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お金か愛か

右腕と秘書 — www.pixiv.net · All chapters

お金か愛か

「ディーノの情報によると今倒したのが主要メンバーの城島犬だ。この写真を見てみろ。真ん中の奴が六道骸だ」

ツナと山本を穴から引き上げた後、リボーンは1枚の写真を見せてくれた。写真に写っていたのは脱獄したという3人組。

ひとりは今倒した動物の能力を使える男、城島犬。もうひとりはあのヨーヨー使いの眼鏡の人、名前は柿本千種。そして、最後のひとり…背の高い、鋭い目つきの黒髪の男。この人が…六道骸。

私たちはここで初めて、倒すべき敵の顔を知った。

「これでいいわ」

「どもっス」

山本はビアンキさんから左腕の手当てを受けた。かなり痛そうに見えたけど、普通に動かしているから無茶さえしなければ大丈夫そうだ。しかし問題はもうひとつ。山本は武器を失ってしまった。

「チビわりぃ。バット壊しちまった」

「気にすんな。スペアやるから」

「お、サンキュー」

まさかのスペアを取り出したリボーン。替えあるのか山本のバット…!!もしかして何本もあったりするのか…?とりあえずこれで丸腰ってわけじゃなくなるからいいんだけどさ。

「まっ、でもメガネヤローはまだ寝てるらしいし、アニマルヤローは倒したし、意外と簡単に骸をぶっ飛ばせそうですよ」

「あー、うん、流れとしては悪くないよね」

獄寺の言葉に私は頷いた。多分ここまでこちらにとっては色々と悪くない運びだとは思う。良い流れはこのまま継続したい。でもそんな私たちの会話を嘲笑う声が穴の中から聞こえて来た。

「ヒャハハハハ!引っ掛かったなー!お前たちに口割らねーためにオポッサムチャンネル使ったんだよん!!」

オポッサムとは死んだふりをするのが得意な動物らしい。そんなのにまで変身できるの…。でもこめかみ思いっきり強打したはずなのに元気な笑い声だな…。一応ロープを落として山本とツナが縛り上げてきたはずだからもうこちらには上がってこれないとは思うけど。

「でもよーく考えてみたらお前たちに何言っても問題ないじゃん!ぜってー骸さんは倒せねーからな!!全員顔見る前におっ死ぬびょーん!!」

随分威勢よく吠えている。獄寺はムカッとしたようで砂を一掴みし穴に向かって怒鳴る。

「んだと、砂撒くぞコラ!!」

「甘いわ隼人」

しかしその隣でサッカーボールくらいの岩を穴に投げ入れたビアンキさん。え…。程なく聞こえた鈍い音と「キャンッ!!」という悲鳴。

「ヒクヒクしてるけどあれも死んだフリかしら?」

穴を覗きこみ平然とそう言ってのけるお姉様。こ、こえーです…。ツナや実の弟もそのトンデモ行動力には引いていた。

でも城島犬の言っていたことは決して負け惜しみではないという。六道骸という男を侮ってはならない。奴は幾度となく絶体絶命の危機に陥っているが、そのたびに人を殺してそれを潜り抜けている。脱獄も死刑執行前日だったとのこと。

…今更ながら私達、本当とんでもないところに来ちゃってるよな。でもここまで来て引き返す選択肢もない。私たちは黒曜センターの奥に進みだした。

「ちょっと…!あの…結構歩いたし、ちょっと…や…休まない?」

しばらく歩いた頃、ツナが休憩を提案した。…多分ツナは恐怖と緊張で足が震えてるからなんだろうけど、でも休憩するタイミングとしては頃合いだろう。皆も足を止めて賛成した。

「そーだな。俺、腹減ってきたぜ」

「うん。私もー」

「ついでに飯にしましょうよ、10代目」

「う…うん!」

ちょうど近くに休憩用のテーブル席が設置されていた。汚れてはいたけど座ってご飯を食べられるのは有難い。私がウェットティッシュで軽くテーブルを拭くと、山本が持参したお寿司とお茶を並べてくれた。

「んじゃ寿司と茶を配るぜ」

「どきなさいよ、山本武」

しかし横からビアンキさんが山本を押しのける。そして差し出したのは毒々しい色の怪しい液体。…なんかビアンキさん、ちょいちょい山本に対抗意識燃やしてるよな。

「はい、ツナ。緑黄色野虫のコールドスープ」

「虫ですかー!!!」

「冷たくて寿司なんかより美味しいわよ」

「いや!!あの!!」

勧められたツナは顔を青白くして慌てている。…まあ飲んだらむしろ冷たくなるのは自分の体?そしてそれを見て二次被害を受けてるのがもうひとり。

「……獄寺、だいじょーぶ?」

「うっ…姉貴の野郎…変なもん出しやがって」

うぷ…と口を押さえてる獄寺。私はその姿をちらっと見て苦笑いした。

しかしその時、ビアンキさんの持っていたコールドスープにある異変が起きた。

ブクブク…グツグツ…。

まるで沸騰したように、急に煮立ち始めたスープ。

「あつっ!」

それはやがてビアンキさんが持っていられないほど酷く熱を持ち、ボンッと破裂した。差し出されていたツナもその熱気の被害を受ける。

「あぢぢぢぢ!何なの!?このポイズンクッキング!!」

「私じゃないわ」

最初は破裂するポイズンクッキングの効果かと思った。でもビアンキさんによればそれは違うという。むしろ異変は今のスープだけに限らず、テーブルの上に並べていた山本のお寿司にも及び始める。

「ん?弁当が…!?伏せろ!!」

「!!やべ!ナマエ!!」

「わっ!?」

お寿司のお弁当もグツグツと沸騰したような状態になり、それに気づいた山本、獄寺、私は慌ててテーブルから離れて身を屈めた。自分でも逃げたけど、獄寺は私の頭を押さえて庇う様な形をとってくれた。

ご…獄寺…ちょ、ちょっとドキッとした…。

でも、これって一体…!?だってお寿司が爆発するなんてそんなことある…!?

「なんなのこれーーー!!?」

「敵の攻撃を受けてるわ!!」

「どこから」

ツナが絶叫すれば、ビアンキさんがこれは敵の攻撃だと教えてくれる。山本はテーブルの影に身を屈めながら敵の気配を探す。その時、ぴくっと獄寺が何かに反応した。

「ん…この音…」

「獄寺…?」

私は隣で首を傾げる。音…?

「そこか!」

獄寺は傍にあった建物に向かってダイナマイトを投げた。…獄寺って、本当に耳良いんだな。その攻撃は的確だった。爆発によりパラッ…と崩れた外壁。その中から女の子の声が聞こえて来た。

「ダッサイ武器。こんな連中に柿ピーや犬は何を手こずったのかしら」

あれ…?楽器?クラリネット…?

現れたのはクラリネットを抱えた黒曜中の制服姿の女の子。

「あれ、黒曜の制服だ!!」

「ってことは」

「しかし敵は3人組だったはず」

男子3人は情報との食い違いに困惑していた。骸の一味は3人組のはずだった…。でも本当は、まだ他に仲間がいたって事?

「私だって骸ちゃんの命令じゃなきゃこんな格好しないわよ。しっかしあんた達、マフィアのくせにみずぼらしいカッコしてんのねー」

「え」

「なっ!」

なかなか毒舌な子らしい…。み、みずぼらしいカッコ…。別に相応の格好してると思うけど…。ていうか確かツナは今着てるのお気に入りのトレーナーだったよね。あとこの中で一番アクセサリーとかに気を使っているであろう獄寺も地味にショックを受けているらしかった。

「あー、冴えない男見てると悲しくなってくる。男は金よ。やっぱり付き合うなら骸ちゃんがいいわ」

男は金…。当然のように言い放つ彼女。なんかものすっごいハッキリとした価値観で生きてるな…。でも確かに今、骸という名前を口にした。やっぱり彼女も骸の一味ということで間違いないらしい。

「まー、せーぜー狼狽えなさい。私はあんた達をあの世に送って、バッグと洋服買い漁るだけ!」

そして彼女はこちらに向かってクラリネットを吹いた。ヴンッ!!!と響いた激しい音。

え、あれが武器?

その瞬間、今度はテーブルの上にあったお茶のペットボトルが沸騰して爆発した。ひとまずはテーブルの影に身を潜めて事なきを得たけど、攻撃の仕組みがわからないとうかつに近づけない。

「私が行くわ。あんた、間違ってるもの」

「え!?ビアンキさん!?」

しかしひょいっとテーブルの影から身軽に飛び出した人がひとり。それはまさかのビアンキさんだった。恐れることなくあまりに堂々と立つその姿に私はぎょっとした。

ええ!?ビアンキさん大丈夫です!?ていうかあんた間違ってる…というのは。

「大事なのはお金ではなく、愛よ!!!…そうでしょう、ナマエ!!」

「へっ…!?」

えー!!なんか話振られたー!?戦う理由そこですか!!流石愛に生きてる女ビアンキさん…!!

…でも、お金か愛か…か。

まあ…まったくお金が無いっていうのは考え物かもしれないけど、でもお金って言いきちゃうのはどうかと思う。ていうか正直この相手の事、感じ悪いなーとは思うわけで。その一方、愛と言い切るビアンキさんの背中は…なんだかちょっとカッコよく見えたりもして。

…愛、か。

私にはまだそれを語れる程の経験は無いけれど…。でもいつか、見つけられるだろうか。見つけられたらいいなって、そんな風には思う。

だから私も笑って答えた。

「そうですね、私も大事だと思います、愛!」

「ええ、貴女ならそう言ってくれると思ってたわ」

ビアンキさんは当然ねと微笑んだ。隣では獄寺がちょっと何とも言えなさげな顔でこっち見てたけど。だけど、そんな私たちの言葉は相手の気に障ったらしい。

「はあ?なんなのこの女ども、ムカツク」

「その武器は電子レンジと同じ仕組みね。物質に電波を照射して水分子を振動させ温度を上げる」

どうやらビアンキさんは相手の武器の仕組みを見抜いていたらしい。電子レンジと同じ仕組み。だけどバレたところで相手に焦る様子はなかった。むしろ「わかったら何だってのよ」って強気のまま。あのクラリネットから照射される特殊な音波は分子を1分間に5億回振動させ物質を沸騰させるという。

「人間がこの音波を浴びたら、沸騰してボンッ!アハハハ!」

んで、すんげーおっかない事言って笑ってるし…。

「ひいいい!」

「マジかよ」

「なんて女だ!」

男子3人はそんな敵の姿に引き気味だ。これって女の目線だからなのかな?私的にはやっぱり感じ悪い女だなって気持ちが拭えない。向こうもこっちをそう思ってるかもしれないけどね。

「ビアンキさん、私、加勢しますか?」

「大丈夫。ナマエはそこで見てて。任せてちょうだい」

私も戦いましょうかと申し出た。でもビアンキさんはここは任せて欲しいと。そして発動させた、ポイズンクッキングの大技。

「行くわよ、ポイズンクッキング大型料理!!食べ放題!!」

ブショアァァ…とビアンキさんの両手に現れたのはポイズンクッキングの大皿2枚。うわ、凄い!一瞬であんな大皿!そんなの見せられたらまた獄寺は「おえっ」て口を押さえてたけど。

「またダッサイ技ね。いいわ、来なさい。あんたの脳ミソからチンしてあげる!バーニングビブラート!!」

相手はまたクラリネットを鳴らした。でもビアンキさんは大皿料理を盾に突っ込んでいく。成程…これは上手い手かも。全く怯むことなく突き進み、あと一歩で敵に届くところでビアンキさんは新たにポイズンクッキングを作り出した。

「そこまでよ!ラストショートケーキ!!」

「キャアアアア!!…なんて、言うと思って?」

悲鳴を上げた相手。でもそれは演技だった。クラリネットはふたつに外れ、ジャラッ…と鎖が出てヌンチャクのようになる。

「接近戦も、得意なの!!」

「あぐっ!!」

…あっ!!

ヌンチャク状になったクラリネットでビアンキさんの体を殴りつけた相手。ビアンキさんのショートケーキは届かず、逆に殴り飛ばされてしまった。

「なにが愛よ!金に勝るものがあるわけないじゃない!そっちの女、次はあんたがやる?でもその前に、さあ、トドメのひと吹きよ!」

彼女は私を見て笑いながらもビアンキさんにトドメを刺そうとする。でも…あれ?ビアンキさん…倒れたまま全然その場から動かない?それが逆に何だか違和感で。

「ナマエ…気付いたか」

「獄寺…」

獄寺はその違和感の正体に気が付いているらしい。

もしかして…これって。

私もなんとなくわかった気がする。ビアンキさんが何をしようとしてるのか。その一方でツナや山本はマズイと焦り出す。

「やばいよー!!」

「おいっ!」

「待て、山本…。もう…触れたんだ」

助けに行こうとした山本の肩を掴んで止めた獄寺。触れた…その一言で確信する。じゃあやっぱりビアンキさんは!

「脳ミソ沸騰させてあげる…ひぎゃアアアアアア!!!!」

クラリネットを吹こうとしたその瞬間、彼女の悲鳴が響いた。咥えたクラリネット…しかしそれは元の形を成しておらず、ポイズンクッキングへとその姿を変えていた。

やっぱりそうだ!あの技!

「クラリネットが!!まさかあの技って!!」

「そうッス…姉貴が結婚式の時に修得した、触れたもんをポイズンクッキングにする究極料理…」

ツナも気が付いたらしい。6月のあの結婚式の日、ビアンキさんが到達したあの技。

「千紫毒万紅!!!」

倒れていたビアンキさんがパチッと目を開き、体を起こした。倒れていたのは相手を油断させるためのフリ。殴られたあの一瞬、既に勝負はついていた。

「そんなバキャなぁぁっ!!ふぎいい…」

思いっきりポイズンクッキングを口にしてしまった彼女はどさっと倒れこむ。そんな姿を見たビアンキさんは彼女の元に走り出した。

「大丈夫?」

…わけではなく、倒れた彼女のそばを通り過ぎるとその先で寝ていた赤ん坊の傍にストンと腰を下ろす。

「よかったわ。お昼寝の邪魔されなくて」

この状況下の中…ひとり鼻提灯ふくらませて爆睡しているリボーン。その姿を見たビアンキさんは幸せそうな表情…。ええと、これはつまり…。

「リボーンの奴、見ないと思ったら…!」

「じゃあ姉貴が戦ったのは、リボーンさんの眠りを守るため…」

ああ…成程です。納得…。これはまさにビアンキさんにとって愛の戦いだったわけだ…。そしてビアンキさんは私の方に振り返る。

「ナマエ、私たちの勝利!愛の勝利ね!」

相変わらず、今も全力で勘違いが続いてるビアンキさん。ああでも、愛の為に全力で生きるその姿はちょっと素敵だなと。闘うその背中を見ていたらなんだかそんな風に思ってしまったのは事実で。

「ビアンキさん、カッコ良かったですよ!」

あの背中、ちょっと眩しかったなと。私はそう言って笑った。

To be continued