極限お兄ちゃん
極限お兄ちゃん
「あ、京子、おはよー…って、なんで鞄ふたつ持ってんの?」
「ナマエ、おはよう。お兄ちゃんったら、鞄落として行っちゃったみたいで…」
「ああ、笹川先輩のか…」
登校中、京子の姿を見つけた。駆け寄って声を掛けると、彼女は肩にかけている自分の鞄とは別にもうひとつ鞄を抱えていた。それはどうやら彼女の兄、笹川了平のものらしい。
「お兄ちゃんに届けないと…」
「あー、じゃあ付き合うよ」
「ありがとう。それじゃあ、いこっか」
そうして私と京子は話しながら学校へと歩き出した。
笹川了平。彼はボクシング部主将ということで、とても熱い男だ。
いや本当に熱い。ガチで熱い。こんな言葉じゃ足りないくらい、マジでマジで熱い。
「お兄ちゃーん」
「どうした京子!?」
並中に着くと、校舎の前に姿を見つけた。
京子が駆け寄りながら呼べば、妹の声にすぐさま反応する先輩。そして、その傍にはもうひとり。
「京子ちゃん~!?!?」
「あ…ツナくん、おはよ!」
「ツナ…そのカッコ」
「……察して」
笹川先輩と一緒にいたのはパンツ一丁のツナだった。
ツナは突然の想い人の登場に驚きつつ、私の視線に気が付くとズン…と肩を落とした。
察して。理由はわからないけど、またリボーンに死ぬ気弾を撃たれたと。
「?なんでふたりでいたの?あ、まさかお兄ちゃん、ツナくん捕まえて迷惑かけてないでしょーね!」
「ない!!」
クラスメイトに迷惑を掛けていないか、兄を問い詰める京子と威勢良くそんなことはないと答える兄。
その様子を見ていてツナは酷く驚いた表情をしていた。ん?ツナって笹川先輩のこと知らないんだっけ?
私はすすす…とツナの傍により、小声で話しかけた。
「…何驚いた顔してんの?京子にお兄さんいたの知らなかった?」
「…やっぱりこの人京子ちゃんのお兄さんなの!?お兄さんいたこと自体知らないよ!」
憧れの子の情報さっぱりなのね…。同じ学校のお兄さんの事くらい知ってると思ってたけど。でも最近まで見つめているだけで話したこともなかったんだから無理もないのか。私も別に教えたことなかったし。
「おう、時にお前はミョウジナマエではないか!」
「おはようございます、笹川先輩」
「うむ!おはよう!遂に我がボクシング部に入る気持ちを固めたか!我が部は女子も大歓迎だ!遠慮はいらない!」
「…いや、全然固めてないです」
そして、私と笹川先輩といえばこんな感じ…。何故か顔を合わせるたび、ボクシング部に勧誘される…。
切っ掛けは、運動部が吹っ飛ばして飛んできたボールを避けたこと。その様子を目撃していた笹川先輩は素晴らしい身のこなしだ何だと私の事を褒めちぎった。…いや全然、普通に避けただけなんですけど。
「もう、お兄ちゃん!ナマエはいつも入らないって言ってるじゃない!ツナくんもお兄ちゃんのボクシング部談義なんか聞き流していいからね」
「ボクシング…?」
「そういえば自己紹介がまだだったな!俺はボクシング部主将、笹川了平だ!座右の銘は、極限!!!」
お互いの名前知らずに一緒にいたの、このふたり。
とりあえず笹川先輩はツナの事を気に入ったらしい。ガシッとツナの肩を掴むと、ボクシング部への勧誘を始めた。
「お前を部に歓迎するぞ、沢田ツナ!!」
「え!?あの…」
「ダメよ、お兄ちゃん!ツナくんを無理矢理誘っちゃ…」
「無理矢理ではない!だろ…!?沢田」
「え!?」
大方、死ぬ気モードのツナを笹川先輩に気に入られてしまったというところだろう。
勿論ツナはボクシングなどやりたくはない。だけど、京子のお兄さんと聞いて断りづらくなってしまったか。
「では、放課後ジムで待つ!」
「あ!ちょっ!やっぱり僕…!」
ツナがまごまごしてるから、先にその場を去って行ってしまった笹川先輩。あーあ。
「ガサツでしょ?あー見えて意外と優しいところもあるんだよ。でもツナくん凄いな。私も嬉しくなっちゃった」
「え?」
「あんな嬉しそうなお兄ちゃん久しぶりに見たもん!」
そして京子からの無邪気な追い打ち。どんどんどんどん断りにくくなっていくツナは助けを求めるように私を見てくる。こっちを見るな…私は知らん。私はちゃんと自分で断ったぞ…。
「ど、ど、ど…どーしよーっ!!」
「普通に断ればいーじゃん…」
「だって京子ちゃんのお兄さんだぞ!?」
「じゃあ入れば?案外アリなんじゃない。あんたぐーたらしてんだし、なんか部活やれば。京子のお兄さんにも気に入られるし、そのまま京子とも仲良くなれるんじゃないの。ウィンウィンじゃん」
「俺がボクシングなんか出来るわけないだろ!?」
あーあーあーあー、その日は一日中頭を抱えていたツナ。
そんな調子だと、放課後はあっという間にやってくる。私はペンケースやノートを仕舞い、帰り支度をしていた。そこに獄寺と山本がやってきた。
「よー、ナマエ。なんかツナがボクシング部の主将と試合するって聞いたんだけど、ナマエも行かね?」
「へ?」
「つーか、行かねえなんて選択肢はねえよ!10代目の活躍、見に行くぞ!オラ、さっさと立て!」
「ええ…」
にこやかな山本と圧の凄い獄寺。なんか獄寺腹立つな…。
ていうか、なんか話広まってるし…。ツナ、断りに行ったんじゃないのか…。
「ナマエ、行こ!」
「京子…」
京子もやってきた。まあ、断る理由もない…というか、ゆくすえも気になるし。
私は了承し、みんなでボクシング部に行ってみることにした。
「俺は新入部員と主将のガチンコ勝負が見たいぞ」
「んな!何言ってんだよ!お前俺にボクシングやらす気か!?」
「当たり前だ。ちったー強くなりやがれ」
ボクシング部ではパオパオ老師なるゾウの被り物の変なコスプレをしたリボーンがツナと先輩を戦わせるように仕向けていた。
あー…広めたのもアレの仕業かな。納得…。ツナ以外誰もリボーンだって気付いて無いのが謎だけど。
「ツナくん、がんばってー!」
「負けんなよ!」
「10代目~~!!」
「な!!みんな来てる~っ!!」
そしてギャラリーにより外堀を埋められたツナ。
なんでこんなことになってんの…って目でまた私を見て来たけど、あんたがさっさと断らないからでしょ…。私は「ばーか」と口パクした。
そうしている間にあれよあれよと準備は進み、始まってしまった試合。
まあ実力から言ってツナが笹川先輩に勝つことはないだろう。ただ、死に気弾を使えば…。しかしもし持田先輩のようなことを笹川先輩にやってしまえばそれもそれでマズイ。下手をすれば京子にも嫌われるかもしれない。
そんなことを考えたであろうツナは銃を構えたリボーンから逃れるように額をグローブで隠した。
「ならこうだ」
その結果、リボーンが撃ったのは笹川先輩だった。
額から血が吹き、ドターンとリングに倒れこむ笹川先輩。へ…?
「ふたりに撃てばあいこだろ?」
そんな無茶苦茶理論をかますリボーン。
ただでさえ熱い笹川先輩が死ぬ気になどなったら…?笹川先輩の額に炎が灯る。そしてゆらりと立ち上がった先輩は…意外な反応を見せた。
「どーした沢田、立てんのか?」
「え?」
「立てるなら続けるぞ、さあ!」
何も変わらずツナに声を掛ける先輩。…普段と、何も変わらない?でも額に炎が出ているから死ぬ気弾を受けたのは確かだろう。
考えられるとすれば、つまりは笹川先輩は普段から死ぬ気ということ…!?
熱い人だと思ってた。とんでもない熱血漢だと。
でもここまでだとは思ってなかった…。
「次はツナだぞ」
そしてリボーンは容赦なくツナにも死ぬ気弾を撃つ。これで死ぬ気同士の対決。
でもツナは別に先輩を打ち負かしたいと思っているわけじゃない。だからこの時後悔したのは、入部を断れずにいたこと。
「死ぬ気で、ボクシング部の入部を断る!!!!」
死ぬ気になったツナは叫んだ。これでツナに入部の意思がないことは周知の事実となった。
「ほーう…俺は細かい詮索などせんぞ。なぜなら男同士拳で語り合えると信じているからな。入部しろ沢田!!」
「嫌だ!!!」
そしてはじまった死ぬ気同士のバトル。笹川先輩は強烈なラッシュを繰り出し、ツナはそれをかわしまくる。…正直、見てるだけで恐ろしい。
「かわすツナもすげーが…あのラッシュ常人のもんじゃねーな…」
「ありゃあ殺し屋のそれだ…」
「殺し屋て…」
隣で山本と獄寺もちょっと引いている…。獄寺に関しては殺し屋とか言い出す始末。
すると笹川先輩の視線が一瞬こちらに向いた。
「ミョウジ!!よく見ておけ!!この試合でお前にもボクシングの素晴らしさを伝えたい!!少しでもお前の胸に響くものがあれば俺は極限に嬉しいぞ!!!」
「え」
ええー…。そう言ってまた更に強烈なラッシュを繰り出す先輩。いや凄いとは思いますけど…。
「…お前、なんでボクシング部の主将に気に入られてんだよ」
「いや…私はただボールを避けただけ」
「は?」
怪訝そうに獄寺に聞かれたけど私も知らんよ…。
そうしている間にも笹川先輩とツナの攻防は続く。今までずっと避け続けていたツナ。しかしそこでやっと攻撃に転じた。
「断る!!」
「ぐはあぁ!!!」
ツナが放ったストレートが笹川先輩の左頬を捉えた。その勢いは凄まじく、リングの外に吹っ飛ばして窓ガラスに激突させる始末。
あーあ…。結局ぶっ飛ばしちゃった。
ツナの死ぬ気が解ける。ツナは憧れの子の兄に怪我をさせてしまい青白くなっていた。
…でも、事はそこまで悪い方向には転がらなかった。
「ますます気に入ったぞ沢田!お前のボクシングセンスはプラチナムだ!必ず迎えに行くからな!!」
「もー!お兄ちゃん嬉しそうな顔してー!」
立ち上がった先輩は更にツナを気に入っていた。兄の嬉しそうな顔を見て京子も嬉しそうである。
また勧誘はされるだろうけど、これは多分いい着地点に落ち着いたのではないだろうか。
しかしそこに、貪欲な赤ん坊が口を開く。
「俺も気に入ったぞ、笹川了平。お前、ファミリーに入らねーか」
「コ、コラー!!逆スカウトすんなよーーー!!」
まさかの笹川先輩スカウト…。ツナが慌てて止めに入ってたけど、リボーンって常にスカウトできる人材探してんのかな…。
でも、そんな日常に慣れ始めている自分がちょっと恐ろしい。はーあ…と、つい溜め息が出た。
To be continued