6月の花嫁
6月の花嫁
「け、結婚式…ですか?」
「ええ。ぜひナマエには来て欲しいのよ」
6月のある日、うちを訪ねてきたビアンキさんに一通の手紙を渡された。綺麗な便せんに入っていたそれは、リボーンとビアンキさんの結婚式の招待状。正直頭の中はハテナだらけだった。でもうっとりした顔で幸せそうに語るビアンキさんを見ていたら何も言えなくなった。
そして、なんとなく違和感を感じながらも日にちは過ぎ、遂にやってきた結婚式当日。
「えーっと…本日はおめでとうございます…」
「あー…まあ、あんな姉貴でも祝い事は素直に喜んでやらねーとな」
式場に着いた私は、とりあえず見つけた新婦の弟くんに挨拶した。すると彼はどことなく複雑そうな顔をしながら後ろ頭を掻く。
本音を言うと、当日になっても本当なのかって疑っていた。だってリボーン赤ん坊だし、いきなりだし急すぎるし。でも式場に着くと、そこは沢山の知り合いで溢れていた。目の前の獄寺もきちっとしたスーツ姿。あ…マジなんだ、といよいよ実感が湧いてきたような気がする。
「おい、ナマエ。披露宴会場入ろうぜ。俺とお前、席隣らしいからよ」
「あ、うん」
獄寺に声を掛けられ、一緒に披露宴の会場に入った。並んだ丸いテーブル席。置かれた席札を見ると、確かに私と獄寺は隣の席だった。…なんか、ビアンキさんの何かしらの意図を感じる気がする。まあ別に気も使わないし良いんだけど。他のメンバーもツナ、ランボ、ディーノさんだし、うん、気楽に美味しくお料理が楽しめそうだ。
「うし…」
「え、なにそのサングラス」
「姉貴対策に決まってんだろーが」
席に着くと、獄寺はなぜかサングラスをかけ始めた。なんか…すっごい真っ黒だな。姉貴対策って…もしかしてそれ、前全然見えてない…?いや確かに結婚式でぶっ倒れるわけにもいかないしそうするしかないのかもだけど。…難儀なものだ。
そうこうしてると続々と披露宴会場は埋まっていき、ツナやディーノさんも時間ギリギリあたりで席にやってくる。
「ツナ、遅かったね」
「あ、あー…ちょっとね」
席に着いたツナに声を掛けると、なんだか歯切れ悪く頷いた。ちょっとって何だ。
なんだか気になったけど、そこで新郎新婦登場。わ…ビアンキさん、めっちゃ綺麗だ。真っ白なウェディングドレスに包まれたビアンキさんの姿には思わず見惚れる。6月の花嫁、ジューンブライド。ちゃんとリボーンも隣にいるし…。
うん、獄寺も言ってたけど、お祝い事は喜んで祝福しないとね!
「それでは、おふたりの結婚を祝して…カンパーイ!!」
司会者の音頭で皆がグラスを持つ。こうして披露宴は賑やかに始まったのだった。
「そーいえば獄寺くん、ビアンキいるけど大丈夫なの?」
「大丈夫っスよ、10代目!このサングラスでまったく見えてないんでっ!」
「獄寺…、その人、10代目違うから」
料理も運ばれてきて、私たちのテーブルでも雑談をしながら和やかに式は進む。でもツナに話しかけられた獄寺はまったく見えてないサングラスのせいで傍に来たウェイターさんに返事をしていた。誰と話してるんだお前は。
まあでもとりあえずお料理は美味しい。獄寺に突っ込みながらも、ぱくっとお肉を口に運んで私はご満悦。
しかしその直後、事件が起きた。
「しゃななななななななななななな!!!!!!」
…うん!?
急に会場に響いた謎の声。それを発していたのはリボーン。突然の奇声にぎょっとする。…え、なに!?リボーン壊れた!?
「…リボーンじゃない。リボーンはこんな風に話さないもの…。リボーンはどこ!!?誰が隠したの!!!」
えーー!!ビ、ビアンキさんーーー!!!??
今の奇声でリボーンを偽物だと疑ったビアンキさんはどこからか銃を取り出して怒りのままに叫んだ。それを見たツナとディーノさんは慌てて席を立ち、ふたりの元に向かう。
「なに言ってんだよビアンキ!?ほ…ほら、リボーンだって!」
「なんたって結婚式だぜ!流石のこいつも緊張してんのさ」
「緊張…!!そうね私…リボーンの気持ちを無視してたわ…愛が足りなかった。許して、リボーン!」
ふたりのフォローにより、平静を取り戻したビアンキさんは愛おしそうにリボーンを抱きしめる。…とりあえず、収まった?
けど、緊張…?リボーンが緊張…。まったく結びつかないんですけどその言葉。でもさっき奇声あげてたのは確かだし、本当に緊張してた?
うーん…と首をひねりつつ、そこで新郎新婦はお色直しへ。ツナとディーノさんはリボーンと控室について行った模様。するとそこで獄寺が小声で話しかけてきた。
「おい、ナマエ。リボーンさん、違和感ねーか?」
「え?」
「俺、聴覚には自信あんだよ。さっきからモーター音が聞こえる」
「モーター音…?」
獄寺の言うモーター音というのは、私は特に聞こえなかった。でも、違和感ならある。
「俺、ちょっと控え室見てくる」
「あ、待って、私も行く」
席を立った獄寺を見て、私も一緒に立つ。そして私たちは新郎の控え室へと向かった。
「もーダメかと思いましたよ!」
「まさか強引に飲ませるとはな…これならすぐに直せる」
控え室の前までくると、ツナとディーノさんのそんな会話が聞こえた。ダメかと思った…これならすぐに直せる…。それと獄寺の言ってたモーター音…。そこから導き出される答えは、ひとつ。
「やっぱりニセモノだったんスね。姉貴は騙せても俺は無理っスよ。俺、聴覚はいいんです。モーター音がするので怪しいと思いまして」
「ツナ、ディーノさん、何してんですか…」
「いや…あの、獄寺くん!!ナマエも…!!」
部屋に入った獄寺と私に、ビクリと肩を跳ねあがらせたツナとディーノさん。その反応を見て確信。つまり…獄寺の見立て通り、リボーンはロボット。本当にニセモノだったというわけだ。
私はともかくとして、獄寺の姿をを見たツナは顔を青くしていた。でも正直、私もちょっと心配になった。いや、ツナとディーノさんがこんなことしてるあたり、何か事情があるんだろうと私は察するよ?だけど流石に獄寺と言えど、お姉さんの結婚相手がニセモノだったって言うのはどうなんだろうか…?でも獄寺だからな…ツナが絡んでる時点でそっちにつきそうな気もする。ど、どっちだ…!?
不安になりながらもその横顔を見つめていると、獄寺はグッと親指を立ててツナの前に突き出した。
「俺にも協力させてください!10代目!!」
「え゛っ!?」
「どーせ姉貴が勝手に式開いてリボーンさん身代わりを置いて逃げたってとこじゃないスか?」
あ、後者でした…。むしろすっげー良い笑顔。ていうか…そういうことなの?私はすすす…っとツナの傍に寄りこそっと尋ねた。
「…そ、そうなの?」
「…うん、100点…流石弟…」
「…まじか弟」
どうやら獄寺大正解。やっぱり奴は弟だった。バレたらビアンキさんは怒り狂うだろうから、ツナとディーノさんが必死にロボットで誤魔化してたってことか…。まあそれもどうかと思うけど…でもさっきの一件もあるし、ビアンキさんがキレたらヤバいのはわかるからな…。
「俺が来たからにはご安心を!貸せ!これは10代目の右腕の仕事だ!」
「お…おい、お前!」
リボーンロボットはリモコンで動かしているらしい。張り切った獄寺はディーノさんが持っていたリモコンをふんだくった。いやいや…やる気なとこアレだけど今日の君、操縦とか絶対無理だよね?
「いや獄寺…あんた今日まともに前に見えないじゃん」
「そ、そうだよ、獄寺くんあの見えないサングラスつけてて大丈夫なの!?」
「大丈夫っスよ!時々薄目で見ますから!」
「いやそんなことしなきゃな時点でどー考えても適任じゃないじゃん…」
「うるせえな!ナマエ、お前は黙って見てろ!」
まったく聞く耳なしの獄寺。あー、なんかトラブルのニオイがしてきたかも…。中途半端に首突っ込んでしまったことに若干後悔…。
するとその時、ギイッと誰かが控え室の扉を開けた。…え!?
「それおもちゃかなー?おもちゃだなー!」
「ランボ!!」
ツナがギョッと声を上げる。扉を開けたのはランボだった。そ、そういえば…ランボのことテーブルに残してきちゃったもんな…。ランボは獄寺の持つリモコンをキラキラした目で見つめている。あ…コレ、更にトラブルな予感…。
「ランボさんもスイッチをポチっと押してみようかな…ちょっとでいいんだけどな~」
「ダメだアホ牛!これには高度な技術が必要なんだ!!」
高度な技術が必要かはともかく、ランボに触らせるのはどう考えてもマズイ。キラキラした目でじりじりと獄寺が持つリモコンを狙うランボ。仕方ない…。私はランボに近づき、ひょいっとその体を抱き上げた。
「ランボ、置いてっちゃってごめん。ほら、席戻ろ」
「んー?ナマエー?」
「なに?」
抱き上げると何故か顔をじっと見てくるランボ。私の顔になにかついてるかい?
「なんか今日のナマエ、キラキラしてるー?」
「キラキラ?」
キラキラしてたのはリモコン触りたい君のおめめでは?じーっと見られてる。なんだろう…ドレスに合わせてつけた髪留めとかかな?
「綺麗ってことじゃないか?主役は一応毒サソリだが、ナマエもそのドレス似合ってるぜ」
「ディーノさん…そ、そうですかね」
うおおおお…ナチュラル褒め。流石イタリアの男…!?しかもこのイケメンスマイル…心臓跳ねます、ディーノさん。
…ていうか、なんかごく身近にイタリア男子ひとりいる気がするけどあれは暴言しか吐けない系なのかしら。どーでもいいけど。
「ナマエ、抱っこー!」
「はいはい、抱っこ」
脇の下に手を入れて抱えているだけだったランボに抱っこをせがまれる。お望みならば抱っこして席まで戻りましょうぞ。楽な体制になるように抱え直すとランボはむぎゅっと首に腕を回して抱き着いてきた。う…、ちょっと苦しい。
「!!!…て、てめ、アホ牛!何思いっきり抱き着いてやがる!!」
「あららのら~?アホ寺うらやましいのかしら~?」
「ば…っ、んなわけねーだろーが!!」
「ランボランボ…ちょっと苦しい…」
小さな背中とトントン叩く。締まってる締まってる、ギブギブ。綺麗って思ってくれたなら嬉しいけど、羨ましがるとか絶対無いからアホ寺に見せつけなくていい。
お色直しの時間もそろそろ終わる。この場で秘密を共有した私たちは控え室を出て披露宴会場へと戻った。
「お色直しが終わりましたのでケーキ入刀に移らせていただきます。ちなみにこのケーキは新婦が作られました」
披露宴が再開されると次はケーキ入刀。お披露目されたウェディングケーキはまさかのビアンキさん作…ポ、ポイズンクッキング…。いやでもウェディングケーキ作るとかすげえなビアンキさん。毒になることを除けば腕前普通に凄いよね。いや、そこが致命的なんだけども。
「ケーキの二段目にはなんと新郎新婦が象られています」
司会者さんの言葉で目を向けた二段目には本当にリボーンとビアンキさんの顔が描かれている。え、ちゃんとわかるし、やっぱ凄いなビアンキさん。
しかし次の瞬間、そんな力作ケーキにズボッと突き刺さったリボーンの両足。…は!?
「ちゃおっス、ちゃおっス、ちゃおっス、ちゃおっス」
ケーキに両足突っ込んだリボーンはケーキに突き刺さったままの状態で両手をバタバタと暴れ出す。いやいやいやいや!?獄寺さん!?
「ちょっ、獄…って!?」
「リモコンリモコン…」
「ガハハハ!面白~!!」
慌てて獄寺の方を見ると、そこにはリモコンを見失って床を探してる獄寺とガチャガチャ適当にボタンを押しまくってるランボの姿。あああああ!!言わんこっちゃない~!!!
「コ、コラ!ランボ!!」
ツナが慌てて止めに走る。しかし時すでに遅し…。
「リボーンはこんなことしないわ!リボーンはどこ!?どこなの!?出さないと…」
リボーンロボをケーキから抜き出し怒りにわなわな震えるビアンキさん。あ、もうこれ終わったのでは…。
「任せろ!」
しかしそこで急いでランボからリモコンを奪い取ったディーノさんが操作する。ディーノさんはリボーンロボの口を動かし喋らせた。
「こ・れ・は・し・れ・ん」
「!!…試練!?」
し、試練…。それを聞いた瞬間、ビアンキさんの顔色も変わった。そしてその言葉のフォローに走るツナとディーノさん。
「そ…そーだ。リボーンの奴、結婚を機に毒サソリがどこまで自分のわがままを許してくれるのか試してたんだ」
「そ…そーそー!そーだよ!」
「わかってたわ!リボーン!大丈夫よ!これぐらいのこと私たちの愛の前では何でもないわ!!」
凄い言い訳するな…と思ったけど、どうやら上手くいったらしい…。ビアンキさんの懐深いな…。
とりあえず一難去ったので、ここからは電気が消えてキャンドルサービスの時間。ビアンキさんとリボーンが各テーブルを回り、キャンドルに火を灯していく。
「ランボさん、もっと運転したいなー」
「ダメだよ!お前のせいで大変だったんだぞ!」
「違うよ、ランボさんのせいじゃなくてあのメガネが下手くそなんだよ。ヒミツだけどあいつバカなんだよ」
いまだリモコンに興味津々のランボ。ツナが怒るとランボは獄寺を指さしていつもの悪口。別に聞き流せばいいのに…それが出来ないのが獄寺という男。
「このアホ牛が!!てめーブッ殺すぞ!!」
獄寺はガターンッと勢いよく立ち上がり怒鳴った。しかし相変わらず真っ黒サングラスで前が見えてない。獄寺が怒鳴った相手はランボじゃない。
「ご、獄寺…」
「ご…獄寺くん、話す相手が…」
私とツナは顔をひきつらせた。その声を不思議に思ったらしい獄寺もサングラスを外して前を見る。あ…やばい。
「隼人、よく来てくれたわね」
獄寺が怒鳴ったのはキャンドルサービスにやってきたビアンキさん。目の前でサングラスを外したことにより、獄寺は思いっきりビアンキさんを直視することになる。その結果…。
「ほぎゃー!!!!!!」
「ごっ、獄寺…!!」
絶叫してぶっ倒れた獄寺。近くのテーブルも巻き込んで大惨事。その際持っていたリモコンを放して宙に吹っ飛ばしてしまう。ああああっ…!
「ちっ」
それを見たディーノさんが急いでリモコンを回収しようと立ち上がり手を伸ばした。しかし今日、ここに部下の人たちは来ていない。そうなれば発動してしまうへなちょこディーノ…。
ガシャーンッ!!!!
ズッコケたディーノさんは落ちたリモコンに顔面から激突し、そのままリモコンは大破…。あ、完全に終わったかも…。制御を失ったリボーンロボは勝手に動き出し…。
「オイルピュー!!!」
ボアッ!!!
口からオイルを吐き出したリボーンロボ。それはビアンキさんが持っていたキャンドルに引火し、ビアンキさんの髪を燃やしてチリチリにしてしまう。ひっ…!!な、なんてことを…!!会場もざわつき始める。これは誰がどう考えてもやばい。
「…何これ、何なのこれ!」
怒りで我を忘れるビアンキさん。いやま、これは誰でも怒る…。その怒りにより、ビアンキさんの触れている場所に異変が起き始めた。手、足元…接している部分がみるみるポイズンクッキングに変わっていく…って、えええええ!?
「び、ビアンキさっ…」
このままじゃ式場が全部ポイズンクッキングに!!!それはまずいと慌てて声を掛けようとした瞬間、ピンッ…とビアンキさんの目の前を何かがかすめた。
「それがポイズンクッキングの究極料理、千紫毒万紅だ。よく到達したな、ビアンキ」
え…。この声…。
急に入ってきたひとつの声にハッとして振り向く。そこには窓から飛び込んできたリボーンの姿。ほ、本物のリボーン…。多分、この場を唯一収めるこの出来る…救世主?いや誰のせいでこうなってんだって話だけど。
「間違いない…本物だわ、どこにいたの?」
ビアンキさんの技も止み、表情もパッと明るくなる。ああ、これなら多分大丈夫そうかも。そう判断した私は床にぶっ倒れている男の傍にしゃがんだ。
「おーい、獄寺ー…立てる?とりあえず肩貸すからここ出よ…?」
「うう…」
流石に獄寺をこのままにはしておけない。私は朦朧としている獄寺に肩を貸して立たせ、そっと披露宴会場の外に連れ出した。そしてスタッフの人に体調が悪いと話し、控え室を用意して貰った。
「大丈夫?落ち着いてきた?」
「うう…まあ、だいぶマシにはなった…。くっそ…あの至近距離は流石につれえ…」
「まったく…派手にぶっ倒れてくれちゃってさ、もう」
「…あー…悪ィな…世話掛けた」
「本当にね。ま、落ち着いてきたならいーよ」
控え室のソファで項垂れる獄寺と向かい合う。とりあえずビアンキさんと離れて体調も戻ってきたらしい。披露宴会場の方がどうなったかはわからないけど、本物のリボーンが来たから何とかはなっただろう。
「ジューンブライド…6月の花嫁は幸せになれる、か」
ふと、窓の外を見ながら呟く。6月の花嫁。すると獄寺が反応した。
「なんだよ、お前も興味あんのか?」
「んー、そーだね。いいなーとは思うかな」
「…女は好きだよな、そーゆーの」
「まあ、好きな人と結婚ならいつでも幸せだとは思うけどね」
「……。」
「いつか、出来たらいいなあ」
ふふっ…と笑う。私はまだ中学生だし、結婚なんてまだまだ全然先の話で。
でも夢見ることくらいはある。いつか大好きな人の隣で…幸せだって笑えたら。
そんな時、獄寺がソファから立ち上がり、隣に立った。
「え…」
「…んだよ」
ちょっとビックリして見上げたら怪訝な顔された。ああ、窓…外の空気吸いたかったのかな。
隣に立つ男の人。まだ見ぬその人は、どんな人だろう。いや、そもそもいるのか知らんけど。
ただ、隣に立つ獄寺を見て、こんな風に見上げるのかなあとか…そんなことを考えたのは、内緒の話。
To be continued