第10話 転移魔法+カイワレ=?
第10話 転移魔法+カイワレ=?
翌日、お出かけ用の軽装に身を包み、庭に出た。
「空を飛んでいくのかしら?」
クロエが笑顔で空を見上げる。
何度かミーリアの魔法で空を飛んで移動しているので、そう思っているらしい。
(カジュアルな服装のクロエお姉ちゃんも美人。眼福……)
ミーリアはそんなことを思いながら、「違うよ」と首を振った。
「そうなの?」
「うん。使ってからのお楽しみ、ということで」
ミーリアが下っ腹に力を込める。
頭上から、ドライアドの証である葉っぱがにょきっと現れた。
「ドライアドの……」
クロエが大きな瞳でミーリアのアホ毛のような葉を見つめ、何かに気づいたのか顔を近づけた。
「あら? 大きくなってないかしら?」
「そうなんだよね。カイワレがちょっと成長してさ」
(気づいたらクローバーぐらいの大きさになってたんだよね。カイワレあらため、クローバーなう)
「体調に問題はないのよね? ね?」
クロエがミーリアの頬をむにむにと指でもみ始める。
「とくにゅもんだいひはないひよ」
「それならばいいけど……」
あまり納得した様子のクロエではないが、むにむにをやめずにうなずいた。
しばらくされるがままになっていると、庭先の空間が歪み、転移魔法でドライアドのリーフが現れた。
軽快な足取りで着地し、リーフが眠そうな目をミーリアに向けてくる。
「ドライアドの魔力を感じた」
「うん。これから魔法を使おうと思って」
「そう」
リーフが無表情に言って、じっと見つめてくる。
どうやら、魔法を使うところを見たいらしい。
「じゃあリーフも来たことだし種明かしを先にしちゃうと……なんとですね……お姉ちゃんも転移魔法で移動します!」
「私も? 転移魔法は一人用の魔法じゃなかった?」
クロエが驚いて聞いてくる。
「前からずっと試してたんだけどね、魔力が増えたらできるようになったんだよね〜。アリアさんに色々教えてたらコツをつかめたんだ。今のところ、二人分の移動って感じだけど」
「人に教えることで自分自身の振り返りになるからね」
教える機会が多いからか、クロエがうなずいている。
リーフはぼんやりした目でミーリアを見ているが、興味はあるらしい。
「ということで、お姉ちゃん、どこでもいいから私に触れてくれる?」
「わかったわ」
クロエがうなずいて、ぎゅっと正面からミーリアを抱きしめた。
「これでいいかしら?」
クロエの胸に顔が埋まり、呼吸困難になる。
「ちょ……ちょっと苦しいかも」
「あらごめんなさい。愛おしい気持ちが出てしまったわ」
クロエが力を抜くと息がしやすくなった。
(抱きしめるのはやめない感じね……。嬉しいからいいけど)
「だいぶ密着してるけど……うん。オーケーだよ」
そう言って、ミーリアは魔力を循環させて、全身に魔力を行き渡らせ、クロエの身体も魔力でコーティングする。
今までは他人の身体を自分の魔力で覆うことが困難であったが、ドライアドの葉を頭上に出しているときは、魔力操作力が上がることがわかった。見た目さえ気にしなければ、非常に有用な能力であった。
(増え続ける魔力はちょっと困るけど……)
魔力操作の訓練はティターニアに言われたとおり継続しているものの、魔力が増え続けているため、上達した気がしないのが悩みのタネだ。
全部の魔力を使えるようになった。そう思いきや、魔力値が増えているため訓練の先がないのだ。
(魔力操作はライフワークみたいな感じになりそうだよ)
そんな年寄りくさいことを考えつつ、ミーリアが顔を上げた。
「それじゃお姉ちゃん、行くよ」
「……いつでもどうぞ」
少し緊張しているのか、クロエが腕に力を込める。
「あ、中継地点を経由するから、景色が何度か切り替わるよ。びっくりしないでね」
「了解よ」
(――二人分・転移魔法――発動!)
行き先を頭に思い浮かべ、魔法を行使した。
◯
王都から転移魔法を七度ほど使い、アトウッド家の上空にやってきた。
魔力を追ってリーフも空に浮かんでいる。
「上から見ると、小さな家ね……」
手を握っているクロエがつぶやく。
大きめのログハウス風の屋根と、庭先にあるラベンダー小屋が視界には映っていた。
微かなラベンダーの香りと、森の匂いが風に乗っている。
「新領地にを開拓してもさ、ここはそのままにしておこうよ。なんか手をつけると文句がひどそうだからさ」
ミーリアは屋敷にいるであろうロビンの顔を思い出して、げんなりする。
クロエも同意見なのか、同意する代わりに細い指をミーリアに絡めた。クロエの細くてすべすべした指の感触がした。
「アレ、嫌な感じがする」
二人の隣で浮遊しているリーフがアトウッド家を見て、無表情に言った。
少しだけ鼻にしわが寄っている。
(ドライアドの直感にも引っかかるほどのヤバさってことね……?)
強制帰還させられたあとのロビンがどうなっているのか、考えるだけでも恐ろしい。
「アレには寄らないから安心して」
「爆裂火炎魔法で……ヤる?」
「やらないやらない! 構えないで!」
リーフの上げた腕をあわてて下ろす。
先日、爆裂火炎魔法をちょっと教えたので、ミーリアほどの威力ではないが、リーフも使えるようになっていた。アトウッド家ぐらいなら一撃で吹き飛ぶ。
「ミーリア、ティターニアさんのところへ行きましょう」
「うん! リーフも行くよ!」
「わかった」
少し残念そうな目でアトウッド家を見下ろすリーフ。
ミーリアはそんなリーフを急かすため、すぐに転移魔法を発動させた。
◯
アトウッド家から北の森にあるティターニアの家に到着した。
「ここに来るのもひさしぶりね」
クロエは女学院に合格して以来だ。
二年半ぶりだった。
(うーん、やっぱりこの森の香りが落ち着くよね〜)
ミーリアはめいっぱい新鮮な空気を吸い込み、切り株に座ってアンニュイな表情で日光浴している美人エルフ師匠に声をかけた。
「師匠、ただいまです」
「おかえり……ふああぁっ……」
いくつもの伝記でエルフは美しく描かれているが、ティターニアもそれに漏れず幻想的な見た目をしており、見目麗しい。
しかし、シャツははだけ、スカートからだらしなくはみ出している。残念なエルフであった。
「さっき千里眼で気づいたのよ。来るなら途中で魔法電話してくれればよかったのに」
「すみません。一気に転移で来ちゃいました」
「二人で移動できるとはお見逸れしたわ。クロエ、久しぶりね」
ティターニアがんんん、と伸びをし、クロエを見つめた。
「お師匠さまお久しぶりでございます。王都でつつがなく生活しております」
「千里眼でちょこちょこ覗いてるわ」
丁寧なクロエにティターニアが笑い、無表情なリーフへ視線を移した。
エルフとドライアドの視線が交錯する。
(師匠は前に魔法合戦をしたらしいけど……これは……)
伝記にしか出てこない種族の邂逅に、ミーリアはごくりとツバを飲み込んだ。