おにぎり
おにぎり
とある夕方、親戚から届いた果物をおすそ分けする為に私は沢田家に向かった。
「ツナ、これ色々入ってるから。良かったら食べて」
「ああ、ありがと」
「あれれー?ナマエだもんねー」
「あ、ランボ。果物持ってきたからランボも後で食べなー」
「やったもんねー!!ブドウ!ブドウある!?」
「あー、ブドウはないなー…」
ツナに袋を渡していると、奥からもじゃもじゃ頭の牛柄服幼児が飛び出してきた。入ファミリー試験の時に見たあのランボである。
あの時もボヴィーノファミリーとか色々叫んでたけど、やはり彼もマフィア関係者でリボーンを狙いに来たヒットマンらしい。…5歳児だけど。
そしていきなり変身したように見えたあの牛柄シャツの伊達兄さんはこのランボの10年後の姿なのだとか。
あの現象はランボが持っている10年バズーカとかいうアイテムの仕業で、それは10年後の自分と5分間だけ入れ替わることが出来る代物だという。
…またわけのわからん頭の痛くなる話だわ。
でも「俺も何言ってんだって思うんだけどさ…」ってツナが教えてくれたから、まあ真実なのだろう。
死ぬ気弾の件もあるし、正直もう何が出てきても不思議じゃない耐性はついた感あるよね…。
「ナマエー!ブドウないなら抱っこー!!」
「いや何でブドウないと抱っこ」
「いいからランボさんを持ち上げろー!!」
「あー…はいはい」
もじゃもじゃ牛にせがまれる抱っこ。こちらが折れないとずっと騒がしいのでとりあえず抱き上げる。どうやらそれなりには懐かれている模様。
そしてそんなランボは今、沢田家に住み着いているらしい。…リボーンもそうだし、奈々さんは寛大だ。
「はあ…」
「え、何その溜め息。折角おすそ分けに来たのに失礼な」
「いや、ナマエについたわけじゃないんだけど…実は今日さ」
「ん?」
袋を受け取り、なぜだか気重そうに溜め息をつくツナ。そのわけを聞いてみると、またマフィア絡みでえらい目に遭ったと言う。
「ポイズンクッキング?」
「うん…。毒サソリのビアンキって言うらしいんだけど」
なんかまた凄い物騒な単語出てきた。ツナはそのビアンキという女性の殺し屋に殺されかけたらしい。
理由はツナがボンゴレ10代目だからではなく、愛すべきリボーンを自由の身にするため。
「愛すべき?」
「リボーンいわく、ビアンキは4番目の愛人らしいよ…」
「いやどう言うことなの…」
赤ん坊に愛人って何なの。でもつまりツナが死ねば家庭教師の任が解かれるからという理屈のようだ。
ひとまずはいなくなったらしいけど、またツナを狙いに来るのかな。だったら私が会うこともあるのだろうか…。
そんなことを考えつつ、迎えたあくる日。今日は家庭科実習で、女子はおにぎりを作ることになっていた。
「今日は家庭科実習で作ったおにぎりを男子たちにくれてやるー!」
作り終えたおにぎりは、教室で男子たちに配ることになった。
これには男子の面々も「うおおおおお」と盛り上がる。
誰にあげよう、誰にもらおう。
好きな人がいる子はそんな風にそわそわして楽しそうだった。
が、しかし、そんな相手が別にいない自分はそのへん至ってどうでもいいのである。むしろ私は自分の好きな具で自分の為に握ったクチだ。
よってこれは私のおにぎり!
「ツナくん、食べる?」
「い゛っ!?」
ツナは京子の前に出た。あれ意外。ツナもアピールすると言うことを覚えたのだろうか?
その甲斐あってか、京子にも食べるかどうか聞いてもらえている。山本には「積極的だな!」と背中を叩かれていた。
ただ、なんか…京子のおにぎり毒々しい色してない…?
一緒に作ってたけどあんな色してたっけ。普通に鮭のおにぎり作ってたはずだけど。
まあ特に誰かにあげるつもりのない私は教室の隅に寄ったのでここからじゃよく見えないが。
「ん…?」
その一方、獄寺がきゃーきゃーとおにぎりを渡したい女の子たちに囲まれていることに気が付いた。本人すんごい眉間にしわ寄ってるけど。
まあモテるんだよなあ、やっぱり。
顔はかなりいいし。性格は…アレだけど。
あ、ツナの方に逃げた。
ツナは折角の京子からのおにぎりだと言うのに、なかなか食べようとしない。
食べないなら自分たちが貰うぞと獄寺や山本も京子のおにぎりに手を伸ばしている。
ま、そのへんも別にどうでもいいので私は自分のおにぎりに手を伸ばした。そして一口ぱくり。うーん、おいひー!流石、自分好みに作った甲斐があるってもんだ。
が、その時事件は起きた。
「食べたら死ぬんだぞー!!!」
ツナは大声を上げて、おにぎりを食べようとした獄寺と山本の手を弾いた。
な、なにをしている…?驚いて今頬張っている分をよく味わう前に飲み込んでしまった。
そして撃ち抜かれたツナの額。
し、死ぬ気弾…?リボーンどこから…?
「死ぬ気でおにぎりを食う!!」
そこからツナは今ふたりの手を弾いて飛んでしまったふたつのおにぎりが床に着く前に飲み込んで見せた。
それだけでは飽き足らず、教室中のおにぎりを奪いひとりで食べ始める始末。
む、無差別に食べてる…。
このままだと私の分も食べられちゃいそうだ。そう判断した私はガラリと扉を開けて、廊下でひとりおにぎりを味わうことにした。
「だめ!だめ!」
「誰か止めろー!!」
教室の中はえらい騒ぎである。
知らない知らない。何も聞こえてなーい。
いや…なんかもうこうなった以上見てないフリが一番いい気がして。あとでツナに何がしたかっただけ聞こうと思う。うん、今は知らないフリフリ。
「…おめー、何んなとこでひとりで食ってんだよ」
「ん?獄寺?」
ひとつ目を食べ終えたところでガラッと扉が開き、教室から獄寺が出てきた。
もしかして私が出ていくとこ見てた?なんとなく今の声の掛け方はそんな感じがした。
「やー、だって教室騒がしいし」
「てか、何自分で食ってんだよ。誰かにやるんじゃねーのかよそれ」
「女子が全員男子にやるつもりだと思ったら大間違いだ。私はハナから自分で食べるつもりで作ってる!」
「…案外自由だな、てめー」
そう言いながらこちらに近づいてくる獄寺。隣まで来るとじっとこちらを見て、手を差し出してきた。
「…ひとつ寄越せよ」
「え、何で」
「何でって…そりゃ、腹減ったからに決まってんだろ」
「はい?さっき女の子たちに囲まれてたじゃん。貰えばよかったのに」
え、だって「獄寺くん獄寺くん!」っておにぎり差し出されてたじゃないのさ。お腹減ってたなら顔しかめてないで普通にあれ貰えばよかったのでは。
しかしそう言うと「ぐ…」みたいな顔をする獄寺。なんだその顔は。
ああまあでも、むやみに貰うのも考え物なのだろうか。例えば期待させてしまうとか。そう考えるとモテるというのも大変だな。
「まあ…別にいいけどさ。じゃあ、食べる?」
「お、おう」
私は獄寺におにぎりを差し出した。すると受け取る獄寺。
私は既にひとつ食べたし、食欲は満たされた。
残りをあげるくらいは別にどうということはない。
おにぎりは全部で3つ。これが食べる前で、ツナ、獄寺、山本の全員にくれとか言われた日には私の分がなくなっちゃうでしょ!って逃げるけど。
「おいしい?」
「…別に、おにぎりなんて特別どうこう言うもんでもねーだろ」
「あげ甲斐の無い奴。折角握ったんだから、一応聞きたいじゃん」
そりゃま、そんな凝ったものではないことは確かだが。でも美味しいが返ってきたらいいなーとは思うじゃない。
「まあ…悪かねーよ」
「ひねくれものー。もういっこいる?」
「おう」
悪くない。多分これはひねくれ獄寺の精一杯なのだろか?
最後のひとつもいるかと聞けば、それは素直に頷いて受け取る。その姿を見たら、こっちも悪い気はしないかも?なんて思ったりして。
うん、ま、人に食べてもらうのもいいものかもしれない。
獄寺の姿を見てたら、そんな風に思った。
To be continued