5 ヒート【1】
5 ヒート【1】
調子が戻ってきた英一は、身体を強くする目標ができたのか散歩によく出るようになった。俺もたまに一緒に歩く。 冬の朝は当たり前に寒いが、空気が澄んでいて気持ちが良い。「毎朝歩くなら、犬でも飼おうかな」「俺じゃダメなんですか?」「照近さんを散歩させるってこと?」「言い方」 帰宅して一日のルーチンをこなし、夕飯も終えて風呂に入った。 髪を乾かし終えて、パジャマ姿でキッチンをうろつく。 明日はナツメと美容院に行く予定がある。 お節介かもしれないが、簡単なおやつとレシピのメモ書きを用意していこうと考えていた。 予熱したオーブンに天板を入れて扉を閉じた。 クッキングシートを敷いた天板には、等間隔にクッキー生地を並べてある。 ここからじっくり焼き上げるのだ。「いい匂いがする」 しばらくすると、英一がやって来た。「米粉ときなこのクッキーです。味見しますか?」「いいの?」 嬉しそうにテーブルに着く彼のため、ノンカフェインのコーヒーをいれることにした。 ケトルで湯を沸かしていると、視線を感じた。 見ると英一が俺の格好をまじまじと見ている。 そういえば、ナツメと買ったパジャマをやっと着たんだった。 真新しいし、初めて見る服だと英一も気付いたのだろう。「若いね」「へ、変ですか?」「いやいや、私らの歳で寝巻きって言うと、つるっとした 綿 ( めん ) とかだからね。今はいろんな生地があるんだなぁと。とても似合ってるよ」 ホッと胸を撫で下ろし、微笑んで見せた。 オーブンが音を立てて焼成の終了を告げた。 クッキングシートごとクッキーをカウンターに移動させる。 粗熱が取れたらラッピングするつもりだ。 うち数個を小皿に移して、二人分のコーヒーと一緒にテーブルへ持っていった。「焼きたてなので柔らかいです。冷めてからのほうがクッキーらしく食べられるかも」「こういうのも家庭料理の醍醐味だね。──うん、おいしい」 クッキーをつまみながら、二人でテレビを見る。都心の商業地でリニューアルオープンした店の特集をやっていた。 近くには季節ごとのイルミネーションが楽しめる広場がある。店で食事をテイクアウトし、夜景を楽しむ街の人々……という話で盛り上がっている。「もうクリスマスなんですね」 テレビの中の広場では、ライトアップされたクリスマスツリーが輝いていた。「照近さん、いろいろと服を買って、今度は髪を切りに行くんでしょう?」「そうですね。明日、頭をさっぱりさせてきます」「じゃあせっかくだから、おしゃれをして今度ここに行こうよ」「ここ?」 それが、テレビの広場のことだと遅れて気付いた。 思えば、散歩や外食以外で英一と出かけたことがない。 これはデートに誘われているのだと察して、妙に姿勢を正してしまう。「クリスマスツリーを見に?」「うん。うちに飾るのもいいけど、出したり片付けたり面倒でしょう。大きいのを一回見たら充分だよね」 確かに。「照近さんはイヤ?」「そんなことないです。行きましょう」 約束を交わして、各々の部屋に戻った。 俺は就寝前の抑制剤を飲む。 パジャマ姿も褒められたし、未来の予定ができて嬉しい。 ほくほくしながらベッドに入った。