第4話 もう訳がわからないよ
第4話 もう訳がわからないよ
「……」
「……」
固まるミーリアとコープル枢機卿。
(どゆこと?! アトウッド領に人が溢れて、隕石が降る? 情報多すぎるんですけど……)
未来予知が問題なく作動しているのか確認したくなり、上目遣いでコープル枢機卿へ視線を送ると、彼は映像の内容を咀嚼するようにして何度かうなずいてセリス像を見上げた。
「石を投げた人物に心当たりは?」
「私の元父親ですけど……」
父親とは言いたくなかったので、元をつけておく。
「そうですか。投げた石とあの隕石に因果関係がありそうですね……」
コープル枢機卿はしばらく何かを考え、ミーリアへと向き直った。
「ミーリア男爵。最果ての領地、アトウッド領はあなたが管理するそうですね?」
「はい、そうですけど……」
「実は、貴族たちは今その話題で持ち切りです。セリス教も新領地にぜひ新しい教会を建立できればと考えておりましたが……この予知を見てその気持ちは強まりました」
「え? 私が新領主になる話が持ち切りなんですか?」
思いもよらなかったので驚いてしまう。
最果てと呼ばれる領地に、皆は何を期待しているのだろうか。
「ドラゴンスレイヤー殿が領地開拓をするとなれば、大いに発展するでしょう。魔物退治から土地開発まで、すべて魔法でどうにかできます。それに、女王陛下は広大な土地をミーリア男爵の自由にしていいとおっしゃっている。期待しないほうがおかしいのですよ」
「なるほど……」
事情を理解してうなずくミーリア。
「おそらく未来予知は大量の移民を示唆しているのではないでしょうか?」
「あー、そういうことですかね? ど田舎の領地に人が集まるとは思えないんですけど……」
「賢者のクリスタルの能力は絶対です。人が集まることに違いはないでしょう。そしてあの隕石です――」
コープル枢機卿が由々しき事態が発生したと眉を寄せた。
「巫女の夢に出てきた凶兆とは、まさにあの隕石でしょう。よって、我々セリス教は全面的にミーリア男爵の領地開拓を協力することにいたします」
そう言い切るコープル枢機卿をまじまじと見てしまう。彼の顔は本気だ。
隕石が降る予知を見てなぜ協力する気になったのか理解できず、ミーリアは首をひねった。
「それはありがたいのですが、隕石が降るかもしれないんですよ? 協力はやめておいたほうがいいかと思いますけど」
「いえ、違うのです」
おもむろに首を振り、コープル枢機卿が優しく微笑んでいるセリス像を見上げた。
「困難を乗り越えた先にこそ未来はあるのです。セリス教は凶兆に立ち向かうことを教義としており、人類の平和と発展を望んでおります。これもすべてセリス神のお導きでございましょう……」
厳かな口調で言って、コープル枢機卿が複雑な聖印を切った。
ミーリアとしては、もう訳がわからないよ、といった具合である。
(領地経営はほどほどでいいんだけどね……。あまり人がうちに来ないように、宣伝しておいたほうがいいかも……)
人に“来ないでくれ”と宣伝するのは変かもしれないが、危険がある以上はそう言うしかない。
(あとは大質量の物理攻撃を防御する魔法の防衛機構は作ったほうがよさそうだね。隕石来るかもしれないし。やることリストに加えておこう……)
脳筋元領主アーロンも気になるが、あまりあの人と関わりになりたくない。
きっとコープル枢機卿がなんとかしてくれると信じ、ミーリアはセリス像を見上げる。
その後、別室に通され、二人でお茶をした。
コープル枢機卿から孫と婚約してくれないかと誘われたが、「貴公子クリスから求婚されてるのでムリです」と断っておいた。効果はてきめんで、あの貴公子クリスならば仕方ないとすぐに引き下がってくれた。
(クリスさんの婚約書状が印籠になりそうだよ……あんまり使いたくないけど)
あの腹黒イケメン貴公子に踊らされている気がしないでもない。まあ、アリアのお兄さんだから悪いようにはならないかと思い直した。
(……けえろう。あたし、家にけえりてぇんだ)
心の声が無駄に訛ってしまうぐらい、帰りたくなった。コープル枢機卿に気に入られたのは別にいいのだが、孫本人を連れてきかねない勢いだ。
話術も巧みで、話の流れで建てる教会のサイズまで決まってしまっている。
これ以上話していると消化器と布団のセールスされそうだと思い、ミーリアは立ち上がった。
「それではそろそろ……帰ります。貴重な魔宝具を使わせていただいてありがとうございました。また、何かあれば寮か自宅にご連絡ください」
ぺこりと一礼すると、コープル枢機卿も立ち上がって聖印を切った。
「貴重なお時間をありがとうございました。賢者のクリスタルは一年おきに使えますので、またお願いしたく思います」
にこやかに一礼するコープル枢機卿。
「報酬ですが、別の孫をミーリア男爵に付けましょう。ああ、女なのでご安心ください。こき使っていただいて構いません」
「いや、そんな、大丈夫ですよ?」
「ミーリア男爵はセリス教の知識があまりないご様子でございます。貴族の集まりやしきたりなどでいずれお困りになるでしょう。男爵ならば、一人は聖職者を連れているものですよ?」
コープル枢機卿がにこりと笑い、さらに話しを続ける。
「少し変わった孫ですが優秀です。一度会ってみて、気に入らなければ断っていただいて問題ございません」
「そういうことなら、わかりました」
なんとなく流されてしまった気がしないでもないが、あまり考えないようにしてセリス大聖堂を後にした。
やけに疲れたのは気のせいではない。
(お菓子屋さんでも覗いて帰ろう。糖分がほしい気分だよ)
大聖堂からわりと近いレレヌヌ大通りという商店街をぶらついてブドウらしき果実を大量に買い込み、寮には帰らず屋敷に帰って、キッチンで魔法袋に保存してあった粉末状の物体を取り出した。寒天とほぼ同じ成分の食品だ。
(ゼリー作っちゃおう! ずっと試そうと思ってたんだよね〜。原材料はスライムの液体と海藻らしいけど、美味しければなんでもよしっ!)
気分転換におやつ。これすなわち真理。
そう思いながら、大量のブドウの皮を魔法で剥き、種を取り出していく。
食べ物に関しても今後は自重しないでいこうと思う。
万能魔力があっても貴族社会は面倒ばかりだ。空いた時間に何を成すかが、人生大切なのではないかと、一瞬遠い目になるミーリア。
(季節限定スペシャルぶどうゼリーと名付けた!)
二回ほど失敗したが、魔法ゴリ押しで無事に完成した。あまり冷却しすぎないほうがいいみたいだ。
大量に作って魔法袋に収納し、食べる分をお皿に盛り付け、氷魔法で冷やしていただくことにする。
「うまっ! ぷるぷるでジューシィー!」
前世で食べた寒天よりも食感がぷるっとしている。ブドウの甘みと香りがゼリーに染み渡っていて美味しい。
爽やかな甘みで、コープル枢機卿との緊張する会話で疲れた脳みそがクリアになっていく。
そのあと、ミーリアはクロエ、アリア、どこかへ行っていたリーフと合流して、ゼリーをおすそ分けし、今日見た未来予知を話すのであった。
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告知失礼いたしました。
引き続き本作をよろしくお願い申し上げます!
作者