約束のお祝いは放課後に
約束のお祝いは放課後に
(※獄寺視点)
「へい、獄寺。今日私とパーリーしようぜ」
「……何言ってんだてめえ」
黒曜の一件から傷も癒え、日常を取り戻し始めた頃のある昼休み。購買から適当に昼飯を買って戻る途中の廊下。妙なテンションのナマエに声を掛けられ俺は思いっきり顔をしかめた。
「……傷つくんですけど、その顔」
「お前の頭がおかしいからだろ。なんだパーリーって」
「いいじゃん、少しくらいふざけたって。あー、誕生日のお祝い、どうかなと思って」
誕生日のお祝い。そう言われて、自分でもぴくっと反応した自覚があった。
9月9日。黒曜に行ったあの日は俺の誕生日だった。それを知っていたナマエは乗り込む前に俺に言った。帰ってきたら、ちゃんとお祝いしよう…と。
「……それ、本気だったのかよ」
「は?当たり前でしょ。私、そんなことテキトーで言いませんけど?ツナと山本、また補習だってさ。なら暇でしょ?」
「野球バカは心底どうでも良いのと何暇だって決めつけてんだコラ」
「あれ、ごめん。用事あった?ダイナマイトの仕入れとか?」
「…………いや、別にねえけどよ」
「何なのあんた。無いんじゃん」
暇と決めつけられ若干イラつくも、素直に聞きいれるものだから少し調子が狂う。しかも実際は暇な為それ以上言い返すことも出来ない。
…10代目、補習なのか。怪我が回復されたばかりだと言うのにおいたわしい。どの教師だこの野郎。山本はどうでもいいけどな。
…まあ、こうは言ったが、ナマエが本気で言ってるのなんてわかっていた。本人も言うようにこいつは適当なノリでそんなことは言わないだろう。
「んじゃあれか、私と帰るのは嫌ってか?」
「っ、んなこと言ってねえ!!」
「お、おお…そんな勢いで否定してくれるとも思わなかったわ…」
「……チッ」
そして今度は本気なのか冗談なのか、自分と帰るのが嫌なのかと。俺がお前に対して、んなこと思うわけねーだろーが!!咄嗟に否定すれば、ナマエも目を丸くする。俺自身も何となく気恥ずかしくなりそれを隠すように舌打ちする。
こいつ、俺がお前をどーでもいいなんて思ってないって言った事、忘れてんじゃねーだろうな…。
今またそれをもう一度口にするには恥ずかしさが勝つが、少しくらいは知っておいて欲しかった本音。無かったことにされんのは冗談じゃねえぞ…。
「じゃあさ、ケーキ、食べませんか?」
「ケーキ?」
「うん。お店は決めてある。味は期待して良いよ」
「……購買でテキトーにとか言ってた割にグレードアップしたじゃねえか」
「んー、やっぱお祝いしようって言ったからにはもうちょっとね。奢ってあげる。ひとつだけね」
「んな何個もいらねえよ…」
「ふふふ、じゃあ決まりね」
「……おー」
放課後、ふたりで帰って寄り道する約束。…なんかデートみてぇだな。そんなことを考えて、少し浮かれる。
…でも、もし誕生日なのが野球バカだったら、こいつは同じように約束をしたのだろうか。知らねーうちに秋の大会応援に行くとか話してやがるしよ。いや、あれはみんなでって話だが。俺だって行くしな。ナマエが一緒に行きてえっつーから仕方なくだ、仕方なく。山本が負ける姿見るのも悪くねえしな。…だが聞く限り、山本とナマエがふたりで話したことがキッカケらしいのが気に食わない…。
そういや黒曜で骸のいる場所に辿り着いた時…雲雀のヤロー、アレなんだ。ナマエを見て「君は僕の期待を裏切らないね」って微笑んだアレは。しかも怪我がねぇか確認してからのそれだ。いや、わかる。雲雀は応接室で対峙したあの日からナマエを気に入っている。ナマエもその時のことをあまり話すことがないから詳しい部分はわからないが、雲雀とやり合って、その身のこなしを認められた結果なのだろう。だから、期待を裏切らない。…でも、それだけかよ、本当に。雲雀はあの日、ナマエに風紀委員が立て続けに襲われていると忠告をしたという。
ああ、バカみてえだ…。
ナマエは言った。今の、自分の周りにあるものが大切だと。そこには俺も含まれている。でも、俺だけじゃない。俺のものでもないくせに、そんなことに凹んで、嫉妬する。
俺がナマエにしてやれたこと、掛けてやれた言葉。
ナマエが俺にしてくれること、掛けてくれる言葉。
そんなものを数えて、他と比べて…。
っとに、しょーもねえ…。
「あ、今ね、秋のフェアやってるんだよー。お芋とか栗とか。聞くだけで美味しそうでしょ」
「…お前、人の誕生日にかこつけてそれが1番の狙いだろ」
「ソンナコトナイナイ」
「目ぇ泳がせてんじゃねぇよオイコラ」
俺が睨むと、すーっと目を逸らしたナマエ。でもそれはわざとらしい仕草。すぐにこちらに視線を戻すと楽しそうに笑う。…ああクソ。今、ドキッと心臓が跳ねた。そんな些細なことで。可愛い、なんて。不意にそう思わされるのだから、油断も出来ない。
……正直、誕生日と聞くとどうしても頭をよぎるものがある。3歳の誕生日、その5日後…。
でも、ナマエが笑うから…その顔を見てると、一年に一度のその日も、そう悪いものでもない気がしてくる。
「じゃ、私も購買行ってくる」
「あー」
ナマエは俺に軽く手を振ると、パタパタと購買に向かって行った。俺はその背中をぼんやりと眺めて見送る。
最初、ナマエも敵陣に乗り込むと言い出した時はどうしようかと思った。だけどこいつもファミリーの一員で、そして間違いなく戦力ではあって。…反対する理由が見つからなかった。何より、こいつが大人しく待つような女でない事はわかっていた。
そんなところも、良いんだけどよ…。
ああ、ダメだ。どうも色ボケしている…。あのスケコマシじゃあるまいし…。だけど、それくらい浮かれてるんだよな…。放課後の事を考えると、どうしても。
今、自分の周りにあるものを大切にしている。…なら、守れてよかったじゃねーか。
ナマエの背中を見つめながら、俺は小さな笑みを溢した。
END