チビにだけ見える刺客
チビにだけ見える刺客
改造された10年バズーカの効果で体が小さくなってしまった獄寺。
その彼は何もない窓の外の電信柱を指さし、怪しい奴らがいると騒いで聞かなかった。
「ちょ、獄…じゃなくて君!!なに物騒なもん出してんの!?」
「電信柱の奴らをぶっ飛ばします!!」
「だから何もないって!ほら!」
「あれが見えないんスか!?ほら!!」
「仲いいね!」
「あっ京子ちゃん!」
「何してんだてめえ!!おいナマエ、この女どうにかしやがれ!!」
「い、いや…」
ダイナマイトを取り出したチビ獄寺に慌てるツナと、見えない敵を倒すと言ってきかない獄寺。そして小さな獄寺を獄寺と知らずに頭を撫でて可愛がる京子。…何だこの状況。
「わかりました10代目!!んじゃ俺、勝手に片づけてきます!!」
「ちょ、ダメだって!!」
「な…なぜっスか?」
獄寺はひとり外に出ようとするも、ツナはそれを止める。こんな獄寺をひとりで外に出しては何が起こるかわかったもんじゃないもんね…。
しかしそこでまた鳴るチャイム。
「よおっ、宿題すすんでっか?」
「山本!!」
台所を覗いた顔にツナが声を上げる。新たに沢田家にやってきたのは山本だった。た、タイミングよ…。またこれややこしくなる予感…。
「や、山本…」
「お、ナマエも来てたんだな!お前も偵察か?」
「え、偵察…?」
「おう。同じ班の連中がツナの班、偵察して来いってさ」
ああ…そういう話ね…。いつも通りにかっと笑ってくれた山本だけど、やっぱりタイミング悪い感は否めない…。するとそんな山本にいつも通り獄寺はキレた。
「こんな暇あんなら外の敵倒してこい!!野球バカが!!」
「なんだ獄寺!来てたのか!」
…アレー!?
今の獄寺をちゃんと獄寺として認識した山本。え、何で!?山本違和感ないの!?しかし今ここには京子がいる。「え?獄寺くん?」と首を傾げた京子を見たツナは慌ててフォローに走った。
「ち、違うよ!獄寺くんのいとこだよ。ちっさいでしょ?」
そう山本に説明するツナ。ええ…いとこ設定でいくの…。まあでもとりあえず山本もそれで納得したようで、笑いながら獄寺の体を持ち上げた。
「アハハ!よく見りゃそーだな!なんか獄寺な気がしたんだよなー」
「おっ、おい!てめ!!はなせ!!ぶっ殺すぞ!!くそっ!!なぜ届かねえ!!?」
持ち上げられた獄寺は当然キレる。山本を殴ろうとブンブン手を振り回すけど、そのリーチじゃ当然届かない…。うーん、鏡…取ってくるか。私は一度ツナの部屋に向かい、自分の鞄の中に入っているであろう折りたたみ鏡を取りに行くことにした。
「いつの間に!!」
戻ってくると、獄寺がまたダイナマイトを手に慌てていた。見てるの…天井?なんかさっきより切羽詰まってるような…。
獄寺はダイナマイトを使う時、着火するためにタバコを吸う。だから今回も同じようにタバコを咥えたわけだけど、今の姿では流石に山本がタバコを取り上げてしまった。
「コラチビ、獄寺みてーになっちまうぞ」
「何しやがる!野球バカ!!てめーあいつらが見えねーのかよ!!」
自分を持ち上げる山本にそれどころではないと騒ぐ獄寺。指をさす先には相変わらず誰もいない。
……?
でも、このあたりでなんとなく違和感を覚えた。
「ちっこい足向けんな、こっちに!」
「何言ってやが…足ちかっ!!」
そして獄寺も気がつく。山本が言った「ちっこい足」という言葉で自分の足を見た獄寺はそのリーチの短さをやっと認識した。私は近づき、今取ってきた鏡を獄寺の前で開く。
「…えーっと、とりあえず…自分の姿見なよ…」
「な!!?ええ!?」
私が見せた鏡を凝視する獄寺。ぷにぷにと自分の体を触り、そこでやっと自分の身に起こった現象を正しく理解した。
「縮んでるーーーーー!!!!!」
大絶叫。目の前で叫ばれてキーンとしたけど、今は正直その気持ちはわかる。そりゃまあ叫ぶよね…。
「ふわっ…!!」
「えっ、あ、ちょ…!?」
「だっ、大丈夫!?」
あまりのショックに山本に持ち上げられたまま気を失いかけた獄寺。ちょちょちょちょ!?私とツナはしっかりしてと声を掛ける。すると獄寺はまた何かにハッとして意識を戻した。
「やばい!!10代目が!!」
「え!?お…俺のせい…!?」
10代目が、やばい…?
そう言ってまたダイナマイトを構える獄寺。新たに取り出したタバコも山本に取り上げられてしまったから、ライターで直接火をつけてた。
「果てろ!!!」
「んなー!!!やっぱり俺に怒ってるー!!ひいいっ、早まらないでー!!!」
ツナは自分に怒ってると勘違いして怯えてた。いや、獄寺の性格から考えてツナに攻撃するなんて絶対ないでしょ…。
でも投げたダイナマイトは改造されたもの。だからまた飛び出したのは鳩や風船。それを見た獄寺は「そーいやそーだった!!」とショックを受けて慌てだす。
「アハハ!面白いねー!」
「悪さばっかりする奴だなー!」
「10代目、まだです!!」
「ひい~!まだって!落ち着いて!!」
笑う京子。やんちゃだと勘違いして眉を下げる山本。ひとり焦ってる獄寺に、ツナは訳が分からず怯えてる。なんだこの台所…。
でも、また違和感。
いや、私にだって何も見えない。だけど獄寺という人間はそんな嘘をつくだろうか。こんなに切羽詰まって、ありもしないことを言う?
だから私は獄寺に近づき、ちゃんと尋ねた。
「ねえ、本当に何かいるの?」
「!!…ナマエ!!ああ!あいつら倒せ!棒構えろ!!」
「…わかった」
私は頷いた。そして棒を取り出して構えた。
私にだって見えない。皆も不思議そうな顔してたけど、でも、ここまで言うなら信じるよ、もう!
「獄寺!どこ!」
「そこから一歩踏み込んで縦に振れ!!」
一歩踏み込んで、縦に…。
言われた通り、私は獄寺だけを信じて何もない空中に向かって勢いよく棒を振るった。すると…。
ガンッ!!!
「ぎゃっ!!」
…!!
感じた手応え。そして男の悲鳴。ドサッ…と何かが落ちる。
「んなーーーっ!!?」
ツナが驚いた声を上げた。床に落ちたのは、全身を緑色のスーツで覆った男。落ちた衝撃で見えるようなった!?
「さー来い!!山本!!ジャンピングキャッチだ!!」
私がひとり倒したその隙に、獄寺は山本にキャッチボールを持ちかけていた。ジャンピングキャッチ…高い位置にもうひとりいるってこと?野球のモーションに入った山本は加減が出来ない。
「オーライ!!!」
「うげ!!」
獄寺が広げた小さな手を目掛けて勢いよく投げ込まれたボール。それは獄寺の手には収まらず、何もないはずの空中で何かにぶつかった。そして聞こえたまた別の男の悲鳴。その男もドダーン!!と音を立てて床に落ち、姿が見えるようになった。
「よっしゃ!!」
「ふたりだけ?これで終わり?」
「おう!よくやったじゃねーかナマエ!!」
「うん…まあ、あんたはこんな嘘つかないよねって、そう思っただけ」
「…お、おう」
喜んでいる獄寺。信じたことを伝えれば、少しだけ照れくさそうな顔をした。まあでも本心言っただけだから。
とりあえず敵はこのふたりだけみたい。獄寺はずっとこれを訴えていたわけね。
「この人達どなたー!?!?」
「はっ、見えているのか!」
「しまった!ダメージで光学迷彩が!!」
驚いたツナが頭を抱えて叫ぶと、自分たちの姿が見えていることに気が付いた侵入者たちも焦り出す。光学迷彩…つまり、この全身スーツのおかげで姿が見えなかったって事なのかな。でも、どうして獄寺にだけは見えたんだろう?
「えれーぞ、獄寺。見直したぞ。ナマエもよく獄寺のことを信じたな」
するとリボーンが台所に入ってきた。
獄寺だけに見えた理由。それはリボーンが説明してくれた。
「お前ら、電柱にへばりついていた奴だな」
「な!!」
「なぜそれを!!」
「チビには見えるみてーだぞ。お使いに出てたイーピンにも見えてたしな」
リボーンの後ろからイーピンも出てきてこくりと頷く。チビには見える…。だから縮んだ獄寺にだけ見えていたと…。
「恐らく、あえてお子様には見えるように設計してあるのでしょうな」
「お前らのボスが仕組んだんだぞ。お前らのボスは緑色のおしゃぶりをしているアルコバレーノのひとり、ヴェルデだろ。あいつ、迷彩の研究してたからな」
ジャンニーニも出てきて説明に加わる。アルコバレーノ…ヴェルデ?そういえばツナがリボーンみたいなおしゃぶりをつけた赤ちゃんをリゾート地で見たと言っていた。つまり、リボーンみたいな赤ん坊がツナを狙ったボスの正体?
「ヴェルデといえど、光学迷彩が見えないと部下に裏切られる可能性があるからな。自分には見えるよーにある年齢以下の人間には見えるようにしたんだぞ」
成程。そう言われて納得した。頭のいい赤ちゃんだな…というか、赤ちゃんがこんなスーツ作れることにまず驚きだけど。アルコバレーノって一体何なんだろう。
しかし今はそれを考えている時ではない。なぜならツナを狙う暗殺者はまだここにいる。スーツが破れただけで、こいつらはまだ動ける。
「こうなったら!!」
「直接殺しちゃいましょう!!」
ツナに向いた暗殺者たちの目。それに気付いたツナは震え上がった。
「ひいっ、嘘!!リボーン助けてー!!」
「俺は戦えねーぞ。武器が全部使いもんにならねーからな。見ろ、この死ぬ気弾なんてダンシングしてるぞ」
「何がダンシングだよ!!こんな時にー!!」
ツナは助けを求めるも、改造された死ぬ気弾はリボーンの掌の上で飛び跳ねて踊っていた。どんな改造だ…。
って、だったらツナは死ぬ気になれない。だとすると、流石にこっちが何とかしないと…!
「のやろ!!」
10代目に襲い掛かろうとする男たちを見た獄寺は小さな体で飛び掛かった。でも、今の体じゃ大人にはとても敵わない。
「目障りです!!」
「ふわっ!!」
「獄寺…っ!!」
いとも簡単に蹴り飛ばされてしまった獄寺の体。それを見た私は急いで手を伸ばし、ガバッと身を挺して抱き留めた。
「…いたた」
「っ…ナマエ!!」
「獄寺…大丈夫…?」
「俺よりお前がっ…、っ10代目!!」
「っ、ツナ!!」
抱き留めた際にぶつけた体がちょっと痛い。でもそれより今はツナ…!私と獄寺はハッとツナの方を見る。
「さあ終わりだ!ボンゴレ10代目!!」
「お助け~っ!!!」
銃を向けられたツナは泣き叫ぶ。その時、ツナは後悔した。こんなことなら死ぬ気で奴らを倒せばよかったと。そんな気持ちに応えたのは…さっき踊り狂っていた死ぬ気弾。
「どーやらツナの死ぬ気にオートで反応する改造になっちまってるよーだな」
リボーンの手から離れた死ぬ気弾。それはひとりでに勢いよく動き、ツナの額へと向かう。
「復活!!死ぬ気で敵を倒す!!!」
死ぬ気になったツナは、あっという間に暗殺者ふたりを倒してしまった。この死ぬ気モードの強さは流石。改造された死ぬ気弾…なんとか機能してくれて良かった。
「すげーなツナ!ドロボー退治しやがった!」
「凄いよツナくん!」
山本と京子はこの人たちをドロボーだと思い込んでいた。まあ…ツナを暗殺しに来たとは思わんよね。
でもツナは首を横に振る。そして視線を向けたのは、間違いなく今日一番活躍したおチビさん。
「いや…今日のは俺じゃなくて、真ん中わけのちっちゃい子のおかげだよ!」
10代目に褒められた獄寺はどこか照れ臭そうに鼻の下を掻いていた。
何はともあれ、これでツナの暗殺騒動は事なきを得た。リボーンと獄寺の武器も無事に戻してもらい、一件落着。
…だと思ったんだけど。
「ジャンニーニとアホ牛め…!!」
武器が片付いたツナの部屋で、ドンドンと机に拳をぶつける獄寺。色んな事は片付いた。でも、獄寺の体だけはなかなか元に戻らなかった。…まあ、これは流石に不憫かもなあ。
「…おい、ナマエ」
「ん?」
はてさて、どうしたものかなあ。そう考えていると、くいっと服を引かれた。それは獄寺の小さい手。
「なに?獄寺」
「…お前、その…大丈夫だったのかよ」
「え?」
「…俺のこと庇った時、腕ぶつけてただろーが」
「あー」
そういやそんなことあったな。いや、忘れるレベルで平気だったから何にも気にしてなかったわ。と言うわけで、獄寺にもそのまま伝える。
「いや全然。今言われるまで忘れてた。ちょっとぶつけただけだから何ともないよ」
「…そーかよ」
「うん。ていうかあの場合、ちっさい獄寺が叩きつけられる方が大惨事だろうし」
「………。」
今の体で思いっきり床に叩きつけられたとしたら、獄寺は大怪我してたかもしれない。そう思ったから私も咄嗟に手を伸ばしたわけだけど。
「ふふふー。まあ、元に戻れるまでは私が守ってあげてもよろしくってよ」
「なっ…!」
にひーっと笑って言ってみる。獄寺はちょっと屈辱そうな顔。本当反応面白いなあ。
でも実際、戻るまでは色々大変だろうし、手助けとか協力は普通にするさ。そこを惜しむつもりはない。
しかし小さな獄寺は頭を抱えてしゃがみ込む。
「…………早く戻りてえ」
「え、何。私に守られんのそんな嫌?失敬だなお前」
「そーじゃなくて!俺がお前をっ…!」
「え?」
「…っ、なんでもねーよ」
何か言いかけた獄寺。でもすぐにやめて、プイッと顔を逸らす。なんか今の状態だと拗ねた子供みたいな。ちょっと頭撫でそうになったけど、京子が怒られてたのを思い出してグッと堪えて我慢した。
To be continued