LNCrawler

1 【8】

運命じゃないけれど。 — fujossy.jp · All chapters

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顔が熱い。きっと赤い。 俯き加減にパエリアをもう一口食べる。 思えば、昼の寿司は味わう余裕が無かった。 今の自分はだいぶリラックスできているのだと自覚する。「キミといると食べ過ぎてしまうな」「えっ、すみません」「違う違う、つい楽しくてって意味なんだ。なんの問題もないよ」 英一はニコニコしながら口元でワイングラスを傾けた。   ■ 満腹で帰宅し、風呂の準備をした。 酒を飲んだから湯の温度はぬるく、浅く溜めるようにして、脱衣所から浴室の室温もフラットになるよう調整した。 入浴の準備は初めてだったから、お湯はりや暖房の浴室リモコンの使い方に少々手間取る。 夜の準備をしていると、自分が家政婦としてこの家にいるわけではない実感がわいてくるようなこないような……。 音を立てながら湯を張っていく湯桶を眺めながら、俺もここで身体を洗うのかと至極当たり前なことをしみじみ思う。 ボディソープとか、借りていいんだろうか。不安でマンションから新品を持ってきたが、この立派な浴室に薬局で一番安いボディソープやリンスインシャンプーを置くのは犯罪かもしれない。 リビングに戻って風呂の準備ができたことを伝える。「今日は緊張して疲れたでしょう。どうぞ先に入って」  英一は「もう少しテレビのニュースが観たいから」と付け加える。 俺は俺で、彼も彼で、気を使いすぎでは……とは今更言えない。 彼の優しさを無下にするわけにはいかない。 お言葉に甘えることにする。「あ、私ので良ければ石鹸でもなんでも使っていいからね。使わなくてもいいし」「ありがとうございます。一応、持ってきてるものもあるので、足りないものだけ借りますね」「うん。ごゆっくり」 長湯はせずに風呂から出た。 壁や床などあちこちをシャワー流してから。 脱衣所で身体を拭きつつ、用意しておいた自分のパジャマを見てハッとする。「やば……慣れすぎててなんにも考えてなかった」 俺がマンションから持ち出してきたパジャマは、十年前くらいから着ている年季の入ったものだ。 どう見ても生地がくたびれている。しかも犬のパグ柄。上下セット。(これは……着て出たら、笑われるか、がっかりされてしまう……!) とはいえもう選択肢はない。全裸で現れるよりは彼を驚かせないだろうと、恥ずかしがりながらリビングへ向かう。 英一は、ニュースに飽きたのか本を読んでいるようだった。「いいお湯でした。英一さんもどうぞ」 声をかけると、彼が顔を上げてこちらを見る。 ぱちくりと目をしばたかせていた。「かわいい……寝間着だね」「だ、だるだるですみません……母の日に……もらったもので……」「息子さんからのプレゼントなんだね。すてきだ」 皮肉には聞こえず、ホッとする。 でもまあこれしかないのは恥ずかしい。パジャマは後日こっそり買い足そうと心に決めた。 英一と交代し、彼が風呂に入っている間にソファでくつろぐ。 コップで冷たい水を飲みながら、なんとなくテレビをつけた。夜のドラマがやっている。(……ダメだ、頭に入ってこない) すぐにテレビを消す。 俺は妙にそわそわし始めていた。 風呂があるほうの扉を見たり、座る位置を変えて彼をどう出迎えるかイメトレしたり。(このあと……どうしよう。どうなるんだろう) そわそわそわ。俺はいま余計な気を揉んでいるかもしれない。 しかし、風呂に入りながら《その可能性》に気付いてしまって頭から追い出せない。(交際期間が無かったし、身体を求められたこともない……。でも、俺たちは夫婦で、同居初日……。俺の部屋は用意されていたけど…… ど っ ち の部屋で寝るんだろう。ただ眠るだけだろうか?) 英一から、配偶者としてどこまでを求められているのかわからない。 彼は俺をそういう対象として見ているのだろうか。(バカみたいに緊張してきた……) 扉が開く音がする。 見やれば、風呂から上がってきたパジャマ姿の英一が立っていた。