夏の海
夏の海
中学2年生。私の幼馴染み沢田綱吉は、この年になるまでさっぱり泳ぐ事が出来なかった。しかしみんなとの市民プールでの特訓の末、クロールであればどうにか泳げるようになった。これは沢田綱吉という男にとっては快挙である。
そんな年の夏、私たちは見慣れたメンバーで海に遊びに行くことになった。
「ナマエ、準備できた?」
「ナマエちゃん、行きましょ!」
「うん、行こっか!」
海水浴場の更衣室。京子とハルと一緒に水着に着替える。買ったばかりの新しい水着。ふたりにつられてビキニタイプを買っちゃったから、ちょっとだけ緊張する。でも気に入ったの買えたし、気分は上がってる。
「ツナ、獄寺、山本ー」
「おまたせー」
「着替えてきましたー!」
一緒に来たツナ、獄寺、山本の3人は既にビーチで待っていて、場所を取りパラソルなどの準備をしてくれていた。
ツナは京子の水着姿に幸せそうだった。わかりやすい奴だ。
「あれ?獄寺、アロハ着てるの?」
「だったらなんだよ?」
「ううん、別に?似合ってるじゃん」
「!」
合流して私が気になったのは獄寺が着ているアロハだった。いや、ツナと山本は普通に海パンだけだったからなんとなく目を引いて。返答は相変わらずひねくれ全開だったけど、いいと思ったのでこちらは素直に褒める。まあ褒めて悪い気はしないでしょう。すると獄寺の視線が私の顔より少し下にいったのがわかった。
「似合う?」
「は!?」
軽く手を広げて聞いてみる。すると返ってきて反応は素っ頓狂な驚いた声。いや何で驚く。こっちが褒めたから水着見たんじゃないのか。
「っ、んなこと知るか!!」
「へーへー、君に聞いたのが間違いですー」
ふんっとそっぽ向かれたから私もハイハイと適当に返した。まあ獄寺に聞いたところでロクな感想など返ってくるはずもない。うん、別に褒めてくれるとは思ってないから良いんだけどね。
やれやれと思いながら、またふと何気なく獄寺に向けた視線。ていうかなんか視線を感じて。するとやはりそっぽ向いたはずの獄寺もまたこちらを見ていた。
「……なに?」
「なっ、なんでもねーよ!!!」
何故見ている…?目が合って聞くと、またふんっ!とそっぽを向く獄寺。なんなんだこいつは。よくわからん男である。
「笹川の兄貴、泊まり込みで来てんだって?」
「うん。ライフセイバーやってる先輩の手伝いで来てるんだよ」
そうこうしていると、山本がパラソルを浜に立てながら京子に先輩のことを聞いていた。京子も頷く。
今回、私たちが海に来たのは笹川先輩がきっかけだった。今京子が言った通り、笹川先輩が声を掛けてくれた事で、この海水浴の計画が持ち上がったのだ。
「よく来たなお前たち!!ライオンパンチニストで並盛のランブルフィッシュは夏のひとときをライフセイバー見習いとして過ごすのだ!」
笹川先輩に挨拶しようと姿を探すと、先輩はビーチに設置された監視台の上に座っていた。でも確か笹川先輩ってツナが市民プールで練習してた時なかなか珍妙な泳ぎ方してたと思うんだけどライフセイバーやれるんだろうか…。運動神経自体は悪くないと思うんだけど…。
「早速俺の仲間を紹介しよう。と、その前に夏バテ気味のパオパオ老師だ」
「ぱ…」
梯子をつたい、台から降りてきた笹川先輩。するとその上にはまたあの変なゾウの被り物のパオパオ老師リボーンの姿があった。暑さで無茶苦茶ダレてるけど…。パオパオすら言えないレベル…。相変わらずツナと私以外はリボーンと気付いてないのはなんなのか。まあリボーンの様子がおかしいのはだいたいいつも通りだからもう気にしないでおこう。ていうか気にしたら終わりだ。
「困るんだよね、ゴミ捨てられっと」
そんな時、すぐ近くでガラの悪そうな声が聞こえてきた。なんだろうと振り返ると、そこには小学生くらいの男の子の胸ぐらを掴んで脅す、日焼けした男の3人組。
「俺らの仕事、増えるっつーの?」
「ご…ごめんなさい!」
「わかりゃいいのよ。じゃあ、ここら一帯掃除しといてくれよ」
…恐らく、男の子は浜にゴミを捨ててしまった。それはダメだけど、3人組の男たちの対応は酷い物だった。男の子の胸ぐらを解放すると、怯えて尻餅をついてしまったその子に向かって自分たちが持っていたゴミを投げ捨てる。それは居合わせた誰もが酷いと思う行い。
しかし笹川先輩はその最低な3人組を私たちに紹介しはじめた。
「ライフセイバーの先輩たちだ」
「うい~っス」
こ、この人たちが例の先輩なんですか…。対面して顔を見ると、よりそのガラの悪さがわかる気がする…。そしてチャラい…。
「先輩たちは元並中ボクシング部だ」
笹川先輩の紹介を聞いてちょっと驚く。この人たちが元部員って…もしかして並中ボクシング部って昔はガラが悪かった?今は笹川先輩はが主将だし、そんな風に思った事なかったけど。
「お、もしかして了平の妹ってコレ?へー、なかなか俺好みかもしんない」
「こ…こんにちは」
その時、ひとりの男の視線が京子に向いた。コレって…なんか凄く腹立つ物言い。そして残りのふたりも含め、その視線はハルと私の方にも向き、ぐいっと肩を抱かれた。
「んじゃー女の子は一緒に遊んべ!」
「お前らはしばらく海の平和ん守ってくれや!」
肩に触れた腕の感触。き、気持ちわるい…。ゾワッとして叩き落としたくなる。ていうか叩き落としていいだろうか。笹川先輩には悪いけど。
「待てよ」
「てめーらの仕事をする筋合いはねーぞ」
山本と獄寺…。叩き落とそうとした手が止まる。ふたりはすぐに言い返してくれた。ツナは…まあビビってたけど。
「そのとーりだ先輩!こいつらを呼んだのは遊ばせるためでライフセイバーを手伝わせるためではない!!」
笹川先輩もハッキリ言ってくれる。例え先輩であっても言うことはきちんと言う。笹川先輩はそう言う人だ。
…けど、相手は元ボクシング部員。後輩である笹川了平という男の扱い方は熟知しているようで…。
「わかんねーのか了平?俺たちは可愛い後輩にライフセイバーの素晴らしさを知って貰いたいんだ」
「なるほど!」
あっさり言いくるめられる先輩。ぽんと手を叩くその姿に獄寺が「ぽんじゃねーだろ!!!」とキレる。ちょろい…ちょろすぎます先輩…。
でもそう言うのなら、こちらだって逃げる材料になるよね。
「だったら兄を手伝います」
「はい。そう言うことなら、私たちも笹川先輩のお手伝いします」
「そうです!ハルはツナさん達と泳ぎに来たんですから!」
京子をはじめに、私たちも言い返す。しかし、最後のハルの返しにニヤリと笑う男。それはまるで新しいカモを見つけたような笑み。
「へー、どいつがツナさんだ?ツナってマグロのことだろ?そーとー泳げるんだろーなぁ」
「それウケるー!」
ハルが名前を出したことにより、ロックオンされてしまったツナ。当然ツナは言い返せないので「えと…あの…」と口籠るばかり。でもツナがバカにされればこの男が黙っちゃいない。
「てめーらバラすぞコラ!!」
「ほーう?やるか?」
「獄寺くん!!」
怒鳴った獄寺。いつもならうるさいと怒るところだけど、今回は別。
いけいけ!いいぞ獄寺!
ぶっちゃけ応援してた。いや喧嘩はまずいけど、でも言われっぱなしは癪だもの。
しかしこの先輩方、喧嘩をするつもりはないらしい。
「だが、喧嘩はパスだぜ。俺たちはライフセイバーだかんな。やるならフェアにスポーツで勝負してやる。3対3のスイム勝負!敗者は勝者の下僕となるんだ!」
3対3のスイム勝負って…。しかも下僕!?そんな馬鹿な話、誰が受けると言うのか。当然こちらはふざけるなと言う空気だった。でもそれを受けてしまったのが、あの厄介な赤ん坊。
「面白そーだな。その勝負受けてやるぞ」
おいおいリボーンさん…。奴のせいで3対3のスイムバトルが決定してしまった。
ルールは向こうに見えるたんこぶ岩まで泳ぎ、ぐると周って折り返し戻ってくる。泳法は自由。3本中2本先取で勝ち。
こちらのメンバーは1番手が山本、2番手が獄寺、最後にツナという選出。あの珍妙な泳ぎ方の笹川先輩よりはツナの方がまだマシと言う判断に…。ツナ、クロールは出来るようになったけどスピードとなると…。実質、山本と獄寺頼みの勝負かなあ…。
「では、第一泳者ヨーイ」
パァン!
笹川先輩が手にしたピストルを鳴らし、勝負がスタート。
素早く走り出し、海に飛び込んだ山本。山本は流石の運動神経。スポーツに関しては何をやらせても抜群のセンスを発揮する。
「おお!山本の方が早い!」
「よし!」
ぐんっとスピードを上げ、前に出た山本。その姿にツナと獄寺もガッツポーズする。うん、幸先いい。この調子なら山本は勝てそうだ。山本はスピードをキープしたままたんこぶ岩に差し掛かる。でも周って折り返しのはずのその瞬間、先に出てきたのは相手の方だった。というか山本がいっこうに出てこない。
これ…もしかして。
正直ちょっと引っ掛かりはあった。下僕だなんて、そんな条件つけるのは余程の自信があるのかと。たんこぶ岩を周ってくる、向こうが決めたこのルール。これは、多分…。
「…獄寺」
「…だろーな」
私は次の泳者である獄寺に小さく声を掛けた。すると頷く獄寺。やっぱり獄寺も気付いてるか…。
向こうは足をつって岩影で休んでるんだろなんて言ってるけど…山本がその程度で戻ってこないとは思えない。
多分、岩影にこの人たちの仲間が潜んでて、何かされた。そしてそうなれば当然、次の泳者である獄寺も何かされるはず。
「…獄寺、行かないで抗議した方が…」
「へっ、俺は山本とは違ぇよ」
「………。」
「つーかお前、それちゃんと持ってろよ」
「え、うん」
それとは、さっきこのスイムバトルが決まった時に獄寺に「これ持ってろ」と脱いで投げ渡されたアロハシャツだった。
獄寺の中に、行かない選択肢は無いわけね…。
「…気をつけてね」
「は、言われるまでもねーよ」
向こうの泳者が戻ってきたので第二レースが始まる。スタート地点に向かう獄寺。その背中を見ながら、ぎゅっとアロハシャツを握る手に力がこもる。
確かに罠だとわかっているなら、獄寺は油断しないだろう。そう信じて見守った第二レース。しかし、たんこぶ岩を周った後、獄寺も同じように戻っては来なかった。
「ん~?お前ら第二泳者も足つったのか?」
白々しくそう言う先輩。このやろ…棒で思いっきり頭に一撃喰らわせたい…。京子やハルに被害が及ぶことを考えるとそれは出来ないけど。
「2本先取で俺らの勝ちだが大サービスだ。次の1本でお前が勝てばそっちの勝ちにしてやるよ」
「ええ!?」
最後の泳者であるツナはそんな提案を持ち掛けられていた。わかりやすすぎる罠…。ここまで来れば何かされていることはツナも気づいてるはず。
「待たんか先輩!奴らが心配だ!!岩へ行ってくる!」
「そーだよお兄ちゃん!!」
その時、笹川先輩は一時休戦を申し出てくれた。いいぞいいぞ先輩!これで獄寺と山本の様子を見に行けるし、反則も暴けるかもしれない。
「わかんねー奴だなー、了平!今奴らは岩の自然と語りあってるんだ、邪魔するな」
「なるほど!」
「お兄ちゃん!!」
しかし笹川了平という男はやはりちょろかった…。さ、笹川先輩…。
罠だとはわかりきっている。でも笹川先輩が丸め込まれてしまってはもうツナが戦うしか無い。
始まってしまった第三レース。正直まだ少し不安はあったものの、ツナはしっかりと泳ぐことが出来ていた。
「すごーい!ツナくん!」
「すごい上達です!」
京子とハルも声援を送る。その声はツナのやる気にも繋がっているだろう。
でもそこで、ひとつ事件が起こる。
「誰かー!!うちの子を助けてー!!」
悲痛な叫び声。うちの子を助けてって…。ハッとすると、そこには浮き輪に入った女の子がひとり沖の方に流されてしまっているのが見えた。
これって、まさにライフセイバーの出番では!
しかしあの先輩は助けに行こうとはしなかった。助けを求める声を無視して岩に向かっていく。……クズ。
それに代わり、助けに向かったのはツナだった。ツナはわかるのだろう。溺れる、流されるという怖さが誰よりも。
「ツナ…!」
見守っていると、ツナはなんとか女の子の元まで辿り着いた。しかしそこで限界が来て、海の中に沈んでしまう。でもそれはきっと、上出来だと判断された。
「復活!!死ぬ気で救助活動!!」
ツナは死ぬ気になり、海面から飛び出した。いつの間にか海の中にいたリボーンが死ぬ気弾を撃ってくれたらしい。
「少年が持ち直した!」「子供を連れて泳いでくる!」と浜辺の方では盛り上がりを見せた。でもそれを見た先輩方はまたも邪魔をしようとする。
「へっ、そーはいくか」
「岩の影には後輩がたんまりいるんだ。ボコボコにしてやれ」
…!
やっぱりそういうことか。あの岩影に仲間である後輩たちを待機させて、獄寺と山本を襲わせた。
そして今回はツナを襲わせようとしている。女の子の命だって危険に晒すことになるのに。
ああ、もうダメだ。限界。そろそろ堪忍袋の尾が切れる。怒りを抑えきれなくなった私は棒を取り出そうとした。
「後輩ってのはこいつらのことか?」
しかしその時聞こえた声。振り向くとそこにはボコボコになった大量の男たちと、ボコボコにしたであろう獄寺と山本の姿があった。
……!!!
「獄寺っ!山本!」
私はふたりに駆け寄った。良かった、無事だった!まあこのふたりは何かあってもタダじゃ転ばないだろうとは思ってたけど。でも、姿が見えるとやっぱり安心した。
「おう、ナマエ」
「お前、よく殴りかからなかったじゃねーか。ずっとイライラしてただろ」
「んー、正直もうちょっとで殴りそうだった」
「だろーな」
「はは!勇ましいのな、ナマエ!」
獄寺は私のイライラを察していたらしい。山本はそれを聞いてけらけらと笑ってる。私は獄寺みたい短気じゃ無いし無闇に武器使ったりしないけど、今回に限っては腹立たしかったからね。
そして振り向けば、この人数をボコボコにされ、すっかり意気消沈している先輩方。獄寺と山本はそこに追い打ちをかける。
「先輩方」
「可愛がってくれたお礼しなくちゃな」
「うわ…」
「ひぃーっ!」
笑ってるけど凄みのある山本と、わかりやすく指の関節を鳴らしている獄寺。結局喧嘩で解決。でもこうなれば、このふたりは負けない。
ツナの方も死ぬ気モードで勝負の相手だったリーダー格の先輩をぶっ飛ばし、女の子も無事救出。
一時はどうなるかと思ったけど、きっとこの人たちが1番この海の平和を乱してたよね。だとしたらきっと、これで海の平和は守られたのだろう、なーんて。
そんなこんなで、この後はみんなで海を楽しく満喫出来たのでした。
To be continued