姉と弟
姉と弟
ツナが死ぬ気になっておにぎりを食い漁ったあの事件。
あとからツナに聞いてみると、ポイズンクッキングの殺し屋であるビアンキが京子のおにぎりを毒のおにぎりとすり替えていたのだという。
見た目は綺麗なお姉さんらしいけど、リボーンにそこまでゾッコンってどんな人なんだろうか。
いや、殺し屋だというなら会わないに越したことはないのかもしれないけど。
「あつ…」
そんな話を思い出しながら、日差しが眩しい空を見る。うだるような夏の暑さの中、私は暇つぶしに外を歩いていた。けど…この暑さで外に出るのは失敗だったかもしれない。
「ナマエ?」
「あれ…獄寺、ってなにそのスイカ」
はあ…と汗をぬぐうと声を掛けられた。振り返ると立っていたのは獄寺。奴は何故だかスイカ一玉を網に入れて持っていた。
「めちゃくちゃ甘いらしいぜ、このスイカ。折角なら10代目に食べて頂こうと思ってよ。お持ちするところだ」
「ふーん…相変わらずツナ命だねえ…」
得意げに見せられたスイカ。手に入ったからツナに食べさせたいのか、ツナに食べさせるために手に入れたのか。どちらにせよ相変わらずツナ第一の男である。
「お前も来るか?まあ、分けてやらないこともねえ」
「え?いいの?」
「へっ、右腕と秘書のよしみだ」
「いや秘書にならんし、あんたいつから右腕だってば…。うーん、でもじゃあ付いていこうかなあ。暇だし」
「んじゃ、行くか」
ちょいちょい引っかかることはあるけど、気前がいい事に私にも分けてくれると言う。それはちょっと嬉しい。どうせすることもないからブラブラしてたわけだし、お言葉に甘えて私も獄寺と一緒にツナの家に向かう事にした。
「10代目~!!」
チャイムを鳴らし、開けて貰った玄関から獄寺がツナを呼ぶ。家にいるならツナはまず部屋にいるだろう。しばらくすると階段を下りる足音が聞こえてきた。
「ご…獄寺くん、ってナマエまで…。どーしたの?」
「このスイカどーすか?めちゃくちゃ甘いらしいんスよ」
「そこで獄寺と会ったから、私はついてきただけ。ってかツナ、なんかあった?」
「え…」
なんとなく、ツナの顔が焦っているように見えた。それを指摘するとどうやら図星。それは獄寺も気が付いたらしい。
「トラブルっスね。なんなら俺がカタをつけますよ」
10代目の困りごとなら放っておけないと。まあその心意気はともかく、獄寺が出ると荒っぽい解決になる気がするんだけど。でも今回はツナもそこで困り顔をしなかった。むしろ、願ったり叶ったりっぽい?
「じ、実は…今うちに…」
困りごとを打ち明けようとしたツナ。しかしその要件を聞く前に、ドキャッという変な音がした。
へ…?と見れば、床に落ちて粉砕しているスイカ。
「あー!!スイカー!!」
「ちょ、獄寺なにやってんの!?」
なんで手離した!?折角のスイカ!勿体ない!!
ツナとふたりで焦るも、当の獄寺は微動だにしない。というか、何かを見てる?
廊下の奥を見ると、そこにはリボーンと見たことのないお姉さんがひとり。
わあ、綺麗な人だ。
「アネキ…!」
「隼人」
獄寺がやっと口を開いた。そしてお姉さんも獄寺を見ている。ん…?アネキ…?隼人…?
「はがぁッ!!」
直後、獄寺はお腹を押さえてその場にへたり込んだ。え!?なに!?急になに!?
「失礼します!!」
「ちょ、獄寺くん!?」
「獄寺!?」
そしてそのまま顔を真っ青にしてその場から逃げ帰っていく。ツナと呼ぶも足は止まらない。ていうかアネキって…このお姉さん…。
「いつもああなのよ、変な子」
振り向いてお姉さんを見ると、慣れた様子でふう…と息をついていた。ええと…。つまりは顔見知りなのは間違いなくて…。私はツナをちらりと見る。するとツナもえらい混乱していた。
「アネキ…アネ…?てことは、つまり…え゛ーっ!?獄寺くんとビアンキって姉弟なのー!?」
「そーだぞ、腹違いのな」
驚くツナの言葉にさらっと頷いたリボーン。は、腹違い…。なんか今ナチュラルにちょっとヘビーなこと言いませんでした?
ていうか、あれ?ビアンキって…!
「えっ、じゃあこの人があの…!」
「あら、貴女…」
「へっ」
噂のポイズンクッキングのお姉さんってこの人!?そう気づいた瞬間、お姉さんはこちらに近づいてきて私の両手をぎゅっと取った。う!?
「見てたわ。この間、隼人が貴女のおにぎりを食べていたでしょう?」
「え!?」
「ちゃんと顔を見て話してみたかったのよ。貴女、名前は?教えてちょうだい」
「え、ミョウジナマエと言いますが…」
じっと見つめられてつい名乗ってしまう。すると彼女はふっと微笑む。ほんと美人だな…。ちょっと見惚れる。
「そう…ナマエね。覚えたわ。ふふふ、会えて嬉しいわ。私の未来の義妹」
「…………いもうと!?」
いも、え、いもうと!?
いもうとってって義妹ですか!?あれー!?なんかとんでもない勘違いされてませんかー!?お姉さん、心なしか目が輝いて見えるような!?見惚れてる場合違う!やばい、誤解は早く解かねば…!
「あ、あの、ビアンキさんでしたよね?いや私、獄…ええと、弟さんとは全然そーゆーのではないんですよ」
「照れなくていいのよ」
「はい?」
「今も一緒に来たのよね?」
「いやそれはたまたまで…」
「わかるわ。やっぱりいいわよね…愛って」
あ、ダメだこれ。聞いちゃいねえ。なんかうっとりしてるし…。そういえばこの人愛に生きてる感じの人だったな…話聞く限り。
ていうか、誤解されそうなところばかり見られてる…。全部たまたま。たまたまなんです、お姉さん。
ツナ呆気に取られてるし。このダメツナ!助け船のひとつくらい出せや!!
リボーンは…あいつ、笑ってやがる…。おもしれーことになったなと言わんばかりか!
…でも、獄寺大丈夫かな。なんかすっごい具合悪そうに見えたんだけど。
「ええと、ごめんなさい、ビアンキさん、私ちょっと急用が。ていうか全然、弟さんとは本当違うんで!それじゃ!」
もうこうなったら逃げるべし!!とりあえず違うとは最後にも言い残し、私も急いで沢田家を出た。
「んー…あっちに走ってったのは見たけど」
外に出て、とりあえず走っていった方向を見る。ていうか本人に聞く方が早いか。私は獄寺にメッセージを送ってみた。
「ナマエ!俺も行くよ!」
「ツナ」
送信したタイミングでツナも外に出てきた。ツナも獄寺の異様な様子は流石に気になったらしい。
返事はすぐに返ってくる。並盛神社…。ツナにもメッセージを見せ、ふたりで並盛神社に向かった。
「あ、ツナ、あそこ」
「獄寺くん!」
神社に着くと、木にもたれ掛かってゼーゼーしてる獄寺の姿を見つけた。顔色も悪い。まだ体調は回復しきっていないらしい。
「あ…あの…ごめんね、折角持ってきてくれたスイカ…あんなことになっちゃって」
「てか、大丈夫…?すんごい顔色してるけど」
ツナと心配しながら近づく。するとこちらに気がついた獄寺は苦しそうな声でぽつぽつと話し始めた。
「アネキとは8歳まで一緒に住んでました…。うちの城ではよく盛大なパーティーが行われたんですが、俺が6歳になった時、初めてみんなの前でピアノを披露することになったんです」
…城?え!?城!?
ツナとバッと顔を合わせる。考えていることは大体同じだろう。え、なにこいつお坊ちゃん!?実はお坊ちゃんなの!?
「その時、アネキが初めて俺の為にクッキーを焼いてくれたんです。それが彼女のポイズンクッキング一号でした…。後でわかったんですが、アネキは作る料理がすべてポイズンクッキングになる才能の持ち主だったんです…」
「どーなってんのソレ!!」
「え、毒入れてるんじゃなくて、毒になるの…?すっご…」
ここに来るまでの道中、ツナからやはりあの人がポイズンクッキングのビアンキなのだと確認した。それがまさかの獄寺のお姉さんて…。
勿論当時、クッキーを食べた獄寺は激しいめまいと吐き気に襲われ、ピアノの演奏はこの世のものとは思えないものになった。しかしそれはほんの序章。その演奏は高く評価されてしまい、気をよくした獄寺の父は発表会を増やし、獄寺はそのたびにポイズンクッキングを食べさせられたと言う。
「その恐怖が体に染みついて、今ではアネキを見るだけで腹痛が…」
「ああ、逃げ出したのそういうこと…」
納得。だからお腹を押さえて膝から崩れ落ちたのね…。あの一連の出来事に色々と合点がいった。
「うすうす感づいてたけど強烈なお姉さんだね…」
「ええ、大嫌いです」
同情したツナの言葉に間髪入れず即答する獄寺。ここまでドキッパリ言われるとなかなか反応に困るな…。でも経緯を聞いているとそれも仕方ないのかもしれない…。
「俺はアネキに近づけません。10代目…アネキをこの町から追い出してもらえないでしょうか」
「ええ!?そ…そりゃあどちらかと言えば俺もビアンキがいない方が嬉しいけど…でも俺じゃあ…。ナマエ、どうしよう…」
「どうしようって言われても…」
そりゃ、ツナ的にも自分を殺そうとする相手なんていない方がいいだろうが…。でも実際会ってみた感じ、そこまで悪い人にも見えなかったんだよな。いや、どえらい誤解はされてたけども…。
獄寺の方も何もツナに丸投げしているわけではなく、とりあえず考えている案はあるらしい。
「作戦があります!実はアネキはリボーンさんに惚れる前にメロメロだった男がいたんです。そいつは事故で死んじまったんですが、未だにアネキはそいつのことが忘れられないみたいなんです。そこで、その元彼にそっくりな奴を探すんです!アネキをそいつに会わせれば地の果てまでそいつを追いかけるはずです」
「またぶっ飛んだ作戦だー!!」
「そっくりな奴て、そんな奴いないでしょ…」
何を言ってるんだこいつは…。ちゃんと考えはあるんだって見直してたのに意味がわからん。
「これが元彼の写真です」
しかし奴は突き進む。1枚の写真を取り出すと、私とツナに見せてきた。けど、あれ!?その写真を見て、私たちの考えはいけるかもに切り替わる。
「え!?あ!ツナ!この人って確か!!」
「こんな牛男見たことあるー!!」
そこに映っていたのは、10年後のランボと瓜二つの男の人だった。こ、こんなにそっくりってある…?まじまじと見ても本人なんじゃないかってくらいそっくりだ…。
獄寺の見立てでは、たとえそっくりな奴が現れるのが一瞬でもいい。そうすればビアンキさんはそいつを探しに町を出ていくだろうと。
「ほら獄寺、お茶」
「あー…悪ぃな」
ひとまずツナはランボを探しに家へと戻った。私は具合が悪そうな獄寺を放っておくのも気が引けるので、近くの自販機でお茶を買ってきて体調が戻るのを待つことにした。
「はあー…おいしー…」
ついでに買ってきた自分の分のお茶がひんやり体に染みる。だんだんと日は落ちてきたとはいえ、暑いのは変わらない。喉を潤す冷たさが心地よかった。
隣にいる獄寺も「はあ…」と同じように息をついていた。
「獄寺、お姉さんいたんだね」
「あー…まあな」
「ていうか、お城住んでたの?もしかしてお坊ちゃん?ピアノとか弾けるんだ?」
「うるせーな…いっぺんに質問してくんじゃねーよ…」
「だっていっぺんに気になる情報てんこ盛りじゃんよ」
さっきの話、初めて聞くことばっかりだったなあと。そりゃまだまだ知らないことなんていっぱいあるとは思うけど。
「…あのうちとは、もう関係ねえよ」
「ふーん?」
「ふーんて…なんか淡白だなお前」
「え?だって関係ないんでしょ?まあ、話してくれるなら聞きたいけど、獄寺が話したくないなら別に」
「………。」
そんな淡白だった?そんなつもりもなかったけど。
黙った獄寺。でもわりとすぐ、ぽつ…とまた口を開いてくれた。
「ピアノは…まあ、今の家にも置いてはあるけどよ…」
「え!?そうなの?聞きたい!」
「なんでだよ…」
ピアノ、今も弾けるのか。そう言われれば聞いてみたいと思うのは普通じゃなかろうか。
今度音楽室に引きずって行ってみようか。そんなことを言ったら「ふざけんなアホ」って返された。
「気分、落ち着いた?日も落ちそうだし、そろそろ帰る?」
「ああ…だいぶ楽になった。お前、家どこだ?」
「ん?」
「…一応、送ってやる」
「え?それむしろこっちの台詞では?」
「……。」
え、病人は君だろう。付き添うのはむしろこっちでは。そう返すと獄寺はなんだか凄く何とも言えない顔をした。いやその顔は何。
「~~っ、うるせえ!いいから行くぞ!」
「え」
歩き出した獄寺。私は慌ててそれを追いかける。
なんでキレてんだ、こいつ。沸点わかんないなー…。
別にいいって言ったのに、獄寺は家まで送ってくれた。これが所謂、女の子扱い?そんな事されたのは初めてだったから、なんだか少しこそばゆかった。
まあ、獄寺は良い奴だよね。ツナはまだ相変わらず怖がってるけど。
今日はなんとなく獄寺の事をもう少しだけ知れた、そんな1日だった気がする。
ちなみにその後…なんとか大人ランボを呼び出しビアンキさんと対面させたツナだったけど、別れる前のビアンキさんと元彼はとんでもなく険悪だったらしく、大人ランボはポイズンクッキングを食らわされてしまったらしい。しかもそれを聞いて獄寺が思い出した元彼の死因は、食中毒だったような…と。
私は敵意を向けられなかったけど、やっぱ怖い人…?
背筋がぞくりとした、そんな一件だった。
To be continued