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あの日と違う自分

右腕と秘書 — www.pixiv.net · All chapters

あの日と違う自分

響いたガラスの割れる音。その瞬間に地面に穴が開き、その中に落ちてしまった山本。そしてその後を追うように飛び込んだ獣のような存在。それを見た私達は慌てて穴に駆け寄り中を覗いた。

「山本ー!!大丈夫ー!?」

私は穴の中に向かって叫んだ。中、暗くて見づらい…。

「ツナとナマエの記憶は正しかったな。動植物園は土砂の下に埋まっちまったんだ」

リボーンは今私達がいるこの場所は、私とツナの記憶の中にあるあのガラス張りの動植物園の上であると言った。聞こえたあのガラスが割れる音ってそういうこと…?完全に土砂で埋まってしまっている為、この穴から入る光の範囲しか穴の中の様子がわからない。しかしその中でのそっと動く影が見えた。

「いっつ~…」

それはぶつけたであろう部分をさすりながら体を起こす山本だった。動植物園…そこそこ高さあったよね。山本は本来の地面の位置まで落ちてしまっているため、ここからだとかなり距離があった。

「あんなところまで~~!?」

「あのバカ、足引っ張りやがって」

「でも笑ってるし、怪我とかは大丈夫そう…良かった」

ずいぶん下に落ちてしまったと驚くツナ。獄寺はいつも通り悪態を吐いている。でも当の山本は「参ったな、はは」なんて笑ってこちらを見上げていたから、私は安堵の息をついた。

だけどすぐにホッとしている場合ではなかったと思い直す。それは山本の右側に見えたゆらりと動いた影。…そうだ!山本を追って何かが一緒に穴の中に飛び込んでた…!

「山本!右に何かいる!!」

ツナが叫ぶと山本も右を見た。そして気がつく。ガルルル…と唸る獣の存在。

「カンゲーすんよ、山本武」

………喋った?人の声?

さっき聞こえたのは間違いなく獣の唸りだった。でも次に聞こえたのは普通に人の言葉。

「柿ピー寝たままでさー、命令ねーしやることねーし、超暇だったの。そこへわざわざ俺のエモノがいらっしゃったんだもんな。超ハッピー」

そう喋りながら差し込む光の範囲に入り込んでくる。見えた姿は黒曜生の男子だった。やっぱり人間…?でもあのメガネの人とは違う。ていうか柿ピーって何だろう…。いきなり柿の種…?いや寝たままって言ったよね。てことはもしかして、あのメガネの黒曜生のことだろうか。

「上の人たちはお友達~?首を洗って待っててねーん。順番に殺ったげるから」

彼は私たちの方も見上げてきた。この人も戦闘慣れしてるのかな…。殺ったげるって…。そんなこと軽い口調で言うんだから多分そうなんだろうけど。

すると突然、山本は明るく笑い出した。

「ハハハハ!お前、見かけによらず器用なんだな。さっきの死んだ犬の人形、すげーリアルだったぜ!」

人形…って、さっきの黒い獣の死体のこと言ってる?山本あれ人形だと思ってたの!?この黒曜生が夜なべして作ったと!?んなバカな!!

いまだ山本は今の状況をごっこ遊びだと考えてる…。素直にもほどがあるよ山本…。

「…もしかして天然…?まっ、いいけど…よーい…ドン!!」

そうこうしてる間に向こうが仕掛けてきた。勢いよく山本に飛び掛かろうとし、山本はそれを避ける。でも避けられた彼はそのまま駆け抜け、垂直な壁を駆け上がって回転しながら逆側の壁へとジャンプした。し、身体能力が…とんでもない。

「なっ、なにあれ!?」

「人間技じゃねえ!」

「山本!!逃げて!!」

まるで猿みたい。あまりに人間離れした動きにツナや獄寺の顔にも焦りが滲む。私は逃げてと叫んだ。でも山本は逃げず、山本のバットを取り出した。黒曜生が山本に飛び掛かる。その瞬間、ガキンッと嫌な音を響かせて相手の牙は刀に変化したバットを噛み砕いた。…な、なんて力…。もしかして、あの人がオリも噛み砕いたの…?

「ヒャッホーウ!次は喉を抉るびょん」

口から噛み砕いた刀の破片を吐き出す黒曜生。

「ひいいっ!木とか抉ってたのあの人ー!?」

「ありゃ人間じゃねー!!呪い?!呪いかー!?」

傍ではぎゃーぎゃー騒ぐツナと獄寺がうるさい。ていうか獄寺、呪いってなんだ…。いや…私だって焦ってた。でも、刀を噛み砕かれた山本の様子…なんかちょっと違う気がして。すると山本は「フー…」と深呼吸した。

「成程な。マフィアごっこってのは、加減せずに相手をぶっ倒していいんだな。そういうルールな」

あ…。今、山本の雰囲気が確実に変わった。ここからじゃ表情まではよく見えないけど、それは声音からもよくわかる。ツナたちもそれを感じたようだった。

「山本…怖がるどころか…」

「あいつ、あー見えて負けん気つえーからな。バット折られて心中穏やかじゃねーぞ」

リボーンが言う。でもそれは確かに…と思った。山本は普段、凄く穏やかだ。何かあってもまーまーって笑ってる。でも実のところ、誰よりも負けん気が強い。

「やり合う前にひとつ聞いていーか」

「んあ?」

「お前、ナリ変わってねーか?いつ変装した?」

「ゲ…やっぱ天然…。まーいーや、教えちゃう。ゲーム機ってカセット差し替えると色んなゲーム出来るっしょ?それとおんなじ」

やはりどこか空気が読めていない山本…。でもその質問で相手は自分の能力を話してくれた。あの人間離れした動きの秘密。取り出したのは形の違ういくつもの歯だった。

「カートリッジを取り換えると、色んな動物の能力が発動するわけよ」

ゲームのカートリッジを取り換える…?本当にそれと同じような要領で歯を取り換えた彼。するとみるみるとその姿は巨大化し、腕や手も太く大きくなった。えっ…あれって、ゴリラ?

「あれは霊長目オランウータン科ニシローランドゴリラね」

「び、ビアンキさん詳しいですね…。ていうかやっぱゴリラですか…!?」

正式名称を教えてくれるビアンキさん。どこでそんな知識を。でもとにかくゴリラなのは間違いなさそう。本当にカートリッジたる歯を取り換えると能力が変わる…?そんなことありえるの…?いや、実際目の前でありえているのだけど…。

「うお、すげー。最新のドーピングかよ」

「だーかーら、違うんよ!!」

「うあっ!」

まだドーピングと勘違いしている山本。ゴリラの力で思いっきり投げ飛ばされ、その体はガラス張りの建物の壁に叩きつけられてしまう。ガシャアンッて嫌な音がした。でも穴の中は光から外れてしまうと様子がよくわからない。

「ほらほら、休むなよ~。どこに逃げてもすぐわかっからね。お前にべっとりつけた犬の血の臭いがウルフチャンネルの俺にはプンプン匂ってくるんだよーん!!」

「くっ」

声だけが響てくる。ウルフって、今度はオオカミ?さっき獣の死体を投げつけてきたのは血の臭いをこちらにつけるためだったってこと?山本は攻撃をなんとか避けているようだった。その姿が一瞬、光の範囲に入り込んで見える。

「ちっ、見てらんねーぜ!」

「獄寺…っ」

獄寺は加勢しようとダイナマイトを取り出した。でもそれはリボーンによって止められる。

「やめとけ。爆発に建物が耐えられず山本が生き埋めになるぞ」

「くっ…」

ダイナマイトでは建物が耐えられない…。獄寺は火をつけようとした手を下ろす。しかしこうしている間も相手は山本を襲い続けている。

「刀を折られて圧倒的に不利だわ。リーチが無いから相手の懐に入らない限り勝機はないわ」

ビアンキさんが冷静に今の状況を教えてくれる。折られてしまったあの刀のリーチではとにかく相手の懐に入らなければならない。リボーンはツナに問う。

「山本にその戦い方が出来るか?」

「え」

「見ろ。あいつは体を庇ってるぞ。まるで相手を倒しても怪我しちまったら負けみてーにな」

…!

それを聞いて、脳裏に浮かんだ光景があった。でもそれは私だけじゃなくて、多分ツナも。

屋上のフェンスの向こう側…。

腕に包帯を巻いた、山本の後ろ姿…。

まだ…私やツナが山本と仲良くなる前のこと。腕の骨を折った山本は、野球を諦めて屋上から飛び降りようとした。死ぬ気のツナが助けて結局クラスでは冗談ってことになってるけど、あの時の山本の絶望は間違いなく現実で…。

「逃げてばっかじゃん。もしかして俺相手に持久戦に持ち込もうとしてんの?」

「いやー、そーゆーわけじゃねーんだが、秋にはマフィアごっこ以外にも大事なもんがあってよ」

帰り道、話したことを思い出す。秋の大会のこと…山本は楽しそうに話してた。応援に行くよって言ったらすごく喜んでくれて。応援したいって思ったのは、今の私は山本がどんなに楽しそうに野球をやるか知っているからだ。仲良くなって、前よりよく視界に入る様になって…山本が誰より一生懸命に、笑顔で野球をすることを知った。

「…っ、私、飛び降りる!」

「バカッ!何考えてんだ!!」

「獄寺…っ、でも…!」

居ても立っても居られなくなって、私は棒を手に穴の中に身を乗り出そうとした。でも獄寺に腕を掴まれて止められる。今なお、相手は山本を襲っていて、山本は避け続けている。そんなのいつまで持つかわからない。

多分、私と同じような心情であるツナも苦しそうに頭を抱えた。

「やばいよ!!こんなところに山本連れてきちゃいけなかったんじゃ…!!」

「なら、お前が助ければいいだろ?行ってこい」

「うわあ!!!」

ドンッ!!

リボーンがツナのお尻を蹴っ飛ばし、穴の中へと突き落とす。それを見た私と獄寺はぎょっとした。ええええええ!?!?

「うぎゃあああ!!げふっ!!」

やがて聞こえた地面に落ちた音とツナの悲鳴。い、痛そう…。ていうかツナを落としてどーすんの!?

「え、ちょっ、ツナ!?大丈夫!?」

「何やってんすかリボーンさん!!」

「黙って見てろ。ナマエ、お前もな」

「リボーン…」

焦る私や獄寺に対して、ただ見てろと言うリボーン。私には飛び込むなと…。リボーンは何か考えがあってツナを突き落としたってこと…?山本や相手の視線も落下したツナに向いた。

「んあ?誰こいつー?ザコのお友達れすか?よーし、山本逃げるし先にウサギを狩っとくかな~。いったらっきまーす!!」

「ぎゃー!!きたー!!食べられるー!!!」

むしろ弱そうなツナに敵はロックオン。…ていうか、この人はまだツナが10代目だとは気付いて無いの?にしたって襲われたら同じこと。死ぬ気じゃないツナには戦うすべなどなく、ただ悲鳴を上げることしか出来ない。しかしその瞬間ガッと敵の頭に小石が投げつけられた。

「んあ?」

「お前の相手は俺だろ?来いよ、こいつをぶち当ててゲームセットだ」

小石を投げつけたのは言わずもがな山本だった。山本の手にはまたひとつ小石が握られている。こいつを当ててゲームセット…。山本…。

「ほへー、挑戦状だ。面白そーじゃん。んじゃ、本気を見せちゃおっかな。チーターチャンネル!!」

敵はまた歯を入れ替えた。今後はチーター。四足歩行になり、とんでもない速さで山本に向かって行く。山本は狙いを定めて小石を投げつけた。でもチーターの速さには敵わず石は外れてしまう。そして…。

「いたらき!!!」

ガッと山本の左腕に噛みついた敵。それを見た瞬間、私は心臓が大きく飛び跳ねた。でもこの展開は、山本の狙い通りだった。

「そいつは…お互い様だぜ!!」

山本の右腕に握られていたのは折れた刀だった。自分の腕に噛みついている敵…それはつまり懐に入り込んだと同じ。そこで私たちにも山本の狙いが読めた。

「あいつ、ハナから腕一本くれてやるつもりで…!!」

「山本…っ!」

獄寺の言う様に、山本は左腕を囮にした。すべてはこの瞬間のため。山本は刀の柄を思いっ切り相手のこめかみに叩きつけた。鈍い音が響く。

「キャンッ!!」

聞こえた悲鳴と、ドサッ…と相手が倒れた音。

倒した…。山本が、勝った…。

カラン…と刀の柄が地面に転がる。山本は片膝をつき、ぐっと噛みつかれた左腕を押さえこむ。ツナは慌てて山本に駆け寄った。

「ごめん山本!!俺のせいで腕を…野球あんのに!!大会あんのに!!」

ツナは悲痛に謝っていた。だけど振り返った山本の顔はいつもと変わりなく明るかった。

「おいおい、勘弁してくれよ、ツナ。いつの話してんだ?」

「へ?」

「ダチより野球を大事にするなんて、お前と屋上ダイヴする前までだぜ」

「や…山本…」

ダチより野球を大事にするなんて、ツナと屋上ダイヴする前まで…。そう言い切った山本の顔はニカッと笑っていて。

確かに、あの頃と今とでは山本は変わったのだろう。だけどそれは…多分、私だって同じだと思った。あの日の自分は…掛ける言葉なんて見つからなくて、ただ見ているだけだった。でも今さっき、穴の中に飛び込もうとした自分。私だって、今の私なら…山本を全力で助けようとする。

「それにこれくらいの怪我じゃ余裕で野球できるぜ!」

「すげえ!!」

山本は手をぐっぱと動かしツナに見せていた。血が溢れているけど、大丈夫だと…。多分こういう嘘はつかないだろうから、その声には心底ほっとした。そして山本は穴の上にいるこちらを見上げた。

「ナマエにも試合、観に来てもらいたいもんな!」

「山本…」

さっきの何気ない会話の中の約束。うん…そうだね、ちゃんと観に行く。笑顔で手を振ってくる山本の姿になんだかこちらも釣られてしまう。

…あの時の事、ちょっと思い出した。もしかしたら山本もそうなのかもしれない。

山本はあの日、ツナだけじゃなく、私とも色々話してみたかったと言ってくれた。それなら生きてくれきゃ困るって私は答えた。

多分、些細でもいい。してみたいこと、そういう先の事を考えるって、きっとちょっと楽しい。そして、多分、それは力になる。

今だってそう。また、みんなと笑うあの日常を過ごしたいから。

「…何の話だよ」

「え?」

その時、獄寺がそう聞いてきた。なんだかつまらなそうな声?私は穴から顔を上げて獄寺を見る。

「野球の秋の大会。もうすぐだって聞いたから、じゃあ応援行くよーって話してたの」

「……。」

「獄寺も行くでしょ?」

「っはあ…!?なんで俺が野球バカの応援行かなきゃなんねーんだよ」

やばい。予想通りの反応返ってきた。あまりに想像通りで思わず笑ってしまう。そんな私を見て獄寺は顔をしかめる。

「…てめえ、何笑ってんだよ」

「ううん、別に?じゃあ行かないの?みんなで行きたかったのに」

「……チッ、山本の負ける姿を拝みにな」

軽い舌打ち。まったく。面倒くさいひねくれ男め。理由もひねくれまくってるけど、まあそこはいいとしよう。

だって今、私たちはきっと一歩、いつもの日常に近づいたはずだから。

To be continued