大切な人を守るために
大切な人を守るために
電子レンジと同じ仕組みを持つクラリネットを操る女の子。そんな彼女との戦いにビアンキさんが勝利し、ほっと息をついていたのもつかの間の事。私たちの前にはすぐに新たな刺客が現れた。
「あの強欲娘のM・Mがやられたのは実にいい気分だ」
聞こえた声に私たちはハッと振り向いた。そこに立っていたのはまた黒曜の制服に身を包んだ男。でも学生という年齢ではなさそうだ…。
「だっ、誰!?」
「まあまあ落ち着いて…これを見てください。お友達が狙われていますよ」
ツナの声にノートパソコンの画面をこちらに見せてきたその男。その画面にはふたつの映像が映し出されていた。画面が小さくて見えづらい。だけど見間違い出なければ、映っているその姿にゾっと背筋が凍った。
「これじゃわかりにくいですかねー。あちらをご覧ください」
壁に映像が大きく投影された。映し出されたのは私たちがよく知るふたりの少女の姿。え…な、なんで…。
「壁にモニターが!!つーかなんで京子ちゃんとハルが映ってんのー!?」
ツナが叫ぶ。やっぱり見間違いじゃなかった…。モニターに映し出されていたのは京子とハルの姿。ふたりはいつも通り街を歩いてる様子だけど…もしかしてこれって、人質ってこと…?
「てめー、何を企んでやがる!」
「あんたが次の刺客ね!」
「まーまー、落ち着いてと言ってるじゃないですか。ちゃんと説明しますから。私の名はバーズ」
獄寺とビアンキさんが声を荒げると、男は自己紹介をしてきた。
「その名の通り、鳥を飼うのも趣味でしてねえ。御覧の映像はかわいい鳥達に埋め込まれた小型カメラから送られているものです」
鳥に埋め込まれたカメラ…。
京子は花と歩いていた。どうやら笹川先輩のお見舞いの帰り道らしい。ハルはイヤホンをつけて英単語帳を手に勉強しているようだった。
しかし、何か違和感。そんな背後にさっきから何かゆらゆらと後をつけている影が見える。次の瞬間、その正体がモニターにアップで映し出された。黒曜の制服を身に着けた…長身の、人…?京子とハルの背後にひとりずつ。手足が長く、目は窪み、表情がよく読み取れない…。でも何か異様な雰囲気だけは感じとれる、そっくりな存在。
「気が付いちゃいました?あれは私に忠実な双子の殺し屋でしてね。あんなにかわいい顔していますが、刑務所にいる10年間ずっと拘束具を外して貰えなかったほどの凶悪な連続殺人犯なんですよ」
双子の殺人鬼…!?どこがかわいい顔だ…全然かわいくない…。感情が読み取れない顔が不気味でしかない…。そんなのが今、京子や花、ハルの背後に迫ってる…。
「見てください。もうあなたたちのお友達と遊びたくてしょうがないって様子だ…ウジュ」
気持ち悪く笑うバーズと名乗った男。双子の殺人鬼は確かにうずうずと何かに耐えるように体をくねらせていた。
「あああ!あぶない~!!」
「あの子たちに何する気!?」
「んー?何もしやしませんよ。あなたたちが私に従ってくれさえすれば…ね」
顔を真っ青にして叫ぶツナと何をするつもりだと問い詰めるビアンキさん。バーズは平然と答える。私に従ってくれさえって…やっぱり京子たちを人質にこちらに何かさせるつもりということ。するとそれを聞いた獄寺がバーズに掴みかかった。
「ふざけんな!!あいつらは関係ねーだろが!!殺し屋を戻さねーとぶっ殺すぞ!!」
「獄寺!待ってダメ!!」
私は慌てて獄寺に駆け寄った。そしてぎゅっとそのシャツを掴んで止める。だって今、不利なのは完全に私たちの方だ…。
「ウジュ…そちらのお嬢さんは賢明ですねえ。その通り、私には触れない方がいい。ほら、お友達が…バラされちゃいますよ」
「なっ!」
「…っ」
再びモニターにアップになった殺人鬼。今にも京子とハルに手を伸ばそうとしている。それを見て獄寺も私も息を飲んだ。
「離れていても私は彼らに指示できる。お友達の命は私が握ってるんだ。お前らにガタガタ抜かす権利は無いんだよ…二度と触れるなボケ」
「くっ…くそっ!」
獄寺は慌てて掴みかかっていた手を離した。まさか京子や花、ハルたちに危険が及ぶなんて…考えてもみなかった。
「…ナマエ」
「……ごめん」
獄寺に声を掛けられた。はっとする。私は獄寺のシャツを掴んだままだった。自分を掴んだままの私が気になっただろう。心配してくれるその声を聞き、私はそっと手を緩める。どちらが有利なのかをはっきりさせたところでバーズはにやりと笑った。
「ウヒョヒョ…それでははじめましょー。うーん、そ・お・だ・なー…では、お仲間でボンゴレ10代目をボコ殴りにしてください」
…10代目をボコ殴りにしろ。その提案にこちらの全員の顔に汗が滲んだ。だけど、ツナがボンゴレ10代目なのって向こうサイドにはバレてないんじゃ?少なくともさっき襲ってきた城島犬はそれを把握していないようだった。しかしバーズはそうではないらしい。
「そこの沢田くんを殴れと言ったんですよ」
バーズは間違いなくツナを指さした。完全に10代目が誰か把握してる…。
「さてはメガネヤローが目を覚ましたな…」
「そんな!」
獄寺は頭を抱える。それを聞きツナはまた更に顔を青白くさせた。そうか、獄寺があのメガネの人…柿本千種と戦った時、ツナがボンゴレ10代目ってバレたから。つまりあの人が目を覚ましたって事になるのだろう。
「彼女たちを無事おうちに帰したいんでしょう?だったら出血するまで殴ってくださいよ」
わざとらしく京子のアップを見せながらそう要求してくる。こいつ…とんでもないクズ野郎だ。こんな中でもまだ眠り続けているリボーン。ある意味大物すぎやしませんかね…。
「まあ断られても私は困りませんがね。私のもう一つの趣味は人を驚かせることでしてね、驚いた時の無防備で無知で無能な人間の顔を見ると興奮して鼻血が出そうになる。例えば彼女の髪が突然燃え上がったら、どんなステキな顔をするだろう…ウジュ、言ってたらやりたくなってきちゃいました~!」
こ、こいつ…本気で頭おかしい…。今の状況に顔を赤らめて息を荒くする。言ってることがあり得なさ過ぎて、こちらは吐き気がしてくる。
「さあ、決定的瞬間ですぞー」
「このヘンタイヤロー!!」
「何言ってやがる!!」
獄寺と山本がツナを庇う様に前に出て言い返すけど、例の双子は京子とハルの背後でライターに火を近づける。ダメだ…このままだとふたりが…。八方塞がりになりかけた時、ツナが咄嗟に叫んだ。
「待って!!わかった!!山本、獄寺くん!!殴って!!」
ツナ…。だけどその手は…ううん、全身が震えてた。多分言ってしまった後に、言っちゃったってちょっと後悔してるやつ…。でも、京子とハルがやられるくらいならって…その気持ちも、嘘じゃない。
「ちぇっ…いいとこだったのに。じゃあ5秒以内にはじめてくださいよ」
要求を飲んだのに何故だか残念そうな顔をするバーズ。反吐が出そうだ。
「いや…じゃ…あの…山本…獄寺くん…ボボ…ボコってもらえる?」
「バカ言うな…」
「んな事出来るわけないッス!」
もうここまで来たら引けない。ぎゅっと目を瞑りながら自分を殴って欲しいとふたりに頼むツナ。しかし獄寺と山本だってそんなこと出来るわけがない。なら…もういっそ、私が殴る…?棒なら加減、出来るかも…。そう決意しかけた時、ビアンキさんがツナの頬を思いっ切り殴り飛ばした。…う!?
「ふげっ!!うわー!!」
勢いで後ろに吹っ飛ぶツナ。
「あ…」
「ビ、ビアンキさん…」
「姉貴!!なんてことを!!」
「私はもともとツナを殺すために日本に来たのよ。こんなもんで済んでラッキーと思いなさい」
あまりの勢いの良さに私たちは唖然としたけど、でも確かに言われてみればビアンキさんの当初の目的ってそうだったかも…。ツナも「たっ、確かに…」と言いながらゆっくり体を起こす。鼻からはちょっと血が出ていた。でも、なんだかあの勢いのわりにはあまり痛く無さそう…?
「…嫌われ役は慣れてるわ」
「ビアンキさん…」
ぼそっと呟き、プイっと顔を背けるビアンキさん。なんだかその仕草、ちょっと獄寺と似てる気がする。なんにせよ、ビアンキさんは加減して殴ってくれたらしい。だけど血が出るまでという相手の要求はクリアした。にも拘わらず、相手はやっぱりクソ野郎だった。
「いやぁ、お見事クリアです。これなら次の要求もクリアして彼女たちは助かりそうですね」
「え!まだあんのー!?」
「誰もこれで終わりなんて言ってませんからねー。しかし今のクリアっぷりが良かったので次で最後にしましょう」
「ヤロー!調子に乗りやがって!」
折角クリアしたのにと怯えるツナ。後出しの要求に獄寺も怒鳴る。だけどこちらの状況は何ひとつ変わっていないのが事実。要求を飲まなければ、京子とハルに被害が及ぶ。
「お次は、このナイフで沢田さんを刺してください」
バーズは懐から1本のナイフを取り出した。次の要求…ナイフで、ツナを刺す…!?そんなの、殴るのとはわけが違う。こちらの全員の顔が引きつったのを見て、バーズはまた薄気味悪く笑った。
「ウジュジュジュ…皆さん、今の驚き顔、実によかったですよ~。ナイフの柄のところまでぶっすり刺してくださいね…ウジュ」
バースはそう言いながらこちらに向かってナイフを放り投げてくる。カチン…と地面に転がるナイフ。するとバーズの鼻からは興奮で鼻血が垂れてきていた。
「いかんいかん、そんじゃー決めてください。やるか、やらないか」
鼻にティッシュを詰めながら選択を迫ってくる。だけど流石に、この要求は飲めるわけがなかった。
「出来るわけねーだろ!!」
「無茶言うな」
「断るわ」
真っ先に吠えた獄寺に続き、山本やビアンキさんも拒否する。私はそっとツナの背に手を伸ばした。
「ツナ…いい、そんなの…」
「ナマエ…」
私も止めた。だって、ツナにナイフを突き刺すなんて…そんな選択はありえない。しかしどちらを選択しても私たちには地獄、バーズを喜ばせるだけだった。
「それはありがたきお返事。それでは次のドキドキいきましょう。じっくり、この子からいきましょーか?いやー、かわいいですな、天使のようだ」
「京子ちゃん!!」
モニターに映し出された京子のアップ。ツナの顔が青ざめた。カメラは少し引き、背後にいる殺人鬼が映し出される。次にその手に握られていたものは…硫酸の瓶だった。
「りゅ…硫酸!?何する気なのー!?」
「硫酸って人にぶっかける以外使用法あるんですか?いやー、楽しみだ!彼女痛くて驚くでしょーね!ただれてまたびっくり!!やっちゃって」
瓶の蓋が開けられる。ゆっくりと傾けられていく瓶。それを見た瞬間、ツナは強く叫んだ。
「待って!!ナイフでも何でも刺すから!!絶対絶対だめだ!!関係ない京子ちゃんを酷い目に遭わせるなんて!!」
ただただ必死に。京子を守りたいその一心で。自分が犠牲になると…あの弱虫なツナが。ツナは地面に置かれたナイフに手を伸ばした。バーズはそれを見て楽しげに笑う。
「それではやってもらいましょうか?制限時間は10秒ですよ」
「て…てめぇ!」
「10代目!もう一度考え直してください!」
山本がバーズに怒りを向け、獄寺はツナを止める。だけどツナは手にしたナイフを握り直す。
「すぐ救急車を呼んであげる。ナイフ貸しなさい」
「いいよ。自分で…やる…」
また自分が役目を買うとビアンキさんはナイフを渡すよう手を差し出した。でもツナはそれを断る。
「ツナ…!」
私は咄嗟にツナの手首のあたりを掴んでしまった。その時、気がつく。
「ナマエ…俺、大丈夫…だよ…」
「大丈夫って…」
掴んだことで気がついた。手、こんなに震えてるのに…!
「ナマエだって…見ただろ。獄寺くんと山本だって…顧みずに俺のこと庇ってくれたんだ…」
「それは…」
ヨーヨーの攻撃からツナを庇った獄寺。山本もさっきツナを守るために自分の左腕を犠牲にした。…ツナは、それを平気で見ていられるような奴じゃない。多分ずっと、心の奥で気にしてたんだ…。ツナは自分の手首を掴む私の手に触れ、そっと解かせる。
そして………。
「こここここれくらい~~!!!」
声を震わせながら、ツナはナイフを振り下ろした。
To be continued