敵のアジトへ
敵のアジトへ
私と獄寺は保健室を出てツナの家に向かった。この一連の騒動の主犯である六道骸という少年を倒せとボンゴレ9代目から指令を受けたツナ。その敵陣に、一緒に乗り込むために。
「ツナ!」
「お!いたいた!俺も連れてってください!今度はメガネヤローの息の根止めますんで!」
「ナマエ!?獄寺くん!!」
家の前でリボーンと話をしていたツナは私と獄寺の姿を見て驚いていた。特に、獄寺の方は傷を負ってるからね…。
「怪我は大丈夫なの!?」
「あんなのかすり傷ッスよ!」
ツナに心配され平気だと答えるも、やっぱりちょっとフラフラしてる獄寺。それを見て私は「はあ…」と小さな溜め息が零れる。でも、行かないなんて選択肢…獄寺の中には絶対ないから。
するとツナは、ちらっと私の方にも目を向けて来た。
「…ナマエ…」
「…話、聞いたよ。9代目から指令、受けたんでしょ?私も一緒に行くよ。ツナだって、ムカついてはいるんでしょ?」
「…うん。でも…」
ツナはおずっと頷いた。その顔には恐怖や迷いが滲んでいる。でも、それと同じくらい、自分の周りの人たちを傷つけられた怒りが、きっとツナの中にはある。伊達にここまで一緒に過ごしてきてない。怖いし、行きたくない。だけど、許せない…そんな気持ち。
するとその時、またひとつ声がした。
「俺も行くぜ、ツナ!今回の黒曜中のことはチビに全部聞いたぜ!学校対抗のマフィアごっこだって?」
声の主は山本だった。や、山本…リボーンに騙されてる…。いつものようにニカっと笑みを浮かべる山本の姿にちょっと心配になる。ごっこじゃないよ山本…ガチの抗争だよコレ。
だけど、一緒に来てくれるのは正直心強いかもなあ…。そんなことを思ってしまうのも、また事実で。
「私も行くわ!」
すると、またひとつ。今度は女の人の声…って、この声は。
「隼人が心配だもの」
「ほげーーっ!!!」
「ビアンキさっ…ご、獄寺!!」
立っていたのはビアンキさんだった。弟を心配するがゆえの同行。しかしその姿を見た弟は卒倒する。傍にいた私は慌てて獄寺に手を伸ばした。ぎゃ、逆効果…逆効果です…お姉さん…。
でも、ビアンキさんも毒サソリっていう通り名の立派なヒットマンだしな…。戦力としては申し分ないし、私としてはすっごく頼もしいんだけどね。
「よし、敵地に乗り込むメンツは揃ったな」
「嘘ー!ちょっと待ってよ!勝手に揃っちゃってるー!!」
揃った顔を見てリボーンはニッと笑った。逆に心の準備が出来ていないツナはあたふたし始める。でももうこのままにしておけないのも事実だから、覚悟決めるしかないんだよね。
そしてリボーンは目指すべき奴らの所在について説明してくれる。
「守りから攻めに転じる時だ。奴らのアジトは新国道が出来てさびれた旧国道の一角だと思われる。多分、人質もそこにいるはずだ。お前たちのよく知る人質がな」
それ以上は詳しく語らなかったリボーン。私たちがよく知る人質って、誰だろう…。でももし本当に人質がいるなら、それも放ってはおけない。事態は一刻を争う。私たちは一度準備を整える為、30分後にまたツナの家に集合することになった。
「おい、ナマエ。迎えに行くから準備が終わったら家で待ってろ」
「へ?」
「へ、じゃねーよ!緊張感ねえな!お前も奴らに顔が割れてんだろ?念には念をだ。わかったな」
「……。」
家に戻る途中の道で、獄寺にそう言われた。確かにメガネのあの人に、私もボンゴレ10代目と繋がりがあることはバレてしまった。また襲撃されないとは言い切れない…けど。
「じゃあ、あとでな」
「あっ…獄…」
また家まで送ってくれて、それから自宅に向かって行く獄寺。私はその背中が見えなくなるまでじっと見つめる。だから人の心配より自分の心配しろっての…。まあ、悪い気はしないけど…。
「…準備しなきゃ」
30分…時間がない。獄寺を見送った後、私も急いで支度を始めた。何が必要かわからないけど、とりあえず思いつくまま。大荷物には出来ないけど、動きやすい服、履き慣れた靴、簡単な応急処置セット。それから、忘れちゃいけない武器。
「獄寺、ごめん、おまたせ」
「おう」
そして約束通り迎えに来てくれた獄寺と一緒に再びツナの家に戻った。
「くそぉ…近寄れねーぜ…」
「はは…」
でも、戻ってきたはいいものの…私たちは中には入れず塀の外で待機していた。いや、正確に言えば私は入れるけど獄寺がビアンキさんを警戒して入れないというわけで。私はそれに付き合ってる感じだ。
「しっかし…かいーな、蚊にでも刺されたか…?おい、ナマエ、ここ、何か出来てるか?」
「…うん、虫刺され…だね」
獄寺は先程から指で頬に出来た赤みを掻いていた。右頬の…虫刺され。それを見て正直、私は気が気じゃなかった。獄寺がその虫刺されを作った時のこと…それを思い出すと、やっぱり…どうしても。
だってそれは、シャマルのトライデントモスキートの証だから。
シャマルは言っていた。獄寺が食らったあの針には、シャレにならないもの…つまり毒が塗り込まれていたと。だから私はシャマルに頭を下げて頼んだ。「お願い、獄寺を助けてください」って。そうしたらシャマルは「カワイイナマエちゃんに免じて、しゃーねーな」って、言葉は軽薄だったけどトライデントモスキートを使ってくれた。多分、頼まなくったってなんだかんだ治療してくれてたんじゃないかとは思うけど…。でも何か理由を付けたいのなら、私を使ってくれて構わないもの。…ただ心配なのは、そこには副作用があるということ。
保健室を出た時、シャマルは獄寺に「ナマエちゃんに感謝しろよ」と言っていた。獄寺は看病のことだと思ったみたいだけど、あれは本当は…トライデントモスキートの事だから。
「あのね、獄寺…その虫刺され」
「ん?」
「獄寺くん、ナマエ」
シャマルは男の治療なんてって口にするの嫌がってたけど、やっぱり言っておいた方がいいよね。私はトライデントモスキートのことを話そうとした。でも、その時ちょうど玄関の扉が開いてツナが出て来た。…言いそびれた。
「ビアンキなら大丈夫だよ。上手く言ってビアンキに顔の一部隠してもらったから。それならぶっ倒れないでしょ?」
「えっ、まじスか!?」
「あら、ツナさん気が利く」
多分ツナの部屋からここで警戒してる様子は見えていただろうから、ツナはあらかじめビアンキさんに話して対策してくれたらしい。ここの問題をなんとかしないと獄寺はどうにもならないからね。
「隼人も子供ね」
するとビアンキさんも中から出て来た…が、その姿を見て私と獄寺は固まった。ツナも苦笑いを浮かべる。
ビアンキさんは口元だけ見えるタイプのリスの着ぐるみに身を包んでいた。な、なぜ着ぐるみ…。ていうかどっから着ぐるみが…。あ、これもしかして前に獄寺が言ってた秋分の日に来てたとかいう…?まだ持ってたんですか…。
「違う意味で一緒にいたくねー…」
「あー…あはは…否定は出来ない…」
ぼそっと隣にいる私にだけ聞こえる声で呟く獄寺。私もこれは何とも言えなかった。ていうか戦いに行くなら着ぐるみ動きづらいと思う。仕方ないので私はビアンキさんと話し、着ぐるみからゴーグルに変更してもらった。
「よし、揃ったな」
ツナ、獄寺、山本、ビアンキさん、それから私。揃った面子を見てリボーンはにやりと笑う。こうして私たちは骸退治に黒曜へと向かったのだった。
「静かね」
「新道が出来てこっちはほとんど車が通らねーからな」
黒曜方面の旧国道。歩きながらビアンキさんがその静けさを気にするとリボーンが訳を話してくれる。確かに新しい道出来たもんね。
しかし目的地はこちらの旧国道沿いだという。そして私たちはその場所に辿り着く。そこは広い敷地のさびれた娯楽施設だった。
「これ一帯が廃墟スか?」
「ああ、ここは昔黒曜センターっていう複合娯楽施設だったんだ」
獄寺が聞くと、この施設についても教えてくれたリボーン。リボーンさっきから妙に色々と詳しいな…なんなんでしょこの赤ん坊。
するとこの施設の名前を聞いたツナは何か心当たりがあったらしい。
「ん…?黒曜センター…?…あっ、俺昔ここに来たことある!そーだそーだ!ここってカラオケや映画館やちょっとした動植物園が入ってた…って、ナマエも一緒に来たよね!?」
「え?」
急に話を振られてきょとん。…私も来たことがある?そう言われて記憶の中を探ってみる。ツナと一緒に来た…黒曜…黒曜センター…。
「…あー、すーっごい小さい頃の話?」
「そう!」
「あれって黒曜だったっけ…」
カラオケ、映画館、動植物園。それを聞いてうすらぼんやりと思い出した記憶。そういえば確かにツナと一緒にそんな娯楽施設に来た記憶があるような。
「改築計画もあったらしいがおととしの台風で土砂くずれがおきてな。それから閉鎖してこの有様だ」
「夢の跡ってわけね…」
リボーンとビアンキさんの言葉がなんだか物悲しい。静まり返り、さびれきった夢の跡…。
すると獄寺が扉に近づきそっと触れて様子を確かめ始めた。
「鍵は錆び切ってる…。奴らはここから出入りはしてませんね。どーします?」
「決まってるじゃない、正面突破よ」
迷いなく言い切ったのはビアンキさん。その手にはブショアァァ…と不気味な音を響かせるポイズンクッキングが。ひえ…。
ポイズンクッキング溶解さくらもち。鉄をも溶かすその毒を鍵に擦り付け、扉を開けるビアンキさん。た、頼りになるわあ…。ポイズンクッキングをこんなにも頼もしく思う日が来るとは。
そうして私たちは堂々と正面入り口から敵陣に乗り込んだのだった。
「よし、頂上を目指しつつ建物をしらみ潰しにしていくぞ」
「いや~まじすげーなー!超本格マフィアごっこだな!」
リボーンの指示を聞き、ひとりだけ楽しそうな山本。やっぱり認識まだごっこですか…。これにはツナと獄寺も何ともいえない顔。ていうかこのまま勘違いさせてて大丈夫なのか…。
「ツナ。来たことあんならお前が案内しろ」
「な…えー!?来たっつっても超昔だぞ~!!」
そしてリボーンに無茶振りされるツナ。小さな頃のあやふやな記憶。私は振られなかったのでとりあえずはツナに任せよう。
「俺が覚えてんのは確かゲート入ってしばらく行くとガラス張りの動植物園があって…」
「そんなものないじゃない。あなたの目は節穴だわ」
「なっ!!」
「姉貴!!」
記憶を辿ったツナ。しかしゲートを入ってしばらく進んだけどそれらしいものは見当たらずビアンキさんにバッサリぶった斬られる。……でも、ガラス張りの動植物園に関しては私も覚えてるな。だからそこは肯定しておくことにした。
「あー…でも、私もガラス張りの動植物園あった記憶ありますよ」
「…そう。ナマエが言うならそうなのね。どこに行ったのかしら」
「なんで俺とナマエでそんな態度違うわけー!!?」
ビアンキさん、すんなり納得してくれた。ツナは不服そうだったけど。でも本当にあの動植物園はどこに行ってしまったんだろう?取り壊されてしまったとか?
その時山本が地面に何かを見つけてしゃがみ込んだ。
「んー?何か動物の足跡だな…まだ新しい。犬か?にしちゃあデカすぎるな」
「爪の部分…血よ」
ビアンキさんも同じようにしゃがんでその爪先部分を指さした。そこには確かに赤黒い色が滲んでいる。これ、血…?それを聞いたツナは怯えだす。
「ひいい…!まさかまだ動植物園の動物がいるとかー!?」
「そんなまさか…」
「そんなわけなくない?…ていうかそんな動物いた記憶ないんだけど?」
「あっ、そ…そーだよね、こんなデカい動物いなかったはずだよな…!」
獄寺と私がそれはないだろうと言えばツナはホッとした顔をした。そう、私やツナの記憶ではこの動植物園にこんな爪痕を残すような動物はいなかった。
でも爪痕があるのは事実だからホッとしてる場合でもないだろうけど。現に近くの木の幹も何かの歯形が残り抉られて無残なことになっていた。そして獄寺が更に気がつく。
「あのオリ…」
「獄寺?オリ?」
「え…あれこそ前にあった動物園の廃棄物じゃあ…」
「あそこ、よく見てください」
近くに廃棄されていたオリの箱。獄寺によく見ろと言われ、私やツナはそのオリをじっと見る。オリは途中から折れて壊れてしまっていた。だから廃棄されているのだと思ったけど、よく見ると…食いちぎられてる!?
「気をつけてください!何かいる!」
獄寺はそう叫んだ。その瞬間、近くで聞こえたガササッという怪しい音。ハッと身構えたその瞬間、山本に目掛けて黒い獣が飛んできた。
「くっ…、こいつ!既にやられてる!」
飛びかかってきた獣を手で押さえ付けた山本は血を浴びた。ぐったりとした獣から吹き出した真っ赤な血。…獣の死体が飛び出して来た!?そしてそれは一匹だけでは無いようで。
「げっ!こいつも抉られた死体だ!」
今度は獄寺にぶつかった獣。それもやはり既にやられており血を吹き出して落ちる。誰かが死体をこちらに投げてる…?
「おい!ナマエ!」
「っ…と!」
獄寺に呼ばれた。大丈夫、わかってるよ。今度は私の方に向かってきている獣。私はそれを後方に下がって軽く避けた。するとドシャッと落ちる。…やっぱりこれは死体。
「狙われてるわ!」
「うわああ!!!」
「早くこっちへ!」
ビアンキさんが誘導してくれる。私達は慌ててその場から走り出した。しかし、敵の本当の狙いはそこにあったらしい。
「掛かったびょーん」
聞こえた特徴的な口調。その瞬間、バッ!!と物凄い勢いで飛び出してきた何か。それは一番後ろを走っていた山本の前に飛び込んだ。山本は咄嗟にそれを避けたけど、あまりの勢いにドサッと倒れ込む。
そして………バリンッ!!!!
「うわああああ!!!」
ガラスが割れたような音と山本の悲鳴。倒れた場所に穴が開き、山本の体はその中に落ちていってしまう。
「いらっしゃーい!」
そして次の瞬間、山本を追うように穴の中に飛び込む…獣?え、人…?どちらと言えない、不思議な姿。
今目の前で起きたサアッ…と血の気が引くのを感じた。
To be continued