目に映ったダイナマイト
目に映ったダイナマイト
「さあ、次のスキルをお見せしましょう。いきますよ」
前世に刻まれた能力を使えるという六道骸。彼は不敵に笑うとトン…と軽く三叉の槍で床を叩いた。その瞬間、そこから床がひび割れて地面が壊れていく。…な!?
「そ、そんなあ!!建物が!!」
「ちょ、ちょっと待って!?あ、足場が!?」
どんどん崩れていく床。遂には今立っているこの場所も崩れていく。え、ここ3階だよね!?私たち、そのまま下まで落とされる!?いや、私たちだけじゃない。動けないフゥ太やビアンキさんも巻き込まれて…!でもとてもじゃないけど助けに行けない!自分のことすらどうにもならない!
「うわああ!!ナマエ!!」
「っ、ツナ!!」
ただ唯一、近くにいて手が届くであろうお互いに手を伸ばした私とツナ。ぎゅっと手を握って、でもそのまま落ちていく。
もう、ダメ…!!
そう思ったその瞬間、リボーンがツナの顔面と私の後頭部をバキッ!バシッ!と叩いてきた。
「ブッ!!」
「いっ!?」
走った衝撃。でもそこでハッとした。
「何すんだよリボー…んっ!?えっ!?あれ…!?」
「なんで…床、何ともない」
気が付くとそこは普通の景色だった。崩れた床などない、何ともない廃墟の景色。
「お前たちが見たのは幻覚だぞ」
「へっ、げ…げんかく!?」
「そ、そんなことって…あり?」
素っ頓狂な声を上げるツナ。私は唖然とした。幻覚って…そんなバカな…。でもそれを認めてしまえば辻褄が合うのも事実。崩れた床は…私たちが見た、幻…。
「クフフフ、やりますね。見破るとは流石アルコバレーノ。そう、第一の道、地獄道は永遠の悪夢により精神を破壊するスキル」
骸もそれを認めた。本気で…そんなことが出来るなんて。そんなのどう見破ればいいかわからないんだけど…。
「クフフフ、しかし君たちの事をしばらく観察させてもらい、関係性が見えてきましたよ。アルコバレーノはボンゴレのお目付け役ってわけですね」
「ちげーぞ。俺はツナの家庭教師だ」
「クフフフ、成程。それはユニークですね」
ツナとリボーンの関係。リボーンとしては絶対らしい。自分はツナの家庭教師。いやまあ、それはそうなんだけどね…。
「しかし先生は攻撃してこないのですか?僕は3人相手にしても構いませんよ」
「掟だからだ」
「掟ときましたか。また実に正当なマフィアらしい答えですね」
リボーンはこの戦いが始まってから一貫して手当てや助言などをするだけに行動を留めていた。それは自らは手を出してはならない掟だから。しかし、リボーンの言い分はこれだけではなかった。
「それに俺がやるまでもなく、お前は俺の生徒が倒すからな」
…!
その言葉にはちょっと目を見張った。俺の生徒が倒す…。一点の曇りもなくそう言い切ったリボーン。ツナは慌てていたけど、リボーンはツナが勝つって1ミリも疑ってないんだ…。
「ほう、それは美しい信頼関係だ。面白い。いいでしょう」
すると、また骸はスキルを発動させた。
ボト…ボト…ッ
私とツナの周りに落ちた不気味な音。長く、うねうねとうごめき、そして時折長い舌と牙が覗く。…これは。
「蛇だ!!ひいいっ!きたぁ!!」
「くっ…」
私とツナの周りに落ちてきたのは大量の蛇だった。獲物だと認識したようにこちらに近づいてくるその蛇たち。ツナは怯えて叫ぶだけ。私は棒を握り、ツナから離れないようにしながらとにかく蛇たちを払った。
最初は幻覚の可能性も考えた。でも、どうやら今回は本物の毒蛇らしい。どのみち判断が出来ないなら払うしかない!
「第三の道、畜生道のスキルは人を死に至らしめる生物の召還。クフフ…立ち振る舞いからなんとなくはわかっていましたが、どうやら秘書の君は多少戦闘の心得があるようですね。しかし、すっかり腰が抜けた10代目をいつまで守り切れるでしょう?さあ、生徒の危機ですよ」
確かに、払っても払っても蛇たちは近づいてくる。それなりの大きさと重量があるから、ツナを守りながらだと仕留めていく時間がない。
「あまり図に乗んなよ、骸。俺は超一流の家庭教師だぞ」
しかしリボーンは相変わらず焦りもしない。それどころか、むしろそんなことを言ってのける。
その瞬間、骸に向かって何かが飛んできた。
キンッ…!
気付いた骸はそれを槍で弾いた。響いた金属音。弾かれたそれは地面に転がりカラカラ…と音を立てて回る。細長い…何か棒状の物。回転が弱まってきたそれは、私とツナにとってよく見覚えがあるモノだった。
「トンファー!?」
「…っ!」
ツナが口にしたその武器の名前。私も目を見開く。飛んできたのはトンファーだった。雲雀さんの…!!
そしてその次に聞こえたもの…。
「ナマエ!!10代目と伏せろ!!!」
…あっ…。
その声を聞いた瞬間、胸の奥がぎゅっとした気がした。そして視界に映った、降り注ぐダイナマイト。自分の方に落ちてくるダイナマイト見て安心するとか…どうかしてる。でも、ほっとしてしまったんだから仕方ない。
「ツナッ!!」
「うわあ!?」
言われた通り、私はツナの頭を下げさせるように押さえつけてふたりで身を伏せた。その瞬間、私たちの周りで起こった爆発。それはあっという間に蛇たちを吹っ飛ばしてくれた。
「遅くなりました」
よく聞き慣れた声がした。巻き起こった爆発の煙が徐々に収まると、その隙間から見えた…ふたりの人物。
「雲雀さん!!獄寺くん!!ふ…ふたりとも!!」
「獄寺…雲雀さん…」
ツナと私はそのふたりの名を口にする。入口のところに立っていたのは、肩を支えながらこちらに歩いてくる獄寺と雲雀さんだった。
ふたりとも…無事だったんだ…。見えた姿に心から安心する。するとそれを見たリボーンは当然のように言った。
「わかったか、骸。俺はツナだけを育ててるわけじゃねーんだぞ」
超一流の家庭教師…。それはツナだけではなく、私や獄寺に山本…それから雲雀さんまでも育てていると…?それ、雲雀さんが知ったら不機嫌になりそうだな…。
ていうか、雲雀さんと獄寺が肩組んで歩いてきたって何そのアリエナイ状況…?あれ、獄寺が肩借りてるんだよね?…雲雀さんが獄寺に肩貸すとか絶対無いだろ…何が起きた。
「借りは返したよ」
「いでっ!」
そしてそれは案の定で、もういいだろうと言うかのように雲雀さんは獄寺の体をポイッとその場に投げ捨てた。ざ、雑…。獄寺は思いっきり尻もちついてた。
「これは外野がゾロゾロと。千種は何をしているんですかねぇ…」
「へへ、メガネヤローならアニマルヤローと下の階で仲良く伸びてるぜ」
「成程」
獄寺はニヤリと告げた。それを聞いた骸はやれやれと小さく息を吐く。
アニマルヤローって…城島犬ともまた戦ったの?でも、柿本千種も合わせて倒したんだ…。
「すごいよ獄寺くん!か…体は大丈夫なの!?」
「ええ…大丈夫っス…。つーか、あの…俺が倒したんじゃねーんスけど…」
ツナに褒められるもズーンと落ち込んで言葉が尻すぼみになる獄寺。ああ、雲雀さんが倒したわけね…納得。でもちゃんと言うあたりは素直である。
…だけど、それはともかく。私にはちょっと気になっていることがあった。だからそれを確かめるために獄寺の元に駆け寄った。
「獄寺…!」
「ナマエ…?」
雲雀さんに投げ捨てられたまま、壁に寄りかかって座っている獄寺。駆け寄った私はその前にしゃがみこんだ。そして見たのはTシャツの胸元を色濃く染めている真っ赤な血。さっきからずっと気になってた。すっごい血出てる!!
「ちょっと!何その出血!?傷増えてるじゃん!!何してんのあんた!!」
「ぐっ、う、うるせーな!!少しくらい仕方ねーだろ!!」
「これ少し!?全然少しじゃないじゃん!!」
無茶しないって言ったのにこの野郎っ…!Tシャツを染めている出血。これは明らかにツナを庇った時に出来た傷が開いたって感じのものではなかった。新しい傷。まるで鋭い爪でも突き刺されたかのような。その証拠に近くで見ればTシャツに複数の穴が開いているのがわかった。…もしかして、城島犬の何かしらの動物の爪…?
「ミョウジナマエ」
その時、名前を呼ばれた。フルネーム。思わずビクッ。だってそれはあの人の声で…。恐る恐る見上げると雲雀さんがこちらを見下ろして見ていた。
「ひ、雲雀さん…?」
「君、怪我は?」
「え?あ、今のところ、私は特に…」
「そう。やっぱり君は僕の期待を裏切らないね」
「へ…?」
雲雀さんはそう言うとなぜか満足げに笑った。そしてくるっと背を向ける。ど、どういうことだ…。私は何か雲雀さんに期待されているのか…?わからん…。
「…んだよ、あいつ」
「…わかんない」
「チッ…」
「え、なんで舌打ち…」
目の前の獄寺は舌打ちした。え、なんで急に機嫌悪いの。それから「はあっ…」と大きな溜息をつき、私をじっと見てきた。
「…お前、怪我してないんだな?」
「え、うん…」
「そうか…」
今度は軽い息。安心したかのような。…どう考えても私より自分の心配するべきだと思うけど。
それに…雲雀さんも酷い怪我。私はフラフラと歩いていく雲雀さんの背中に目を向ける。…こんなに傷ついた雲雀さん、見たことない。雲雀さんはさっき投げ飛ばしたトンファーの元に向かうと、それを拾い上げた。
「覚悟はいいかい?」
両手にトンファーを構え、骸を睨んだ雲雀さん。雲雀さん…骸と戦うつもりなんだ。その殺気を感じた骸も雲雀さんを見つめて笑う。
「これはこれは、怖いですねぇ。だが今は僕とボンゴレの邪魔をしないでください。第一、君は立っているのもやっとのはずだ。骨を何本もおりましたからねぇ」
骨を、何本も折った…。雲雀さんは最初にここに乗り込んだ時に既に骸と戦ってるのか。じゃあ雲雀さんのあの怪我は骸の仕業?それほど骸は圧倒的ということ…?いや、でも…もしかしたら。
「遺言はそれだけかい?」
「クフフフフ、面白いことを言う。君とは契約しておいても良かったかな?仕方ない、君から片づけましょう。一瞬で終わりますよ!」
また骸の瞳にオーラが灯る。それは戦闘スキルが向上した証。ダッと物凄い勢いで雲雀さんに突っ込んでいく骸。だけど雲雀さんはそれを迎え撃ち、ふたりはとんでもない速さでぶつかり合い始めた。
「やっぱり強い!流石雲雀さん!」
「こいつらを侮るなよ、骸。お前が思っているよりずっと伸び盛りだぞ」
雲雀さんの強さは頼もしくて、ツナは喜ぶ。リボーンもこちらを軽く見ている骸にそう告げる。すると骸もそのリボーンの言葉を認めた。
「成程。そのようですね。彼が怪我をしてなければ勝負はわからなかったかもしれない。時間の無駄です。手っ取り早く済ませましょう」
肩から血を流す雲雀さん。そこに追い打ちをかけるように、骸は新たな技を発動させる。その瞬間、この部屋中にピンク色の景色が広がった。
満開の、桜の木…。
こんな状況じゃなければ見とれてしまうような美しい光景。…雲雀さんがあそこまで怪我を負った理由。それは以前シャマルに掛けられた桜クラ病を骸に利用されたから…。だけど、多分今なら。私は獄寺を見た。
「獄寺…シャマルから預かったやつ」
「へっ…渡したに決まってんだろ」
「だよね」
聞くと不敵に笑った獄寺。それを見て私も「うん」と頷く。雲雀さんに会えたなら、渡さない理由なんてないよね。
「クフフ、さあまた膝まづいて貰いましょう」
「そんな!雲雀さん!!」
余裕の笑みを浮かべる骸。桜クラ病に気付いたツナはマズイと叫ぶ。でも大丈夫。さあ、雲雀さん!思いっきりやっちゃってください!
バキッ!!!
酷く鈍い音。油断した骸の体に雲雀さんのトンファーが物凄い勢いで叩き込まれる。よし…!それを見た私は思わずグッと拳を握った。そして獄寺が一つの紙袋を手にネタ晴らしする。
「へへ…甘かったな、シャマルからこいつを預かってきたのさ。桜クラ病の処方箋だ」
そう。保健室から出た時シャマルはこれを預けてくれた。ああ、もしかしてさっき肩を貸してもらってた時の借りは返したって、この処方箋の事だったのかもしれない。
なんにせよ、こうなればもう雲雀さんに弱点なんてない。
雲雀さんは両腕を大きく振るい、渾身の一撃を骸へと叩きこんだのだった。
To be continued