青い死ぬ気の炎の少年
青い死ぬ気の炎の少年
「う゛お゛ぉい!!邪魔するカスはたたっ斬るぞぉ!!」
建物の屋根の上からこちらを見下ろす長髪の剣士。その人が剣を振るとそれは斬撃となり辺りに降りかかる。その場に居合わせた人たちはみんな悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
「ひいっ!何なのあの人~!!?すんげーやばいよ!!」
その例に漏れずツナも顔を青くして叫んでいた。京子やランボ、イーピンはリボーンが残りのハル、フゥ太と共に離れた場所へ避難させてくれたらしい。それならそこに関しては安心なんだけど、あの男は一体何者なんだろう。
「すみません、沢田殿、ミョウジ殿、つけられてしまいました」
「「!」」
傍にいた死ぬ気の炎を灯す男の子がツナと私に声を掛けて来た。名前を呼ばれた。なんで私たちの名前を知ってるんだろう?どこかで会ったことがあっただろうかとも考えたけど、ツナも困惑しているからその線はなさそうだ。彼が一方的に私たちを知っている?
「折角会えたのに…こんな危険な状態に巻き込んでしまうとは…」
「え?あ…あの…誰でしたっけ!?」
「どうして私たちのこと…」
悔しそうな顔をする彼。ツナと私は彼が何者なのかを聞こうとする。しかしそれに答える前に彼は私たちふたりの手を掴んで突然走り出した。
「来てください!!」
「「!?」」
ぐいっと引かれてびっくりする。えええええ!?!?なに!?なにごとっ!?
細身だけど意外と力はあるようで、ツナと私は彼に引きずられていく。ていうかこの場から離れるのはいいとして、獄寺と山本残してきてるんですが!?ふたりも驚いてぎょっとしてたのは見えた。
「ちょ、何なのっ!?」
「あ、あのっ、ちょっと待って!?どこ行くの!?」
「安全な場所へ!!おぬしたちに伝えたいことが!!」
酷く焦っている様子の彼。私たちに伝えたいこと?それって一体…。しかしそれを考える隙を与えてはもらえない。
「う゛お゛ぉい!!」
頭上から響く。さっきも聞いた特徴的な大声。ハッとした瞬間、私たちの行く手にあの長髪の男がダンッと勢いよく飛び降りて来た。ど、どこから飛び降りて来たの…。ありえない身のこなし。私たち走ったのに、あっという間に回り込まれた…。
「もう鬼ごっこは終わりにしようや。で、何だ?そいつらは。そろそろ教えて貰おうか?」
長髪の男は手に固定した剣を光らせ、私たちを見てニヤリと笑う。そして物凄い速さでこちらに突っ込んでくる。
まずい…っ!
咄嗟にそう思った。ツナが「ひいっ!」と悲鳴を上げる隣で私は棒を構えようとした。でもその時、私たちを庇う様に青い死ぬ気の炎の男の子が前に飛び出してくれた。
「「!!」」
男の子も武器を持っていた。大きなブーメランのような武器。しかし長髪の剣士は彼の隙を一瞬で見抜き、ズバッとその肩を切り裂いた。私とツナの目の前で血が飛び散る。彼の体は凄い勢いで吹っ飛ばされ、近くにあった店舗のガラスを突き破って倒れた。
「き…君!!」
「…ツナ」
「え…」
ツナは突き破った店内に倒れこむ彼に駆け寄ろうとした。でも相手は待ってくれないだろう。私は長髪の剣士から目を逸らさず、ツナにも気を抜くなと声を掛けた。ツナもハッとして振り返る。剣士は鋭い目のまま私たちに問うてきた。
「うお゛ぉい…貴様ら、このガキとはどーゆー関係だぁ?ゲロっちまわねーとお前らを斬るぜ」
「……。」
「ひいいっ、そんなぁっ!えと…あの…!」
完全に怯えてしまっているツナ。リボーンもいないし、ツナが戦うことは出来ないだろう。それならもう…やるしかない。私は棒を握りしめてツナより前に出た。するとそんな私を見て長髪の剣士はまたニヤリと笑う。
「う゛お”ぉい…小娘、なかなか良い目をするじゃねえか。多少は戦闘の心得があるってところかぁ?」
「さあ…どうでしょうね」
「ナマエ…っ」
…この人、凄く強いと思う。今こうして前にしているだけでもわかる。だって全然隙が見当たらない。だけどやらなきゃこっちがやられる。ぎゅっ…と棒を握る手に力を込める。しかしその瞬間、長髪の剣士の頭上に何かが降り注ぐのが見えた。
…ダイナマイト!!
私はハッとした。でも長髪の剣士もすぐにそれに気が付き爆発から逃れてしまう。しかしその爆発は私たちと長髪の剣士の間に確かな距離を作ってくれた。ダイナマイトとくれば、それを扱う奴なんてひとりしかいない。
「その方とその女に手をあげてみろ、ただじゃおかねえぞ」
「ま、そんなとこだ。相手になるぜ」
収まった爆風の奥に見えたふたつの影。それは追いかけてきてくれた獄寺と山本だった。
「獄寺くん!!山本!!」
「獄寺…山本…」
来てくれたふたりの姿を見て、私もツナもちょっとホッとした。とはいえ、油断は出来ないけど…。
山本は今日バットを持ってきていなかったはずだけど、気付くと傍に立てかけてあったらしい。…それは間違いなくあの赤ん坊の仕業だ。でもそのツッコミは今はとりあえず置いておこう。考えてる場合じゃないし、今は正直有難いもの。
「てめーらもカンケーあんのか、う゛お゛ぉい!!よくわかんねーが、ひとつだけ確かなことを教えてやんぜ。俺にたてつくと、死ぬぞぉ」
長髪の剣士の視線は獄寺と山本の方に向いた。だけどそう言われたところで気の強いふたりは全く動じない。
「その言葉、そのまま返すぜ」
「ありゃ剣だろ?俺から行くぜ」
まずは剣同士。先に行くと山本が前に出た。しかしその時、倒れていた死ぬ気の炎の彼が起き上がる。そして慌てて獄寺と山本に向かって叫んだ。
「やめてください!!おぬしらの敵う相手ではありません!!」
その声を聞き、ふたりもぴくっと反応した。敵う相手じゃない…。確かにあの人は強そうだけど…。でもそう言われて大人しく引くふたりでもない。
「後悔してもおせぇぞぉ!!!」
「行くぜっ!!」
長髪の剣士と山本がほぼ同時に走り出す。そしてキィン…ッと互いの刃がぶつかった。でも、剣士を相手に戦うのって初めてじゃ…。山本は強い。反射神経もいいし、戦闘センスはあると思う。だけど今の彼は剣を握ってただ振り回しているだけの状態に等しい。相手が剣士だったとしたなら…。
「貴様の太刀筋、剣技を習得していないな」
「だったら何だよ」
「軽いぞぉ!!!」
「ぐっ…!」
相手にもそこを指摘された。これ、多分まずい…!ガンッと振り下ろされた剣を山本は何とか受け止める。しかしその瞬間、相手の刃からビュッ…と何か飛び出してきた。
ドゴッ!!!!
突如巻き起こった爆発。放った相手は身を引き、喰らったのは山本ひとり。
「火薬!!?」
「山本ぉ!!!」
「っ、山、本…」
火薬に詳しい獄寺がすぐに仕込まれていたその正体に気が付く。仕込み火薬…。ツナは悲痛に叫び、私は呆然とした。どさっ…と煙の中で倒れた山本の姿が見える。強い…やっぱり、あの人…。
「ヤロッ!!」
次は獄寺。獄寺はすぐにダイナマイトを構えた。だけど、間に合わない。
「おせぇぞ」
「!?」
先程山本に食らわせた火薬の煙に紛れて獄寺に近づいた長髪の剣士。その刃は一瞬にして獄寺の持っていたダイナマイトの頭だけをスパッと切り裂く。そして、獄寺自身には蹴り。
「ぐあっ!!」
高く上げられた足に思いっきり蹴りつけられた獄寺の体は地面に強く打ち付けられる。
「獄寺っ!!」
「獄寺くん!!」
咄嗟にツナとふたりで叫ぶ。だけど、獄寺から反応がない…。強い相手だとは思った。だとしても、獄寺も山本も…あのふたりがまったく手を出せなかったなんて、そこまで強いなんてことあるの…?
「う゛お゛ぉい、話にならねーぞぉ、こいつら。死んどけ」
「…!」
びくりとした。長髪の剣士は目の前に倒れている獄寺に向かってチャッ…と剣を構える。それを見た瞬間、私は血の気が引いた。
「嫌ぁ!!やめてぇ!!!」
私は走った。棒を握りしめ、喉がはち切れそうなほどに叫んで。
獄寺っ…獄寺…っ!!
頭の中で獄寺の名前だけ繰り返して、庇う様に前に飛び出す。棒を握る手に力を込めて、振り下ろされるであろう剣に備える。ニヤリと笑う長髪の男の顔がスローに見えて…。
ガキンッ!!!
金属のぶつかる鈍い音がした。でも、私の手に衝撃は来ない。
「あ、あなた…っ」
獄寺を庇う私を更に庇う様に。前に出て剣を受け止めてくれていたのは死ぬ気の炎の彼だった。傷を負った体。息も上がってる。なのに…どうして。
「いよお゛ぉ、ゴミ野郎。そろそろゲロっちまう気になったかぁ?」
「断る!!」
「ならここが貴様の墓場だぁ!!」
目の前でふたりは激しくぶつかり合う。だけど傷を負った彼の方が分が悪いのは当たり前で、またも彼の体は切りつけられ、ズシャッ…と地面に叩きつけられてしまった。今度は額に灯っていた死ぬ気の炎も小さくなって消えてしまう。
「あっ…!」
私は思わず彼に手を伸ばしかけて、でもそこで続ける言葉がない事に気が付く。あなたは…誰?どうして私たちを助けてくれるの?助けてくれたのに…呼びかける名前すら知らない。
「う゛お゛ぉい、まさか俺に勝てるとでも思ってたのかぁ?野良犬の分際で…話はそっちの小娘から聞くことにするかぁ」
「!」
剣士の視線が私の方へと向いた。それに気が付いた私は立ち上がり、棒を構える。私ひとりでこの剣士を倒せるかと言われれば、それは多分…悔しいけどNOだと思う。だけど引けない時だってある。
「う゛お゛ぉい!!さっきからその目だけは一丁前だなぁ!!痛い目を見る前にゲロっちまうのが賢明だと思うがなぁ!!」
「…さっきから何か勘違いしてらっしゃるのでは?何の話だか、私にはさっぱり」
「大した度胸だなぁ、小娘!!」
…度胸もなにも本心なんだけど。私たち、何も知らないし。そっちが勝手に襲ってきてるだけでしょ。
でもあの死ぬ気の炎の男の子がツナと私のことを知っていたのは事実で。もしかしてこれってボンゴレ絡みの何かなのだろうか。だとしても、やっぱり答えられることなんてないけど。
「う゛お゛ぉいい!!いくぞぉ!!!!」
チャッ…と構えられた剣。
来る…!!!
ぐっと身構える。だけどその瞬間、ガッと剣士の手を掴むひとつの手があった。
「リ・ボーン!!!!ロン毛!!!死ぬ気でお前を倒す!!!」
…!!
揺らめくオレンジの死ぬ気の炎。剣士を止めてくれたのは死ぬ気になったツナだった。でも骸と戦った時の小言弾とは違う、いつもの死ぬ気のツナ。ただその手にはあの時と同じグローブがはめられていた。
「う゛お゛ぉい、なんてこった…。死ぬ気の炎に…このグローブのエンブレムは…まさかお前、噂に聞いた日本の…、そうか…お前と接触するために…。ということは小娘、まさかお前も…そうか、ミョウジの血筋の秘書か!」
「えっ…」
死ぬ気になったツナを見た瞬間、長髪の剣士の目の色が変わった。そしてブツブツと何かを考え出し、私が秘書の家系だとも言い当てた。…なんで、この人がそんなこと。でもそこで確信出来たこともある。やっぱりこれはボンゴレ絡みだということ。そして私の事だけではなく、ツナがボンゴレ10代目候補ということも相手はきっと気が付いた。
「ますます貴様ら何を企んでんだぁ!?死んでも吐いて貰うぞぉオラァ!!!」
「うおおおおお!!!!」
「う゛お゛ぉい、よえぇぞ!!」
「ぐあぁ!!」
死ぬ気のツナは勢いよくパンチを繰り出した。でも長髪の剣士はそれをいとも簡単に止めて、ツナは返り討ちに遭ってしまう。死ぬ気のツナでもまったく歯が立たない…。小言弾ならどうかわからないけど、あれを使うとツナは2週間は筋肉痛で動けなくなるだろう。ツナは死ぬ気で何度も長髪の剣士に向かって行く。だけどやはりどうにもならず、やがては気力が尽きて死ぬ気モードは解けてしまう。
「ミョウジ殿!」
「えっ!?」
その時、ぐいっと誰かに手を引かれた。それはあの死ぬ気の炎の男の子。彼は私の手を引きながらツナの元へと走る。そしてまた剣士が放った火薬をブーメランで一掃すると、その煙に紛れてツナの手も引き物陰へと逃げてくれた。
「あ…あの、あなた…」
「き…君!だ…大丈夫なの?」
「拙者はバジルと言います」
傷を負って息を上げながら私たちを助けれくれた男の子。私たちはここに来てやっと彼の名前を知ることが出来た。バジルくん…。
「親方様に頼まれて、沢田殿にあるものを届けに来たのです」
「は?俺に?…つーか、親方様って…」
「これです」
バジルくんはそう言ってツナにひとつの箱を差し出した。金の装飾が施された綺麗な黒い箱。よく見るとあさり貝の飾りもあしらわれている。もしかしてこれってボンゴレの何か…?そしてバジル君が箱を開くと、そこには7つの指輪が丁寧に仕舞われていた。
「何かはリボーンさんが知ってます」
「えっ、君、リボーンを知ってんの!?」
「リボーンさんはわけあって戦えません!おふたりでこれを持って逃げてください!」
「!!ちょ、急にそんなこと言われても!」
箱を押し付けられたツナは状況が全く読み込めずに困惑するばかり。でもそれは私も同じ。この指輪を持ってツナとふたりで逃げろ。そう言われたところでこの指輪が何かもわからずに、はいわかりましたとはとても言えない。
「う゛お゛ぃい、そういうことかぁ。こいつは見逃せねぇ一大事じゃねーか。貴様らを掻っ捌いてから、そいつは持ち帰えらねぇとなぁ」
しかしそこであの長髪の剣士に物陰に隠れているのが見つかってしまった。どうやら話を聞かれていたらしく、奴もこの指輪を狙っているようだった。バジルくんはこの指輪を守るために戦っていたってこと?
「ひいいいっ!!なんなの~!!どーしよー!!」
全然読めない状況。ただ、マズイということだけがわかる。怯え切ったツナの悲鳴が、崩れた繁華街にこだました。
To be continued