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人魔大戦 田川邦彦の場合

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人魔大戦 田川邦彦の場合

転生者田川邦彦視点

誰やお前という人は、エルフの里あたりを見ると思い出せる、かも

俺はついてると思っていた。

ラノベみたいな異世界転生。

しかも、隣にはあっちの世界でも幼馴染だった彼女がいて。

チートっぽい能力もあって。

人生これ楽勝じゃねって思っていた。

あっちの世界のことが嫌いだったわけじゃない。

ただ、なんとなく物足りない気持ちでいたのは確かだ。

もっと刺激が欲しい。

漫画やラノベみたいな冒険をしてみたい。

それが実際に叶った時、感じたのは喪失感よりも期待感だった。

まともじゃないというのは自分でも意識したし、実際俺と同じ境遇に立たされたアサカは、しばらく泣き叫んでまともじゃいられなさそうだった。

赤ん坊だったから周囲に不審には思われなかったのは幸いだ。

アサカと俺は同じ傭兵団の中で、同時期に生まれた。

不思議なもんで、アサカを見た瞬間、姿形は全く違うのに、それがアサカだと認識できた。

アサカもそれは同じだったらしく、もうこれ運命じゃねって思ったね。

アサカと俺は、あっちの世界じゃただの幼馴染だった。

付き合ってるとかそういうこともなく、ただだらだらと一緒にいる腐れ縁。

けど、なんとなく、将来はこいつと一緒になるんじゃねーかなーという予想はあった。

それはアサカも感じていたようだけれど、くっつくまでにはもう少しかかりそうな気がしていたそうだ。

それが、異世界に転生なんてありえない体験をしたせいで、一気に距離感が変わった。

異世界に転生してからお互いに依存しあうような関係に変わったように思う。

アサカは俺がいないと自分を見失いそうで怖いという。

俺もアサカがいなかったら、たった一人見知らぬ異世界に放り出されて、冒険だ! なんて呑気なこと言ってられなかったと思う。

俺たちが生まれた傭兵団は、魔族との国境線の近くに村を作って、人族側に侵入してきた魔族の撃退や、逆に魔族領に侵入して魔族を襲うことで生計を立てていた。

いい意味で言うなら魔族の侵攻から人族を守る防衛隊。

悪い意味で言うなら魔族相手に略奪を繰り返す盗賊団。

そんな連中だ。

アサカはそんな村に嫌悪感を抱き、成長したら村を出る気マンマンでいた。

俺も、冒険者になって世界を見て回りたい欲求があったので、村を出るのに賛成した。

少しでも力を付けようと、父親をはじめとした大人の傭兵たちに戦い方を教わっていた。

だが、俺とアサカは想定していたよりもずっと早くに村を出ていくことになる。

村がなくなったのだから。

俺はその時のことを一生忘れないだろう。

襲いかかってくる魔族の軍隊。

対抗する顔なじみの傭兵たち。

俺の親父も、アサカの父親もその中にいた。

それを、奴はあっさりと、呆気なく、まるで虫でも殺すかのように、命を摘み取った。

「メラゾフィス! 残党はもういないか?」

「ええ。戻りましょう」

そのくせ、奴に挑んで返り討ちにあい、ボロ雑巾のようになった俺は見逃された。

わざわざ仲間の魔族に隠してまで。

俺とアサカは、奴のお情けで生かされた。

「ようやくだ」

数え切れない程の魔族。

人も魔族も入り乱れて戦うこの戦場に、俺は冒険者として参戦した。

戦闘が始まってからどれだけの時間が経ったのか、ずっと戦いっぱなしで時間の感覚も狂った。

何十人、何百人の魔族を殺し、突破し、俺はようやくその姿を目にする。

忘れようにも忘れられない、奴の姿を。

「まさか、魔族の軍団長様だったとはな」

あの時は魔族の一人という認識でしかなかった。

だが、その顔と、名前だけははっきりと覚えていた。

斥候が命懸けで持ち帰った情報にあった、魔族の軍団長の名前。

その名前が俺の記憶と一致した時の歓喜。

「仇、討たせてもらうぜ」

そして、俺は魔族の軍団長、メラゾフィスに挑んだ。

生まれ育った村を魔族の襲撃で失った後、俺とアサカは冒険者として生計を立て、各地を旅していた。

最初はうまくいかないことも多かった。

俺もアサカも転生者で、そこらの子供よりも大人びていたが、それはあくまで内面の話。

外見は子供のままで、どうしたって周囲からは子供扱いされる。

割のいい仕事は大人に取られ、規則だからと簡単な薬草採取だとか小動物の捕獲だとか、小遣い稼ぎにしかならない仕事ばかりやらされた。

アサカが堅実にコツコツと評価を上げてくれなかったら、俺は早々にふてくされて投げ出していたかもしれない。

アサカは上昇思考はないものの、安定重視の仕事ぶりでやる気の出ない俺を引っ張ってくれた。

その頃のことを思うと頭が上がらない。

そのうち魔物の討伐もこなせるようになり、そこからは早かった。

魔物を倒せば経験値がもらえる。

経験値をもらってレベルが上がれば、より強い魔物とも戦えるようになる。

そうなれば、より幅広い依頼を受けることができるってことだ。

俺とアサカの名声はどんどん高くなり、冒険者として一流の腕前をこの若さで得ていた。

正直な話、俺とアサカは既に人族の中じゃ、飛び抜けて強くなっている。

先輩のSランク冒険者でも、俺とアサカの方が強いだろう。

だから、この魔族との戦争に参加した。

あの、村の仇を討つために。

魔族が相手だろうと、負けるわけがないと確信したから。

だっていうのに、冗談じゃねえ。

「ふっ! ふっ! はっ!」

呼吸のタイミングすら、ミスれない。

下手に息を吐こうものなら、こいつはその隙を見逃してくれない。

迫り来る剣を刀で防御する。

同時に飛んできた魔法を、アサカが打ち消してくれた。

危ねえ。

今のはアサカがフォローしてくれなかったら完全に食らってた。

アサカにサンキューと言いたいとこだが、その余裕もない。

続く攻撃を捌くので精一杯。

メラゾフィスというこの魔族は、とんでもない強さだった。

剣も魔法も、正確無比。

わかりやすい強みがない代わりに、どれもが高レベル。

基本に忠実で、全くと言っていいほど隙がねえ。

俺とアサカの二人がかりで、防戦一方。

情けねえ。

何が魔族相手でも負けるわけがないだ。

運がよければ直接仇が討てるかもな、なんて思ってた戦闘開始前の自分をぶん殴りてえ。

こんな化物、俺ら以外に倒せるわけねえだろ。

そうだ。

俺とアサカしか、こいつの相手はまともにできない。

今は俺とアサカでこいつを止められているからこそ、戦場は人族優勢でいられる。

だが、こいつが自由になれば、こいつだけで戦況をひっくり返せる。

俺とアサカの二人が魔族を蹴散らして、魔族の本陣に切り込んだように、こいつは一人だけで人族を蹂躙できるだろう。

そう思うと、よけい負けられねえ。

うるさいはずの戦場の音が聞こえない。

極限まで集中したせいで、周囲の音をシャットダウンしたようだ。

周りの景色がスローで動く中、メラゾフィスの動きはそれでも速い。

思考を加速してなお、メラゾフィスの動きについていけない。

目で追うのがやっと。

逆に言えば、目で追えるから、まだ戦えている。

これで目さえ動きについていけなくなれば、為す術もねえ。

だが、それは近いうちに訪れる。

体に蓄積された疲労が俺の動きを鈍くしている。

視界の端に映るアサカも、俺と同じくらい疲弊しているのがわかっちまう。

動きの精彩の欠きは、ごくわずか。

だが、そのごくわずかすら、こいつが相手だと命取りになる。

いつ、俺は自分の首が飛ばないか、ヒヤヒヤしながら戦っているんだから。

死に物狂いで刀を振る。

アサカの魔法が簡単に弾かれ、返す刀が俺に向かう。

直後、地面が揺れ、疲弊していた足がカクンと落ちた。

運良く、尻餅をついた俺の眼前を、切先が通過した。

あのまま立っていたら、切られていただろう。

けど、運がいいとは言い切れない。

俺は今、無防備に尻餅をついているんだから。

慌てて立ち上がった俺に、追撃は来なかった。

見れば、メラゾフィスは立ち尽くしていた。

俺たちを無視して、その目は戦場を見つめている。

そこで、俺は初めて魔族の軍勢がボロボロになっているのに気づいた。

「潮時か」

ボソリと呟かれた声。

「撤退!」

ついで、大声。

鮮やかなその撤退に、追撃をする余裕はない。

見逃してもらったのは、俺たちの方なのだから。

また、俺とアサカは、見逃された。