恋する乙女
恋する乙女
「あ、おはよ。獄寺」
「おー」
朝、歩いていると銀髪の背中を見つけた。
声を掛ければ咥えたばこが振り返る。
「…歩きたばこしてんじゃねーですよ、この不良が」
「ああ?うるせえな…歩いてねえよ、川辺で一服してただけだ」
「一服の時点でどうかと思うけど」
「…嫌か?たばこ」
「え?」
たばこが嫌か?それは意外な質問。いや単純にそんなこと聞かれると思わなかったから。
体に悪い~とか中学生が吸ってるってどうなのよ~とか、まあ思うことはいくつかあれど、それ自体がどうという気持ちは私は特にない。
「いや…別に。好きも嫌いもないかな」
「…そーかよ」
獄寺はそう言ってふっと煙を吐く。いやなんなんだ一体。何の質問だ。よくわからず首を傾げてその横顔を見る。でもその時、視界の端に何か不自然な光景が映った。
「…うん?」
橋の上のところ。あそこにいるの…ツナ?と、鎧を着た…女の子?女の子はアイスホッケーのスティックも持っている。え、なに武装?
「獄寺、あそこ…」
「あ?なんだよ」
私は指をさして獄寺にその異変を伝えた。獄寺が振り向く直前、女の子は武装に加え、更にヘルメットを被る。余計に不審者っぽさが増した。そしてアイスホッケーのスティックを振り回し、ツナに襲い掛かる。…って、何故!?
「な!?10代目!?なんだありゃあ!?どこぞの鉄砲玉か!?くそったれぇ!!」
「えっ、あ、ちょ!獄寺!?」
10代目が襲われてるのを見たら、忠犬獄寺はものすごい勢いで走って行ってしまった。でもまあ襲われてるのは一大事なので私もすぐ追いかける。
ていうか獄寺が間に入ったらあの女の子もやばい気がする!
「俺はマフィアのボスなんかにはならないんだって!!」
「じゃあやっぱりリボーンちゃんを弄んでるんですね!?」
「そーじゃなくて…!!」
近づくと聞こえてきた会話。マフィアのボス、リボーンを弄ぶ?え、何あの子、ボンゴレのこと知ってるの?にしたって弄ぶってのはよくわからんけど。
「10代目!下がってください!」
「え!?ごっ、獄寺くん…!!」
「果てろ」
ツナと女の子の間に入った獄寺。奴はいつもごとく、認識した敵にダイナマイトを投げつける。て、ちょ…っ!!
「はひーっ!!」
響いた女の子の悲鳴。や、やっちゃった…!!衝撃で女の子は川の中にザボーン!!と落っこちてしまう。
「あ~~あ!!落ちちゃったよ!!」
「これでもう大丈夫です」
「馬鹿!!獄寺やりすぎ!!」
「ああ!?ンだとナマエ!!」
欄干に駆け寄り下を伺うツナ。追いついた私は獄寺に怒ってツナと一緒に下を見る。
いやっ、だって多分あの子普通の女の子だったよね!?
「たすけ…ゴボッ、たすけてぇーっ!!」
女の子は水面に顔を出したけど、鎧が重いのか溺れてしまっていた。いやいやこれまずいでしょ!
「助けてやるぞ」
そんな時、いつの間にか欄干の上に立っていたリボーンがツナに銃を突きつけた。死ぬ気になって助けるってこと?でも今はそれに賭けるしかないのかもしれない。
ズガン!
響いた銃声。撃ち抜かれたツナの額。
「死ぬ気でハルを救う!!」
死ぬ気になったツナは川に飛び込み、一直線にあの女の子の元へと向かった。追加でかかとに撃たれた死ぬ気弾の効果は足スクリュー。
「俺に、掴まれーっ!!!!」
女の子を抱きかかえたツナは岸に向かって泳ぐ。それを見た私と獄寺も急いでその岸辺へと向かった。
「貴女、大丈夫?これ、よかったら使って」
「はひ…すみません…ありがとうございます…」
私は彼女の鎧を外すのを手伝い、持っていたタオルを渡した。…なんか最近タオル貸してばっかでは。
でもちゃんとお礼言ってくれたし、決して悪い子ではない気がする。
「…ありがとーございました…」
体育座りで縮こまった彼女はツナにも小さな声でお礼を告げた。
頭に乗せたタオルで顔はよく見えないけど、さっき襲い掛かっていた相手に助けられてバツが悪いのだろうか。ていうか何でツナのこと襲ってたのって話なんだけど。
「ったく、反省してんのか?10代目にもしものことがあったら、おめーこの世に存在しねーんだからな」
「いやあんたも反省しろ!すぐダイナマイト投げるな!」
「ああ!?」
この子にも反省すべき点はあるだろうが、いきなりダイナマイトぶん投げるのもどうなのさ。睨まれたからこっちも睨み返す。「ちょちょちょ、なんでふたりが喧嘩してんの!?」ってツナが間に入ってきた。
「……、プ」
その時、吹き出すような声が聞こえた。それは私でも獄寺でもツナでもない。てことは…女の子?え、今…笑った?すると彼女はガバッと顔を上げた。
「死ぬ気でハルを救う!!俺に掴まれー!!」
「「「!?」」」
とー!おりゃあああ!!と、ひとり盛り上がる女の子。
え、な、ななな…?
それは…さっきのツナの真似?
そして彼女はうっとりとした目でツナを見つめる。
「そんなクサイ台詞、テレビの中だけだと思ってました…」
こ、これは…あんまり反省してない…?むしろ彼女の勢いはヒートアップしていく。
「向こう岸まで泳ぐーっ!!」
「ちょっ、やめてよ!!はずかしー!!」
ツナは顔を真っ赤にして彼女の言動を止めようとする。そんなツナを見る彼女の顔は、ツナとは違う意味で赤らめられている。
「すごく…素敵でしたよ。リボーンちゃんの代わりに飛び込んでくれた10・代・目!」
語尾にハートが付いている気がする彼女。え…これは、もしかして…。
「さっきからドキドキして、胸が…っ」
「ちょっ、はあ!?」
「ハルはツナさんに惚れた模様です」
「んなー!!!」
ツナ大絶叫。
でもこっちも衝撃。
やっぱりそういうことー!?
「なんだ…このアホ女…」
「アホ女て…。いやでも…凄いお嬢さんもいたもんだ…」
獄寺もちょっと引いている。私も正直唖然…。すると彼女は突然ハッと私の顔を見てきた。
「は…!もしかして、タオルを貸してくれた貴女はツナさんの彼女さんだったりしますか!?」
「へっ?」
「んなわけねーだろーがっ!」
彼女?私がツナの?ないないない…と否定する前に、なぜか獄寺が凄い勢いで吠えた。なんでお前が真っ先よ。
「なんで獄寺が先に答えるのさ」
「う、ぐっ…そ、それは…」
何故か口籠る獄寺。なんなんだ。あれか。こんな奴が10代目の女なわけねーだろってか?
いや否定するのはいいのよ。ツナとは物心ついた時から一緒にいるけど一度たりともそういう感情を抱いたことはないから。でもこんな奴が呼ばわりするならイラッとはするというわけで。
しかしその答えを聞く前に女の子が反応した。
「はひっ、本当ですか!?」
「え、あ、うん、それは全然。私はただの幼馴染みだから。あれに恋愛感情持ったこと1度もないないない」
「あれってお前…、しかも何回ないって言うんだよ…。俺だって無いからいいけどさ」
ないない言ってたらツナにちょっと恨めしく見られた。そっちだってないならお互い様だ。
でもとりあえず、ここはきちんと答えてあげた方がいいだろうよ。すると彼女はホッとした顔を見せ、私の手を取ってきた。
「そーなんですね!ライバルになっちゃうかと!それならお友達になれそうです!三浦ハルって言います!よろしくお願いしたいです!」
「えっ、ああ、ミョウジナマエです、えと…よろしくね?」
「はいっ!ナマエちゃん!」
どうやら人懐っこい子らしい。最初の襲い掛かってるイメージが強かったけど、よく笑うし可愛らしい子だ。
「ナマエちゃん、どうしましょう。ハル…ツナさんにぎゅっとしてもらいたい気分です」
「へ…」
「えーーーーっ!?!?」
ぎゅっと自分の体を抱きしめるハル。私も戸惑ったけど、当の本人ツナも大絶叫。
「お願いしますー!」
「な、なにをだよー!!」
追いかけるハル。逃げるツナ。
結局、なんでツナのこと襲ってたんだろう?
まあ…それは後で聞くとして。
…変わった子には違いないかもしれない。
To be continued