた山本は何かに気づき反応した。バッと後方に飛び跳ねた瞬間、山本の足元が狙撃された。はい!?
「なっ!」
…!
その時、獄寺がツナと私を庇うように手を出してくれた。…って、ん?私も…?いや、シャマルの時とか庇ってくれた事あるけど、ツナがいる場合はツナ最優先だと思ったから…なんかちょっとビックリした。いや、ツナの傍にいたからたまたまかな。ていうか君が撃たれても困るが?
「500メートル先から狙撃して貰ってんだぞ」
そしてとんでもない事を言い出す赤ん坊。詳しく聞くとキャバッローネファミリーに狙撃してもらってるらしい。…ディーノさん、何してるんですか。
「これが次のトレーニングだ。とんでくる弾をかわすんだぞ」
「オッケー。動体視力と反射神経を鍛えるんだな」
山本はこれも全然気にしてない様子。普通狙撃されないよ…山本。しかも「ついでにツナもやれよ」というリボーンのお達しでツナも狙撃される羽目に。
……あれ、なんかこの光景既視感ある気がするんだけど。
「獄寺もぶっ放せよ」
「な!またっスか?しかし…」
「ちょ、リボーンまた…!」
やっぱり同じことしようとしてる!!前の山本の入ファミリー試験の時!!あの時もリボーンが獄寺にもぶっ放せって言ってえらい事になったやつ!!!
流石に獄寺もあの時のことは覚えてたらしく、多少戸惑いを見せていた。でもリボーンは獄寺を正当化させる言葉を吐く。
「それが山本のためだからな」
「!!…なら、しょーがねーよな。悪く思うな、山本。お前の為だ!」
「いやだからその嬉しそうな顔!!」
前は殺すつもりでいけと言われて嬉しそうな顔をしていた獄寺。今度は山本のため。どんだけ山本を亡き者にしたいんだあんた…。
「10代目!!避けてください!!」
「ちょ、獄…っ!」
人が止めるのなんて聞いちゃいない。獄寺はダイナマイトをぶん投げてまたも大爆発。
でも山本はツナを誘導しながらその攻撃も避けていた。というか、狙撃もされてるのに余裕すらある。え…これは山本凄すぎるのでは。
「や、山本、凄い…」
「なあっ!?」
素直にぽろっと溢れた感想。すると隣で獄寺がデカい声を上げた。な、何さ。
でも凄いのは事実だよね。これにはリボーンも感心していた。
「ああ、流石だな。この爆風の中、遠方からの弾丸の弾速慣れちまった」
「うん…完全に見切って、余裕持って避けてるのわかる。山本、ほんと凄い!」
凄すぎてつい声も大きくなる。山本はその声に気付いて、笑ってこちらに手を振ってくれた。本当余裕だな。私も軽く振り返す。
するとそれを見ていたリボーンは何故かニヤニヤと笑った。
「ナマエ、おもしれーからどんどん褒めろ」
「え?」
おもしれーって何。ていうかリボーンが見てるのって私じゃなくて獄寺…?
「獄寺?」
「…んだよ」
顔を見るとなんか不機嫌そう。え、何。山本が褒められてるのそんなに面白くないと?本当にどんだけ嫌いなのさ。
「仕上げだ。死ね、山本」
そうこうしてる間にリボーンは銃を構え、山本に向けていた。まさか、山本に死ぬ気弾撃つ気!?傍にいたツナが止めようとするも間に合うはずもなく。
ズガン!!
響いた銃声。でも山本はその弾を何かでキンッ…と弾いていた。
「え!?」
目を疑った。山本の手に握られていたもの。それはバットの形をした望遠鏡じゃない。きらっと刃が光る、一本の刀。
「なかなかいい出来だな。そのバットこそ、見た目はバットで普段は望遠鏡。だが本当はヘッドスピードが300キロを越えると刀に変形する打の武器なんだ」
「えーー!?じゃあ山本の武器は刀なのーっ!?」
満足げなリボーンに驚くツナ。山本の武器は…刀。
「名付けて山本のバットだ!」
ネーミング凄い安直だけど…。
「アハハハハ!意味わかんねー!おもしれーこれ!」
山本自身は変化した刀を見て爆笑していた。なかなかツボにはまったらしい。でもあの至近距離からの弾丸の速さについていけるのは山本の身体能力の高さゆえ。リボーンは再び至近距離から発砲し、山本はそれに付き合いまた弾を弾いていた。そんな簡単に‥恐ろしいな、山本。
でも、うーん…。
私、剣道も少しだけ心得がある。と言ってもちょこっとだけかじったことある程度だけど…。
見るに、今の山本の刀の扱い方は剣技というにはほど遠いものだ。でももし、もしもそれを習得するような日が来たら物凄いことになるのかも…とか。
「ケッ…」
一方、獄寺はまたしゃがんで雑草を抜いていた。山本が得たのは刀。ちゃんとした武器で面白くないってか?私は獄寺の傍に一緒にしゃがんだ。
「なんか拗ねてる?」
「なんっ…誰が拗ねるか!意味わかんねーこと言ってんじゃねえ!!」
「ええー」
キレられた。まあキレるかなと思って聞いたけど。予想通り。それがおかしくて私はちょっと笑った。
「…何笑ってんだよ」
「いーえ、別に」
「……俺は、新技考えてる」
「新技?」
首を傾げる。獄寺は新技を考えてる?ダイナマイトの…ってことだよね?
「…完成させたら見せてやる。あっと言わせてやるから覚悟しとけよ」
「ふーん」
なんか山本に張り合ってるみたいだ。ちょっと可笑しい。
ダイナマイトの新技なんて物騒だなあ。でも、なんだろう。うん、ちょっと見てみたい気もする。
「ん、じゃあ期待してる」
驚かせてくれると言うなら楽しみにしておこうじゃないか。そう言ってまた「ふふっ」と笑みが零れる。すると獄寺の表情も少し和らいで、ちょっと嬉しそうな顔をした。
To be continued