ハーフボンゴレリング
ハーフボンゴレリング
「う゛おぉい、ソレを渡す前に何枚におろして欲しい?」
しゃがみこむ私たちを見下ろす長髪の剣士。奴の狙いはバジルくんがツナに預けた7つの指輪。
「渡してはいけません、沢田殿!」
「え!?ちょっ、なんなの?どーなってんのー!?」
「バジルくん…」
バジルくんは私とツナを庇って前に出る。そしてツナにこの指輪を奴に渡してはならないと何度も念を押す。多分、私たちが束になって戦ったとしても…この剣士には勝てない。それなら一体どうしたら…。まさに絶体絶命。しかしそのピンチを割くように、入ってきてくれたひとつの声があった。
「相変わらずだな、スペルビ・スクアーロ」
知っている声だった。それを聞いた私とツナはハッと顔を上げる。
綺麗な金色の髪。腕のタトゥー。
その手に握られているのは、ピンッと張った一本のしなやかな鞭。
「ディ…ディーノさん!」
「ディーノさん…」
私たちはその名を口にする。そこに立っていたのは部下を引き連れたディーノさんだった。
「跳ね馬だと!?」
「その趣味の悪い遊びをやめねーって言うんなら、俺が相手になるぜ」
長髪の剣士もディーノさんを知っているらしく、その登場には驚いているようだった。ディーノさんが助けに来てくれた。それは思わぬ味方だった。今は傍に部下の人たちもいるし、こんなにも心強い味方もいない。現に長髪の剣士もディーノさんを相手にするには何か思うところがあったらしい。
「う゛お゛ぉい跳ね馬。お前をここでぶっ殺すのも悪くない。だが、同盟ファミリーとやりあったとなると上がうるせえ。今日のところは大人しく……帰るわきゃねえぞぉ!!!!」
「ぎゃっ!!!」
「ツナッ!?」
長髪の剣士はツナの頭髪を乱暴に掴んだ。なっ…!?油断させておいて…!?
「その手を放せ!!」
ディーノさんは鞭を振るった。でもその瞬間、長髪の剣士はまた剣に仕込んだ火薬を放つ。ドゴォッと巻き起こった爆発。その煙はダイレクトに私たちの方へと流れて来た。
「ゴホッ」
「ガハッ」
「ケホッ」
おかげでツナや私、バジルくんはその煙を吸って咳き込んでしまう。あの剣士…っ、いったい…!
「お前達!大丈夫か?」
ディーノさんは急いでこちらに駆け寄ってきてくれた。だけど直後、長髪の剣士の声が離れたところから聞こえて来た。
「貴様に免じてこいつらの命は預けといてやる。だが、こいつは頂いていくぜぇ!う゛お゛ぉい!!」
いつの間にか離れた場所にいた長髪の剣士。その手にはバジルくんがツナに預けたはずのあの指輪が入った箱が握られていた。そっか、ツナが頭髪を掴まれて咄嗟に手を放したあの時…!
「ああっ!!ボンゴレリングが…!!」
バジルくんは奪われた箱を見て声を上げた。ボンゴレ…リング…?それがあの指輪の名前なの…?
「じゃあなぁ」
「まっ、待て!!…ううっ」
「あっ、バジルくん…!」
指輪を奪い、素早くこの場を去っていく剣士。バジルくんは慌てて追おうとするも傷のせいでその場にうずくまってしまう。私はその肩に手を伸ばした。だってバジルくんは何度も私たちのこと庇ってくれて、そのせいで怪我して…。
でも、バジルくんのこの焦り様…。
もしかして…これって、何か凄くまずい状況だったりするの…?
するとそこに、あの赤ん坊の声が聞こえてきた。
「深追いは禁物だぞ」
「「リボーン!!」」
私とツナの声が重なった。ツナに死ぬ気弾を使ったんだからどこか近くにはいたんだろうけど、でも今の今まで全然出てきてくれなかったのは何で…。その疑問は当然ツナも抱いたようでツナはリボーンに文句を言った。
「なんで今頃出てくるんだよ!!どーして助けてくれなかったんだ!?」
「俺は奴に攻撃しちゃいけねーことになってるからな」
「な…何でだよ」
「奴もボンゴレファミリーだからだ」
リボーンははっきりと言った。あの人も…ボンゴレファミリー。
「えーー!!?なんだってー!!?俺、ボンゴレの人に殺されかけたのー!?ど…どーゆーことだよ!?」
「さーな」
ツナは更に喚いた。あの剣士もボンゴレの人間…。だけど私はもしかしたらそうなのかも…ってちょっとだけ思ってた。いや、襲われる意味とかさっぱりわからないけど。でもあの人、ディーノさんが駆け付けてくれた時に言っていたから。
「…あの人、ディーノさんを見て同盟ファミリーとやりあうとどーのって言ったよね。あれって、そういうこと…だよね」
「ああ、そうだぞ。よく聞いてたな、ナマエ」
リボーンは頷いた。ディーノさんのキャバッローネファミリーとボンゴレファミリーは同盟関係にある。だからそうなのかもって予想していた。
だけど襲われた意味、あの指輪のこと、それは全然わからない。わからないことだらけ。
「ボス…サツだぜ」
「ああ」
そんな時、パトカーのサイレンの音が聞こえて来た。当然だろう。この騒ぎが始まった時には周りに大勢の人がいたのだから。
「ツナ、ナマエ。その話はあとだ。廃業になった病院を手配した。行くぞ」
ディーノさんは警察が来る前にここを離れようと言う。病院まで手配してあるなんて、流石の手際の良さだ。でも私とツナには放っておけない気がかりがある。だから離れる前に慌ててそれを口にした。
「あのっ、ディーノさん、ここにいるの私たちだけじゃなくて!」
「ま、待ってください!獄寺くんと山本が…!」
「あいつらなら心配ねーぞ」
長髪の剣士との戦いに倒れ、そのままになってしまっている獄寺と山本。でも心配はないとリボーンは言う。え…、と思ったその時、バタバタと足音がふたつこちらに向かってきた。
「大丈夫か!ツナ!ナマエ!」
「いったい何なんスか?奴は?」
「獄寺…山本…」
「ふたりとも!」
どうやらふたりも意識を取り戻し、急いでこちらに駆けつけてくれたらしい。普通に走れているところを見ると、そんなに傷も深く無さそう。安心して小さく息をつく。
でもその時、リボーンはふたりにキツイ一言を放った。
「お前らの戦闘レベルじゃ足手まといになるだけだ。とっとと帰っていいぞ」
…えっ。
そのストレートすぎる物言いに聞いてるこっちも固まる。獄寺と山本の表情にもぴくりと変化があった。
「ちょっと、リボーン…それは」
「リボーン、何てことを…!!」
「行くぞ」
「えっ、あっ…」
「わっ、わっ、ちょ!おい!」
その言い方は…と少し咎めようとするも、リボーンはそんな私とツナの手を引き、獄寺と山本をその場に残したまま歩き出してしまう。あ…赤ん坊のくせに中学生ふたり引っ張れるとか何事…。
私は手を引かれながらも慌てて振り返った。でもふたりはこちらを見ておらず、思うことがあるような表情で目を伏せている。
多分…リボーンは今、わざとああいう言い方をしたような気もする。その証拠にしばらくしてリボーンは口を開いた。
「本当はあいつらも感じてるはずだ。あれだけ一歩的にコテンパンにされて、はらわた煮えくり返ってねーわけがねえ。ほっとけ」
「「……。」」
それは、そうなのだろうと思う。多分ふたりとも悔しくて悔しくてたまらないはず。下手な慰めなどいらない。そりゃ…わかるんだけど。
ふたりはピンチに駆けつけてくれた。その時ほっとした。ふたりが来てくれたから私は怪我をしなかったと思う。それは紛れもない事実だ。
…でも確かに掛ける言葉など、今は無いのかもしれない…。
ひとまずバジルくんの治療も急がなくてはならない。私たちはディーノさんが用意してくれたという廃病院、中山外科医院へと向かった。
「バジルはどーだ?ロマーリオ」
「命に別状はねえ。よく鍛えられてるみてーだ。傷は浅いぜ、ボス」
病院についてすぐ、バジルくんの手当てをロマーリオさんがしてくれた。何度も斬られて血を流していたけど、どうやら受け身をしっかりと取っていたようでそこまで大きな傷もないらしい。凄いな、バジルくん。
…だけど、私たちは彼についてまだ何も知らない。
「あの…で、彼…何者なの…?やっぱりボンゴレのマフィアなんですか?」
「いいや、こいつはボンゴレじゃあない。だが一つ確実に言えることは…こいつはお前たちの味方だって事だ」
ツナが聞くと答えてくれたディーノさん。でもその答えによってさらに疑問は増すばかり。
「なあ!?どーなってんの?ボンゴレが敵でそーじゃない人が味方って…!つーか別に俺、敵とか味方とかありませんから…。ねっ、ねっ!?ナマエ!?」
「え、いや…そんなの私に言われてもわかんないよ…」
私に同意を求めてくるツナ。ただ単に味方を増やしたかっただけなんだろうけど、なんて答えたらいいか私にはわからない。現状、あの大声のロン毛剣士が敵なのは間違いなさそうだし…。
「それがなあツナ、そーも言ってらんねえみたいだぞ」
「あのリングが動き出したからな」
ディーノさんとリボーンはそう言ってくる。今度はあのリングの話…。あのリングについても、私たちは何も知らない。
「リング?そういえばこの子も言ってた。ロン毛の奴が奪ってったやつだろ?」
「ボンゴレリング…って言ってたよね?」
ツナとふたりで確認する。バジルくんはあのリングの事をボンゴレリングと口にしていた。それだけは覚えてる。リボーンは頷いた。
「ああ、正式名をハーフボンゴレリングと言うんだ。本当は3年後までしかるべき場所で保管されるはずだったボンゴレの家宝だ」
「…ハーフ?」
「もしかしてすんげー高級な指輪だとか?」
「確かに値のつけられない代物だがそれだけじゃねーぞ。長いボンゴレの歴史上、この指輪の為にどれだけの血が流れたかわかんねーていう、いわくつきの代物だ」
「え、こっわ」
「ひいい!!何それーー!!まじかよ!!ロン毛の人持ってってくれて良かったーっ…」
「…ツナ」
私はツナを何とも言えない目で見る。いや、私もコワって思ったけど、バジルくんが必死で守ってたものだからそう言うのも何とも…。ていうかなんか流れちゃったけど何でハーフよ…なぜ半分?
するとそんな私たちの様子を見たディーノさんは眉を下げつつ二ッと笑ってあるモノを取り出して見せた。
「それがなあ、ツナ…ここにあるんだ」
それを見た瞬間、私たちはビクッとした。珍しくリボーンも。
ディーノさんが取り出したもの。
それは先程奪われたはずのボンゴレリングが入ったあの箱だった。
「え゛え゛ーーー!!?な…なんでーーー!!?だってリングは奪われたはずじゃ…!!」
「こっちが本物だ。俺は今日、このために来たんだ。ある人物からこれをお前に渡すように頼まれてな」
絶叫するツナ。ちょっとうるさい…。ていうかこっちが本物って…じゃあバジルくんは偽物を持って戦ってたって事?気になって色々考えるも、隣でツナの絶叫が止まらない。
「えーー!?また俺に!?なんで俺なのー!!?そんな恐ろしいリング~~!!」
「そりゃー、お前がボンゴレの…」
「ス…ストップ!!家に帰って補習の勉強しなきゃ!!ガンバロ!!じゃ、ディーノさんまた!!ナマエ、帰ろ!!リボーン、先行ってるぞ!!」
「えっ、あ、ちょ、ツナ!?」
ディーノさんの話を遮ったツナは私の手だけ掴んで病院から飛び出していった。ひいいって悲鳴上げながら猛ダッシュ。それに付き合わされる私。ていうか今日、なんか色んな人に引っ張られてるな…されるがままか。
「ったく~…あぶないあぶない、いくらディーノさんの言うことでも冗談じゃないよ!そんな危険な指輪~…。だいたいマフィア絡みの話は沢山だっていうの!!ナマエもそう思うだろ?」
「いやそりゃそうだけどさ…」
ふたりになった途端、愚痴大爆発のツナ。いやわかるよ。私だってマフィアの話なんか御免だ。ツナだって一貫してそう言い続けている。
ただ…襲われたのは紛れもない事実で。それは私たちの意思とは関係なくそうなってしまっていて…。もう逃げられないところまで来ているというか、逃げるにしてもちゃんと状況を把握しなきゃならないというか…。ただ知らない関係ないって無視するだけじゃ、もうどうにもならなくなっているような気がする…。
「じゃあ…またな」
「うん…」
そうこう考えているうちに、道の分岐にやってきた。ツナが軽く手を上げたから私も頷き、それぞれの帰路につく。ひとりで歩きながら、私は考えていた。
バジルくん…ボンゴレリング…ロン毛の剣士。全然、わからないことだらけ。
それに、獄寺と山本のこと。
私はポケットに手を伸ばし携帯を取り出した。操作して表示させた名前は、獄寺隼人。
…お礼、くらい…。そう思った。だけどリボーンが言ってたほっとけの意味。今は…やっぱりそうしたほうがいいか…。自分でもそこは納得してしまったから…。
「はあ…」
ボンゴレ…か。
どうするにせよ、きっと…向き合わなきゃならない。
私は、そんな気がしてならなかった。
To be continued