野球少年と呼び方
野球少年と呼び方
「おい、ナマエ」
「ん?獄寺?」
名前を呼ばれて振り返る。
そこには銀髪の転校生、獄寺隼人の姿があった。
実はリボーンが呼び寄せたボンゴレファミリーの一員だったという獄寺。
死ぬ気のツナに命を救われた奴はツナを10代目と慕い、その秘書にされかけている私を同志と認識しているようだ。
まあ、同志認定はともかくとして…あれからわりと話すような仲にはなった気がする。
「しばらくダイナマイトの仕入れで留守にするからよ」
「ダイナマイトの仕入れ…?って、また物騒な…。留守って何日か学校休むってこと?」
「ああ。その間、10代目のことは任せたからな」
「いや任されても困りますが…」
わざわざそんなことを言いに来たんかい…。私に何をどうしろと…。
何度秘書になんかならないって言っても聞く耳なんか持ちやしない。10代目に仕えねえたあどういうことだテメエとキレられる始末。
実は頭が良くて頭脳派なタイプだったりするくせに、こういうところは話聞かないんだもんなあ…まったく。
「ふーん、じゃあ何かお土産買ってきてもらおうかなあ」
「はあ?なんでわざわざ土産なんか買ってこなきゃならねーんだよ、アホか」
「サボるくせに。んーとねー、お菓子がいいな!お菓子!」
「買わねえよ!勝手に話進めんなテメェ!」
こんな言い合いを出来るくらいには、こいつのことがわかってきた気がする。ツナは相変わらず怯えてて、よく獄寺くんとそんな言い合い出来るね…って言うけど。
そして次の日から宣言通り、獄寺はしばらく学校を休んだ。10代目を頼むとか言われたけど、特にするようなこともなし。いつも通りの平和な日々が流れていく…と思ってた。
「大変だー!!」
クラスに響いた男子生徒の声。彼は慌てた様子で廊下を走ってきて、クラス中に伝えるように叫ぶ。
「山本が屋上から飛び降りようとしてる!!」
その発言に全員がどよめいた。
山本って…野球部の山本武?
1年のうちからレギュラーを勝ち取り、人柄もよくクラスの人気者である山本。その彼が、屋上から飛び降りようとしていると…?
「あいつに限ってありえねーだろ」
「言っていい冗談と悪い冗談があるわ」
山本の性格から考えて、そんな想像はつかない。女子からもよくモテる為、ファンクラブの女の子たちも怒っている。
しかし知らせに来た彼は、決して狼少年というわけではなかった。
「あいつ、昨日ひとり居残って野球の練習してて、無茶して腕を骨折しちまったらしいんだ」
腕を骨折…。それで野球が出来なくなったから、自殺しようとしてるってこと…?
それが本当なら大変だと、クラス中の皆は慌てて屋上に向かって行った。でもその中で気が付く。ツナ、なんか青い顔してる…?
「ツナ?」
「えっ…!」
声を掛けると大げさに肩をびくつかせた。
…もしかして、山本となんかあった?
「ナマエ、ツナくん、いこっ!」
「京子」
教室に残ったままの私とツナに気づいた京子が声を掛けてくれた。
確かに大変な騒ぎだ。何が出来るかわからないけど、とにかく屋上に向かったほうがいいだろう。
「あ…うん…!ト…トイレに行ったら行くよ…」
ツナは京子にそう答えた。トイレ行ってる場合じゃないと思うけど…。こいつ、絶対山本と何かあったでしょ…。
「ごめん、京子。すぐ行くから先に行ってて」
「う、うん…わかった」
私も京子に先に行っていて欲しいと伝えた。京子は少し困惑しながらも頷き、先に教室を出ていく。
ふたりになったところで、私はツナに振り返った。
「…ツナ。山本と何かあったの?正直あんまり共通点とか見当たらないんだけど」
「えっ!い、いや、その…」
目が泳ぐ。何か後ろめたいことがある時のツナの反応。私はガシッとツナの腕を掴んだ。
「あー!もう!とりあえず行くよ!別にトイレ行きたいわけじゃないんでしょ!」
「えっ、あ、ちょ!ナマエ!待って!」
ツナの腕を引いてとりあえず屋上に向かう。その間ツナはぼそぼそと教えてくれた。
ここ数日、最近のツナの様子を見て、山本が話しかけてくれることがあったとう。
山本は野球のスランプで悩んでいるようだった。ツナはそんな山本に努力しかないんじゃないかと口から出まかせを言ってしまった。
もしかしたらそのせいで山本は無茶をしたのではないかと。
「オイオイ、冗談キツイぜ。山本ー!」
「そりゃやりすぎだって!」
屋上に着くと、確かにフェンスの向こう山本の姿があった。
腕には痛々しく包帯が巻かれている。
クラスメイト達はなんとかしようと山本に声を掛けるけど、山本は聞く耳を持ってい無さそうだった。
「へへっ…わりーけどそーでもねーんだ。野球の神さんに見捨てられた俺にはなーんも残ってないんでね…」
冗談ではなく、本当に飛び降りようとしている空気。それを察したクラスメイト達はどよめき、ザワザワと焦り出す。
その一方、私とツナはその様子を屋上の物陰で伺っていた。ツナは真っ青な顔で焦り出す。
「ナマエ、どーしよー!あんなこと言わなきゃよかった…!山本に合わせる顔がないよ~~…!」
「どうしようったって…」
頭を抱えて嘆くツナ。どうしようと言われても、今にも飛び降りようとしているクラスメイトに掛ける言葉なんて私だってわからない。
「山本を友達として手助けたいんだろ?」
「「!」」
その時、傍で声がした。ハッと見れば、そこにはいつのまにかリボーンが立っていた。
「だったら逃げんな」
「リボーン!ちょ、たんま!ひいっ!」
「あっ、ちょ、ツナ!」
自分に銃を向けるリボーンを見てツナは慌てて逃げだす。
物陰から飛び出して、そのまま人だかりにぶつかる。その拍子に足がもつれて転がって、気が付くと山本に前に出てしまっていた。
「ツナ…」
「!!!」
山本が振り向いた。その姿にその場の全員が息をのんだ。
「止めに来たなら無駄だぜ。お前なら俺の気持ちがわかるはずだ」
「え?」
「ダメツナって呼ばれてるお前なら、何やってもうまくいかなくて死んじまったほーがましだって気持ちもわかるだろ?」
「えっ、あの…っ、いや…俺と山本は違うから…」
「流石最近、活躍めざましいツナ様だぜ。俺とは違って優等生ってわけだ」
結構、きつい物言いをするな…。
山本にも、あんな面があったのか。
正直私は山本とはそこまで話したことはない。別に普通に挨拶したりはするけれど、その程度というか…。
ただ、さわやかでいつも人当たりのいいクラスの人気者ってイメージだったから。
山本が実際どういう人間かなんてわからない。でも、どんなに人当たりが良くて明るくったって、悩むときは悩む。苦しいときは苦しい。
多分…そういうことなのかもしれない。
「ち、ちっ、違うんだ!ダメな奴だからだよ!俺、山本みたいに何かに一生懸命撃ち込んだこと無いんだ…。努力とか、調子のいいこと言ったけど本当は何もしてないんだ…!昨日のは嘘だったんだ、ごめん…!」
ツナは素直に吐き出した。
自分の気持ち、自分が思うこと。
「だから俺は、山本と違って死ぬほど悔しいとか挫折して死にたいとか…、そんな凄いこと思ったこと無くて…。むしろ死ぬ時になって後悔しちまうような、情けない奴なんだ…!どーせ死ぬんだったら死ぬ気になってやっておけばよかったって、こんなことで死ぬの勿体ないなって…」
それは死ぬ気弾で実際に後悔したツナの経験則。
今の言葉が山本にどう響いたかはわからない。だけどほんの少し、その場の空気がなんとなく変わったような気もした。
「だからお前の気持ちはわからない…ごめん…じゃ!」
「…!待てよ、ツナ!」
ツナは言い逃げようとした。でも山本はそんなツナの袖を掴む。
その瞬間、ツナは足を滑らせフェンスに激突して…山本とふたり屋上から落ちてしまった。
「っ!?ツナ!!山本!!」
咄嗟に声が出た。その光景を見ていたクラスメイトたちも悲鳴を上げる。
だけどその時、耳に届いた。
ツナの「復活!!」の声が、確かに。
リボーン、いつの間にか屋上からいなくなってる。もしかしてどこからか死ぬ気弾を撃った?
「ああ、もう!」
それならもう死ぬ気のツナを信じる…!
私は屋上から出て階段を駆け下りた。そして教室に向かうとツナの体操着袋だけを掴み、また急いで階段を駆け下りる。向かう先は、ふたりの落下地点。
「ツナ!山本!」
「ナマエ!」
「ミョウジ」
地面に座り込んでいるふたりに駆け寄る。名前を呼ぶと振り向いてくれたから、無事だった姿に安堵する。
「はあ…もう、ほらツナ、ジャージ」
「ああ…ありがと、ナマエ」
またパンツ一丁姿のツナに体操着袋を投げつける。それからホッと息をついて、山本の前にしゃがんだ。
「山本、大丈夫?」
「え、あ、ああ…」
「そっか…良かった。ああ、もう…心配で心臓止まるかと思った…」
「心配?ミョウジが?」
「え…そこ疑問持つ?クラスメイトなんだし、心配するでしょ」
山本になぜかきょとんとされた。いやそこまで関りがないとはいえ、心配くらいするだろうよ。
すると山本は「ふーん…」と溢す。いやふーんてなんだ。お前、今の今まで飛び降りようとしててその反応は。そして「ふっ」と笑みを溢す彼。
いや笑い事じゃないが!?でも気持ちが落ち着いたとしたなら良いことだろうから、今回は大目に見ようと思う。
「へへ、ミョウジ。ツナってすげーのな」
「は?」
「ツナ、お前の言う通りだ。死ぬ気でやってみなくちゃな」
山本はツナに笑みを向ける。どうやらさっきのツナの言葉は山本の心に響いていたらしい。
「俺、どーかしちまってたな。馬鹿がふさぎ込むとロクなことねーってな」
「山本…」
すっかりいつもの表情に戻った山本。それを見てツナもほっとしたように顔を緩める。私も、もう一度「ふう…」と息をついた。多分、もうこれで大丈夫だと思えた気がしたから。
「なあ、ミョウジ。俺もナマエって呼んでいいか?」
「…はい?」
落ち着いたのもつかの間、突然そんなことを言ってきた山本。え、いきなり何。ツナも一緒に「は?」って言ってた。
すると山本は後ろ頭を掻きながらへらりといつものように笑う。
「いやーツナはそう呼んでるだろ?それから獄寺も呼んでたよな?だから俺も呼んでみてーなーって」
いやなぜそうなる。ていうか今聞くことなのかなそれ。
ツナと獄寺…。逆に言うとそのふたりしか呼んでませんがね?
「正直言うと、ミョウジとも色々話してみたかったんだよな。ツナと仲良いしさ」
「仲良いってか、ただの幼馴染み…」
「獄寺と喋ってる奴もなかなか珍しいしさ!」
「や、アレはまた特殊事情…」
「特殊?ははっ、ミョウジも面白いのな。ダメか?」
「い、いや…別にダメではないけど」
「お!やりっ、じゃあよろしくな、ナマエ!」
ニカッと笑う山本。まあ爽やかな明るい笑顔。
…この人さっきまで屋上から飛び降りようとしてたんですよね?いやいいんだけど、全然いいんだけど、元気なら。
色々話してみたかった…ねえ。
「色々話したいなら、生きてくれなきゃ困るよね」
「おう、そーだな」
そう言ってみると、また笑顔。その顔を見てたらなんとなくこっちも釣られた。
うん、もう、ちゃんと吹っ切れてそうだ。それならこちらも深くは言うまい。終わりよければなんとやらだ。
ああ…そういえば獄寺からお土産を買ってくれたってメッセージがきてたっけ。ちょっとだけ恩着せがましい文面だったけど。後で返事しなきゃと頭の片隅で考えつつ。
うん、まあ…本当に良かったと思った。
To be continued