最後の切り札
最後の切り札
ドガガッ!!
物凄い音を立てて崩れる瓦礫、土砂。それは巨大な鋼球がぶつかり破壊された音。
「くそっ、こっちも塞がれたぜ」
「やっぱ10代目を追うには、こいつを倒すしかねぇな」
フゥ太を追いかけて行ったツナ。ふたりを探そうとした私たちの前に現れた新たな刺客…それは鎖に繋がれた鋼球を振り回し、自在に操る黒曜の制服を纏った男だった。
「しかし、なんつーバカ力だ…」
「あんな鋼球の直撃をくらったらひとたまりもねーな…」
「うん、それだけは絶対避けないと…」
鎖を回すことで、いとも簡単に鋼球を振り回すあの力。その力には流石の山本にも焦りが滲んでいた。そして獄寺の言う通り、あんな鋼球の直撃なんて絶対にくらえない。私はぎゅっと棒を握り直してその男をじっと見る。帽子を深く被っていて、その表情はうかがえない。だけど一筋縄じゃいかない相手なのはわかる。
「…っ」
「…?」
その時、私は何か獄寺に違和感を感じた。今…少し顔歪めた?でもそれを確かめる前に獄寺はダイナマイトを取り出して構えた。
「さっさと終わらすぞ、怪力ヤロー!こっちも暇じゃねーんだ!」
「無駄だ。俺には勝てん」
獄寺の言葉に返し、男は帽子を黒曜の上着を脱ぎ去った。それにより見えるようになった彼の顔。でもそれを見た瞬間、私たちは目を疑った。
「お前は!!」
「写真の!」
「六道骸!!」
「嘘っ…!」
全員に動揺が走る。
その男は先程リボーンが見せてくれた写真に写っていた男…この一連の事件の主犯である六道骸だった。遂に…ご本人ご登場ってこと…?
「ついに出て来たな」
「フゥ太に何をしたの?」
「フゥ太…?知らんな」
山本が警戒し、ビアンキさんがフゥ太について聞く。しかしとぼけているのか話す気が無いのか、短く言い捨てまた鋼球を勢い良く振り回す。
そんな時、獄寺に異変が起きた。
「ぐ…」
「獄寺っ…!!」
酷く顔を歪め、胸を押さえてその場にうずくまる獄寺。傍に立っていた私は咄嗟に手を伸ばして一緒にしゃがんだ。でも、その時触れた体は異常なほどに熱を持っていた。呼吸も荒い…これ…。
「隼人!」
「ビアンキさん…これって」
「ええ…」
ビアンキさんも急いで駆け寄ってきてくれて、獄寺の額に触れた。凄い熱。多分これはシャマルの言っていたトラインデントモスキートの副作用だろう。ずっと胸を押さえているところを見ると、傷口も相当痛んでいるはず…。
「おっと、お前の相手は俺がするぜ」
「山本!」
「ナマエ、任せとけって!」
その時、庇う様に山本が前に出た。私が声を掛けると、山本は一瞬だけ振り返りニッといつもの笑顔を見せる。そしてすぐに六道骸に向き直った。
「千蛇烈覇!!!」
六道骸は山本に向かって押し出すように鋼球を放ってきた。とんでもないスピード。でも山本の反射神経なら避けられた。しかし、何かおかしった。山本は避けたはずなのに、まるで引き寄せられるように体がグンッ…と動き、山本は真正面から鋼球を食らってしまう。
「「山本!!!」」
私と獄寺の声が重なった。
嘘…。なんで、だって…山本、今完全に避けてた。
「これでわかったはずだ。貴様らに生き残る道はない。希望は捨てろ」
ズズ…と重たい音をさせながら鋼球を手繰り寄せる六道骸。また、次が来る。そう緊張が走った時、陽気な明るい声が聞こえた。
「おいおい待てよ、まだ負けちゃいねーぜ。フー、こいつを盾にしなきゃやばかったな」
それは山本の声だった。倒れたはずの山本が体を起こした。その顔にはいつもの笑顔。どうやら山本は咄嗟に山本のバットを盾にして鉄球の直撃を防いでいたらしい。
「山本武!」
「あのバカ…」
「山本…良かった」
ビアンキさんに獄寺、私は安堵する。山本…無事でよかった、本当に。しかしリボーンは依然状況は厳しいままだと口にする。
「だがピンチには変わりねーぞ。あの鋼球の謎を解かねーと」
「…ああ、チビの言う通りだ」
山本は頷く。さっき、攻撃を避けたはずの山本の体は鋼球に引き寄せられた。実際にくらった山本もその秘密は解けていない。
「抵抗するとは愚かな。無駄なあがきは惨死を招くぞ。千蛇烈覇!!」
六道骸はまた鋼球を放ってきた。しかしその瞬間、立ち上がった山本は技を見切るための秘策を打ち出す。
「見切ってやるさ!こいつでなっ」
山本はバットを地面に擦り付け、土を舞い上がらせた。それにより、見える。鋼球に吸い寄せられていく土埃。そのうねりの形。鋼球に向かって吸い寄せられる気流が生まれてる!?
「やべえっ」
山本の体はまた引き寄せられそうになった。しかし風に抵抗したことでバランスを崩し、間一髪のところで転んだ山本は鋼球の直撃を免れた。
「フー、転ばなきゃ危なかったぜ。鋼球の周りに風が起きてやがる。なあ、ナマエ、前にちょろっと話したことあったよな。野球のボールの話」
「え?あ…、野球のボールは後ろに乱気流を作りながら進むってやつ?」
「そそ。でも、そんなレベルじゃねーな」
いつだったか山本としていた雑談。投げた野球のボールは後ろに乱気流を作りながら進んでいくと。仕組みはそれと同じって事…?そこまで読めたところで最後の答えをくれたのはリボーンだった。
「鋼球の表面に掘られた蛇に秘密があるな。あの蛇の溝が球に当たる空気の流れを捻じ曲げているんだ。溝を通って生まれた気流は複雑に絡み合うことで威力を何倍にも増幅させて烈風を生み出す」
六道骸が操る鋼球にはいくつもの蛇の模様が刻まれていた。あの溝が空気の流れを捻じ曲げている…。どうやらその推理は正解だったようだ。しかし六道骸は表情一つ変えることはなかった。
「理解したとて、攻略にはならぬ。暴蛇烈覇!」
また山本に向かって鉄球が飛んでくる。仕組みがわかった山本は鋼球を避けるために走り出した。基本に忠実に。多分、確実に避けてからその直後の隙を突くつもりなのだろう。
「無駄だ」
六道骸はそう口にして目を閉じた。…そういえば、さっきまでは千蛇って言ってたのに、今は暴蛇って言わなかった?もしかして技が違う?ハッと鋼球を見ると、今放たれたそれは回転しながら突き進んでいた。
「回転!!ぐっ…うああ!!」
それに山本も気が付いたけど、もう間に合わなかった。回転が加わったことで烈風は更に複雑に勢いを増す。あまりの力に山本の足が浮いた。今度は引き寄せられるなんてもんじゃない…引きずり込まれる…!
「山本ッ!!!」
私は叫んだ。引きずり込まれた山本の体はモロに鉄球をくらった。またバットを間に挟んではいたけど、バットも力に負けて折れ曲がり歪む。弾き飛ばされた山本の体は木にぶつかり、ずずっ…とずり落ちた。
「言ったはずだ。希望は捨てろと。約束通り惨死をくれてやる。とどめだ」
六道骸は鉄球を引きずりながら動かない山本に近づいていく。それを見てゾクッ…と寒気が走った。山本が…殺される…!
「だっ、ダメー!!」
「野郎…まちやが…っ!!」
「っ獄…!」
私と獄寺は山本を助けようと立ち上がった。だけどまた発作が起きた獄寺はドサッとその場に倒れこんでしまい、私は咄嗟に振り返る。
「させないわ」
すると、両手にポイズンクッキングを抱えたビアンキさんが山本を庇う様に立った。でも、六道骸は圧倒的だった。
「俺はまだ三割の力も出していない。貴様に万に一つの勝機もない。諦めろ」
まだ…三割も力を出していない…。山本が手も足も出せなかった今の状態で…?でも諦めるわけにはいかない…山本が殺されてしまう。何か…何か手立ては。例えば、近接戦に持ち込めたら…あるいは?
そんな時、小高い茂みの中から声がした。
「コラァ!!何やってんだー!!!」
えっ、ツナ!?
ハッと顔を上げるとそこにいたツナ。声がした時点で誰かはわかったけど、驚いたのはその叱るような口調。まるでランボに接しているかのような…。なんで六道骸相手にそんな…。
「降りてこい、ボンゴレ」
「ひっ、いや…!あの…!」
六道骸はツナを睨んだ。ツナも叱り付けてしまった自分に今更我に返ったようだ。
「女を殺して待つ」
その瞬間、六道骸は鋼球をビアンキさんに向けて放った。嘘…!?
「ビアンキさん!!!」
叫んで、再び駆け出す。でも…飛び出したとして、どう助ける!?ビアンキさんまで…!!
「死ぬ気になるのは、今しかねーな。暴れてこい。ラスト一発だ」
リボーンは死ぬ気弾を撃った。ラスト一発…。死ぬ気弾はレオンの体内で生成されるという。しかし今レオンはマユになっている為、新しい弾は作れない。ここに発つ前にリボーンから聞いた話。だからこの弾が最後のひとつ。その、使いどころ。
迫ってくる鉄球。ビアンキさんの手の中にあったポイズンクッキングも飲み込んで…だけどその時、ビアンキさんの前に立ち鉄球を押さえた手があった。
「ツ、ナ…」
鉄球の回転が止まる。スニーカーが地面に擦れて、でもその勢いに打ち勝つ。ツナは…あの鋼球を食い止めていた。
To be continued