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終わりとそれから

右腕と秘書 — www.pixiv.net · All chapters

終わりとそれから

「終わったな」

「……うん」

リボーンの言葉にツナは頷く。倒れた骸の姿を見下ろすふたり。ツナの額からは徐々に死ぬ気の炎が小さくなり、やがて消えた。

「…ツナ」

「あっ、ナマエ!大丈夫!?」

「…大丈夫ではない」

「ええ…まあそりゃそうか…」

私もゆっくりふたりの傍に歩み寄った。ツナは心配して駆け寄ってきてくれて、支えるように肩に手を置いてくれた。体中が痛い。物凄く痛い。でも、軽口を叩くくらいは出来る。そうしてクスッと小さく笑えば、ツナも少し安心したように笑みを溢した。

それから、私は視線を獄寺たちの方に向けた。

「…私より、他のみんなの方が…」

「あっ!そうだ、みんなの怪我!!」

「心配ねーぞ。ボンゴレの医療班も敷地内に到着したらしいからな。ランチアの毒も用意してきた解毒剤で間に合ったそーだ」

どうやらリボーンの元へは連絡が来たらしい。さっき話してたボンゴレの医療班が到着した。ランチアさんも助かったんだ…。それを聞いて私たちはホッとした。

でもその時ツナはとある一点を見つめて不安げな顔をした。私は首を傾げる。

「ツナ…どうしたの?」

「骸…」

ツナが呟いたその名前を聞き、私もツナの視線の先を追う。仰向けで目を閉じている骸。ぴくりとも動かなくて、確かに少し…不安にはなる。

「死んでないよな?無事だよな?」

「気、失ってるだけだとは思うけど…」

「ったく甘いな、お前たちは」

心配を向ける私たちを見てリボーンは少し呆れたように笑う。そんなこと言われても…人が死ぬのなんて見たくないでしょ。さっき骸が憑依弾を使った時だって、後味の悪さに胸が苦しかったから。

だけどそんな時、必死な大声が聞こえた。

「近づくんじゃねえびょん!!マフィアが骸さんに触んな!!」

この声…。私たちは声のした方を見た。そこには傷ついた体で這いつくばり、必死になって体を引きずる城島犬と柿本千種の姿があった。

「ひいっ、あいつらが!!」

「…もう、戦えないと思う。あのふたり」

「ビビんなツナ。ナマエの言う通りだ。奴らはもう歩く力も残ってねーぞ」

近づいてくるふたりにツナは一瞬怯えてたけど、もう限界なのは目に見えていた。リボーンが言う様に歩く力もない。こうして体を這いつくばることできっと精一杯のはずだ。でも…そこまでして骸を守ろうとする。私やツナは、骸のこのふたりに対する酷い行いを見た。だから骸の為にここまでしようとすることに疑問はあった。

「…な…なんで…?なんでそこまで骸の為に?君たちは骸に憑依されて利用されていたんだぞ」

「わかった風な口を利くな…」

「だいたいこれくらい屁ともねーびょん…あの頃の苦しみに比べたら」

理解できないとツナが声を震わせながら聞くと、ふたりはそう答える。あの頃の苦しみ…。

「何があったんだ?言え」

リボーンが聞く。すると城島犬はしばしの沈黙の後に「へへ…」と自らを嘲る様な笑みを溢して語った。

「俺らは自分のファミリーに人体実験のモルモットにされてたんだよ」

それを聞き、私たちはぴくっと反応した。人体実験の、モルモット…?するとリボーンは確信をそこで確信を得たように頷く。

「やはりそうかもしかしてと思ってはいたが、お前たちは禁弾の憑依弾を作ったエストラーネオファミリーの人間だな」

「禁弾?それはてめーらの都合でつけたんだろーが」

そこから語られたのは、聞くだけでも辛い彼らの過去だった。

憑依弾を作ったエストラーネオファミリーはそのおかげで人でなしのレッテルを貼られ、他のマフィアから酷い迫害を受けた。それがファミリーの大人たちが推し進めていた特殊兵器の開発実験にますます拍車をかけ、子供たちは実験体にされた。城島犬の能力も、この時の実験によるものらしい。仲間が次々と死んでいく、地獄の毎日。しかしその現実を、たったひとりで壊した存在がいた。…それが、六道骸。

《一緒に来ますか?》

その一言。その瞬間、彼らに居場所が出来た。

「それを…おめーらに壊されてたまっかよ!!」

城島犬は私たちを睨んで怒鳴る。柿本千種の瞳も同じだった。

…彼らにとって骸は何物にも代えがたい大切な人なのかもしれない。一緒に来るかと声を掛けてくれた、居場所をくれたその言葉の中には…利用することだけでなく、少なからず優しさもあったのかもしれない。

「…骸も、悪だけじゃない…のかもね…」

「え?」

「…100の善人なんていない。そんな人間いないよ。だから骸も100の悪ではないのかもしれない。少なくとも…彼らにとっては」

「……。」

「…だからって、人を人とも思わないような行いは、理解できないし…したくもないけど」

ツナと顔を合わせる。私たちにとっては非道でしかない。骸の行いは理解できない。ランチアさんの話だって…反吐が出る。ただ、それが全てではないのかもしれない。でも…でもね。

「…壊されたらたまらないものは、私たちにだってあるよ」

「うん…俺たちだって…仲間が傷つくのを黙って見てられない…。だって…そこが俺たちの居場所だから」

その言葉を聞くと、ふたりも言い返す言葉を失くしたように俯いた。自分の居場所を守りたい。大切な人を守りたい。その気持ちは…同じだったはずだから。

そんな時、扉の外で何かの気配がした。医療班が到着してくれた?そんな期待にはっとする。だけどフロアに入ってきたその存在は、骸、城島犬、柿本千種に鎖で繋がれた首輪を投げ、捕らえた。

…え…。

「早ぇおでましだな」

リボーンは呟く。私とツナはその存在に目を見開いた。全身真っ黒な服に身を包み、顔は包帯が巻かれていて表情が一切見えない。

「な…なに、この人たち…」

「い…いったい誰!?」

「復讐者-ヴィンディチェ-。マフィア界の掟の番人で、法でさばけ無い奴らを裁くんだ」

動揺した私たちにリボーンは静かに教えてくれる。復讐者…?彼らは鎖で繋いだ骸たちの無理やり引きずり連れ去っていく。人に対してすることじゃない…。

「ちょっ…何してるんですか!?」

「やめとけ、ツナ」

あまりの扱いに思わずツナが口を開くと、それをリボーンが止めた。骸たちは引きずられ、彼らはあっという間に姿を消す。

「奴らに逆らうと厄介だ…放っとけ」

「お前がそこまで…そんなにヤバいの…?あ、あの3人どーなっちゃうの?」

「罪を裁かれ、罰を受けるだろーな」

「ば、罰って…?」

「さーな。だが、軽くはねーぞ。俺たちの世界は甘くねーからな」

「「……。」」

ツナは黙り込む。一緒に聞いていた私も。…あの人たちがどんな存在で、骸たちがどうなるのか…。詳しいことはわからないけど、凄く…重たい。それだけはわかった。

「お待たせしました!!怪我人は?!」

その直後、ボンゴレの医療班がこの場に駆けつけてくれた。それを見て私はふっと振り返る。

自然と視界に入れたのは…銀色の髪。一年に一度の日なのに、散々だったね。

獄寺、ビアンキさん、雲雀さん、フゥ太。みんな担架に乗せられて、運び出されていく。山本も無事に。私たちも外に出て、その様子を邪魔しないように伺う。ただ…そこにランチアんさんだけは姿が無くて…。どうやら解毒後、あの復讐者たちに連れていかれてしまったらしい。それを聞くと、ズン…と心が重くなった。

…だけど、私たちの居場所は…あの日常は、きっと帰ってくる。

そう胸を撫で下ろしたその時、突然隣でツナが喚き始めた。

「い゛っ!?いででででで!!」

「えっ、なに?」

「ぐわーっ!!いてぇ!!何コレ?!体中が…筋肉…痛!?」

痛みに体を押さえて蹲り出すツナ。うるさ…。耳がキーンとして思わず顔をしかめたけど、何か…尋常じゃない?

「小型弾のバトルモードは凄まじく体を酷使するからな。体への負担が痛みとなって返ってきたんだ」

「え…ああ、それで筋肉痛?」

「うそぉ!?い゛でー!!!助けて!!!がっ…」

「あ…」

「あまりの痛みに気を失いやがったな」

リボーンの説明にのたうち回っていたツナだけど、やがて痛みに耐え切れず意識を手放す。気絶するほどの筋肉痛とは一体…。

「がっつり鍛えねーとな」

「……あはは…まあ、お手柔らかにして差し上げてね、先生」

「何他人事みたいに言ってやがる。ナマエ、お前もだぞ」

「ええ…」

私もがっつりですか…こっわ。あんまり余計なこと言うのも怖いからそこは黙っとくけど。でもそう言ったリボーンは、ニッと笑みを見せてくれた。

「でも、9代目の指令はクリアだぞ。よくやったな、ツナ、ナマエ」

「リボーン…」

「俺も家庭教師として…」

「…?」

俺も家庭教師として?珍しく褒めてくれたリボーンはそう言いかけて黙ってしまう。うん…?首を傾げると、ぽてっと気絶したツナに寄りかかって座り込む。

「眠い…ぞ」

「えー…」

鼻提灯膨らませてスピーと眠り出してしまったリボーン。いや寝るの早。さすが赤ん坊。こういう時だけ。

でも…気持ちは、今はちょっとわかるかも。

「…よ…しょっと…」

私もツナの隣にゴロンと寝転ぶ。外だけど…まあ今はいいかな。…ダメだ、リボーンのこと笑えないかも。寝転んだら、すぐにウトウトしてくる。体、痛くて…疲れて。でもホッとして、眠い。瞼を閉じる。ああ、医療班の方々すみません…ご迷惑お掛けします。

でもきっと、これで…やっとみんなと帰れる。

…獄寺のお祝いも、出来るなあ…。

そんなことを考えているうちに、ぷつんと意識は夢の中に落ちた。

ーーー1ヶ月後

カキーンッ…

気持ちよく響いた音。白いボールは高く飛び、フェンスまで届く。ホームラン。決めた山本は拳を突き上げる。その瞬間、観客席は歓声に包まれた。

「わーっ!!」

「ホームランです!!」

私の周りでもみんなが喜んでいた。

あの日の約束通り、私はみんなと一緒に山本の野球の大会に応援に来ていた。

「さすが山本!凄すぎ!」

「うん、やっぱこういうの決めるんだよね、山本って!」

少し興奮気味に褒めるツナ。それを聞きながら私も頷いて笑う。勝負に強いというかなんというか、もちろん本人の努力だってあるけれど、こういう舞台で活躍する星の下に生まれてるよなぁみたいな。並中は勿論だけど1番は彼の応援で来たわけだし、山本が活躍してるのはやっぱ嬉しいよね!

しかしそんな周りの反応に相反し、私とツナに間に座っているこの男は心底つまらなそうな顔でぼやき始める。

「ったく、山本ごときに相手チームは何やってんスかねぇ。てめーら、しっかりやんねーと暴動起こすぞ!!」

「何しに来たのーー!?」

「ちょっ!やめろバカ獄寺!!」

「いでっ!てめえ!ナマエ!何しやがる!」

「いやあんたが何してんだ!」

あろうことがダイナマイトを取り出して相手チームに謎の圧を掛けようとする獄寺。バシッと頭を引っ叩いたら睨まれたけどどう考えてもあんたの行動がおかしいでしょ!!

「まあ落ち着け、タコヘッド。スポーツ観戦では他にやることがあるだろ」

「ああ!?」

「笹川先輩…?」

すると意外にも笹川先輩が獄寺をなだめてくれた。あ…やっぱりそこはスポーツマン?私も笹川先輩を見上げる。しかし笹川先輩はやはり笹川先輩だった。

「野球などやめてボクシングやらんかー!!!」

「それも間違いー!!!」

こちらもまた好き勝手なことを叫び出し、ツナのツッコミも冴え渡る…。そしてこんな調子だと当然獄寺も更にキレ出す。

「バカ言ってんじゃねーぞ!!芝生頭が!!!」

「甘いぞタコヘッド!!バカはバカでもボクシングバカだ!!」

あ、バカは認めていいんですか…。ヒートアップしていく獄寺と笹川先輩。…もとい、タコヘッドに芝生頭?

ていうか野球バカ、アホ牛、アホ女とか…獄寺色んな人にあだ名つけ過ぎなんだよな。しかも酷いやつ。つけ返したのは笹川先輩だけだけど。あ、ランボもアホ寺言ってるか。

「ファールいったぞー!!」

その時、そんな声が聞こえて来た。ファール?見るとこちらに飛んできているボール。それを私たちのすぐ後ろでパシッと誰かがキャッチした。振り向くと視線の先にサラッと長い髪が揺れる。

「ビアンキ!!」

「ビアンキさん!!」

「お弁当持って来たわよ」

ツナと私はそこにいた彼女の名前を口にした。右手にお弁当、左手にグローブをつけてボールをキャッチしたビアンキさん。いや…ってことは、あ、マズイ。私はちらっと隣の男に目を向ける。

「でーーっ!!!!」

「わー!?獄寺!」

「獄寺くん!!」

案の定、ぶっ倒れた獄寺。私は慌てて手を伸ばして支える。やっぱりこうなった!!みんなもぶっ倒れた獄寺の姿に慌て出す。周りからの注目も集めて、あそこうるさいなって思われてそうだ。ごめんなさい…。

だけどこんな風にみんなとワイワイしているのは、やっぱり嫌いじゃなくて。私は、今のこの日常を大事にしていると思う。今、自分の周りにあるものが、すごく大切。

黒曜の一件があって、改めて…そう思った気がする。

「ううう…」

「………。」

ベンチに横たわらせた獄寺。私は隣に座ってその顔を眺める。

獄寺はあの日、特に大変だったような気がする。毒を食らって気を失い、トライデントモスキートの副作用に苦しみながら戦って、傷を負った体を骸に憑依されて…。いや、思い返してもほんと散々だな。正直同情してしまうレベル。…でも、だからかな。今こうして傍にいることに心底ホッとするような。

約束だって、ちゃんと守れた。

《帰って来たら、ちゃんとお祝いしよう》

黒曜に向かう前に、保健室でした約束。

まあ、そんな大したことしたわけでもないけど。ささやかなお祝い。ふたりでケーキ食べて…って、それだけ。

…山本が城島犬と戦った時、些細でも、先のことを考えるのは、きっと、ちょっと楽しいことだって思った。

お祝いしようって、言った時はちょっと勢いもあったけど、でも口にしてからは、私はそれを楽しみにしていたと思う。

甘いケーキを食べながら、いつもみたいに交わした他愛ない話。くだらない冗談で獄寺の顔にも笑みが浮かんで、そんなの特別珍しいことじゃ無いけど、でもそれを見た時、獄寺も楽しいと思ってくれてるのかなって思えて、ちょっと嬉しくなった。

「え…?」

「ツナ?」

そんな時、ツナが何かに反応して辺りを見渡した。なんだろう?気付いた私は声を掛ける。するとツナはこちらに振り返って、でもすぐに首を横に振った。

「ううん、なんでもない。多分、気のせい…」

「気のせいって何…」

「ふげーーーっ!!!」

「あっ獄寺くん!!?」

「またですか…」

急に響いた奇声。ベンチに寝かせていた獄寺。どうやらふと目を開いた拍子にまたビアンキさんが視界に入ってしまったらしい。毎度ながらすごい声だな。

はは…と溢れる苦笑い。でも、それは穏やかな笑みにすぐ変わる。

何気ない日々。

私はやっぱり、この日常が好き。

To be continued