入ファミリー試験
入ファミリー試験
「ふあ…」
朝、登校中。まだ残る眠気に欠伸が出た。目をこすりながら前を見ると、一緒に歩いているツナと山本の姿を見つけた。
あの一件以来、ふたりはよくつるむ姿を見るようになった。ウマが合ったのなら何よりだ。
「…ん?」
その時、近くにある見晴し台の上に最近見慣れた銀髪が見えた。落ち着いた髪色が多い日本ではやっぱり目を引くような気がする。
隣にいるのは、リボーン?
あんなところで何してるんだか。まあツナと山本のこと見てるんだろうけど。
ちょっとした興味本位。私は見晴し台の方に近づいた。
「考え直してくださいリボーンさん!!俺はあんな無礼な奴を入れるのは反対です!!」
上ってみると獄寺がリボーンに何やら物申していた。朝っぱらからこいつも元気だな…。
しかし当のリボーンの鼻には提灯が膨れている。話を聞いていたのかどうか。獄寺もそれをみて微妙な顔をしていた。
「獄寺、おはよ。何してんのあんた」
「あ?って、ナマエ!!てめえ!!10代目のことは頼むっつったじゃねえかよ!!何あんな野球野郎を10代目に近づけてやがる!!」
「え、なんで私急にキレられてんの」
「…チッ、おめーも絆されやがって」
「は?」
目が合うなりキレられた。続けて舌打ちの理不尽ぶり。野球野郎?絆されやがって?野球野郎って…もしかして山本のこと?
「俺はなぁ!あんな野郎をファミリーに入れるのは反対なんだよ!でもリボーンさんはあいつをもうファミリーに入れたと…!」
「えっ!?リボーン、山本のことも入れるつもりなの!?」
なんてこった。また話が面倒くさくなってるじゃないか…!
ああ…と頭を抱える。本当この赤ん坊何考えてるんだか…。もうなんか考えるのすら面倒くさくなってきた。ツナも絶対反対だろうけど…。
「ああ…そういえば獄寺、お菓子ありがと。あれ美味しかった!」
「ん?ああ…おー」
考えるのを放棄して、話を変えた。
この間休んでた間に頼んでたお土産の話。
まさか本当に買ってきてくれるとは。
またダイナマイトの仕入れに行く際は是非買ってきてもらおうと思う。それを言ったら「ふてぶてしいなテメェ」って返された。
いやいやお金は払う!美味しかったもん!普通に食べたいもんね!
「んでね、獄寺…ありがとついでにもうひとつお願いがあるんだけど…」
「はあ?なんだよ」
「いやー、あはは、実は今日ペンケース忘れちゃって…。シャーペン貸して頂けると非常に助かるなー…と」
「ああ!?」
いやはや昨日、鞄から出して机に置きっぱなしにしたような気がして。さっきチラッと中を探ったら、案の定入ってなかったわけですよ…。
てことで、ちょうど良いからお願いしてみた次第。
「…山本にでも借りりゃいいじゃねぇかよ」
「はい?」
なぜに山本…?
何か文句はつけられるかなとは思った。だって獄寺だし。でも山本に借りろはちょっと予想の斜め上。どういうことだ。
「…てめえもあの野球野郎と随分仲良いみてえじゃねえか」
「え?」
「…下の名前で呼ばれてたろ」
「え、ああ」
下の名前。あの一件以来、山本は私を苗字ではなく下の名前で呼ぶようになった。あ、絆されたってそういう?
それは確かにそうだけど。でも突っ込むところがいくつかある。
「いや、獄寺だって下の名前で呼んでるじゃん。てゆーか山本が呼び方変えたの、あんたが要因だと思うんだけど…」
「あ?」
正確に言えばツナと獄寺、なのだろうが。でもツナだけじゃなくて獄寺もって点が大きい気がする。
私もあの一件以来、山本とはよく話すようになった。そしてその人となりを知り、やはり気の良い奴なのだなと再確認した。
これからもっと仲良くなれたら良いなと思う。
「うーん、でも…獄寺と山本がいたら、とりあえず獄寺に貸してって聞く…かも?」
「は?」
「いや獄寺の方が喋る機会多いし。あー、でも山本の方が快く、すんなり貸してくれそう」
「…てめえは喧嘩売ってんのか」
いやうん、別に山本から借りても良いのだけど。それが不自然でないくらい、彼とも仲良くはなれていると思う。
でも頼み事と考えた場合、獄寺の方がすぐに頭に浮かぶかもしれない。多分、自分的には獄寺の方が気兼ねないと感じているんだと思う。今のところ、多少。
まあ大多数は山本を選ぶと思うけど。このガラの悪い奴に頼み事する奴などそうそういないだろう。そういう意味では私はキトクなのかもしれない。
ていうか別にペンくらい、京子でも花でもいいんだけどさ。ツナだっていいし。
ただこうして話してるから頼んでみただけではある。
「まあ勿論タダとは言わないよー。購買のパンひとつでどうだ」
「…まあ、悪かねぇな。しゃーねーな。わーったよ。貸してやる」
「へへ、交渉成立!」
まあとりあえず借りれたから良しとする。後で一緒に購買に行って好きな物を選ばせるとしよう。
まあなんだかんだで今日も一日、普通に終わると思った。しかし獄寺の不満はリボーンの耳にきちんと入っていた様子。
その日の放課後、獄寺を納得させるためにも、山本の入ファミリー試験なるものが始まってしまったのだった。
「おいおい獄寺…呼び出しといてだんまり睨めっこはねーんじゃねーの?」
リボーンに山本を呼びに行くよう頼まれた獄寺はさっきからずっと山本にガンを飛ばして睨みつけていた。
そんな獄寺を前に苦笑いの山本。そして今のこの状況を私に聞いてくる。
「なあ、ナマエ。なんで俺、獄寺に睨まれてるんだ?」
「…うーん、私も朝急にキレられてさあ。カルシウム足りてないんじゃない?」
「ああ、成程。獄寺、お前牛乳飲むといいぜ。ナマエの言う通り、イライラは確かにカルシウム不足だ」
獄寺に牛乳を差し出す山本。
ぷつん。あ、キレた。
多分私にも。
いやでも常にイライラしすぎだと思うの、こいつ。
「おーい!!」
その時、恐らくリボーンから話を聞きつけたであろうツナが走ってきた。敬愛する10代目が見えたことで取り出そうとしていたダイナマイトを慌ててしまう獄寺。
すると走ってきたツナは「ナマエ!」と私の腕をぐいっと引っぱり、小声で話しかけてきた。
「…ちょ、ナマエ!リボーン、山本のことボンゴレに入れるつもりだぞ!?」
「…ん、まあ獄寺がリボーンに反対してたのは見てた」
「…ど、どーすんだよ、これ!」
どうすると言われても…。獄寺に「ファミリーにとって重要なことだ、テメエも来い!」って引きずられて来たら山本も呼び出してたっていうアレだし…。
山本のボンゴレ入りを阻止せねば。まあ出来るならそれは私もそうしたいし、共通意見だけど。
しかし、あの赤ん坊がそれを許さない。
「てゆーか…ツナ、気付いてんの?」
「え?なにが?」
私が聞くとツナはきょとんとした。あーあ、これは自分の後ろ、気付いて無いやつ…。やれやれと思う私の後ろで山本が首を傾げた。
「なに、そいつ。ツナの弟?」
「へっ?」
その言葉で後ろに振り返るツナ。そして気が付く。自分の腰に巻かれたロープと、それを利用しスケートボードで移動してきたそいつ。
「ちゃおっす」
「げっ!リボーン!どーりで重いと…!」
どーりで重いとっておバカすぎやしないかツナくん…。一方でリボーンはスケートボードから飛び降りると山本の前に立って見上げた。
「弟じゃねーぞ。俺はマフィア、ボンゴレファミリーの殺し屋リボーンだ」
んで全部言うし…。でも普通はこんな赤ん坊がそんなこと言っても信じないと思うけど…。
山本はリボーンの前にしゃがむ。そして楽しそうに笑った。
「ハハハハ!そっか、そりゃ失礼した!こんなちっせーうちから殺し屋たぁ大変だな」
「そーでもねーぞ。お前もボンゴレファミリーに入るんだぞ」
普通に会話してるふたり。
つーかナチュラルに勧誘してるリボーン。
「ちょ、おい、リボーン!」
ツナは慌ててリボーンを止めようとした。
でもそれを制したのは意外や意外、山本だった。
「まーまー、相手は子供じゃねーか!俺らもガキん時やったろ?刑事だのヒーローごっこだの」
あ、そーゆー…。
マフィアごっこと思ってるそういう感じ…。
遊びに付き合っているつもりの山本はリボーンを持ち上げ自らの肩に乗せる。リボーン、大人しくしてるなあ…。山本の肩の上は居心地がいいのだろうか。
ツナならちょっと触っただけでボッコボコなのに。
「ファミリーの10代目のボスはツナなんだ」
「ほー、そりゃまたグッドな人選だな」
「うわー!!!」
何バラしてんだー!!なツナ。いや自分なら半殺しなのに山本には猫かぶりやがって的な感じもありそうだ。
「よーし、わかった。んじゃ俺も入れてくれよ。そのボンゴレファミリーってのに」
「えー!?や…山本!?何言ってんの!?」
リボーンの誘いを受けた山本。さっきから叫びっぱなしのツナ。リボーンはニカッと満足げな笑顔。
「チッ…」
「……。」
んで私の隣にいるこの爆弾男は舌打ちするし。これ多分私に不満ぶつけてるんだと思うけど、それ私にアピールされても困るんだが。
「んで、何すりゃいいんだ?」
「まず、入ファミリー試験だぞ」
「へー、試験があんのか。本格的じゃん」
「試験に合格しなきゃファミリーにはなれないからな」
一方でノリノリの山本とリボーン。ごっこと本物という致命的な認識の差はあるけど…。
ちなみに不合格は死を意味するという。山本はニコニコしてるけどコレ笑い事じゃないんだよな…。その証拠にリボーンはどこから出したのかドエライ装備を両手に抱える。
「試験は簡単だ。とにかく攻撃をかわせ。んじゃ、はじめっぞ。まずはナイフ」
そして山本に向かって思いっきりナイフを投げつけた。…こっわ!!
山本は流石の反射神経で避けてたけど、いや当たったらまじで死ぬやつですか!
「ま、待てよリボーン!本当に山本殺す気かよ!」
ここまでくると見ていられないとツナは慌ててリボーンと山本の間に入る。
それを見た私の隣の爆弾男。タバコをふかして不敵な笑みを浮かべている。殺せ殺せ、とか思ってる顔だコレは。とりあえずズベシッと脳天ぶっ叩いておいた。「何しやがる!!」って睨まれたけど知らん。
でも、本当この状況どうしようかなあ…。間に入るとこっちにも飛び火してきそうだし。
「ボスとしてツナも見本を見せてやれ」
「はあ!?」
現にツナはなぜか一緒に入ファミリー試験を受ける羽目に。
攻撃を開始するリボーン。山本とツナはその攻撃の雨から逃れるべく走り出した。本当は命がけの状況。しかしごっこ遊びだと信じて疑わない山本は気楽ながらも持ち前の運動能力を存分に生かし、軽々とリボーンの攻撃を避けていた。
「流石野球で鍛えてるだけあるな。反射神経抜群だ」
「そーすかねえ…ケッ」
「あんたは何でずっと山本に敵対心持ってるの…。ていうかリボーン、どうしたらこの試験合格になるのさ」
「俺の用意した攻撃を全部使い果たして生き残れたらいーんじゃねーか?」
「それ全部!?」
そうこうしているうちにナイフが終わり、次はボウガンを手にするリボーン。一応終わる条件を聞いてみたものの…パッと見ただけでナイフ、ボウガン、マシンガン…ってそれ全部避けろと!?しかも疑問系なの明確に決まってない!?
「ガハハハハ!リボーン見ーっけ!!」
そんな時、どこからか子供の声がした。
上…?誰…。
見上げると階段の踊り場の所でガハガハ笑ってる小さい男の子。わあ、頭もじゃもじゃだ。んで…あの格好は何?牛の服?
「俺っちはボヴィーノファミリーのランボだよ!5歳なのに中学校に来ちゃったランボだよ!!」
なんか主張の激しい自己紹介をしてくれた彼。名前は、ランボ?ていうか今あの子ファミリーとか言ってなかった!?でもボヴィーノってことは…ボンゴレとは関係なし?
「ねー、獄寺。ボヴィーノファミリーって?」
「知らねえ。聞かねー名だな」
一応、獄寺に聞いてみると彼も知らないと言う。うーん、そんなに有名なマフィアではないのかな…。
リボーンはもはや眼中にないらしい。攻撃の手を緩めず、山本とツナに攻撃をし続ける。
すると無視されたことが辛かったのか、こちらの気を引こうとミサイルランチャーを取り出したランボ。
ねえ、おかしいおかしい。なんで子供がほいほいそんな武器持ってんの。マフィアってそうなの!?
「獄寺もぶっ放していいぞ」
「!しかし…」
「山本を殺すつもりでいけ」
「!!!」
「いやなんでそこで嬉しそうな顔してんのあんた!?」
挙句、獄寺にまで攻撃しろと言い放つリボーン。山本を殺すつもりでと聞いた獄寺はなぜだか嬉しさを隠しきれない顔。
…どんだけ山本嫌いなんだお前。
「ん?」
そんな時、階段の踊り場にいるランボが自分に向かってバズーカを放っているのが見えた。
…!?
自分に撃ったことにもビックリした。でもそれにより煙の中から現れたのは、牛柄シャツの謎のお兄さん。
ら、ランボが…変身した…?
目を疑った。目をこすった。でもそこにいるのはやっぱり牛柄シャツの伊達男。
いやっ、それすっごい気になるんだけど多分今気にするべき優先順位はそっちじゃない。
「っ、ツナ!山本!」
ドガーーーーンッ!!!!
リボーンのロケット弾、獄寺のダイナマイト、そして謎の牛柄シャツもランチャーを放ち、巻き起こった大爆発。ちょ…。
「10代目!大丈夫ですか、10代目ー!!」
「いやあんたノリノリでダイナマイトぶん投げといて何言ってんの!?」
「う、うるせえっ!!」
獄寺も流石にやりすぎたかとそこで我に返ったらしい。ていうかツナだけじゃなくて山本の心配もしなさいな…。私はいまだ巻き起こる煙に向かって叫んだ。
「ツナ!山本!どこ!?」
「あそこだぞ」
「「!」」
リボーンが指をさした。慌てて獄寺と目を向けると、そこには煤まみれになりながらもツナを担いで立っている山本の姿があった。
「ふー、あぶねー、あぶねー」
「山本が引っ張ってくれたおかげで…た…助かった…」
「ちょ、山本!ツナ!」
ふたりの無事を見て、私は駆け寄る。バッグの中にあったタオルとハンカチを出して、とりあえずふたりに手渡した。
「はあ…ビックリした…。山本、これタオル、顔拭きなよ。ツナも黒くなってる」
「お、悪ぃな、ナマエ!」
「うう…ありがと…」
顔を拭き始めるふたり。するとリボーンもやってきて山本を見上げた。
「試験合格だ。お前も正式にファミリーだぞ」
「サンキュー!」
ああ、これで山本もボンゴレファミリーの一員になってしまったらしい。本人これだけの騒ぎでもまだごっこ遊びの認識っぽいけど…。
それを聞いた獄寺も山本に近づく。
まだ、俺は認めねえとか言うのかな。
獄寺は山本の胸倉を掴む。しかし投げかけたその言葉は賛辞だった。
「よくやった」
「!」
「10代目を守ったんだ。ファミリーとして認めねーわけにはいかねえ」
あれま…。
毛嫌いしてたけど、今の活躍を見て獄寺も山本を認めたらしい。こういうところは意外と評価するんだなあ、この人。
「でも10代目の右腕は俺だからな。お前はケンコー骨だ」
「け…ケンコー骨…?」
…と思ったら、またいらんこと言い出した。肩甲骨ってなんだ…。ていうかお前もいつから右腕よ…。
山本も呆気に取られていた。でもすぐに吹き出すと獄寺の肩を叩いて大笑いし出した。
「あははは!!前から思ってたけど獄寺って面白ぇー奴な!だがツナの右腕を譲る気はないね。お前は耳たぶってことで」
「んだとコラァ!?てめえは鼻毛だ!」
「なにぃ!だったらお前は鼻くそだ!」
「ぐっ!!」
いや、なんの言い争い…。でももしかして意外とウマがあったりするのだろうか、あのふたり。私はツナの隣に立ち、膝で軽く小突いた。
「モテモテじゃん10代目ー」
「いや、全然嬉しくないし!…ていうか、悪乗りするなよナマエ…」
「あはは」
山本のファミリー入り。なんだかまたややこしい話になりそうだけれど、でもこの3人…案外良いトリオになるのかも、なんて。なんとなくそんなことを思った。
To be continued