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夕方になってくると人の通行がさらに増えてきた。 冬の空はあっという間に暗くなる。外の灯りが点き始めたころだろう。「あんまり遅いと混みますから、そろそろ広場を見に行きますか?」「そうだね。テレビでやっていたみたいに、何かテイクアウトしてイルミネーションを見ながら食べようよ」「何にしましょう」「うーん、しっかりしたものは夕飯食べられなくなっちゃうからね」 ちょうど、正面からテイクアウトドリンクを持った学生たちが歩いてきた。ドリンクカップには街でよく見かけるロゴがついている。「あのカフェ、入ったことないんですよね」「近いし行ってみようか」 混んでいそうだと覚悟していたが、タイミングが良かったようですんなりとレジ前に立てた。 最近は外のキッチンカーが流行りだとテレビは言っていたから、客の流れがそっちに向いているのかもしれない。 しかし、かえってメニューを見て考える猶予がなくて迷ってしまう。「ご注文をどうぞ」「ええっと……」 カウンターのメニューを慌てて見る俺の横で、英一はのほほんと店員に声をかけていた。「初めてなんだけれど、ホットドリンクでおすすめはあるかな?」「今だとクリスマスラテがおすすめです」「じゃあそれにしようかな。サイズはちっちゃいのでいいんだ。夕飯が入らなくなるから」「ショートサイズがありますよ」「うん、お願いします。照近さんは気になるものあった?」「俺も同じのにします。メニューで同じのをおいしそうだなって見てました」 会計をしている間、店員がじいっと俺と英一を見つめた。不思議な視線だ。「名前、聞いてもいいですか?」 そう言って、店員は空のカップをカウンターに並べた。黒字ペンのキャップを外している。 どうやらカップに書いてくれるらしい。 英一が二人の名前を答えると、それぞれのカップにローマ字がさらさらと記されていく。 片側にだけ&がついていて、カップを並べると二つ一組になるようになっていた。 気になって後ろを見たが、俺たちの後ろに並んでいる人はいなかった。たまたま暇だからサービスしてくれているのかもしれない。「僕、退勤したら彼女にプロポーズするんですよ」「おや」 店員の突然の告白に、英一が驚いた返事をして、俺も驚いて振り返る。「お二人みたいに、年取っても仲良くカフェにいくような熟年夫婦になれたらいいなぁ……って思いました」「おやおや」 英一はまんざらでもなさそうだ。 俺は一部訂正しなくて大丈夫か不安になりつつ、それ以上に、なぜかどんどん元気を失っていく店員が心配になっていた。 他の店員がカップを受け取り、ドリンクを作り始めた。 レジの彼は深いため息をついて遠い目をするものだから、俺たちはこのまま受け取り口に進んでいいのか困惑する。「お客様に愚痴ってもしょうがないんですけど、今夜のレストランの予約、ダブルブッキングだとかでさっき急にキャンセルされて……」「おやおやおや」「なんとかなるとは思いますけど、ほんとトホホっていうか」 奥で別の店員が苦笑いしている。おそらく彼がこの話をするのは今が初めてではないのだろう。キャンセルの電話を受けてからずっと、今夜のリカバリーをどうするか働きながらソワソワぐちぐちしているのかもしれない。 確かに、気の毒といえば気の毒だ。 俺と英一は、どちらが先ともわからないタイミングで同時に顔を見合わせた。考えていることは同じな気がして、俺は何も言わずに頷いて見せる。「キミ、お店の予約は何時だったの?」「七時でしたけど……?」「じゃあ、ちょうどいいね」 英一が店員からペンを借りると、レシートの裏に自分の苗字とレストラン名、時間を書き込んだ。「今夜行く店、ここね。私たちの代わりに楽しんでおいでよ。これを見せたら通すよう電話しておくから」 片手間に爪楊枝の刺さった試食カップを用意していた店員が顔をぽかんとさせた。「エ!?」「若いキミなら店の場所は検索してわかるね? 支払いは心配しないで。メリークリスマス」 にこやかに試食カップを店員の手から受け取って英一が歩みを進めた。俺もそれについていく。 受け取りカウンターではとっくにドリンクが完成していて、スムーズに受け渡しが完了した。 去り際に後ろを振り返ると、レジの店員が慌ててスマホで店名を検索している姿が見えた。一等地のレストランだとすぐに理解したのか、他のスタッフを呼んで大騒ぎしている。まあ、そうもなる。「コースだし、食べ物のアレルギーとか聞いておいてあげたほうがよかったかな」「心配するとこ、そこじゃないと思います」 ■ 外に出ると冷たい風が頬を打つ。ホットドリンクを大事に両手で持って暖を取った。 センター広場のクリスマスイルミネーションは、テレビで紹介されていた通りの華やかさで圧巻だった。 きらめきの合間を縫うように散歩し、運よく空いていたベンチに隣り合って座る。 今日の英一は香水をつけていて、いつもより色気があった。どんな匂いかというと、大人っぽいやつ。香水のあれこれなんて知らない。 普段の柔軟剤の香りもお揃いで好きだが、これもかっこ良くて好きだ。手元のドリンクもほどほどに良い香りをさせているのに、俺は英一にばかり五感を向けている。「熟年夫婦ですって。二年も経ってないのに」 カフェ店員に言われた言葉がずっとひっかかっていた。他人からは俺たちがそう見えるらしい。「まだそんな歳じゃないって?」「そ、そこは気にしてないです。ただ……なんでそう思ったのかなって。ただの友達かもしれないのに」「もしかして照近さん、無自覚だったの?」「え? 何がですか?」「……いや、言うと止めちゃいそうだから、言わないでおこうかな」「え!? え……!?」「それはともかくとして、予約、譲ってよかった?」「……イヤだった、って言ったらどうなるんですか?」「もっと良い店をなにがなんでも押さえて、連れて行くかな」 本当にやりそうだ。スネたふりはやめる。「冗談ですよ。英一サンタに乾杯」 カップを軽くぶつけあい、クリスマスの味がするというドリンクを飲んだ。 甘ったるくて普段飲まない味がする。「予約していたレストランには、来年にでも行こうよ」 なんとなしにそう言われて、俺はなんだかびっくりしていた。(……この人とは、未来の約束をしてもいいんだ)