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人魔対戦 櫛谷麻香 オーレルの場合

蜘蛛ですが、なにか? — ncode.syosetu.com · All chapters

人魔対戦 櫛谷麻香 オーレルの場合

本日二話目

前半転生者櫛谷麻香視点

後半名前初登場だったりするロナントの弟子二号視点

ロナントの弟子二号、誰それな人は帝国騎士VSオーガあたりを読むと思い出せる、かも

【櫛谷麻香】

クニヒコは村の仇を討つことに固執している。

馬鹿で直情なクニヒコは、一度味わった挫折を、乗り越えるべきものだと思ってるらしい。

よく言えば熱血。

悪く言えば馬鹿。

けど、そんな馬鹿にあたしは救われてきた。

転生なんてものをした。

どうしてそんなことになったのか、あたしにはよくわからない。

クニヒコ曰く、ラノベとかではそういう異世界転生というのはありふれた題材だったらしいけど、現実でそんな体験をするなんて悪い夢かなにかだと思いたかった。

けど、気づけば見知らぬ世界で赤ん坊となって放り出されていた。

あの時の混乱は言葉では言い表せない。

ついでに、滅茶苦茶泣きまくったのを、すぐ近くにいたクニヒコに思いっきり目撃されていたのは、軽く死ねる黒歴史。

それでも、そばに同じ境遇のクニヒコがいるというのは、心の支えになった。

あたしとクニヒコが生まれた村は、傭兵とは名ばかりの盗賊集団だった。

モンゴルの遊牧民みたいに、テントで暮らし、獲物を求めて魔族との国境線付近を旅して回る。

そして、見つけた魔族を襲って所持品を巻き上げ、ついでにそれを国に報告して報奨を貰う。

そんな、合法盗賊団。

あたしはそんな村からさっさと出て行きたかった。

そして、普通に暮らしていきたかった。

クニヒコは冒険をしたがったけど、あたしは普通が一番。

どこか安全な国に行って、腰を落ち着けたかった。

それが、魔族の襲撃で変わった。

その時も、あたしはクニヒコに救われた。

結果だけで言えば、メラゾフィスという魔族に見逃されただけだけど、あたしをかばってそいつに挑みかかったクニヒコの勇姿は忘れられない。

多分、その時心に決めたんだと思う。

こいつと一緒にいようって。

だから、その後家なき子になって各地を彷徨うことになっても、冒険者として身を立てていくことになっても、魔物と戦うなんて危険なことをしなきゃならなくなっても、あたしはクニヒコと一緒にいた。

そして、この戦場にも。

「また、見逃されたな」

「そうね」

あたしはへたりこまないようにしてるので精一杯だった。

それほどまでに、さっきまでの戦いは肝が冷えることの連続だった。

魔族の軍団長メラゾフィス。

あたしたちの村を滅ぼした魔族の男。

そいつは、あたしたちの予想よりもはるかに強かった。

あたしもクニヒコも、人族の中では相当強い。

クニヒコは転生者だから、チート能力の成長補正だって言ってたけど、案外本当のことなのかもしれない。

それだけあたしとクニヒコは強い。

だけど、メラゾフィスはそれよりも更に上だった。

あたしとクニヒコ、二人がかりでもどうにもできないくらいに。

いえ、正確に言うと三人がかりね。

遠く離れた砦を見やる。

千里眼を発動させれば、あたしと同じように疲労困憊の様子で佇む女性の姿が見えた。

名前も知らないけれど、彼女はずっとあの砦から援護射撃をしてくれていた。

すごい魔法の腕だと思う。

あんな離れたところから、高速で動き回るメラゾフィスに正確無比な狙撃を敢行してたんだから。

あたしには真似できない。

最後、メラゾフィスが撤退を決めたのも、彼女の大魔法が魔族に大打撃を与えたからだ。

その時の揺れでクニヒコが尻餅をついたのはヒヤッとしたけど。

メラゾフィスを倒すよりも、戦況を人族の側に傾けさせて撤退を促すという彼女の作戦が功を奏したんだと思う。

そして、それを見たメラゾフィスが戦場に一瞬気を取られた隙に、心臓を射抜いた。

戦況を一変させるほどの大魔法を発動した直後に、さらにあのメラゾフィスの魔法防御を貫く程の威力の狙撃を敢行する。

世界にはまだまだあたしが知らないだけで、すごい人がいるもんだ。

心臓を射抜かれているのに、顔色一つ変えずに撤退していったメラゾフィス然り。

あれで死んだとは思えない。

心臓を射抜かれているのに、平然としてるとか、本当にまっとうな生物なのかと思う。

正真正銘、化物だった。

名前も知らない魔法使いの彼女が協力してくれていなかったら、あたしもクニヒコも生き残れたかどうか。

そう考えると、遅れて恐怖がせり上がってくる。

それを溜息と一緒に外に吐き出して、あたしは戦場をあとにした。

【オーレル】

あっぶねえっすわー。

なんすかあの化物は?

あんなん魔族にいるなんて聞いてねえんすけど。

ていうか、それを押さえ込んでくれてたあの若いの二人にマジ感謝っすわー。

あの二人があれを押さえ込んでくれてなかったら、どうなってたことやら。

「オーレル副隊長。私の指示を無視して勝手に動いてもらっては困るね」

あー、うるさいのが来たっすよー。

「すんません」

「何だねその口調は? いつも言ってるだろう? 栄えある我が隊の副隊長がそんな田舎者丸出しのふざけた口調をするなと」

隊長のお小言を右から左に聞き流すっす。

あー、やだやだ。

なーんでアタシがこんな戦場で嫌な上司から説教受けなきゃならないんすかねー。

どーせ、この人、あの化物がどんだけやばいかもわかってねーっすのに。

アタシとあの冒険者二人が押さえ込んでなかったら、こっちが負けてたのにそれわかってねーんすもん。

それなのにさっさと大魔法の準備しろだのなんだの横からグジグジと。

お望み通り最後は大魔法ぶっぱなしてやったじゃねーすか。

それで満足してくれって話っすわ。

こっちは大魔法に加えて、遠距離狙撃めっちゃしまくって疲れてんすよ?

指示だけ飛ばしてるあんたよりもずっと働いてるっちゅうに。

あー、師匠のところに戻りたい。

師匠だったらまだわかってくれる分ここよりマシっすわ。

その分無茶振りも激しいっすけど。

大体からして、なーんでアタシが戦場に立たなきゃならないんすかね?

貧乏貴族の次女だし、適当に婚約者捕まえて、平穏に暮らそうとか思ってたのに。

師匠に目をつけられたのが運の尽きっす。

ちょっと魔法の才能があったからって、弟子にって強制連行されて、あれよあれよという間に気が付けば宮廷魔導師に召し上げられてたんすよね。

人生何があるかわかんないっす。

「聞いているのか!?」

「はいはい」

聞いてないっすー。

ハア。

その師匠はどうしてるっすかねー?

今頃魔族の幹部の頭吹っ飛ばしてたりして。